17 幕間2 変態の友達は変態!!

 

 

 

 

 

「おそらく、ここにある腕輪をつければこの扉は開くのだろうが……」

 

 

 

「腕輪は五つ。で、俺達は七人。どーする?罠じゃないとは言い切れないぜ?」

 

 

 

壁際の台に置かれていた腕輪を見つめながらクラピカが唸り、キルアが冷静な眼差しをこちらに向けた。

 

 

 

「どうするもこうするも、いつまでもこんな何もない部屋にいるわけにゃいけねーだろうが!貸せっ!俺がつけてやる!!」

 

 

 

「あっ!レオリオ!?」

 

 

 

「クックックッ☆短気で怒りっぽい。レオリオは放出系の気があるなぁ」

 

 

 

「ふん!俺ぁな、ぐちゃぐちゃ辛気臭く考えんのは性に合わねぇんだよ!」

 

 

 

カチャン!

 

 

 

ピッ!

 

 

 

「あ、ほら!壁のモニターに1って数字が出ましたよ?」

 

 

 

「どうやら、罠ってわけじゃなさそうだね☆やっぱり、この腕輪をつけることが扉を開く鍵になっているようだ」

 

 

 

言いながら、腕輪を手にとるヒソカさん。

 

 

 

カチャン!

 

 

 

ピッ!

 

 

 

「あっ!ズルい、俺もつけるもんね!」

 

 

 

「俺も俺も!」

 

 

 

カチャン、カチャン!

 

 

 

ピッ!ピッ!

 

 

 

「ああっ!こら待て、ゴン、キルア!腕輪は5つしかないのだぞ。誰が代表して着けるか、慎重に話し合って決める必要が--」

 

 

 

「トモには、ボクがつけてあげようね☆」

 

 

 

「あ」

 

 

 

カチャン!

 

 

 

ピッ!

 

 

 

画面に表示された「5」の数字。

 

 

 

すると、パッとモニターの映像が切り替わり、モヒカン頭の試験官さんが映し出された。

 

 

 

『ようこそ、多数決の道へ。これから君たちが進むのは、たった一人のわがままは決して通らない試練の道!あらゆる選択を多数決によって決定し、互いの強力が絶対必要条件となる難コースである!!……とはいえ、まさか、想定外の人数が二人も加算されるとは思わなかった。ふむ……さて、どう処分したらいいものか』

 

 

 

「なあっ!?」

 

 

 

やれやれ、と嘆息する試験官さん。

 

 

 

絶句するクラピカ……。

 

 

 

ありゃー。

 

 

 

やっぱりこれ、原作通りの道だったか。

 

 

 

「ま、まさか、それで全員失格ということに……」

 

 

 

「ちょ!?ままま待て待て!そんなの、落っこちちまったもんは仕方ねーだろうが!だいたいだ、決まった人数以上の人間が、一緒に試練を受けちゃいけねーって決まりでもあんのか!?ああん!?」

 

 

 

「レ、レオリオ、落ち着いて!!」

 

 

 

「おっさん!モニターに殴りかかってもしかたないだろ!!」

 

 

 

え。もしかして、これってすごく危ない展開なんじゃ……?

 

 

 

チラ……と、ヒソカさんを見上げる。

 

 

 

……や。

 

 

 

ヤル気満々だあああ~~!!!

 

 

 

「ヒ、ヒソカさん、ヒソカさんっ!!ストップストーーーップ!!」

 

 

 

『落ち着きたまえ』

 

 

 

パキンッと、クッキーを噛りつつ、試験管さんの顔には、いつの間にやら嬉しそうなニヤニヤ笑いが浮かんでいる。

 

 

 

『これで失格にするつもりはない。むしろ、あの狭い幅の扉を複数の人数で一度に潜り抜けるなど前例がなく、実に面白いチームだ。だが、見てもらった通り、腕輪は5つしか用意していない。余った二名には、多数決の参加券がなくなるが、それでもいいなら試験に参加したまえ。もちろん、腕輪のないメンバーも、試練を突破して塔の最下部まで降りられれば合格とする』

 

 

 

「……ということは、つまり?」

 

 

 

「腕輪をつけたメンバーにしか、決定権がなくなるということだ!!つまり、レオリオ!ヒソカ!ゴン!キルア!トモ!!お前たち五人の行う選択に、私たち全員の運命がかかっているということだーーっ!!!」

 

 

 

改めてメンバーを見回してみる。

 

 

 

うわあ。

 

 

 

冷静沈着タイプの人間が、キルアしかいない。

 

 

 

「ぬああああっ!!だから私は冷静に話し合って装着すべきだと言ったんだ!!」

 

 

 

「ま、後から考えたら判断力は俺。分析力はクラピカ。野生の勘って直感力はゴン。あとは、修羅場くぐってるって意味で、経験値的に考えて、ヒソカとカタカタのおっさん。この五人がつけるべきだったよな。ま、今更言ってもしゃーねぇけど」

 

 

 

「ちょっと待てキルア!!なんでその中に俺が入ってねーんだよ!!」

 

 

 

「おっさんはこの中じゃ一番我を通したがるタイプだろ!?ド天然タイプのトモより向いてねーよ、多数決は!!」

 

 

 

うんうん、と頷く一同である。

 

 

 

「ド天然って……ひどいキルア」

 

 

 

「まあまあ。そんなトモが可愛いんだよ☆」

 

 

 

さて……なにはともあれ。

 

 

 

ゴゴゴ……と、開く扉。

 

 

 

「ま、なっちまったもんは仕方ねえ!!行くぞお前らーー!!」

 

 

 

「おー!!」

 

 

 

「あ、おい待てよ!!罠があるかもしれないんだから走んなっつーの!!」

 

 

 

「やれやれ……前途多難だな」

 

 

 

「クックック☆みんな元気がいいなぁ☆さ、ボクらも行こうか」

 

 

 

「うう……ド天然……ううう……」

 

 

 

なにはともあれ、三次試験。

 

 

 

始まってしまいました……!!

 


 

 



 

 

 


 

                     ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ?行き止まりだ」

 

 

 

レオリオとゴンの後を追って、狭い通路を進んでいったわたしたちなんだけど、ものの五分も経たないうちに進めなくなった。

 

 

 

「また扉ですね」

 

 

 

「クックックッ☆どうやら、記念すべき第一回目の多数決が始まるみたいだよ?ほら、鍵のかわりに質問の書いたパネルとカウンターがくっついてるだろ。“この扉を開けるか、開けないか。開けるならマル。開けないならバツを押すこと”」

 

 

 

ケッと、とたんにレオリオが悪態づく。

 

 

 

「んなの、いちいち質問されるまでもねぇぜ!開けるに決まってんじゃねーかよ!!」

 

 

 

「レオリオ。まあ、落ち着け。出題のタイミングといい、内容といい、これはおそらく練習のようなものだ。素直に答えても罠にはまる心配はないだろう。レオリオ、ゴン、キルア、ヒソカ、トモ。回答を頼む」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

「まかせろっての」

 

 

 

「よっしゃあ!!いくぞお前ら、せーのでボタン押せよ!?せーーー」

 

 

 

「ちょっと待った!!」

 

 

 

ズゴン!

 

 

 

今まさに、腕輪のボタンをポチッとな、と押そうとしていたレオリオが、盛大に空振ってズッコけた。

 

 

 

あはは、痛そう。

 

 

 

ごめんなさい!

 

 

 

「あんっだよ、トモ!!ひとの出鼻を盛大にくじきやがってーー」

 

 

 

「ギタラクルさんがいないんです!!さっきからカタカタって言ってないと思ったら!!」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

「本当だ……ったく、なにやってんだよあのオッサンは!!」

 

 

 

オッサ……キルア、あの紫の顔色悪そうな人はね、君のおに……おに………………ま、いいや。

 

 

 

「わたし、ちょっとさっきの部屋に戻って見てきます!」

 

 

 

「あ、トモ!一人じゃ危ないからボクも行くよ☆」

 

 

 

「俺も行く!レオリオ、クラピカ、ちょっと待っててね」

 

 

 

「しゃーねー。俺も行くか」

 

 

 

「ま、待て待て待てお前ら!腕輪つけた奴が四人もいなくなったら、前に勧めなくなるじゃねーか!!」

 

 

 

戻ってこおーーーーーーーーーーーーーーーい!!

 

 

 

レオリオの罵声を完全無視で、最初に落っこちた部屋に駆け戻る。

 

 

 

えーとー……ギタラクルさんは……。

 

 

 

「いた!!ちょっとギタラクルさん!こんなじめっとした部屋のすみっこで、おひざ抱えて体育座りして落ち込んでないでください!!カビが生えちゃいますよー!!!」

 

 

 

まあ……カビっていうか、すでにエノキだらけなんだけど……っていうかもはやギタラクルさん、エノキの苗床にしか見えないんだけど。



そんな見かけで、石壁の部屋の隅っこで、膝をかかえてズーンと陰気に落ち込まれた日には……。



ぶ、不気味すぎるよ!!?



「……」



しばらくの間、微動だにしなかったギタラクルさんある。



だけど、わたしに続いてヒソカさん。最後にキルアとゴンが部屋に駆け込み、「ひいっ!?」と悲鳴を上げて固まると、



ギギギギギイ……!!



ナナメ下からひねりこむように顔をあげた。



「カタカタカタ……(トモ……ちょっと、君に話したいことがあるから、後ろの二人、追い払ってくれる?ついでにヒソカも)」



「ついでに、とは失礼だなあ★トモにおかしな真似しないだろうね?」



「カタカタカタ……(しないよ……)」



おっと……こいつは真剣に落ち込んでいるぞ、ギタラクルさん。



ヒソカさんも、普段の彼の様子とは違うと踏んだのだろう。



「ゴン、キルア。ボクらは話の邪魔になるんだってさ★心配ないから、ちょっと向こうに行っていようか」



「う、うん……」



「ええっ!?トモとあいつ、二人きりにしてほんとに大丈夫なのかよ!」



「平気平気☆」



然り気無く、しかし、しっかりと二人の肩を抱きながら、実にスムーズにゴンとキルアを連れ出してくれた。



流石はヒソカさん!!



ギタラクルさんと二人っきりになったので、つっ立ったままもなんだから、彼のとなりに座って話を聞くことにした。



取り合えず、正座。



「で、なんですか?話って」



「カタカタカタカタカタ……(俺が変装していることは、前に君にもバラしたよね。本当の名前は、イルミって言うんだ。イルミ・ゾルディック。俺は、キルアの実の兄なんだよ)」



「へえ~」



「カタカタカタカタ……(……驚かないってことは、もしかして、もうヒソカから聞いてた?)」



うお!



しまった!!



あまりにも当たり前のことだったから、ナチュラルに受け止めてしまってた自分、反省!!



「い、いえ、そうじゃないんですけどっ!!バ、バレるとまずいっておっしゃってたんで、誰か、会いたくない知り合いがいるんだろうなあって……!!」



「カタカタカタカタカタ……(ふーん……まあいいや。それでね、俺が殺し屋であるように、キルも殺し屋なんだ。キルだけじゃなく、家業だから、俺の家族は全員が殺し屋なんだけど。暗殺一家ゾルディックって、聞いたことない?)」



「ええっと……確か、前にサイトでチラッとだけ……」



「カタカタ……(そう……)」



「で、でも!そ、そのことでなんでこんな風に落ち込んでるんですか?あ、ま、まさか、キルアにギタラクルさんの正体がバレちゃったとか!?」



「カタカタカタカタカタ……(バレなかったから、落ち込んでるんだけど)」



「は……?」



「カタカタ……(はあー)」



丸めた背中をさらに丸めて、床にめり込むようなため息を落とすギタラクルさん改め、イルミ兄である。



わからない……。



「えっ!?な、なんでそれで落ち込んでるんですか?よかったじゃないですか。バレるとまずいんでしょ?」



「カタカタカタカタカタ……(だって……俺、さっきはキルを抱っこしたんだよ?俺、キルが赤ん坊の頃から面倒見ててさ……毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日、抱っこして、おしめかえて、つきっきりでおもりしてたのに……キルったら、全然気づいてくれないどころか……お、俺……俺のこと、キモいって…………)」



「それはギタラクルさんがギタラクルさんだからでしょ!!?」



「カタカタカタカタカタ……(確かに変装はしてるけど、絶対バレると思ったのに……バレたらどうしようってドキドキしてたのに……キルが……キルが……うう……酷い……ううう……)」



「泣くときくらい瞬きしてくださいーっ!!ああ、もおっ!!分かりましたよ!ちょっと、そこで待っててくださいね!」

 

 

 

スックと立ち上がり、部屋を飛び出してキルアの元へ。

 

 

 

「トモ、お前大丈夫だったか!?」

 

 

 

「キルア!!一緒に来て!」

 

 

 

ぐいっ!

 

 

 

「わわっ!?ちょ、ちょっと待てよ!行くから腕引っぱんなって!」

 

 

 

「あっ、ズルい!俺も行っていい?」

 

 

 

「それじゃあボクも☆」

 

 

 

ゾロゾロ、結局最初にやって来たメンツを引き連れて、ギタラクルさんの元へトンボ返り。

 

 

 

 

ジメジメ、ジメジメと泣いているギタラクルさんに、キルアがビクッと肩を震わせた。

 

 

 

「うわっ!?なんだよオッサン、何泣いてんだよ、気色悪ぃ……」

 

 

 

「コラ!!ギタラクルさんがついて来なかったのはキルアのせいなんだよ!?一緒に落とし穴に落ちるの嫌がったり、キモいとか気色悪いとかエノキの苗床みたいとか、酷いこと言うから傷ついてるのっ!!」

 

 

 

「なっ!?最後のは俺じゃねーだろ!!」

 

 

 

「あー、キルア、悪いんだぁ!人の悪口はその人の心を傷つけるから絶対言っちゃいけませんて、ミトさん言ってたよ?」

 

 

 

「またミトさんかよ……ったく、わーったよ。俺が悪かったよ!今度から、思っても口に出さねーようにしてやっから。ほら、行こうぜ?

 

 

 

おお。

 

 

 

キルアがギタラクルさんに手を差し伸べた!

 

 

 

カタカタ、カタカタ、震えながら泣いていたギタラクルさんだけど、じいっとその手のひらを見つめ……。

 

 

 

「カタカタ……(……いいよ、君は俺のこと嫌ってるんだろ)」

 

 

 

「べ、別に嫌ってなんかねーよ!いいから来いって、ほら!!」

 

 

 

ぐいっ!

 

 

 

おおお!

 

 

 

キルアがギタラクルさんの腕を自らとって、立ち上がらせた!

 

 

 

手をつないだまま、やや強引に出口へと引っ張っていく。

 

 

 

「カタカタカタ……(キルアくん……)」

 

 

 

「キルアでいいよ。はぁ……考えて見れば、あんたも好きでそんななりに生まれたわけじゃないんだよな。酷いこと言って悪かったよ。ゴメンな?」

 

 

 

うおおおおおおおっ!!

 

 

 

キュンときたーーーーーーーーーっ!!!

 

 

 

そばにいるだけの私でこんなにキュンときてるんだから、真正面から言われたギタラクルさん……もとい、イルミ兄の感激と言ったらもう、全身の針がピンピン抜け出すほどのーー

 

 

 

「ギ!!?ギタラクルさん!!針!感激のあまり針が何本か飛び出してます!!」

 

 

 

「カタカタカタカタ……(あ、いけない。あんまり嬉しかったもんだからつい興奮しちゃった)」

 

 

 

「……☆」

 

 

 

私が拾い集めた針を受け取って、元通りの場所に突き刺すギタラクルさん。

 

 

 

それを、ちょっと青ざめた顔で見つめるキルア……なにはともあれ、仲直り完了!

 

 

 

「よし。じゃ、行こうか☆通路の向こうにいるおにーさんの怒鳴り声が、ますます大きくなってるからね」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

帰ったら、みんなでレオリオに謝んなきゃね。