8 ミルミルダイエット大作戦パート2!!

 

 

 

 

「ごちそうさまでした~!」

 

 

 

「はあー、美味しかったわ~、お腹いっぱいや!」

 

 

 

さてさて!

 

 

 

新鮮なシーフードを心ゆくまで堪能し、ついでに現地の人気スイーツだというフルーツ山盛りココナッツミルクがけかき氷まで楽しんだ私たちは、丸い身体のミルキくんを引きずりつつ、とある専門店街へやって来ました!

 

 

 

何を隠そう、ここにある1件のお店こそ、今回のダイエットの鍵を握っていると言っても過言ではないスペシャルな場所なのです!!

 

 

 

「エステ街いいいい~~!?」

 

 

 

「そう!美味しい物を食べた後は、エステでリラックス!なんといってもここ、ラブハリケーンアイランドは別名ブライダルアイランドって呼ばれてるくらいの島なんだから。ここの通りにはありとあらゆる願いを叶える、ブライダルエステ専門店ばかりなんだよ!世界的に有名なお店だってたくさんあるんだって、観光雑誌に乗ってたの」

 

 

 

「イヤだね、こっ恥ずかしい!誰がそんな所行くもんか、帰るコフー!!」

 

 

 

「あっ、コラ、ダメだよミルキくん!早速逃げようとなんかしないでよ。大丈夫だって、最近は男の人のエステも流行ってるんだからね!ねえ、イルミ」

 

 

 

「何で俺にふるの?まあいいけど……ふーん、確かに、ざっと見回しただけでも名前に星の付いてる有名エステサロンばかりだね。あ、あのヘアエステ、よさそうだな。さっき海水につかったせいでギシギシして気になってたんだよね。ちょっと行ってくるよ」

 

 

 

「ダーメー!ここに来たのはミルキくんを痩せさせる為なんだから、イルミの髪のお手入れは後回し!さあ行くよ、ミルキくんっ!!」

 

 

 

「ぎゃあああああああああ!!わ、わかったから触手で引っ張んなってポー姉えええええええええええええええええええっ!!!」

 

 

 

ずりずり、丸いお腹を引きずって歩くこと5分。

 

 

 

目的のお店は、エステ街の中心部に開けた円形広場の正面にどーんと建っていた。

 

 

 

うわあ。

 

 

 

なに、このメルヘンな感じの外装は。

 

 

 

真っ白な大理石作りの階段が高い位置にある入り口までずっと伸びていて、その先には何本もの石柱に囲まれたお城のような建物が……いかにも、一般人には入れなさそうな雰囲気である。

 

 

 

いやしかし、そんなものに負けるわけにはいかない!

 

 

 

「よーし!それじゃあ、覚悟を決めて行ってみようか!!」

 

 

 

「ちょっと待った」

 

 

 

「ぐは!」

 

 

 

引きずって5メートルほどですでに抵抗を諦めたミルキくんの巨体を、エンヤコラと触手で担いで階段を登ろうとした私ーーの、襟首を掴んだのはイルミだった。

 

 

 

「苦しいー、いきなりなんで止めるの、イルミ?」

 

 

 

「この店なら俺も知ってる。念能力者が経営する超高級エステサロンだろ」

 

 

 

「うん。詳しいね、そうだよ!ミルきくんは普通に太ってるんじゃないんだもん。オーラにはオーラをって思って、ここをチェックしてたんだけど」

 

 

 

「うん。その選択は正しい、でも、ここが何て呼ばれてるか知ってる?世界中のセレブリティーの憧れの的。会員制じゃないけど、完全予約制で予約は20年先まで一杯だ。しかも、店主は気まぐれなことで有名でさ。予約があっても、めったに開店しない。巷じゃ幻のエステサロンなんだ。飛び込みじゃ、絶対無理」

 

 

 

「えー、そうかなあ」

 

 

 

「そうだよ。だって、以前に俺が金にものを言わせてロイヤルヘアトリートメントコースを予約しようとしたときも、ばっさり断られたからね。諦めて、別の店にしなよ。金と家の名前で動く有名店は、他にいくらでもある」

 

 

 

「コラ、イルミ。なに物騒なことしてるの?だめでしょ、ゾルディックの名前をそんなことに使ったら!大体、イルミは髪の毛にお金かけすぎなの!仕事ではほとんど夜にしか出歩かないんだから、紫外線も当たらないし、そんなに痛まないくせに」

 

 

 

「痛むよ。ただでさえ生活が不規則ってだけで傷みやすくなってるんだから。ポーこそ、仕事柄、海水に浸かることが多いんだから、ちゃんとケアしないとーー」

 

 

 

ダメだよ。

 

 

 

と、眉を潜めるイルミの向こうで異変があった。

 

 

 

きゃーっと、甲高い叫び声。

 

 

 

カップル達がゆるやかな午後のデートタイムを楽しんでいる円形広場に、波が立つように緊張が走る。

 

 

 

路地から、一人の女の子が転げ出てきたのは同時だった。

 

 

 

華奢な手足。

 

 

 

金色に光るツインテール。

 

 

 

南国にはいささか不似合いな、ケープつきの赤いショートドレスのすそをさっと払って瞬時に警戒態勢に入る、その佇まい。

 

 

 

完璧なまでに洗練された、身のこなし。

 

 

 

白いグローブを嵌めた両手を構え、その女の子は出てきた通路をひたと見つめている。

 

 

 

きっと、彼女を狙う追っ手がいるのだ。

 

 

 

それを、この広場で待ち受けるつもりなんだ!

 

 

 

「相当のやり手だな……」

 

 

 

広場に背を向けたまま、イルミがポソリと呟いた。

 

 

 

「あの分なら、ほっといても大丈夫だよ。ここにいると厄介事に巻き込まれそうだから、とりあえず適当な店に入ってやりすごそう。ポー、……ポー、ねえ、聞いてる?俺の話」

 

 

 

「……」

 

 

 

聞いてないです。

 

 

 

それどころじゃないんですうううううううううううう!!!!

 

 

 

うわああああああああああああああお!!!!

 

 

 

只今、私は胸の中にこみ上げる感動に身を震わせているのであります!

 

 

 

まさか!

 

 

 

まさか、この人にこのタイミングで、しかもこんな所で出会うとは思ってもみなかったーー!!!!

 

 

 

よし!

 

 

 

助けよう!!

 

 

 

「ちょっと私行ってくる!すぐに戻るから待ってて痛いっ!!」

 

 

 

スコーン、と私の額にエノキがヒットした。

 

 

 

「ダメ。って、言ったと思うんだけど、俺。もう、口で言っても分からないんなら身体で伝えてあげようか?」

 

 

 

「きゃーっ!!やめてこんな公衆の面前で!!違うのイルミ!知ってる人なの!誰かに追われてるみたいだから、ちょっと泡で包んで隠してくるだけ。ね、それならいいでしょ?」

 

 

 

「え、知り合い?」

 

 

 

困ったな、と言うように、イルミの首がこてんと斜めに傾ぐ。

 

 

 

「もう、ポーは無駄に顔が広いんだからやんなっちゃうよ」

 

 

 

「ご、ごめん……」

 

 

 

「謝らなくてもいいけど。でも、本当に守る価値のある相手なのかは、よく考えることだね。ポーは殺し屋じゃないから、兄弟たちほど厳しく言うつもりはないけど、繋がりのある人間を増やすということは、自分の弱点を増やすというのと同じ事だ。ポーは、それを全部守りきれるくらい強くなれるの?なれないなら、いざというときに失うだけだよ」

 

 

 

「……そ、そんなふうに考えたことはなかったけど」

 

 

 

なんだろう、私を見つめるイルミの目が、いつもより冷たく光っているような気がする。

 

 

 

でも……でも!

 

 

 

「こういうのは理屈じゃないの!ここで会ったも何かの縁でしょ、行ってくる!」

 

 

 

「もー」

 

 

 

やれやれ、と瞼を伏せるイルミをすり抜け、私は臨戦態勢を取ったままの女の子目掛けて走った。

 

 

 

その子はすでにこちらの気配を察して、視線で動きを捉えている。

 

 

 

碧くて大きな目。

 

 

 

赤いドレスの女の子!

 

 

 

この人が誰なのか、私は知ってる!!

 

 

 

「ビスケさんっ!!事情はわかりませんけど、この場は守らせて下さいっ!!」

 

 

 

「――なっ、貴女たちは誰!?」

 

 

 

「“嘘つきな隠れ蓑(ギミックミミック)”!!」

 

 

 

質問を無視して念能力を発動。

 

 

 

私を包む“驚愕の泡”が大きく膨れ上がり、女の子ーービスケさんごと、すっぽり覆って、辺りの景色と同化させた。

 

 

 

よし、これで一安心。

 

 

 

そのとたん、細い路地から警備服に身を包んだお兄さん達がワラワラとーー空港で、ミルキくんを捕らえた人たちと同じ警備員さんのようだ。

 

 

 

“嘘つきな隠れ蓑”に包まれているお陰で、彼らには目の前にいるはずの私たちの姿は見えていない。

 

 

 

彼らはしばらくの間、広場をうろついてビスケさんを探していたみたいだったけど、やがて諦めて去っていった。

 

 

 

「念の泡、解除!いやあ、危なかったですねビスケさ――」

 

 

 

「ふーん。この女の子みたいにシングルで出歩くと、あの警備員たちに捕まって島長の前にしょっ引かれる仕組みなのか。色々と面倒くさい島だな」

 

 

 

うわお!?

 

 

 

「イイイイルミ!?いつの間に後ろにいたの!?」

 

 

 

「ポーが走り出したときから。俺がポー一人を突っ走らせるわけないだろ。俺達、夫婦になるんだから、こういうときは一蓮托生だよ。ポーが危険を犯すなら、俺もいく」

 

 

 

「イルミ……」

 

 

 

互いに、じっと見つめ合う私達。

 

 

 

辺りに甘いムードが漂いかけるのを、ゴッッッホン、と大きな咳払いに吹き飛ばされた。

 

 

 

おおう、振り向けば、しっかりと瞼をとじたビスケさんの額にビキビキと青筋が……テメエこんにゃろう、人前でイチャつきやがってテメエラの関係引っ掻き回してメチャクチャにいてこましたると言わんばかりの顔つきだビスケさーん!!

 

 

 

まずい!

 

 

 

「おっ、おは、お初にお目にかかりますっ!あのっ、私はポーといいます。天空闘技場で、貴女のお弟子さんのウィングさんに念の基礎の手ほどきを受けたものです。すみません、突然お声をかけたりして……警備員さんたちに追われていたみたいですけど、大丈夫ですか?」

 

 

 

「ウィング?」

 

 

 

ぴく、と片方の眉が上がったとたん、パチ、と大きな両目が開いた。

 

 

 

わあー、長い睫毛!

 

 

マンガやアニメで目にした通り、真っ白な肌に碧い瞳が印象的で、とっても可愛い!!

 

 

 

とてもじゃないけど57歳には見えないなあ……。

 

 

 

「ウィングって……もしかしてあのヒヨッコウィングかい??」

 

 

 

「はい!あの、シャツの裾が片方、必ず外に飛び出してるウィングさんです!」

 

 

 

「あの子、まーだあの癖治ってないのかい!?アタシが散々注意したってのに。全く、困ったもんだわ!お察しの通り、アタシはビスケ。ビスケット・クルーガーよ。よろしくだわさ!!」

 

 

 

先ほどの険悪な雰囲気はどこへやら、カッカッカッと豪快に笑うビスケさん。

 

 

 

あー、よかった、と内心で私は胸を撫で下ろした。

 

 

 

「ふーん、貴女がウィングの師匠なんだ」

 

 

 

人差し指を唇に。

 

 

 

自分の身の丈の半分もないビスケさんを、イルミは無表情に見下ろして言う。

 

 

 

「うん。イルミも名前は聞いてたでしょ。あの天空闘技場の騒ぎの後、ベントラ港の居酒屋さんで、ウィングさんと三人でお酒飲んだ時に話してたから」

 

 

 

「まあね。でも、それがこんな女の子だなんて意外だった。ウィングの話じゃ、もっとムキムキしたオバサンのイメージだったけど――ああ、そうか。変装してるんだね。実際はもっと違った姿なんだ」

 

 

 

くりっと首を傾げるイルミが……なにやら、鬱陶しそうに顔をそむけた。なにかと思ったらビスケさんだ。

 

 

 

グリードアイランド編でゴンやキルアに向けていたようなキランキランした視線を、イルミに向けている。

 

 

 

「あああ……!!極上の原石の持つ美しさを、極限まで高める繊細かつ計算され尽くしたカットはまさに神の成せる技……!!その妖しくも深い色合いは、紫外線により色あせてしまう危うさをも併せ持つがその反面、闇の中では他のどの宝石よりも美しく輝くという――まさにアメジスト!!あああああ!!いいわさ~、完璧に磨きぬかれた宝石って、なんでこうも美味しそうなんだわさ~!!」

 

 

 

「……あのう、ビスケさん。ヨダレが」

 

 

 

「なんなのコイツ」

 

 

 

「おっと。オホホホホホ!!失礼したわね!そうだ、あんたたち。さっき助けて貰ったお礼をしなきゃね。アタシの経営してるエステサロンがすぐ近くにあるのよ。立ち話もなんだから、お茶でも飲んでいくといいわさ!」

 

 

 

ピンクのハンカチで上品にヨダレを拭いつつ、ビスケさんはにっこり笑ってある建物を指さした。

 

 

 

イルミとともにその方向を見上げ――

 

 

 

「……嘘だろ?」

 

 

 

「ほんと。ねっ、ご縁ってこういうことを言うのよ。イルミ。めぐり合わせは大事にしなきゃ。でしょ?」

 

 

 

「はいはい。全く、ポーはこういう運だけは強いよね」

 

 

 

白い手袋の指先には、さきほど諦めて帰りかけたエステサロンが!!

 

 

 

いやあ、まさか。

 

 

 

あの能力でこんなお店を開いておられたとは。

 

 

 

ビスケット・クルーガー、恐るべし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い大理石造りの、まるでお伽話に出てくるお城のような建物。

 

 

階段を登って門から中に入ると、内装や家具は意外にもアットホームな木製調だった。

 

 

 

気温の高い島だから、建物が石造りだと空気が冷えて気持ちがいい。

 

 

 

あのあと、ミルキとチーちゃんを紹介し、実は折り入ってお願いしたいことがあるのだと伝えると、ビスケさんは店先に閉店中の看板を掛け、話の邪魔が入らないようにしてくれた。

 

 

 

店内の奥まった場所に、庭に面した吹き抜けのサロンがある。

 

 

 

彼女の好みなのだろう、植え込みのハイビスカスに赤色はなく、ピンクと黄色の花が交互に咲いていた。

 

 

 

青空に揺れるシュロの葉が、強い日差しを和らげてくれる。

 

 

 

搾りたてのフレッシュジュースを振舞われつつ、私たちはひととおりの事情を説明した。

 

 

 

「なるほど。つまり、早い話がそっちのおデブちゃんのダイエットに、アタシの力を借りたいというわけね。なんだ、気前よく助けてくれたのには、そういう裏があったの」

 

 

 

「あ、あれはほんとにただの偶然なんですってば!」

 

 

 

「わーかってるわさ!冗談よ、ポー。見たところ、アンタにはこのアタシを騙すだなんて、無理な話だわさ」

 

 

 

「あはは……」

 

 

 

「ま、それはそうだよね」

 

 

 

「ポー姉はバカだからなあコフー」

 

 

 

「ちゃうわボケ。ポーちゃんは、そこまで計算してから行動できるようなタイプやないって話やの。思いついたら即行動派!」

 

 

 

う、うるさいなあ。

 

 

 

まあ、全部ほんとのことだから言い訳なんて出来ませんけど!

 

 

 

「な、なにはともあれ、ご無理を承知でお願いします!普通に痩せさせようとしても、ミルキくんは絶対に痩せません。彼の体内に働く強力なオーラが、脂肪を掴んで離さないんです!それをどうにかするには、念のエステティシャンであるビスケさんのお力をお借りする他ありません!!」

 

 

 

「そうねー、まあ、条件によっちゃあ特別に施術をほどこしてやらないこともないわさ」

 

 

 

「なに、客に向かってその態むぐ……っ!」

 

 

 

イルミごめんちょっと黙ってて!!

 

 

 

と言わんばかりに発射された私の触手が、彼の口を塞いで吸い付いた。

 

 

 

真っ黒な瞳がものっすごい殺気で睨んでくるけど、い、今は気にしないっ!

 

 

 

「お見事。その不思議なオーラといい、アンタはほんとに面白い念使いだわね!ポーって名前で思い出したけど、たしか、今回の選抜でダブルハンターに昇格したのってアンタじゃなかったかしら?パドキア海の海神(ポセイドン)。たしか、単独で深海に潜る海洋生物学者だって小耳にはさんだわさ」

 

 

 

「マジかよコフー!?」

 

 

 

「マジや。チーとジンが直々にライセンスを手渡しに行ったから間違い無いわ。そういや、ビスケット・クルーガーと言えば有名なストーンハンターやないの。あんたが市場に流してくれる毒鉱石は上物ばっかりやから助かっとるわ」

 

 

 

「ほほほ。あら、お得意様?貴女もなかなか面白そうなお嬢さんだわね。うーん、アンタたち四人、本当に、誰をとっても面白そうな輝きを放つ宝石(ジュエル)だわ。島に帰って来て正解だったわさ~」

 

 

 

ふんふん、と鼻歌交じりに、ビスケさんはちょっと待つだわさ、と言って席を立った。

 

 

 

吹き抜けのサロンには端に階段があって、そこから二階の部屋に行けるようになっている。

 

 

 

間もなく、手に小ぶりの箱を抱えて、彼女は戻ってきた。

 

 

 

赤いベルベット張りの宝石箱を、私の前に置いて開く。

 

 

 

「ポー、あんたにコレを見てほしいわさ!」

 

 

 

「これは……わあ!アクアパールですね!形は球形に近くて、しかも大きい。稀少ですよ、普通はこんなに綺麗な形で育つことはまずありませんし、これだけ大きく成長する前に母体である貝の寿命が尽きてしまいますから」

 

 

 

「へー。綺麗だね。パールっていうよりも水晶みたいだけど違うの?」

 

 

 

きゅぽん、と力づくで口から触手を引きぬいたイルミが、私のほっぺをつまみながら無表情に尋ねた。

 

 

 

「痛いよ……うん。二酸化ケイ素が主成分って言う点では、水晶と同じなんだけどね。通常、真珠はカルシウムと有機質から作られるバイオミネラルなの。でも、このアクアパールを形成する海泡貝という貝は、カルシウムのかわりにケイ素を使って自らの外殻を形成する特徴を持っているんだ。だから、貝の体内に異物が混入して真珠が作られるときも、主成分となるのは海底の白砂に含まれているケイ素が利用される。別名ではクリスタルパールって呼ばれてるんだよ。貝の個体数ももともと少ないから、すっごく稀少なの。小指の爪の半分くらいの大きさのパールでも、市場に出回れば数百万の値がつく」

 

 

 

「へー」

 

 

 

「ふふーん、さすが海洋生物学者。コレの価値は説明しなくても分かるのね」

 

 

 

「すっげえ!これならサクランボくらいの大きさだぜ!?売ったらいくらになるのかなあコフー……痛えええっ!!んだよ、チー!いきなり針で刺すなよなあ!」

 

 

 

「素手で触るな。こういう宝石はデリケートやの。まったく、綺麗なもんを眺めて楽しむっちゅうことを知らへんのか?ブタに真珠っちゅうのはこのことやね」

 

 

 

「……お前、俺を誰だと思ってるんだコフー。好きなキャラフィギュアを目で見て楽しむ。その道の真髄は、あの家の誰よりもこの俺が分かってる筈だぜコフー!!!!」

 

 

 

「誰もそんな話してへんわボケ――!!」

 

 

 

「まあ、こいつらの夫婦漫才は放っておいて、ビスケ。君の言う条件って何?」

 

 

 

だれが夫婦や誰がーー!!という、後方からの非常に息のあった突っ込みはどこ吹く風、淡々として冷静なイルミである。

 

 

 

ビスケさんはそうね、と頷いて、手袋をした指先でパールをつまみあげた。

 

 

 

そのまま、片方の耳へ。

 

 

 

「アタシはこのアクアパールと対になるパールをもう一粒見つけて、イヤリングを作りたいんだわさ!!これは、アタシがこれを手に入れた時からの夢なんだわさ。でも、さっきポーが言った通り、この真珠を内包できる海泡貝は一級希少種!星付きのハンターのみ、捕獲を許される特別な貝なんだわさ……!!陸にある宝石ならアタシが獲りにいってやるわよ、でも、海の底深くなんて、流石のアタシにも手が届かないわさ……!!」

 

 

 

「なるほど。じゃあ、私がこのパールの対を見つけて来るのと引換に、ミルキくんのダイエットに協力していただけるってことでいいですね!」

 

 

 

「いいわさ!!」

 

 

 

「よし!じゃあ交渉成立!!」

 

 

 

ぎゅっと、堅い握手を交わし合う私とビスケさんの隣で、イルミがやれやれと嘆息した。

 

 

 

「やっぱり、ややこしいことになったじゃない。それってどのくらいかかるの?一日や2日で見つかるものじゃないんだろ」

 

 

 

「なに言ってるの?そんなの二、三時間もあれば充分だよ」

 

 

 

「え」

 

 

 

「この島近海の海洋環境は、海泡貝の生息条件にぴったりだからね。ちょっとまってて、今すぐ採ってくる!!」

 

 

 

言うが早いか、海に向かって猛ダッシュ!

 

 

 

そんな私の後を追って、ため息混じりに立ち上がるであろうイルミを、私は笑って振り向いた。