8 一人で走るよ霧の中!!


 
 
ヒソカさんに言われたとおりに纏をしながら、霧の中を突っ走る。


た、確かに、オーラを身体に留めているから全力疾走してもちっとも疲れないけど……。
 
 
 
「い、いつ何時なにに襲われるかと思うとやっぱ怖いよう! だ、だれか、近くに知ってる人いないかな……」
 
 
 
「レオリオ―! クラピカー! キルアがもっと前の方に言ったほうがいいってさー!」
 
 
 
「緊張感のない奴……」
 
 
 
あ……!
 
 
 
今の声は!!
 
 
 
声のした方に、まっすぐ走る!!
 
 
 
濃い霧の中に、二つの小さなシルエットが見えてきた。
 
 
 
トゲトゲしたのと、ツンツンしたのと……トゲトゲした方はキルアに間違いない。
 
 
 
ツンツンした方はきっと……!!
 
 
 
「キルアああっ! よかったー! また会えたっ!!」
 
 
 
「うおおっ! トモ!! お前、ヒソカと一緒だったんじゃなかったのかよ!」
 
 
 
「トモって、さっきキルアが話してた、ヒソカにハンター試験に誘われて、お姫様抱っこされて走ってたっていうおねーさん?」
 
 
 
目をまんまるにするキルアの隣で、ツンツン頭の男の子がくりんっ、と首をかしげている。
 
 
 
ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうおっ!!!
 
 
 
ゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴオゴゴゴオゴゴゴゴゴオゴゴ……!!!
 
 
 
ゴン!!
 
 
 
ゴンじゃないかああああああああああああああはああああああああああんっっ!!
 
 
 
「ひうっ!!」
 
 
 
「ト、トモ!! おま、な、なんか怖えって!! わけわかんねーけどヤバイもんが出てるっ!!」
 
 
 
「はっ!? い、いけないいけない……」
 
 
 
纏、纏っと。
 
 
 
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだけど、つい」
 
 
 
「ううん。俺の方こそ、怖がったりしてごめんね! 俺、ゴン=フリークスって言うんだ。よろしく!」
 
 
 
「よろしく! 私はトモっていうの」
 
 
 
差し出された手を、きゅっと握り締める。
 
 
 
ああ、まさか、ハンター×ハンター主人公、ゴンさんと握手ができる日が来ようとは!
 
 
 
感激だあ……!!
 
 
 
「あのなあ、二人して和んでる場合かよ! トモ、ヒソカはどうしたんだ? あいつ、スッゲー殺気放ってただろ。
危ないから前の方に来いって言ったばっかりなんだぜ?」
 
 
 
「スッゲー殺気…‥」
 
 
 
それって、もしかしなくても。
 
 
 
「ごめん……! それ、実は私のせいなの! ヒソカさんと走ってたらチンピラみたいな受験生に絡まれて、その人たちが
私の悪口ばっかり言うもんだから、ヒソカさん、怒っちゃって。止めようとしたけど、止められなくて~!!」
 
 
 
「ええっ、そうなのか!? てっきり、この試験に退屈したから人殺しをしたがってるんだって思ってた……」
 
 
 
「ちち、違うよ!」
 
 
 
確かに原作ではそうだったけど、今は違うもん、今は!!
 
 
 
「へえ、ヒソカはトモのために戦いに行ったんだ! 怖そうだけど、いい奴だね!」
 
 
 
「バカタレ! ヒソカはスタート地点ですでに受験生を一人、再起不能にしてんだぜ、忘れたのか!?」
 
 
 
「そ、それはそうだけどさあ」
 
 
 
でも――と、ゴンが先を言いかけたときだ。
 
 
 
「痛ってえ―――――――――――っ!!」
 
 
 
後方からの、叫び声。
 
 
 
こここ、この声は……!!
 
 
 
「――っレオリ」
 
 
 
「藤原啓治さんっっ!!!」
 
 
 
「誰だよそいつ! ちげーよ、今のは、ゴンと一緒にハンター試験に参加してる、リオレオってオッサンの声!!」
 
 
 
「レ・オ・リ・オ!! もしかしたら、まきこまれたのかも。キルア、トモ。俺、心配だから行ってくるね!!」
 
 
 
「あっ、ゴン!!」
 
 
 
言うが早いか、きびすを返して走りだすゴン!
 
 
 
こ、この展開はアレか……!!
 
 
 
序盤随一の、あの名シーンが近づいているというのか!!?
 
 
 
「わ、私も行くっ! 私のせいで怒らせちゃったんだもん、ヒソカさんを止めに行くっ!!」
 
 
 
「トモ!? あーもう! この大バカ野郎!!」
 
 
 
なんとでも言え---い!!
 
 
 
ヒソカさんとゴンの初顔合わせ!!
 
 
 
これを見のがしてたまるかってんだ---い!!
 
 
 
「殺されても知らねーぞ―---―――っ!!」
 
 
 
キルアの声を背中の向こうに聞きながら、私は走って来たばかりのぬかるみ道を駆け戻った。
 
 
 
 
 
 
 
 
                       ☆ ☆ ☆
 
 
 
 
 
 
 
 
「駄目だ……完全に見失った」
 
 
 
流石はゴン、追いかけようにも足が早すぎて、とてもじゃないけど追いつけない!
 
 
 
先頭集団からはぐれたせいで、周りに人の気配は全然しないし……というか、霧が濃すぎて何にも見えないし。
 
 
 
ううう……今更だけど怖くなってきた……。
 
 
 
ヒソカさん……強い人だけど、相手は何人もいたからなあ……怪我とかしてなきゃいいんだけど。
 
 
 
ああ、やっぱり、さっきは離れるべきじゃなかったんだ。
 
 
 
ゴンの言っていた通り、ヒソカさんは売られた喧嘩を派手に買うけど、興奮してない限りはむやみやたらに人を殺したりなんかしない。
 
 
 
戦闘狂で変態で快楽殺人者なときもあるショタコンだけど!!
 
 
 
悪いやつ――とは、簡単に言い切れないんだ。
 
 
 
私は、ヒソカさんのそういうところが好きなんだ!!
 
 
 
なのに……私が原因で、そのせいでヒソカさんに人を殺させることになってしまった……このハンターの世界にトリップして、ヒソカさんと
関わってしまったばっかりに……いや、待てよ? そうでなくったって、どっちみち人殺ししてたか?
 
 
 
いやいやいや!!!
 
 
 
だって、それはやっぱり、他の受験生がヒソカさんに絡み始めたから……いやでも、先に手を出したのはヒソカさんだったような気も……。
 
 
 
とととと、とにかく、とにかく!!
 
 
 
止めなければ!
 
 
 
やってやる。(二次キャラに対する)愛の力で止めてみせる!!
 
 
 
「ヒソカさんっ、ヒソカさあーん!!」
 
 
 
呼んでも返事はないけれど、不思議と気配が分かるような気がした。
 
 
 
ヒソカさんの纏う、ちょっと怖いけど力強くて安心する、あのなんとも言えない不思議な雰囲気が、霧の向こうから滲み出してくる。
 
 
 
色に例えるならビビッドピンク?
 
 
 
「こっち、かな?」
 
 
 
ええーい、いいや!
 
 
 
どうせ、考えたってわかんないんや、つっこんでみれ!!
 
 
 
ダアっとダッシュしてものの五分とかからなかった。
 
 
 
霧の湿原の遙か向こうに、ヒソカさんの長身のシルエットが見えたのだ!
 
 
 
「やった! ヒソカさ……」
 
 
 
ザシュ!
 
 
 
ビシュ……ッ!!
 
 
 
「ガハ……!!」
 
 
 
「た、助けてく……ウワアアアアアッ!!」
 
 
 
ドスッ!!
 
 
 
ああああああああああああ……!!
 
 
 
ダメだ、遅かった……!! 近づくにつれて、だんだんと視界がはっきりしてくる。
 
 
 
ヒソカさんは楽しそうに笑いながら立ってる。
 
 
 
足元には、さっきのガラの悪い受験生たち……改め、死体の山が。
 
 
 
ご冥福をお祈りいたします……!!
 
 
 
気がすんだのか、ヒソカさんは笑うのをやめてスッとある一方向を見つめた。
 
 
 
私には気がついていないみたい。
 
 
 
声をかけようか迷っていると、その前に凛とした清涼感あふれるお声が……!!
 
 
 
「貴様っ、なにをしている!」
 
 
 
沢城みゆきさんどぅわあああああああああああああ!!!!
 
 
 
改め、沢城クラピカ!!
 
 
 
霧でよく見えないのが残念だけどいい!
 
 
 
これ以上近づいたら、見つかっちゃうもん。とりあえず、今は声があったらそれでいい!!
 
 
 
ああ……それにしてもええ声や……前回の甲斐田さんも好きだったけど(ドスのきいたところが特に)、個人的には、今回の沢城さんも
素敵だと思うわけよ!!
 
 
 
ええ、賛否両論ありますけども、私しゃあ好きですよ!!
 
 
 
そしてそして!
 
 
 
「なにって……試験官ごっこ★ 」
 
 
 
「試験官ごっこだあ……? ふざけんじゃねえぞ、てめえ!!」
 
 
 
ふ。
 
 
 
ふうじいわらあああああああああああああけいじさあああああああああああああああああんっっ!!
 
 
 
きゃー!! きゃー!!
 
 
 
ふーうじわらさん!!!
 
 
 
渋いぜ! 熱いぜ!!
 
 
 
この世のすべてのオジサマキャラを司る、47歳独身貴族だぜええええええええええええっ!!
 
 
 
ああああもう、たまらん生ボイス!! 
 
 
 
精神的に結婚して下さい!!!!!
 
 
 
「……?」
 
 
 
あ、まず。
 
 
 
今、ヒソカさんが一瞬、こっち見た気がする。
 
 
 
纏纏っと。
 
 
 
「――気のせいか。ともかく、君たちがハンターにふさわしいかどうか、ボクが判断してやるよ★」
 
 
 
ザッ、と、ヒソカさんの影が動く一瞬前に。
 
 
 
「今だ、走れ!!」
 
 
 
クラピカの鋭い声とともに、彼らは三手に別れて逃走した。
 
 
 
そしてそして!!
 
 
 
原作通り、何もせずに逃げるのが悔しくって戻ってくる漢、ふじわ……じゃなかった、レオリオ!!
 
 
 
かーっこいーい!!
 
 
 
「……いい顔だ☆」
 
 
 
ひゃあああああああああああっ!!
 
 
 
エロい声えええっ!! 
 
 
 
やっぱり浪川ヒソカはこうでないと!!
 
 
 
前作にないエロさがあるよ、うん!
 
 
 
子供向けだけど、やっぱ新盤はいいね!!
 
 
 
「ああ、もっと近づきたい……近づいて、描きたい……!! ヒソカさんが戦ってるところ……笑ってる顔……怖いのも、
可愛いのも、全部描き残しておけたら……!!」
 
 
 
くそおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
 
 
ペンタブ……ペンタブがあれば……!!
 
 
今ここに、ペンタブがあればいいのにいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!
 
 
 
ガシッ!!
 
 
 
「……へ?」
 
 
 
ぎゅうっ、と握りしめたはずの拳が、なにやら固いものを掴んだ。
 
 
 
「ぺ……!!?」
 
 
 
ペンタブ!!!?
 
 
 
しかも長年愛用の!
 
 
 
なななんでどうしてっ!!
 
 
 
一体、いつから持ってたわけ!?
 
 
 
「わ、わかんないけど……よく考えたら、ペンタブだけあっても、パソコンがないんじゃ絵なんてかけないしなあ……
そもそもこれ、どっからどう出てきたんだろ……?」
 
 
 
何気なく、すーっと、ペン先を滑らせてみる。
 
 
 
線が描けた。
 
 
 
描けた!!?
 
 
 
空中に線!!!
 
 
 
「すごっ!! なななにこれ! ……はっ! もしかして、これが私の念能力?」
 
 
 
そ、そうかも!!!
 
 
 
いや、そうに違いないよ!! 
 
 
 
だって、ペン先からインクみたいに線を引いているコレ、オーラだもん!
 
 
 
「オーラで絵を描く能力、かあ……私にぴったりと言おうか、なんと言おうか。ご丁寧に作画アイコンまで宙に浮かんでるし。
えっと……筆に、消しゴムに、囲み線? ま、まあいいや! ともかくこれで、好きなシーンで好きなだけ絵がかけるんだもんねっ!
うおっしゃあああっ!! さっそく描くぞー!!」
 
 
 
あ……っ! でもでも、これ以上近づいたらヒソカさんに気づかれて捕まってあれやこれやとお仕置きされてしまう……!!
 
 
 
「困ったな。気配を絶つには、たしか絶っていう念があったけど、どうやったらいいかなんてわかんないし」
 
 
 
うーん、と抱えた頭の上で、ピコーン! とアイコンが点滅した。
 
 
 
「……消しゴム? ああっ! そっか、もしかすると」
 
 
 
ペンタブで消しゴムアイコンをクリック!
 
 
 
ボンッ! と現れたのは直径30センチくらいの巨大な消しゴム。
 
 
 
分かった、分かった! 
 
 
 
やっぱり、この能力って私が毎日使ってるお絵かきソフトと一緒なんだ!!
 
 
 
だとすれば、姿を消すには――
 
 
 
「ちょっと怖いけど、この消しゴムで……」
 
 
 
きゅっきゅっきゅっ!
 
 
 
「身体が消えたあっ! コレで気づかれずに近づける……!」
 
 
 
正直、戻し方が分からないので怖くもあったんだけど、頭の上に3つ並んだお絵かきアイコンの下に、緑色のゲージが出ている。
 
 
 
ちょこっとずつ減っているところを見ると、きっとこれが継続時間を示しているんだな。
 
 
 
よし。
 
 
 
準備万端、行ってみよう!!
 
 
 
スキップスキップらんらんらん。
 
 
 
ペンタブ片手に駆けつけてみると――
 
 
 
「大丈夫。彼は合格だから☆ このまま担いでゴールまで運んでいってあげるよ。キミは、一人で来れるかい?」
 
 
 
「……うん」
 
 
 
終わってた――――――――っ!!!!!
 
 
 
くそああああああああああおおおおおおおおおおっ!
 
 
 
チキショウめえええええええええええええええええええっ!!!
 
 
 
せっかく姿まで消したっていうのに……! 戻ってきたレオリオがヒソカさんに殴りかかるところも、寸前でゴンが釣竿の浮きをぶつけるところも、
再び襲い掛かったレオリオが、片腕一本で返り討ちにされるところも、ゴンがヒソカさんにいい子だね☆ってされるシーンも、
ゴンがヒソカさんにいい子だね☆ってされるシーンも、ゴンが……
 
 
 
ゴンがヒソカさんにいい子だね☆てされるシーンが!!!!!
 
 
 
終わっちゃったなんて……。
 
 
 
泣いて、いいですか?
 
 
 
しかも、ヒソカさん……ゴンと別れた後は、透明になってる私に気づきもしないで、鼻歌交じりに走りだしちゃうし。
 
 
 
うわあ、ゴキゲン。
 
 
 
今の顔、すんごい可愛かった!
 
 
 
「せっかくだし、描いてみようかな」
 
 
 
でも、姿を消したままペンタブを使おうと思ったら出来なかった。
 
 
 
「そっか、消しゴムのままじゃ描けないよね。えーっと、筆アイコンで……あ、筆アイコンを押したら身体が元に戻った。うおお、すごい。なんって滑らかな書き心地!しかもこの線、イメージした通りの太さになる!
おまけに色も思い通りに変えられるなんて――これ、パソコンで描くよりよっぽど便利じゃん!!」
 
 
 
何が嬉しいって、直接空中に線を書いたり、色を塗れたり出来るもんだから、画面みながらパッドに描く煩わしさが全くないということ!!
 
 
 
なんていい能力なんだ――!!
 
 
 
心が踊るっ! 筆が乗るう!!
 
 
 
「――できたっ、ヒソカさんスマイルっ! 戦闘には使えなさそうだけど、この能力ほんっとに最高!!」
 
 
 
あ、でも、書いた絵は保存できないんだった……フォルダのアイコンとか、ないみたいだし。
 
 
 
「うう……せっかく上手に描けたのになぁ。消すのもったいない」
 
 
 
ヒソカさん、時々だけど、マンガやアニメでは見たことないような顔で笑ってくれるんだよね。
 
 
 
あの笑顔、優しくって、ちょっと子供っぽくって、好きだなあ。
 
 
 
そんなことを考えながら、描き上がったヒソカさんをペンタブの先でつっつくと、イラスト全体がピカっと光って消えてしまった。
 
 
 
「ああっ!? なんつー諸行無常な能力か……っ!!」
 
 
 
はっ、そうだ、リターン! リターンキーはどっかにないのかああああっ!!
 
 
 
顔を上げたとき、私はそれまでの浮かれた気持ちから一気に突き落とされた。
 
 
 
本当に、いきなり谷底にでも突き飛ばされたような気分だった。
 
 
 
心臓が、痛いほどに縮み上がる。
 
 
 
「あ……あなななたたちは、さっきの」
 
 
 
ズラリ、とがん首を揃えているのは、これ見よがしに筋肉や刺青を露出させた、屈強な男たち。
 
 
 
そう、ついさっきヒソカさんに絡んできた、ガラの悪い受験者たちだ!!
 
 
 
その生き残りがいた!!?
 
 
 
「そ、そんなあ……!」
 
 
 
そんなの、原作にないよーう!!!