5 ヒソカと再開ハンター試験!!

「では、このナンバープレートをつけて、開始時間までお待ち下さい」



マーメンさん……いや、ビーンズさん?



顔がミドリだからビーンズさんだろうか。



新盤アニメで見た時も、「いや……ミドリはないわあ」と思っていたけれど。



こうして、実物を目の当たりにすると……。



ガシッ!!



ギュウウウウウウウウウウウウ---!!



「んぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」



「うああっ!? おい、トモ! なにやってんだ、やめろよ! 人の首引っこ抜くなっつーのっ!!」



「――はっ!? ご、ごめん! なんか、お面みたいに見えたからっ」



「前触れもなく恐ろしいことする奴だな……」



「ま、まったくです! 次にやったらあなたは即失格ですからねっ!」



「即失格……」



「こらあ! トモ!! わざと失格なんかになってみろ、俺がお前の首引っこ抜いてやるかんな!」



「わ、わかってるから、怖いこと言わないでよう!!」



「たった今リアルに引っ込ぬこうとしてた奴が言うセリフかよ……。はあ、まあいいや。はい、これ。トモのナンバープレートな。落っことすなよ?」



「うん……落ちないように、オーバーオールのポケットの内側にくっつけとく」



これなら、誰からも私のナンバーが見えなくなるし。



ゼビル塔の試験まで進めたらの話だけど、用心するに越したことはないよね。



「俺のナンバーは99で、トモは100番か。ふーん。じゃあ、ここに集まってるのはざっと100人ってことだよな」



暗い暗い地下道を見渡して、キルアは頭の後ろに腕なんか組みつつ、余裕でいる。



そう。



あのお店の奥は個室式のエレベーターになっていて、合言葉である『ステーキ定食、弱火でじっくり』を注文した私とキルアは、焼きたてのステーキをほおばりつつ平らげつつ、
この地下道へ降りてきたのだ。



むさっくるし……いや、厳つい顔をしたお兄さんたちが待ち構えるハンター試験会場へと!!



「来たくなかった……!」



「まだ言ってる。もー、いい加減に腹くくれよなあー……ん?」



「どうしたの?」



キルアが鋭い視線を走らせるのと、なんだか野暮ったい感じのおじさんが人ごみを抜けてきたのは同時だった。



あ。



あー!!



この人知ってる!!



「なにおっさん。俺たちに何か用?」



すっと、私を背中に庇って立つキルア。



うひょおおう! かっこいいーー!!



妙に鼻の四角いおじさんは、そんなキルアの態度にも全く動じる様子もなく、親切そうな笑顔を浮かべて手を差し出してきた。



「そう警戒するなよ。君たちはルーキーだね。俺はトンパ。ここの常連だ」



「ハンター試験参加数35回!」



「トモ!?」



「そ、そうだけど、なんでそれを……」



「サイトで見ました」



「それもサイトかよ!!」



突っ込むキルアをよそに、私はこのおじさん、トンパに向かって出来る限りの敵意を放った。



トンパ……人呼んで、新人潰しのトンパ!!



十代の頃からハンター試験に参加。



ルーキーに目をつけては、ありとあらゆるセコイ手を使って、足を引っ張りにくる最低な大人だ。



私に絡んでくるのはいいよ。



でも。



俺のキルアに手ぇ出すんじゃねえええええあああああああああああああああああっ!!!



「――っひ!?」



「ト、トモ、落ち着けってば! 確かに怪しいおっさんだけど、ただ声をかけてきただけじゃん。そんなに殺気立つなって!」



「だ、だ、だってキルア、この人はさあ――」



「そ、そのぼっちゃんの言うとおりだぜ! 俺はまだなんにもしちゃいないだろう? それなのに酷いぜ、全く。可愛らしい顔して、
なんて凶暴なおじょうちゃんなんだ!」



「まだって言った! 今、まだって言ったじゃん!!」



「あーもう、はいはい! 分かったから、このおっさんがトモになんかしてきたら、心臓えぐり抜いて口ん中にぶっこんでやるから落ち着けって!」



「可愛い顔してエグいこと言うな、君も!!」



「な……っ!? か、可愛いっつーな! デブ! ハゲ! チビ! メタボオヤジ!!」



「言ったれキルア! もっと言ったれ!!」



わいわいわい、騒いでいる間にも、周りを取り囲む受験生の数はどんどん増えていく。



結局、トンパとは一時間以上悪口を言い合ってたんじゃないだろうか。



双方、息も尽き、ぜいぜいとし始めた頃。



ようやく引く気になったのか、トンパが汗を拭い、へっとニヒルなつもりで笑った。



「……やるな、坊主……この俺とここまでやりあえた奴は久しぶりだ……!」



「おっさんこそ……歳のわりにやるじゃん……! 俺も初めてだよ、上の兄貴以外の奴と、これだけ口喧嘩したの!」



「ふ……なかなか楽しませてもらったぜ……! おっと、次のルーキーが来たな。じゃあ、俺はもう行くが……そうだ、お近づきの印に」



ヒョイ、と手渡されたのは缶ジュースである。



こ、このジュースは!!



「じゃあな!」



びゅん!



と立ち去るトンパ速い!!



「サンキューおっさん!! よかったー、ちょうど喉が乾いてたとこだったんだ」



プシュっ!



グビグビ。



「ダメーー---!! 知らない人から貰ったものを、不用意に飲んじゃダメ!!」



「わっ! なにすんだよ、こぼれるじゃん。大丈夫だって、どんな毒が入ってようが、俺、効かないからさ。
でも確かに、トモが飲んだらダメそうだから、もーらいっ!」



「あ! ず、ずるいよ! 私だって飲みたいのに!!」



「ダメー。明らか、なんか別なもんが入ってるから!」



私が手を伸ばすと、キルアは手に持っていたジュースをヒョイ、と放り投げて、頭や足をつかってリフティングなんかしてみせる。



あはは。



上手い、上手い。



なんか楽しくなってきたぞー。



……と、思ったそのときだ。



「――っ、トモ、こっちに来い、早く!!」



「え? わわっ!?」



ぐいっと腕を引かれて、そのままどんどん人ごみの中へ。



わ、訳がわからない。なんだって言うの、いきなり。



私がいくら訊ねても、キルアは背中を向けたまま、何にも教えてくれなかった。















                       ☆ ☆ ☆














「……酷いなあ。こんなに近くにボクがいるっていうのに、トモったら全く気がついてくれないんだから★」



ドンッ!



「っ!?」



いきなりだった。



力任せに突き飛ばされたかと思ったら、その途端、下世話なセリフと笑い声が降ってきた。



「おっとお、あんまりフザけた格好してやがるんで、ハンバーガー屋のマスコットかと思ったぜえ~!!」



「ギャハハハハ!! 違ぇねえ!!」



ああ……またか。



いい加減、こういうのはうんざりしてるんだけど……いいよ★



今、ちょうどムシャクシャしてたところだからね。



ゆっくりと。



立ち上がりながら、念を紡ぐ。



きっと、ボクが何をしたかも……こいつにはわからないんだろうなぁ。



「……あーら不思議。腕が花びらとなって消えちゃった★」



「ひい……っ!?」



「お、お、お、オレのおーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!???」



「クックック……ッ! 気をつけようね★ 人にぶつかったら謝らなくちゃ」



血のように舞い散る赤い花びら。



不細工なキミにはもったいないくらいの美しさだろう?



ああ、トモ。



キミにも見せてあげたかったのに……★




















                       ☆ ☆ ☆




















ジリリリリリリリリリリリイリリリリリイッリリリリリイリリリリリリリリ!!



けたたましく鳴り響くベル音!



ついに始まってしまっったハンター試験……!!



アニメどおり、変な顔みたいな形の時計を手に、サトツさんが現れた。



おお!



やはりヒゲ!



ヒゲがダンディー!!



「只今をもちまして、ハンター試験参加者受付を終了させていただきます。わたくしは一次試験試験管のサトツです。これより、皆様を案内して参ります。
試験に参加する意思のある方は、わたくしのあとに着いて来て下さい」



サッと踵を返して、歩き出すサトツさん。



うううわあああああああああ……!!



ついに、ついに始まってしまった!!



魔の一次試験、耐久マラソンが……!!



「無理無理無理無理無理無理無理無理……!!」



「はあ? 無理って、まだ試験会場に向かって歩いてるだけじゃん。トモ、諦めんの早すぎ!」



「違うもん! これが一次試験なの……! このあと、どんどんスピードがあがっていくんだよ! もうやだ!! 無理っすよ! 十分、いや、五分走り続けるのだって無理っす!!」



「な……なんでそんなことが分かるんだよ。あのさあ、トモ。まだ俺に隠してることない? さっきトンパのおっさんから貰ったジュースのことといい、トモって変な勘っていうか、
予知みたいなこと言ってるじゃん。まさか、そういう力があるとか!」



「そ、そそそそそそそおそそそそそそそ」



「マジで!? めちゃ適当だったんだけど、トモには先のことが分かんのかよ!?」



「わわ、わかんないって! ただ、そそ、そんな風になったら嫌だなって思うだけ!!」



「でも、当たってるって! ほら、前の方の奴ら、走りだしてるし。すげー!! きっと、高いところから落ちたショックで、そういうのに目覚めたんじゃね?」



「ままままさかあっ!!」



うわあもう、嫌な汗で全身びっしょり!!



ん。



でも待てよ。



……この言い訳って、使えるんじゃね?



「よく考えたら、そうかもしれない!!」



「マジ!?」



「うん! そう言えばなんか、これから五時間くらい延々走り通して、階段登って、ついた先はゴールじゃなくて、そこからまた泥濘だらけの沼っぽいところを
、騙されないように走っていかなきゃいけない気がする!!」



「な、なんかわけ分かんないけど、もしガチでそうなったらスゲーよ、トモ!」



「でも私はそこまでは行けないごめんねキルアさようなら……ゲホゴヒゴハア!!」



「って、まだ二分も走ってないぜ!? いくらなんでも持久力なさすぎだろ!!」



「だ、だって……もともと体力なんてないし、超文系だし……身体から、ち、力が抜けていくみたいで……」



こ、この感覚は……だ、だめだ、力が入らない!



そういえば、キルアに会ってからずっと、纏をしてなかったんだ……!



このままじゃ、オーラが……底をついてしまう。



早く纏をしなきゃと思うのに、しんどくて集中できない……!



ヒソカさん……!!



「……や、くそく、したのに……ソカ、さんと」



「ヒソカ……?」



前に、踏み込もうとした足が、ついにもつれた。



ブーツの底が地面をつかめず、ぐにっと、嫌なふうに足首が曲がるのが分かった。



崩れる身体をどうすることもできず、顔面から倒れこむ。



でも――そのときだ。



地面に叩きつけられる直前、パーカーのフードを、誰か、いや、何かに引っ張られた。



「トモ!!」



驚くキルアの顔が、あっという間に足の向こうに遠ざかる。



わけもわからないままに、びよーん、とすっ飛んでいく私の身体。



目を丸くして振り仰ぐ受験生たちの群れを越えて、スポッと収まった先は誰かの腕の中で……。



「やあ★」



「ヒ……ヒソカさんっ!!」



ぶわあああっと、溢れる涙。



わあ――!!



ニッコリ笑ったヒソカさんは、アニメや漫画で見た通りのピエロメイクだった!!



……ああ、でも涙で滲んで見えなくなるうううう!!



「コラ、そんなにゴシゴシ擦っちゃダメだよ★赤くなったらどうするの」



「ご、ごめんなさ……ごめんなさいいっ!!ヒソカさん、助けて頂いてありがとうごじゃいました……!!」



「どういたしまして。はあ……★それにしても困ったな。捕まえたら、たっぷりお仕置きしてやろうと思ってたのに……トモの顔を見たら、そんな気分じゃなくなっちゃったじゃないか」



お仕置きっ!?



「ンなななはななななななな!!?」



「何故かって聞きたいのかい?その1。先に試験会場へ行っててねって言ったのに、なかなか来ずにボクを待たせた★」



「う!」



「その2。あれほど忘れちゃダメだって言ったのに、纏を行うのを忘れてた★しかも、その足、挫いてるよね」



「うう!!」



そ、そうなのだ。



おかげでさっきから右の足首がズキズキ疼いてしかたがない。



あ……だからヒソカさん、私を抱いたまま走ってくれてるんだ。



ヒソカさあああああんっ!!!



どんだけ私を萌えさせたら気がすむんですかああああんああはあああん纏っ!!



「……その3。ボクと離れている間に、若い男の子を捕まえて二人でイチャイチャしてた★さっきだって、ボクはトモのすぐそばにいたのに、全然気がついてくれなかった……★あ、コレは4コ目だね」



「すみませんでしたあ!」



「ダメ★ボク、ほんと言うとちょっと怒ってるんだからね。簡単には許してあげないよ」



「どどどでどどどどう」



「どうしたら許してくれるのかって、聞きたいのかい?そうだな……条件は4つ。1つ目は、このハンター試験の間は、できる限りボクと一緒に行動すること」



「はい……」



「2つ目は、トモがちゃんとした念の使い手に育つようにボクが指導してあげるから、真面目に念の修業に取り組むこと。もうすでに知っているかもしれないけど、ハンター試験は命の危険をともなう試験だ。合格してハンターになれば、さらにその危険度も増す。だから、力はあるに越したことはない☆」



「わ、分かりました。よろしくお願いします……ヒソカ先生」



「うん☆よろしい。でも、呼び方は今までどおりでいいからね。というか、本当は敬称もいらないんだけど」



「よ、呼び捨てになんかででできませんよ!!」



「別にいいのに……★まあ、そのことについては今はいいや。3つ目、ボクが寝るときは、必ず添い寝をしてくれること☆」



は………?



「なんか急に王様ゲームみたいなことに――ふぎゅ!」



ヒ、ヒソカさんの手が……!!



「4つ目は……そうだな。これは保留にしておこうかな☆おいおい考えることにしよっと」



そんなあ!!!



なんかそれイヤらし……怖い!!



ヒソカさんの手のひらの中でぐむぐむ
喋っていたら、



「トモ……今した約束、ちゃんと守ってくれるよね……?そうじゃないと、ボク――」



耳元に囁かないで下さい――!!!



うわああああ鳥肌たつうううう!!



浪川さんええ声―――!!!



「トモ★」



「ふわっ!ひゃいっ、纏ですよね、纏っ!」



「はあ……、なんか、トモといると拍子抜けしてばっかりだよ。そこが好きなんだけど……それも、トモの才能なのかもね」



「え」



今、どさくさに紛れて大事なことを言われたような。



気のせいか。



「トモ。もしも今度約束を破ったら、ボクがいいって言うまで指定した場所にキスしてもらうから、そのつもりでね」



「はいい!!?」



「イヤなの……?それなら、約束をちゃんと守ってくれたらいいだけだけど……傷つくなあ★」



「い、いいいいいイヤとかではないんですけどなななななんと言えばいいのやらですね!」



「いいよ、無理しなくて。あ、ほら、そろそろこの陰気臭い地下道ともお別れみたいだよ」



え。



ぱっと前方に目をやると、平坦な道は途切れ、うねるような階段がはるか高みへとのびていた。



い、いくらなんでも早くない……?



ヒソカさん、私としゃべりながら、そんなに走ってくれてたのかな?



それにしては、息切れひとつしてないし……。



「すごい……」



「トモだって、オーラの生産力は人よりもずっと優れてるんだから、ちゃんと纏さえしていれば、こんな走るだけの試験は楽勝だったのに……★」



ヤブヘビ!!



「そんなことより、ヒソカさん!出口!出口ですよっ、やったあ!!」



「はいはい。トモは誤魔化すのがヘタだね☆」



そこがまたーーなんだけどね……。



最後の言葉は囁く唇が近すぎて、ちゃんと聞き取れなかった。



私が叫ぶよりも速く、最後の距離を詰める。



周りには他の受験生がいるのに……!!



ううーー!!



ヒソカさんのアホーーーーーーー!!