引率×試合×キルアの頭上!?

 

 

 

 

「開始時間に遅れないように~!!」

 

 

  

今日は私が通っている空手道場『誠逢館』の全国試合の引率。

 

 

5歳から通い始めて17年。

 今は現役を引退して師範代を務めている。

 

 

 

 

 

昼食後の休憩時間を確認し、屋上にある喫煙所へと向かいながらふと時計を見ると昼食の休憩時間はあと10分程。

 

タバコ一本吸って戻って時間ぎりぎりになりそうな時間になっている事に気が付き、慌てて屋上にある禁煙所へと階段を駆け上った。
 


 

喫煙所まで後少し、階段の最上段に足をかけたつもりの右足が数ミリ手前の宙を踏んだ……
その瞬間身体は重力に従うように後ろへと倒れていく。

 

 

「うわっっっ!!」




 

 

この先の出来事を予想して思わず目をつぶるが、いつまで経っても予想していた痛みが襲ってこない

 

 

 

あれ?なんか空が回ってる……。

 

 

まるで泥酔した時の様にグレーの打ちっぱなしのコンクリートの天井がグルグルまわっていくのが見えるそして、なぜか混ざり合うように歪んで真っ青な空と白い雲が見えた気がした瞬間私は意識を失った。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

「あんた、何やってんの?」

 

 

 

聞きなれない声が頭の上に降って来て、ふと目を開けると

10代前半まだあどけなさの残る銀髪の男の子が私をのぞき込んでいた。

 

 

 

「えっ!?あれっ!?」

 

 

 

 

直前の記憶を引きずり出して思わず起き上がろうとするとお尻に激痛が走る。

 

 

お尻をさすりながら体を起こし辺りを見渡すと、そこはさっきまでいたはずの場所とはあまりにも違いすぎていた。

 

 

レンガの敷かれた道路に、電線のない空。

看板には読めない文字

そしてなにより、屋内の階段を登っていたはずが、そこはどう見ても屋外だった。

 

 



「なあ、あんたどっから降ってきたの?
びっくりしたぜ。急に頭の上から降ってくるんだもんな。
思わずよけちゃった」

 

 

 

嬉しそうに話すその少年を言葉に思わず私は固まってしまった。

頭の上?? 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ聞いてんの?」

 

 

 

「うん。聞いてる。聞いてるけど……」

 

 

 

会うのが初めてな、でも何処かで見たことがあるような妙な感覚にはっきりとした反応を示せないでいる私に、少年は首をかしげながら可笑しそうに笑っていた。

 

 

 

「私、階段から落ちたんだけど」

 

 

 

「はぁ?階段?どー考えても階段から落ちて俺の上には降ってこないだろ?」


 

 

「いや……階段……のはず……」

 

 

 

私は確かに屋上に続く階段から落ちたはず。

 

何度考えてもその事実は変わらないのに……

 

現状どうみても階段から落ちた状況ではない事はあきらかで……

 

ただお尻の痛みだけははっきりとしていた。

 

 

 

「あんた面白いね。俺はキルア」

 

 

 

何処かで聞いた覚えのある単語に私は思わずキルアと名乗るその顔をまじまじと見た。

 

 

「なにびっくりしてんの?意味わかんねぇし。」


少し驚きながらも、キルアと名乗る男の子は相変わらずおもちゃを見つけた子供みたいににこにこしている。

 

 

「キルアって言ったよな?

 もしかしてキルアって、キルア=ゾルディック??」

 

 

「なにあんた?俺の事知ってんの?」

 

知っている。

知らないはずがない。

そう、幾度となく見てきた顔なのになんですぐ気づかなかったんだろう!?

私の目の前でさっきから話しているのはあのキルアに間違いなかった。

 

 

「うん。知ってる。暗殺一家だよね??」

 

 

「なんで知ってんの?」

 

 

さっきまでニコニコしていたキルアの表情が一転


鋭い目つきでこちらを見る

その目に敵意が混ざり一気に緊張感がはしる。

 

私の言葉や態度を見定めるような視線をまっすぐ受け止めた

 

 

「知ってるけど、今から話す事信じてくれる?馬鹿にしない?」

 

 

ここは素直に話すのが得策だろう。

私自身まだ自信はないけど……

 

 

 

「いいから話せよ。」

私に敵意がないと判断してくれたキルアは

そう言って少しだけ表情を緩めてくれた。

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

「まじかよ!?あんた凄過ぎ!面白過ぎ!!」


 

 

私は自分が全く違う世界から来た事、この世界の事は本で読んだ事を話した。

 

黙って聞いていたキルアは話が終わると同時にお腹を抱えて大笑いをしている。

 

 

 

「信じてくれるの?」

 

 私自身信じられないこの状況。

でも確証はあった。

看板の文字や目の前のキルア。

そして何より私が知りえるゾルディック家の家族の名前や知りうる執事の人たちの名前を伝えた瞬間のキルアのこの反応。

 

 

 

「信じるもなにもそこまで知られてたら信じるしかないだろ?
すっげ~!!

なぁ折角だから一緒にハンター試験受けようぜ。」

 

 

 

キルアは最初の頃の笑顔を取り戻してくれた事に安心する反面、提案に一気に全身の血の気が引いていく。

 



「え~~!絶対死ぬ……」

 

走馬灯の様に駆け抜けていく記憶の中のハンター試験。

一瞬で死ぬ自信しか湧いてこない

 

 

「大丈夫だって♪試験内容知ってるんだろ?楽勝じゃん♪」

 

 

 

「嫌々、知ってるからってどうにかなる話では……」

 

 

「俺がいるじゃん♪大丈夫だって。行こうぜ!ほら!」


 

キルアはそう言って私の意見を無視して、強引に私の腕を掴むと走りだした。

 

 

 

「ちょっちょっと~~!!!!」

 

 

 

 噓でしょう!?

ねぇ!!

私ほんとにハンターの世界にトリップしてしまったのかよ!!!!!

 

 

 

 

 

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