さてさて。
傷心のギタラクルさんを立ち直らせ、元の場所に戻ってみると、
「おーまーえーらああああああああああっ!!!!!」
うわあ、カンカン。
念はまだ覚えてないはずなのに、密度の濃い真っ赤なオーラがレオリオの全身から吹き出してるよ!
さ、さすがは未来の放出系……。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!!大変遅くなりました……!!」
「トモが謝ることないのに……★」
「ヒソカさんは黙ってて下さいっ!!」
「ごめんね、レオリオ!ちょっとギタラクルさんが落ち込んでたみたいだったから、みんなで励ましてたんだ。でももう、大丈夫だから!ねっ、キルア!」
「おう!悪ぃ。もとはと言えば俺が悪口言いすぎたのがマズかったんだ。カタカタのオッサ……ギタラクルは俺が引きずってでも連れてくから、許せよ!」
「カタカタ……(うん、無駄に時間を削らせちゃってゴメンね)」
「ぐむむむむ……!!」
ぷしゅううううう~~、っと、焼けた鉄を冷水に浸すように鎮まっていくレオリオのオーラである。
チラとななめ上に視線をやれば、ヒソカさんがこっそりウィンクした。
――言ったろ、放出系は正々堂々謝られるのに弱いって☆
流石はヒソカさん!!
その読み通り、レオリオは深い溜息を落としたものの、次に顔を上げた時には冷静な顔つきになっていた。
ぽりぽり、バツが悪そうに頭をかきながら、
「いや……そういうことなら仕方ねぇ。俺の方こそ、焦って熱くなっちまってすまなかったな」
「全くだ。たしなめるこちらの身にもなって欲しいものだな」
むぐっ、と固まるレオリオに、クラピカは苦笑する。
お、お手数おかけしました!
「わ、悪かったってクラピカ!そんなことよりだ、ようやくメンバーが揃ったんだ。ちゃっちゃとマル押して、先に進んじまおうぜ!」
「わかったわかった。では、腕輪を嵌めた五人。頼んだぞ」
「了解です!!じゃあ皆さん、いっきますよー!せーのっ!!」
ピッ!
おお!
マルが五人、バツがゼロ!
なかなかいいチームワークじゃないの。
そしてそして、ゴゴゴ……と開く扉。
「よかった!これでようやく前に進めますねー」
「うん☆それに、ゾクゾクする感じもだんだん強くなってる……ああ!そろそろ、思いっきり身体を動かしたいなあ~!!★」
「歩きながら腰振んなよ、変態!!!」
「カタカタカタ……(キルア、見ちゃダメだよ)」
「あっ!見て、皆。分かれ道にまた多数決がある!」
言うなり、ててっと走り出すゴン。
石造りの通路の先へ歩いて行くと、行き止まりーーかと思いきや、T字の分かれ道になっていた。
あ、コレ知ってる!
確か、右か左か、進む方向を多数決で決めるんだよね。
「“右に進むなら丸、左に進むならバツを押すこと”……か。ま、こんなのは話し合うまでもねぇ!!いくぜ、皆!せーのっ!!」
ピッ!
あ。
勢いにノって押しちゃった……。
「レオリオーーーーッ!!お前という奴は、学習するということを知らないのか!?腕輪の失態をもう忘れたのかーーー!!!」
むんずと胸ぐらをつかみにかかるクラピカさん……目が真っ赤っす。
「ぐえええっ!!い、いいじゃねーかっ!ほら、結果を見てみろよ。マルを押した奴が一人、バツが四人だ。俺もバツを押した。やっぱ、迷ったときは左を選ぶのが正解ってな!」
……ん?
んんん?
それって――なんか、マズかったような気がするんですけど?
脳天気に笑うレオリオを前に、クラピカは天を仰いだ。
あちゃあー、と、キルアが舌を出す。
「バーカ。オッサン、それって完璧に“左回りの法則”にハマってんじゃん」
「ひ、左回りの法則だあ?」
「カタカタカタカタ……(人間というのは、右回り……つまり、時計回りよりも、反時計回りである左回りのほうが安心して歩けるっていう法則のこと。大きいものに出会ったら左に回る。右側より左側に寄って行く。邪魔するものなくても自然に左側によっていく。理由は、心臓が左にあるからだとか、感覚をつかさどる右脳が、体の左側の器官につながってるからだとか、色々あるけど。どちらの理由にしろ、人間は左側に行きやすく、左側を注目しやすいんだ。迷ったり、興奮したり、混乱していて理性が働かない時は、特にね)」
「へえー!」
「スゲー!物知りだなーギタラクル!俺もそこまで詳しいことは知らなかった」
「……ちなみに、俺以外に左を選択した奴?」
冷や汗だっくだくのレオリオに、はーいと手を上げたのは、わたしにゴンに、ヒソカさん。
右を選択したのはキルア一人。
ですよねー。
「どうするんだ馬鹿者ーーーーーーーー!!!この多数決はむしろ露骨すぎるくらいだ!!試験官は確実に左回りの法則を知っている!!ということは、左に進めば更に危険でかつ困難な試練が待ち受けている可能性が高いということなのだぞーーーーーっっ!!!」
「ぐえええええええええっ!!ネ、ネクタイを引っ張るなーー!!選んじまったもんは仕方ねぇだろ!?だいたい、多数決なんだから、俺だけの責任じゃねーだろーがよー!!」
まあ、ソレはそうです。
でも、どうしよう……原作ではクラピカ、キルア、トンパがマルを押したから、右に進んでたもんね。
左にどんな試験が待ち受けているのかなんて、冨樫先生も考えてないよ。
想定外!
あ、でも待てよ。
「でもでも、クラピカ!よく考えたら、左の道を選んだのは正解かもしれませんよ?」
「トモまで、なにを血迷ったことを……!!」
今だレオリオを締め上げている赤目のクラピカに、ポケットの中のちびヒソカさんが大反応している。
75点!!
怒りに燃えるクラピカを、真っ直ぐ見上げてわたしは言った。
「だ、だって……簡単な道に進んで、ヒソカさんを退屈させるよりはマシじゃないですか!!」
「……」
「……」
「……☆」
たっぷり数秒間。
それぞれが、それぞれの思いを込めてヒソカさんを見つめた。
――結論。
「よおし!!腹も決まったところで左に進むかあっっ!!」
「うむ!!ときにはあえて困難に立ち向かうことも必要だからな!!」
「あはは……そうだよね。退屈したヒソカが暴れまわることを考えたら、どんな危険な道でも、そっちのほうが安全だよね!」
「そーなるよな。ま、いーけど。今のままじゃ、俺も身体がなまっちまうし!」
「カタカタカタ……(それにしても、ヒソカのことがよく分かってるよねー、トモは。ちょっと感心しちゃうよ)」
「えへへー、っむぎゅ!!?」
「ボクが左回りの法則を知っていて、あえて左を選択したことをちゃんと分かっててくれてたんだねっ!?んああああっ!!トモっ!!キミのその、言葉にしなくても通じ合う、そんなところが素敵だよ!!シビれるよ!!興奮しちゃうよトモおおおおおーーーーーっっ!!!☆☆☆」
「ひぎゃああああああああああああーーっっ!!!ちょっとヒソカさん、ダメですってこんなとろで興奮しないで下さい―――!!!」
ストーップ!!!
わたしの悲痛な叫び声は、左の通路の奥深くに消えていったのでありました……。