23 幕間4 一方そのころの主人公サイド!

 

 

瞼が重い……。

 

 

 

 

昨日、泣きすぎたせいで、ろくに目が開かないよ。

 

 

 

 

「……もう、お昼か」

 

 

 

 

ベッドサイドに置かれた陶器の時計は、正午丁度を指している。

 

 

 

 

南の島の強い日差しは、ゴブラン織りの分厚いカーテンに遮られて、部屋の中は薄暗かった。

 

 

 

 

空調がしっかり調節されているから、真昼でも涼しくて過ごしやすい。

 

 

 

 

床も壁も、白い大理石で作られたこの客間は、昔、この島を統治していた王族の王宮の一室なのだそうだ。

 

 

 

 

王宮は現在、一部を島長が私邸に有し、その他は役所の事務室や資料庫に、そしてもっとも豪華な後宮が、来客用の応接室や、寝室にあてられている。

 

 

 

 

気持ちが落ち着くまで、いくらでもここにいればいい。

 

 

 

 

バレンタイン島長はそう言い残し、深い追求はしてこなかった。

 

 

 

 

強引だけど、その言葉や対応には余裕があって、その人の懐の広さがよく分かる。

 

 

 

 

でも……考える時間を与えられれば与えられるほど、私は一度、覚悟した答えをよりいっそう強く固めてしまう気がした。

 

 

 

 

だから、こんな風に一人でいることはきっと、逆効果だ。

 

 

 

 

どうしよう……今、イルミに会うなんてことは考えられないし、だからといって、このままうじうじとこの部屋に引きこもっていても仕方がない。

 

 

 

 

パーティーは、今夜なのだ。

 

 

 

 

きっと、時が近づけばイルミは動く。

 

 

 

 

そして、必ず私を見つけ出すだろう。

 

 

 

 

“殺し屋達どもに気をつけろ”

 

 

 

 

これで本当に分かった。

 

 

 

 

あのとき、ジンさんの言っていた殺し屋達というのは、ゾルディック家だけを指していたわけではない。

 

 

 

 

彼が暗に示したかったのは、シィラ・シーカリウス。

 

 

 

 

彼女と、そして――

 

 

 

 

「ようやくお目覚めデスか?」

 

 

 

 

「あ……ガブリエラさん。すみません、すっかり寝坊してしまって」

 

 

 

 

赤銅色の肌、バーテン服からハート柄のパレオに着替えた彼女は、食事を乗せたトレイを運んできてくれた。

 

 

 

 

なぜ、彼女がここにいるかというと――他でもない。

 

 

 

 

初めて会ったとき、なんとなくしゃべり方のイントネーションがにているなあとおもっていたのだけれども、彼女、実は何を隠そう、あのバレンタイン島長の娘さんだったのだ。

 

 

 

 

もうほんと、それを知った昨日はびっくりしすぎて言葉も出なかったよ。

 

 

 

 

ガブリエラさんは、食事のトレイをテーブルに置き、重いカーテンを開け放った。

 

 

 

 

風が吹き込む。

 

 

 

 

今日も、島はいい天気だ。

 

 

 

 

「ワタシ特製の、フレンチトースト焼きまシタ。愛情たっぷり、おいしいデスヨ!」

 

 

 

 

「ありがとうございます。わあ、美味しそう……!」

 

 

 

 

「おかわりもありますから、沢山食べてくだサイ。悲しいときには、食べるのが一番デス!」

 

 

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

 

 

 

一切れきって、詰め込んだ。

 

 

 

 

卵とバターの、甘くて優しい味だ。

 

 

 

 

「――っ! おいひい、……っ、おいしい、です……!」

 

 

 

 

「いい食べっぷりデス。好きなだけ食べたら、今日はもう、なにも考えずに、やりたいことやるといいデスよ!」

 

 

 

 

「やりたいこと……?」

 

 

 

 

「はい! 貴女は昨日一晩、ろくに寝ることもしないで考えたハズです! だからもう、これ以上は考えない。答えはきっと、心の奥で固まってるはずデス。あとはもう、偽らずにそれを吐き出すだけデス。いいですか、余計な言い訳は必要ありません。成したいことのために、やりたいことをやり抜くのみデス!!」

 

 

 

 

両手を腰に、にっこりと、満面の笑みを浮かべる彼女が眩しかった。

 

 

 

 

「……成したいことのために、ですか」

 

 

 

 

「そうデス。貴女は今、何をしたいですか?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

高台に立つ王宮の窓からは、真っ青な空と海が見渡せる。

 

 

 

 

力強く、光に溢れた世界。

 

 

 

 

そんな風景に、そのときふと、二人の少年の姿が重なった。

 

 

 

 

「……会いたいな。友達に、会って、抱えてることを全部話したい」

 

 

 

 

はい、と差し出されたのは、電源を落としたままになっていた、私の携帯電話だった。

 

 

 

 

手渡して、ガブリエラさんは静かに部屋を後にする。

 

 

 

 

 

私は携帯を手に、しばらく迷った後、ゆっくりと起動ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

                      ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルル、プルルル……。

 

 

 

 

カチャ。

 

 

 

 

『はい、もしもし?』 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

出た。

 

 

 

 

出てくれた。

 

 

 

 

『もしもーし! 誰だよ全く、なにも言わないなら切るぜ?』

 

 

 

 

「……キルア、私……ポー」

 

 

 

 

震える声で、必死に名前を伝えるとキルアははっと息を止めて、とたんに、嬉しそうに叫んだ。

 

 

 

 

『……ポー!? うわーっ、なんだよ、久しぶりじゃん! 元気にしてるか? ってか、なんで非通知設定なんだよ! あやうく切るとこだっただろ』  

 

 

 

 

「うん……ごめん、ちょっとわけがあって、仕事用の携帯からかけてるの。身体はね、元気だよ……あ、だ、だけど、気持ちの方はそうでもなくて……」

 

 

 

 

『ポー?』

 

 

 

 

「……ゴメン、キルア……どうしよう、なんにも考えずに電話かけちゃったから、どう言っていいかわかんなくって……!!」  

 

 

 

 

『うおわっ!? な、何泣いてるんだよ。……あのさー、もしかしてだけど、兄貴となんかあったのか?』

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

相変わらず、勘がいいなあ。

 

 

 

 

この子は、ほんとに……。

 

 

 

 

 

『おーい、もしもし?』

 

 

 

 

「う、うう……っ、うわあああん! キルアあああああああ――っ!!」

 

 

 

 

『わ、わかった! わかったから泣き叫ぶのやめろって!! あのさ、今俺、ヨークシンのカジノにいるんだ。場所変えて、じっくり話聞いてやるから、ちょっと待ってろよ』

 

 

 

 

「カジノ……?」

 

 

 

 

なんでそんなところに、と訪ねかけて、遠い昔に見たハンターアニメのワンシーンを思い出す。

 

 

 

 

季節は8月半ば。

 

 

 

 

私のせいで、一旦はゾルディック家に戻ってきてくれたキルアだけど、今はゴンとともにヨークシンシティに滞在している。

 

 

 

 

原作どおり、ゴンの父親であるジンさんの残した手掛りである、グリードアイランドをオークションで競り落とすために――もとい、そのための軍資金を稼ぐために。

 

 

 

 

それでカジノにいるってことは、ああ、あの流れか。

 

 

 

 

「キルアのほうも、さてはゴンと喧嘩したんでしょ」

 

 

 

 

『な……っ!? なんでそんなこと分かんだよ!』

 

 

 

 

「ゴンが止めるでしょ? 軍資金稼ぎにカジノなんか行こうって言ったら。その前に一悶着あったと思ったんだけど、違う?」

 

 

 

 

『ぐっ!? ……ま、まあ、当たらずしも遠からずってとこだよ』

 

 

 

 

「ちょっと考え直したほうがいいと思うよ? マフィアが経営してるカジノには、イカサマを見破るために念を使えるディーラーさんとかも雇われてるんだって。イルミが言ってたもん」

 

 

 

 

『でえっ! マジで!? そっか、だから急に当たらなくなって――おい、ポー?』

 

 

 

 

「イルミが……イルミ……イルミ、の、イルミのばかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っ!!」

 

 

 

 

『だあああああっ! だから、電話口で泣き叫ぶのやめろっての!! はあ……っと、このカフェでいいか。おねーさん、俺、クリームソーダと、ショートケーキね。――よし、準備完了。それで? 兄貴と一体なにがあったんだよ。聞いてやるから話してみ?』

 

 

 

 

「うう、ううっ! あ、ありがと……キルア、じ、実はね……っ!」

 

 

 

 

泣くまい、泣いちゃいけない。

 

 

 

 

自分で決めたことだ、決めて、キルアを巻き込んだ。

 

 

 

 

だったらちゃんと、現実を見据えなきゃいけない。

 

 

 

 

その上で、成したいことのためになにをするか。

 

 

 

 

どうすればいいか、助言を請おう。

 

 

 

 

一人で考えたって、もう、わからないのだ。

 

 

 

 

本当は、昨日、イルミに問われたときに、素直に打ち明けるべきだったのだ。

 

 

 

 

あのとき、彼を信じて話さえしていれば。

 

 

 

 

あんなことには、きっとならなかった――

 

 

 

 

それから、約1時間。私は、こみ上げる嗚咽と戦いながら、自分の見に起きたこと、見たものを全て思い起こし、キルアに伝えた。

 

 

 

 

今日の夜に開かれる婚約発表パーティのため、ミルキのダイエットに協力することになったこと。

 

 

 

 

そのために、南の島を買い取って、チーちゃんや、ビスケにあったこと。

 

 

 

 

そして、イルミと婚約指輪を見に行った際、シィラ・シーカリウスを名乗る暗殺者に襲われたこと。

 

 

 

 

そのことを、イルミに話せなかったこと。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「……それで、昨日は、どうしても島へ帰る気になれなくて、一人で島をフラついてたら、島長さんが助けてくれたの。い、今は、来客用の部屋をお借りしてて、そこにいるんだけど……」

 

 

 

 

『……兄貴から連絡は』

 

 

 

 

「わかんない……私用の携帯にはGPSがついてるから、電源つけたら居場所が分かっちゃうと思って、今も電源を切ってあるの。円を使って探しにも来てないみたいだし。き、きっともう、私のことはいらなくなって、うまい具合にいなくなっちゃったから、ちょうどいいやって思って――」

 

 

 

 

『言っとくけど、それはないぜ』

 

 

 

 

間髪入れず、キルアから返された言葉に、慰めの色は微塵もなかった。

 

 

 

 

冷静に、冷酷に感じるほどに、私にシビアな現実を伝えてくれる。

 

 

 

 

『兄貴は、そういう中途半端なことを一番嫌うから。今の俺の状況を許してるのだって、親父の命令があるからさ。ポーを切ると決めたら、必ず自分でけじめをつけに来る。そのことは、ポーにだってわかってるんだろ?』

 

 

 

 

「うん……」 

 

 

 

 

『……ポー、俺さ』

 

 

 

 

でも、その次に聞こえてきたのは、普段のキルアに近い声だった。

 

 

 

 

彼は少し言いよどんで、それでも、はっきり伝えてくれた。

 

 

 

 

『俺、ポーのことを助けたい。でも、今からその島に駆けつけたんじゃ、到底間に合わない。だから、兄貴がポーの居場所に気づく前に逃げろ。出来るだけ遠く、島を離れるんだ』

 

 

 

 

「キルア……」

 

 

 

 

『いいか、これはなにも、兄貴との結婚を諦めろって言ってんじゃないぜ。兄貴がそのシィラって女とホテルに入ったのは、そいつから情報を引き出すために、わざと誘いに乗った可能性が高いからな。だから、そのことはちょっと横に置いとけ。ただ、このままポーが島にいても、親父やお袋達の企みに引っ張り込まれるだけだって言ってんの。俺の経験上、それってろくなことないぜ? 六歳のとき、天空闘技場に無一文で放り込まれたのだって、今日は楽しいところへ連れて行ってやるからなって、親父に騙されて連れて行かれたんだ』

 

 

 

 

「そう、だったんだ……でもね、キルア。私、イルミからはもう、逃げたくない。……そうだよ、逃げたくないの。ちゃんと会って、話したい……!」

 

 

 

 

『――全く可能性がないわけじゃないから言っとくけどさ、兄貴は本気でポーのこと、切ろうと思ってるかもしれないんだぜ。兄貴に殺されても、それでも会いたいっていうのかよ』

 

 

 

 

「うん!!」

 

 

 

 

『即答すんなよ!! はあ……ったく、答えが決まってるんなら、わざわざ俺が相談に乗る必要なんてなかったじゃん』

 

 

 

なんか、ゴンと話してるみてー、とキルアがぼやく。

 

 

 

「ほんとだね……でも、話を聞いてくれて本当にありがとう。キルアが電話に出てくれなかったら私、自分がなにをしたいのか、そのためにやらなきゃいけないことも、きっと考えられなかった。今まで起こったいろんな事を、ただ後悔してるだけだった……」

 

 

 

 

『ポー……』

 

 

 

 

「キルア、私ね、キキョウさんに認めてもらたい。イルミのお母さんに、この先、イルミのことを任せても大丈夫だって思ってもらいたいの。そのためには、パーティーに出て、示さなきゃいけない。たとえそこに、どんな罠があったとしても……それで、いいんだよね

 

 

 

 

『……いいわけ、あるかよ。ポー、お前ほんとに、本当に殺されるかもしれねーんだぞ!!』

 

 

 

 

「……そう、だね」

 

 

 

 

殺される。

 

 

 

 

でも、それはきっとゾルディック家の皆にじゃなく、シィラにだ。

 

 

 

 

彼女や、おそらく、今夜のパーティーに招待されている、かつてのイルミの婚約者候補の殺し屋たちが私を襲うのだろう。

 

 

 

 

私を試すために。

 

 

 

 

「殺される……ねえ、キルア。認めてもらうためには、殺されちゃいけないよね。殺されないためには、どうすればいいと思う?」

 

 

 

 

『はあ? んなの、殺られる前に殺るに決まってんじゃん!』

 

 

 

 

「そっか……でも、もしかりに、私が襲ってきた人を全員返り討ちにして殺したとしても、それは、殺し屋さんとしてキキョウさんに認められることになるよね。それじゃあ、ダメだ。私が、私として認められなきゃ意味がないの」

 

 

 

 

『はぁ……ポーが、ポーとしてお袋にねぇ……ってかさ、お袋の前に、親父はなんて言ってんだよ! お袋より、親父のほうがよっぽど手強いだろ!?』

 

 

 

 

「大丈夫。シルバさんは認めてくれたよ。キルアとゴンが天空闘技場を去ったすぐあとに、私とイルミであそこへいって、シルバさんやキキョウさんと戦って勝ったんだ。ルール上での勝ちだけど。そのとき、言ってくれた。“俺にはお前は殺せない”って……」

 

 

 

 

『殺せない……? 親父が本当にそう言ったのか』

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

『おい、ポー? もしもし?』

 

 

 

 

「殺せない……そ、そっか、わかった、これだ……! キルア、ごめん!! 急用が出来たから切るね! 後からかけ直すから! あ、あと、話を聞いてくれてほんっっとうにありがとう!!」

 

 

 

 

『お、おいちょっと待て! なにがわかったんだよ、話はまだ――』

 

 

 

 

携帯を切った私は、着替えをすませ、荷物をまとめて窓辺に立った。

 

 

 

 

テーブルの上に、島長さんとガブリエラさんへの、感謝の置き手紙を残して。

 

 

 

 

天候は、晴れ。

 

 

 

 

風は、真南。

 

 

 

 

「……“驚愕の泡(アンビリーバブル)”飛行モード!」

 

 

 

 

ぶわっと、透明な落下傘が広がる。

 

 

 

 

海からの強い上昇気流を掴んで、私は一気に高度をとった。

 

 

 

 

目指すは、島のメインストリート。

 

 

 

 

白亜の古城のような、あの人のお店!!

 

 

 

 

「ビ・ス・ケさああああああああああああああああああああんっ!!」

 

 

 

 

念の落下傘を閉じ、町の広場に急降下した私は、階段を駆け上って玄関につっこんだ。

 

 

 

 

バーン、と扉を開いた先には、青い目をまんまるに開いたビスケさんの姿が。

 

 

 

 

「ポー! あんた、どこいってたんだわさ! イルミがあんたのこと探しまわってるわよ、さっきも、こっちに来てないかって連絡があったところなんだわさ!」

 

 

 

 

「今、イルミに会うわけにはいかないんです。彼のために、やらなきゃいけないことがあるんです。でも、それがどんなことか彼に知れたら、力づくで止められちゃう」

 

 

 

 

「……なるほどね、それで、あんたはそのイルミにも言えないことに、アタシに協力を求めに来たってわけ」

 

 

 

 

「はい。それを行うために、必要な力を求めてここへキました。念の師範であるビスケさんに、私の新技開発にご助言して頂きたいんです」

 

 

 

 

「新技?」

 

 

 

 

頷いて、私はポケットからあるものを取り出した。

 

 

 

 

「報酬は、これで構いませんか」

 

 

 

 

「これは……ヴェノムナイト!? 深海の火山帯で、数百年生きた毒珊瑚から極稀にしか産出されない毒鉱石じゃないの! あんた、どこでこんなものを」

 

 

 

 

「勿論、産地直送で、です。毒珊瑚を島へ輸送する際、偶然見つけて採取しておいたのをずっとポケットにしまってたんですよね。市場にはまず出回らない品ですから、どんな値がつくかはギャンブルですけど。裏稼業の人間や、ハンターには重宝されています。ヴェノムナイトは珊瑚の体内で濃縮された毒成分が、結晶化したもの。人工的に作られたものが、ナイフの刃や、弓矢の矢尻、暗殺者の暗器に利用されていますが、質は天然のものよりもはるかに劣ります」

 

 

 

 

「聞けば聞くほど、物騒なシロモノね。ダメよ。ポー、あんたはアタシの趣味ってものをまるで分かってないわさ」

 

 

 

「……ビスケさん! お、おねがい、します……私、私……!!」

 

 

 

「泣くんじゃないわさ! 報酬なんかなくったって、アタシの師匠ごころはとっくに燃え上がってるって言ってんの! あんたのオーラを感じた時からね」

 

 

 

 

「え……」

 

 

 

 

「新技上等! 不完全でもいいから、見せてみなさいな。いくらでもアドバイスしてやるだわよ」

 

 

 

「ビスケさん……! ほんとうに……本当に、ありがとうございます!!」

 

 

 

 

「礼を言うのは早いわよ! ほら、時間がないんでしょ、とっとと始めるわさ!」

 

 

 

「はい!! 必ず間に合わます……パーティーの始まる、夕刻までに!」

 

 

 

 

握りしめた左手に、指輪が光った。

 

 

 

 

そうだ、イルミの本心は、実際に本人に会って話さないとわからない。

 

 

 

 

 

だから、今は無茶苦茶にでも努力しなくちゃ。

 

 

 

 

 

認めてもらうんだ……絶対に!

 

 

 

 

堂々と、胸を張って、イルミと結婚するために。

 

 

 

 

だから、イルミ。

 

 

 

 

もう少しだけ、待ってて――