9 ヒソカが不在でトモピンチ!!





ヤバイ。



「おい、ネェちゃん!人の仲間を皆殺しにしやがって、ごめんなさいの一言で許されると思ってんのかゴラア!!?」



「テメーの連れがやったことには責任とれっつーんだよゴラア!!?」



「ひ、ひええっ!?でででもでも!もとはと言えば、この人たちからヒソカさんに絡みはじめたのが原因なんで、一方的に攻められるのもどうかと思――」



「だからって全員殺すこたあねーだろうがよ!!!」



おっしゃるとおりですっ!!



ヤバイヤバイ!!



ヤバイぞ~~っ!!



相手は男三人!



こちらは一人で多勢に無勢……どうしよう。



ヒソカさんはとっくにいないし、どうしたらいいんだあ~~っ!!



「悪く思うなよ、ねーちゃん。こっちもやられっぱなしじゃ、腹の虫が収まらねーんだ」



「恨むならヒソカを恨みな!!」



ひーえええええええええーっ!!!!



たあすけてえーっ!!!



一斉につかみかかる野郎どもを、華麗にかわそうと思ったものの、やっぱり、もとの運動神経の悪さからか足がついていかず、顔面からぬかるみに転倒……ガシッと、パーカーのフードを乱暴に掴まれる!!



「バカめ!逃がしやしね――」



よ。



という言葉尻に、パシャン、となにかが落ちる音が重なった。



掴まれていたはずのフードが急に手放され、呼吸が楽になる。



足元には――切断された、指。



「お、お、おお俺のお―――!!?」



「ギャ――――ッ!!」



なななななななんなんなんなん!!?



ヒソカさん!?



「ヒソカさん!?いるんですか、戻って来てくれたんですかっ!?」



返事はない。



それじゃあ、一体、今の攻撃は何?



悲鳴を上げて転がっている男の人の右手を見ると、人差し指の先がスッパリ切り取られているのだ。



切り口が鋭すぎて、大した出血もしていない。



そんなことが出来るのは、ヒソカさんくらいのものなのに……。



ツンツン。



あれ、今、なにかにほっぺたを突っつかれたような。



「ん?」



チラッと、右の肩に目をやる。



ヒソカさんがいた。



「なんだ、やめてくださいよ、ヒソカさ……」



ヒソカさん!?



「ヒソカさん!!!???」



『☆』



し、ししししかもっ、普通のヒソカさんじゃない!!



身体はちんまりした二等身。



いわゆる、ちびキャライラストと呼ばれる類いのヒソカさんだ!!



ふわふわした髪は赤色、ほっぺたにナミダと星のマーク。



衣装も、ヒソカさんが今日着ていたものと、全く同じ!!



違うのは、まるでオモチみたいにぽちゃっとした、ミニキャラならではの顔のラインとか、ちまちました体つきとか……そんな、壮絶可愛らしいヒソカさんが、わわ私の肩に腰かけて、おみ足をプラプラしていらっしゃるではないか………!!!



ふおあああああああっ!!!



かーわーいーいー―――っ!!!



ブリとハマチ持って踊って欲しい――!!



「すごいっ!なんだこれっ!え、じゃあ、今、あの人の指を切り落としたのはもしかして……?」



『……★』



ヒソカさん改め、ちびヒソカさんはピッと一枚のトランプを取り出して、クスッと笑ってみせた。



さ……流石はヒソカさん、かわいくっても恐ろしいな!!



「チクショウ……指が……俺の指が……!!」



「やりやがったなこのガキ……!!」



「そ、そっちが逆恨みして襲ってきたんでしょうがっ!!」



「うるせえ!ぶっ殺してや――」



る。



という言葉尻に、またもやパシャン、という音が重なった。



足元には、舌。



「ほ、ほへほひはは―――!!」



「ギャ――ッ!!こらあ、ヒソカさんっ!さっきからやりすぎですよ!!!」



『☆』



でも、肩の上のちびヒソカさんは、クスクスと楽しそうに笑うだけだ。



手元にちらつかせているトランプのマークは、スペード。



すなわち死のマーク!!



「だ、ダメですってばあ!!ああもう、これ以上の被害を出さないためには……」



逃げる!!



『!』



ガシッと掴んだちびヒソカさんを、オーバーオールのポケットにギュムッと詰めこみ、全速力でダッシュ!!



まったくもう、なんなんだこの展開―――っ!!






      ☆ ☆ ☆





「はあ、はあ、はあ……つ、疲れた。さすがに、ここまで走れば大丈夫だよね」



湿原を抜けて、辺りは霧の立ち込める森に。



幸い、狂暴な生き物は近くにはいないみたいだ。



静かでひんやりした空気の中に、虫の声だけが響いている。



カタカタカタカタカタカタカタ……。



「あれ……? なんか、変な風に鳴く虫だなー」



「カタカタカタ……(虫じゃないよ?)」



ふわあっ!!?



い、いつの間に!!!!



振り向けば針だらけ、フランケンシュタインのよーな佇まいで、あの人が立っている。



け、気配なんて全然なかった……!



「あ、あ、あなあなあなあああ」



「カタカタカタカタ……(俺はギタラクル。ヒソカの仲間だ。彼に依頼されて、君を助けにきた。敵意はないから、そんなに怯えないでよ)」



「おお怯えないでって言ってもだだだだだだって、その針……!!」



生ギタラクルがこんなにグロいものとは思わなかったよ!!



顔は紫色だし、刺さってる針がもはや、死体に生えてるエノキにしか見えないよ……!!



「カタカタカタカタ……(針?ああ、これが怖いの?しかたないな……じゃ、ちょっと待ってね)」



ベキゴキガコボキイ……!!



わああああ――――んっ!!



もとに戻るときがよけいにグロい!!



不気味!!



ああ、でもでも、顔に刺さったエノキを抜くと、ギタラクルの顔色は真っ白に。



目はくりっくりの猫目に。



髪の毛は長くのびてサラサラニなって……。



イイイイ………イルミさんだあ――!



『☆』



ん?



オーバーオールのポケットの中から、ちびヒソカさんがぴょこっと顔を出した。



イルミさんをじいっと見ていたかと思ったら、サッカーのレフリーのように、カードを二枚、さっと頭上にかざして見せた。



一枚は9。



もう一枚は5。



95点!



「そういうのも出来るんですか!?」



「そういうのって……変装?うん、出来るよ。専売特許。俺、殺し屋だから」



は。



イルミさんに言ったんじゃなかったんだけど、会話が上手くつながっちゃった。



まあいいか。



「実は、君がヒソカと別れたあとに彼から連絡があってね、心配だからこっそり護衛してあげてって言うからずっと後をつけていたんだけどさー。なんなの、コイツ」



言うが早いか、ちびヒソカさんをひょい、とつまみ上げるイルミさん。



『!!』



「ああっ!返して下さいっ!私のちびヒソカさんに乱暴しないで……!!」



「しないけど。ちょっとよく見せて。うわあ……やっぱりコレ、ヒソカじゃないか。さっきの念能力で描いたの?キミ、趣味悪いね」



『★……!』



はうあっ!



むかっとしたちびヒソカさんがトランプ投げた――!!



イルミさん避けた!!



避けた拍子に投げたエノキが、ちびヒソカさんに刺さ………ギャ―――!!



「なななななんてことするんですか――!!」



幸い、紙一重でかわしてくれたから良かったけど、あぶ、危なかった!



「へー。小さいけど、ヒソカだけあって戦闘能力はなかなかのものだね……あれ。キミ、泣いてる?」



「当たり前じゃないですか――!!バカあ――!!ギタラクルさんの人でなし――!!今度またヒソカさんに乱暴したら許しませんから――!!」



「先に手を出してきたのは、そのヒソカだよ?だいたい、そんなに泣かなくても。やられちゃったら、また描けばいいだけの話じゃない」



「簡単に言わないで下さい!このちびヒソカさんは、最高傑作なんですっ!個人的にこれ以上上手く描けるもんかって出来なんですっ!!!」



「はいはい、ゴメンゴメン。じゃ、いつまでもヒソカを抱き締めてないで、そろそろ行こうか」



「行くって……うひゃあああ!」



まただっこかよ!!



ヒソカさんに続いてイルミさんにまで……ううっ!



もう、もう、お嫁に行ける気がしない。



なんてことを思っているうちに、イルミさんは私を抱えたまま、ものっすごい早さで走り出した!!



「掴まって。先頭集団はとっくにゴールしてるから、飛ばすよ。あと、キミって身体のわりに声が大きいから、耳元で怒鳴らないでくれるかな」



「ふわああああっ!!速い!!速いですイ……ギタラクルさんっ!!おち、おち、落ちるうう――!!」



「聞いてないし」



ギュンギュン過ぎていく景色に目を回しながら、私は、ポケットの中のちびヒソカさんをいつまでも抱き締めていた。