生クリームみたいな霧の中を、ヒソカさんは私を抱きかかえたまま、まっすぐに走っていく。
出だしは遅れたものの、流石はヒソカさんだ。
先頭集団に追いつくのに、ものの五分もかからなかった。
でも、追いついた先がちょっと嫌な雰囲気というか……なんだか、四方をガラの悪い面子に囲まれてしまったのである!
“飛ばすからしっかり掴まってるんだよ☆”
との忠告どおり、ヒソカさんは常人じゃ考えられないくらいのスピードで走っていく。
だから、私も思わず首に手を回したりなんかして、彼の身体にギュウッ!としがみついていたのだけれど。
彼らはどうも、それが気にくわなかったらしい。
ガラの悪い面子はヒソカさんと私を一目見るや、聞こえよがしに舌打ちをしたのだ。
「……このイカれ野郎、女連れでハンター試験かよ」
「ナメた野郎だ。しかも、女の方はガキじゃねーか」
「イカれた上に、ロリコンかよ!ギャハハハ!どんだけ変態なんだよ!?」
ま、まずい!
このパターンは!!!
「ヒソカさん、失礼します!!」
ガシッ!
「わっ!どうしたんだい?いきなりボクの耳を塞いだりして」
「なんでもないですから気にしないで下さい!!」
「おいコラ、変態!どうせ連れてくるなら、ガキじゃなくてもっといい女を連れて来いよ!」
や、やっぱり絡み出した!!
この命知らずの馬鹿野郎どもめ……。
人殺しを生き甲斐にしてるようなお方めがけて、よくそんな風に絡めるわ!
尊敬するわ、逆に!!
ヒソカさんの耳に当てている手に、ぎゅっと力を込める。
でも、聞こえていないのをいいことに、ガラの悪い面子はますます調子に乗り出したのであります!
「ハハハ!!ほんとだぜ、あーあ、もっと色気のある女だったらなーあ、俺たちで可愛がってやるのによ?」
「顔はともかく、せめてもう少し胸が欲しいよなー。わからないねー、変態さんのご趣味は!」
「ギャハハハ!!」
むぎぎぐぐぎぎぎがぎぐごごごっ!!
くそう……!!
言いたい放題言いやがって……お前らの命は今、私の両手にかかってんだぜ!?
わかっとんのかゴルアアアアアアアアア――――!!!!
「トモ★」
「はっ!あ、纏、纏ですよねっ!!」
怒りのあまり高めていたオーラを慌てて静める私に、しかし、ヒソカさんはうっすらと笑って、首を振った。
「コレ、あげる」
「なんですか?……あ、かわいいっ!てんとう虫の髪止め」
「さっき、町で別れたあとに目についてね。小さくて、ちょこちょこしててカワイイところが、トモに似てると思って、思わず買っちゃったんだ。受け取ってくれるかい……?」
「は、はい!もちろんです!」
ありがとうございます!
――と、髪止めを受け取ったとき、ヒソカさんの耳から手を離した。
それで、気づいた。
「……あれ?聞こえないのに、なんで普通に会話出来てたんですか?」
「トモはおバカさんだなあ☆唇の動きを読むくらい、わけないよ☆」
「あ、そっか。なーんだ」
あはは、流石はヒソカさん。
………え?
ということは?
ということは、である。
「トモ★下におろすから、自分で走ってくれるかい?それから、下りたら出来るだけ全速力で前の方に行くこと。ちゃんと纏をするんだよ?ボクは少し用事が出来たから、終わってから追いかける★」
「ヒソカさ―――ん!!?」
「ダーメ★ボクに絡んで来るだけなら見逃してやろうと思ってたけど……トモのことをあそこまで酷く言われちゃね……★★」
「どででででっでもでも!!ダメですっ!ヒソカさん、また失格なんてことになったら、私、私……!!」
「泣かないで★大丈夫だよ。バレないように殺るから★★★」
そういう問題じゃな――――い!!!
でも、ヒソカさんはそんな私のおでこにチュッ!とキスを落として笑うばかり。
人の話なんて聞きやしない……!!
「……や、約束ですよ、ヒソカさん!」
「うん☆絶対に、失格なんかにならないよ☆」
パシャン!
ヒソカさんの腕から飛び降りた私は、その途端、前に向かって全速力で走った!
悪く思うなガラの悪い面子たちよ!!
もとはと言えばお前らが悪い……!
童顔で悪かったなコンチクショ――!!
「クックックックックックッ……!★★★」
ヒソカさんの楽しそうな笑い声が、白い霧の向こうに溶けていく――