「わあっ!?」
なんだここ!
左の道を進むこと数十分。
細くて狭い通路から、やっと開けた場所に出たと思ったのに……!!
「すごい吹き抜けだねぇ。天井は高すぎて見えないし、下もしかり。ざっと見回した限りだけど、四角い足場(フィールド)がいくつもあるねぇ☆広さ的に、あれは戦いのためのリングじゃないのかな?」
「一番近いところに一つ。その向こうに二つ、そのまた向こうに四つ……ネズミ算式に増えているようだ。これは一体……?」
困惑するわたしたち。
そのとき、どこかに取り付けてあるスピーカーがガーっと鳴って、あの試験官さんの声が響いた。
『受験生の諸君。これから行われる試練の内容説明をしよう。左の道を選択した諸君に与えられる試練は……ズバリ、【あみだくじ】である!!』
「あみだくじぃ!?」
「あみだくじだあ?」
「カタカタ……(なに、あみだくじって?)」
「左回りの法則にあれだけ詳しくて、なんで分かんないんだよギタラクル……あみだくじっていうのは、くじの一種で、線のはしに当たりとはずれを書いて隠して、引き当てる方法のことさ。こうやって、何本か平行に線を入れるだろ?」
ベキベキ、人差し指の爪を伸ばして、キルアが石の床にギギギ―っと二本、線を引く。
ギョッ!?と、のけぞるレオリオ。
「うお!?」
「カタカタ……(ふんふん、それで?)」
「それで、この線と線の間に横線を入れて、はしご状にする。で、はしごの片方に俺とギタラクルの名前を書いて、もう片方に、当たりとハズレを書き入れる。で、名前を書いた方の線をたどって行くと――」
「カタカタカタ……(キルアの名前を書いた方、ハズレだね。俺の勝ち?)」
「勝ち負けじゃねーけど……ま、そんな感じだよ」
「でも、なんでこれがあみだくじなんでしょう?最初の足場は一つしかありませんよ?」
縦横、五メートルくらいだろうか。
最初の足場から次の二つの足場まではかなり距離があって、飛び移るのは難しそうだ。
『説明しよう。これはハンター試験だ。勿論、ただのあみだくじではない。このトリックタワー名物にして伝説、最大にして最難関、その名も……【バトルあみだくじ】!!』
「バ……バトル……!」
「あみだくじ……だと……!?」
だっせえ……。
聞こえない声でキルアが呟いた。
一同、心のなかで同意。
『……ゴホン。まず、受験者の諸君は全員で最初の足場に立ちたまえ。そこから試練がスタートする。先ほど、道を選んだ要領で右の足場か左の足場かを選択。少し違うのは、今回は各自の選択に従って進んでも構わないという点だ。つまり、右を選んだものが4名、左が1名いれば、二手にわかれて進むことも可能ということだな。勿論、全員で一本の道を進んでいくのも手だが」
「ふぅん……☆」
『選択に従って、次の足場への道が伸びる。試練はその繰り返しとなる。そして……どこかの道の先が、一つだけゴールの扉につながっている』
「ひとつっきりかよ!!?」
「なるほど、確率勝負……いや、これはまさにくじびきのようなもの。運勝負、ということか……!」
やっかいだな、とクラピカ。
さらに、試験管さんは続ける。
『そういうことだ。そして、選んだ足場によって異なる試練が出題される。それをクリアーして初めて、次の足場を選択する権利を得られるのだ! ちなみに、受験者が途中で死亡した場合、その道ははじめから進み直しとなる。また、すべての試練をクリアーして向こう岸にたどり着いたとしても、ゴールへの扉にたどり着けなければ最初からやり直しになるので、注意したまえ』
「な……っ!?」
「つ、つまり、苦労してもそれがハズレの道だったら、はい残念でしたーってことですか!?」
『そういうことだな』
サクサク、ズビズビ。
クッキーかなにかを噛み砕きつつ、ドリンク飲みつつ試験官。
ひ、他人事だと思ってぇ~~!!
『ああ、そうだ。言い忘れていたが、制限員数を超えて参加している君たちは、かなりのイレギュラーだ。よって、条件をもう一つ追加させてもらおう。“どんな人数に分かれて進んでいってもよいが、どのグループにも必ず一名以上、腕輪をはめた選択者が参加していること”』
「……了解した」
『うむ。では諸君、健闘を祈る』
プツッと、途絶える通信。
同時に、最初の足場に向かって一本橋が伸びたので、ひとまず、わたしたちは移動した。
***
「およ?」
ゾロゾロ、最初の足場に着いた私たち。
試練があるだなんて言うから、めちゃくちゃ緊張していたわけなんだけど……
「な、なんにもないですね」
「そうだね……あ、でも待って。機械音が聞こえてきた☆」
「え?」
「うお!?」
その直後。
ガコン、と、レオリオの足元に穴が開いた。
落とし穴、というわけではなく、中から何かがせり上がってくる仕組みのようだ。
ウィィィィン……。
「な、なんだ……?」
「コップに入った飲み物が5つ?あ、多数決を取るカウンターもあるね!」
殺風景な石造りのフィールドに、ニョキッと現れたのは丸いテーブルだった。
ゴンの言った通り、テーブルの上にはなんだかすごく濃いミドリ色をした飲み物が、5つ並んで置いてある。
よく見ると、コップの側面にはこんなHUNTER文字が。
「“残らず飲み干すこと!!”――って、もしかして、これが試練ですか?」
「みてぇだな。うし!なら、とっとと飲み干しちまおうぜ。いやー、丁度のどが乾いてたとこだったんだ痛えッ!!あにしやがんだクラピカーー!!」
「馬鹿者ッ!!二度ならず三度までも……お前は本当に学習するということを知らないな!これはハンター試験なのだぞ!!」
「そんなこと分かってら!!」
「カタカタ……(分かってないね)」
「ほんとだぜ。オッサンには警戒心ってもんがないのかよ」
バーカ、とばかりにキルアが冷たい視線を向けて言う。
「“残らず飲み干すこと”ってことは、ここにある5つのコップを全て飲まなきゃいけないってことだぜ?例え――毒が入っていたとしてもな」
「ど……っ!?」
「毒っ!?」
「クックックッ!★」
うわあ、ヒソカさん嬉しそう……て、見とれてる場合じゃないや。
「5つのうちどれかーーいや、場合によっては、全てのコップに服毒されている可能性だってある。分かったら、不用意な行動は慎め!」
「ぐ……っ!で、でもよお、例えそうだったとしてもだ。どれに毒が入っているか、そもそも、毒が仕込まれてるかどうかも分からねぇんだろ?だったら結局、飲んでみるしかねーじゃねーか!」
「そ、それはそうかもしれないが――」
「あ!待って。そういうことなら、ぴったりの適任者がいるじゃないですか!」
「適任者?」
「キルアですよ!キルアに毒見して貰ったらいいんじゃないかな?確か、一次試験の前にトンパって人から妖しいジュースを貰ったとき、自分は殺し屋だから毒は効かないって言ってたよね?」
「おう!大抵の毒には耐性あるぜ?」
ケロッと笑うキルアの言葉に、それまで素性を知らなかったクラピカとレオリオはギョッとして目を見開いた。
ゴンは……たしか、原作では昨日の飛行船の中で、キルアから直接話しを聞いているはずだ。
「こ、殺し屋だあ!?」
「元、だけどな。俺ん家の家業でさー。でも俺、それを継ぐのが嫌になって家出したんだ。だから、今のところは休業中」
「家業……まさか、キルアの実家というのは――」
「うん。ゾルディック。クラピカは聞いたことあるんだ?」
ニヤリ、と、キルアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああ。なんでも、誰も姿を見たことがない、幻の暗殺一家だとか……だが、それがまさか、こんなに身近にいる人物だとは思いもよらなかった」
「気をつけろよ~、俺のターゲットがクラピカだったらとっくに殺してるぜ?」
「ち、注意しよう……」
心なしか、クラピカとレオリオの顔色が青い。
原作でも確か、バラし屋ジョネスの心臓を素手でつかみとった後に、キルアの正体をゴンから聞いてゾッとしてたっけ。
でも、そんなに怖がることないのに。
「大丈夫ですよ。サイトで見ましたけど、ゾルディック家って超一流の暗殺一家だから、最低でも一件につき、10億くらいの依頼料は必要なんじゃないかな?レオリオもクラピカも、それだけの額をかけて殺されるような恨み、誰からも買ってないじゃないですか!」
「うむ。それは確かに」
「かーっ、勿体ねぇ!!つーかよ、人殺しにんな額つぎこむくらいなら、パーっとカジノにでも繰り出して、ねーちゃん侍らして酒池肉林で豪遊するほうが、よっぽどスカッとするってもんじゃねーか!!なあ、ゴン!?」
「し、しゅちにくりん……ってナニ?」
「コラ★ゴンに変な言葉教えないでよ。全く……誰かに命を狙われたことのない人間は、気楽でいいなぁ」
「ヒソカさんの場合は自業自得です!」
「まぁね☆」
「カタカタカタ……(で。結局コレ、誰が飲むの?)」
一人、冷静なギタラクルさんである。
「キミが飲めよ☆キミだって大丈夫なクチだろう?」
「え、マジ?カタカタのおっさ……ギタラクルも毒平気なのか?」
「カタカタ……(……)」
ひょわあ!!
ギタラクルさん、ヒソカさんのことめっさ睨んでるぅ!!
正体バラすようなこと言うなっていう牽制球だな、こりゃ。
睨み合う二人をよそに、コップの中身をクンクン嗅いでいたゴンがひょっいっと手を上げた。
「はいはーい!全部の飲み物の匂いを嗅いでみたんだけどさ、どのコップからもおかしな匂いはしなかったよ。ただの野菜ジュースみたいだね」
「犬かよ!?ま、野生児のゴンが言うんだから、マジで大丈夫なんだろうけど。一応、毒見役として俺から飲むぜ?いいよな」
全員が頷いたのを確認して、キルアは手近なコップを手に取り、ぐっと一息に飲み干――
「げほあ!!?」
「キルア!!」
「カタカタ……(!!!??)」
「大丈夫か!?待ってろ、応急だが、対応範囲の広い解毒剤を今すぐ――」
「ゲホゴホッ!!……だ、だいじょうぶ……ち、違うんだ、毒じゃなくて……っ!!うあ~~、マジぃ~……!!」
「は?」
ゲッホゴッホと激しく咳き込みながら、キルアはまだ中身のあるコップをゴンに押し付けた。
「うえ~、マジィ~~!!俺、苦いのってほんっとダメなんだよな。ゴン、パス!」
「ええ!?こ、これ、そんなに苦いの?」
「苦いなんてもんじゃねぇよ!うお~~、舌の裏側まで苦いぜ。チョコロボくんで口直ししよっと」
持ってるのか!?
……持ってるんだ。
ポケットから取り出したチョコロボくんにかじりつき、キルアは早々と敗北宣言する。
「無理無理無理無理無理。ぜってー無理。パス」
「パスじゃないっ!まだ残りのコップに毒が入ってないって分かったわけじゃないんだから、せめて、舐めるだけでもいいから毒見してよー!」
「嫌だね!あーマジィマジィ」
くぉのガキャー!!!!
ゴウ!と、思わずオーラが吹き出しかかったそのときだ。
「カタカタ……(やれやれ……)」
ギタラクルさんが動いた。
ギッチコ、機械じかけの人形のような動きでテーブルに近づき、
グビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビ……!!
「ちょーー、そ、そんな椀子蕎麦みたいな勢いで!!?大丈夫ですか、ギタラクルさん!?」
「カタカタカタカタ……(平気。ヒソカの言った通り、俺も毒は効かない身体だし、舌の味蕾を操作して苦味を感じなくすることもできるから)」
「すごい!!」
「毒が効かない……?ギタラクルってそういう特殊体質なのか」
訝しげな視線を向けるキルアに、ギタラクルさんはいたって平然とした面持ちでのたまった。
「カタカタカタカタ……(ううん、訓練した。俺も、キミと同じ殺し屋だから」