会長の部屋を出た後、部屋でシャワーを浴びて廊下で煙草を吸いながらキルアが出てくるはずであろうドアの前で待っていた。
ここにいたらきっと受験者を殺してしまう前に私に気づくはず。
そう思いながら待っていた。
時計は0時半。
さすがに1日走り回ったせいで身体は疲れはてているものの、
こっちに来て1日しかたっていないのもあってか緊張がほぐれない。
何かしんどいかも・・・。
ぼんやり外を眺めていた。
「あれ!?菜々実じゃん。こんな所で何してんの?」
予想通りキルアが部屋からでてきた。
「何か寝れんくて、ボケてた(笑)」
「疲れてんじゃねぇの?今のうちに寝とかないと明日つらいぜ?」
キルアは私の顔を心配そうに見ながら隣に座った。
「そー言えばゴンは?ってかキルア汗だく・・・。」
「ゴンはまだネテロのじぃさんと遊んでる。
俺なんか飽きてきたからやめたのにさ。ほんとタフなやつ。」
「あはは(笑)それがゴンの良いところでもあるけど。」
「たしかに(笑)そーいや菜々実って個室だったよな?」
「うん。個室。」
「シャワー貸してくんない?俺汗だくなんだよね。」
「いいよ。どーぞお使いくださいな。」
2人で少しふざけながら私の部屋へと向かった。
よし!作戦成功♪
私はキルアが少しでも人殺しをしないように事実よりも少しずつタイミングをずらせる事に成功した。
キルアがシャワーを浴びてる間に寝れないのを言い訳にビーンズさんにお酒を貰いに行った。
もらった白ワインを飲みながら窓の外を見つめていた。
ん~。寝れないのもあるけど、年下(それもかなりの)相手に微妙に緊張するのはなぜに?
確かに2年ほど彼氏はいなかったけど・・・。
そんな事を考えているといつの間にかグラスが空になっていた。
ワインのボトルに手を伸ばしたつもりがそこにボトルはなかった。
「ちょっとなに飲んでんだよ?
酒飲まなきゃ寝れないぐらい緊張してんのかよ?
大丈夫だって、明日も俺のそばにいたらなんとかなるって。」
キルアは窓の渕に座っていた私の頭をポンポンっとなでた。
「ん~試験で緊張してるわけじゃなくて、言っても今日の朝この世界に降って来たばっかりやから。こうやってゆっくりする時間が出来るほど逆に気が張って・・・。」
キルアに空のグラスを差し出して注いで、と催促する。
「寝れそうにないんなら、今夜は俺が付き合ってやるよ。
どーせゴンの奴はじぃさんと遊んでて帰ってこなさそうだし。」
そう言ってキルアはベットに腰かけるとクッションを抱きかかえた。
「そー言やーさ。昼間おやじになら殺されてもいいとか言ってたよな?」
「うん。だって言ったと思うけどシルバさん格好良いし、渋いし、怖そうに見えて結構優しいし、あんな旦那さん、キキョウさんが羨ましい。」
私はワインを飲みながら少しハイテンションで熱弁を続けた。
あっと言う間にワインのボトルは空になった。
キルアはさっきの質問以降口を開かない。
「キルア??どーかした?」
「菜々実はやっぱり大人の男の方がいいんだよな?」
突然キルアは真剣なまなざしで私を見つめる。
一瞬そのまなざしにドキっとしてしまう。
酔ってしまっているのか、私はいつもより早い鼓動を胸に感じた。
目を逸らせなかった。
キルアはそっと立ち上がると、一歩前へと踏み出し、次の瞬間腕をつかまれ、一瞬何が起こったのかわからなかった。
今私が理解できるのは目の前にキルアの伏せられた長いまつげ、唇に柔らかい感触、背中には冷たいベットシーツ。
あまりの出来事に私は目を閉じるのも忘れていた。
「マジムカつくんだけど。
俺ガキだって自覚無いわけじゃないけど、あんな笑顔で親父の事好きとか聞きたくないっつーの。」
「キル・・・ア?」
私は名前を呼ぶだけで精いっぱいだった。
私が呼ぶのも無視してキルアは私の首元に顔をうずめ、首元に鋭い痛みが一瞬走る。
「キルア!!ちょっと待った!!」
その痛みに私は我に返り、思いっきりキルアの肩を押した。
「まずい!それは絶対あかん!
いくら私が酔ってるからって、それでもあかん!」
私が押し起こした所為で、ベッドに座る形になったキルアがムッとした顔をしている。
「俺の気持ちわかって止めてんの?それとも気付いてねぇの?」
「気持ちは分かったはず・・・。けどあかん!」
「分かってんならなんでだめなんだよ?俺が子供だから?それとも菜々実が俺のことどーとも思ってねぇの?」
「どーも思ってなくないけど・・・。」
「マジ!俺の事好きなの!?」
「なんか文句ある!?」
思わず年甲斐にもなく照れてしまっい、近くにあった枕を抱きしめ下を向いてしまう。
「私、今日キルアに会う前からキルアの事は好きだった。
でも、実際に会ったキルアは私が思ってたのと全然違った・・・。」
恥ずかしくて言葉が続かなかった。
自分の中でも色んな感情が渦巻いてはっきりしない。
「菜々実続けて。俺、ちゃんとお前の気持ち知りたいんだ。」
キルアは俯く私の頬にそっと手を添える。
「もっと子供なイメージがあったからびっくりした。
身長も私より少し高くて。
守るって約束してくれたり、心配してくれたり。」
私は少しずつ言葉にしていく。
「嬉しかったし、ホントはいっぱいドキドキしたし。
でも私が元々いた世界ではキルアの歳はまだ子供で、何をするにも親の承諾もいるし、さっきみたいな事もしたらあかんって決まってる。
破ると捕まる。
だから・・・。」
「それって何歳まで?」
「18歳・・・。」
「18!???さすがにそれはやりすぎじゃん!」
「うん。実際は15くらいやと思う。
ってか私の中での許容範囲?みたいな・・・。」
キルアはがっくり肩を落としていた。
「ごめん。キルアが子供って思ったりしてるんじゃなくて、そう言う世界で生きてきたから。
なかなかそれを修正するってわけにはいかんくて・・・。」
やっと顔を上げた私にキルアは膝の間を叩いて移動を促した。
私はおずおずとキルアの膝の間へと移動した。
後ろからしっかりと抱きしめられた。
「俺、菜々実が降ってきた時さ、すげーびっくりしたんだ。
普段ならほっとくのにさわざわざベンチまで運んで、目が覚めるまで待ってたんだ。」
キルアは私の首に顔を埋めながらいつもより優しい声で続けた。
「それから話したり、菜々実の事見てたら楽しくてさ。
ゴン達といるのも楽しいんだぜ。でもそれとはちょっと違ったんだ。
半蔵と話してたり、ヒソカとコソコソしてたり、他の奴と楽しそうに話してるの見るとイライラするんだ。
極めつけには親父をどれだけ好きかなんて話し始めたら、俺イライラピークになって、気がついたら奈々実の事ベットに押し倒してた。」
「キルア・・・。」
「ごめん。でも俺それで好きだって気づいて。」
なんだかキルアが可愛くて、後先考えずに私は振り返ってキルアの首に手を回していた。
キルアの少し赤くなった顔が可愛くて。
腰に回されて腕が力強くて、少し酔って気持ちが大きくなっていた私はそのままキスをした。
さっきされたよりも深く。
「菜々実ズルすぎ。」
「うん。大人はずるい生き物なんです。」
笑いながら答える私をキルアは恨めしそうに睨んでベットに押し付ける。
「お願い。わかって・・・。」
少し困った顔でそう言うと優しいキスが降ってくる。
「わかった。でもここまでは諦めろって。菜々実好きだぜ。」
そう言ってまたキスの雨が降ってきた。
答える隙がなくて、私はキルアの背中に腕を回して意思表示をした。
その後、私はキルアの腕の中で、三次試験会場に到着するまでの短い間を深い夢の中で過ごした。