ある昼下がりの更なるイルミの受難!!【おまけ】

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

「ただいまー!皆におみやげだよー!!」

 

 

 

ケーキを乗せたお皿を片手に、リビングのドアを開け放つ。

 

 

 

お、珍しくみんな揃ってる。

 

 

 

「うっひょおお――う!!それって《ガレット・デ・ロワ》のケーキじゃん!!ポー姉ナーイスッ!!」

 

 

 

と、すかさず突撃してきたミルキを、イルミが容赦なく蹴っ飛ばした。

 

 

 

「ゲフッ!!いてーよ兄貴っ!!なにするんだよっ、俺への土産じゃなかったのかよコフーッ!!」

 

 

 

「そんなわけないじゃない。カルトにも、他のみんなの分もあるよ」

 

 

 

「はいはい。皆で仲良く食べようねー」

 

 

 

それぞれに好きなケーキを選んで貰って、小皿に取り分けてもらっている間に、キキョウさんが(たぶん毒入り)紅茶を淹れてくれる。

 

 

 

我先に、生クリームがたっぷりのったスペシャルショートケーキにかぶりついたミルキが、リモコン片手にテレビをつけた。

 

 

 

パッと映しだされたのは、あのお店。

 

 

 

「しっかし、よく買えたよなー。確か、ほら、今はこの店、創立300年記念のイベント中で、超満員のはずだぜ?」

 

 

 

「うん、今日イルミと一緒に行ってきたの」

 

 

 

「ぶはっ!?」

 

 

 

「汚いなあ。殺すよ?ミルキ」

 

 

 

「だ、だだだだだって、コレ、女性限定のイベントだぜ!?」

 

 

 

「全然バレなかったよね。ねえ、イルミ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「まじかよ!?くっそー!俺も行きゃあよかった!!」

 

 

 

「いや……ミルキくんは無理でしょ」

 

 

 

「うん。即行、警察に通報されるレベルだね」

 

 

 

うんうん、と頷き合う私とイルミ。

 

 

 

隣で、タルトのイチゴをもぐもぐしていたカルトくんが上目遣いでイルミを見た。

 

 

 

「イルミ兄さまは、大丈夫だったのですか?」

 

 

 

「……まあね」

 

 

 

「楽勝だったよねーっていでででで痛いイルミ!!!」

 

 

 

「ポーが俺の分まで取ってきてくれたからね。ありがとう。助かったよ」

 

 

 

「ど、どういたしまして……」

 

 

 

“もし話したりしたら、わかってるよね……?”

 

 

 

無言の圧力に喉まで出かかった言葉を飲みこんだとき、なんだかテレビの中が騒がしいことに気がついた。

 

 

 

「あれ……あの店、なんかあったのかな?ニュースになってる」

 

 

 

「んー?ゲッ、見ろよポー姉!今日開催されたスイーツビュッフェで、ケーキを一度に全部食いきった、化物みてーな女がいるって!!これ、もしかしなくてもポー姉のことじゃねーの!?」

 

 

 

「ち、違うよっ!!全部なんか取ってないも……」

 

 

 

……あれ。

 

 

 

まてよ。

 

 

 

全部?

 

 

 

そんなこと出来るだなんて、普通の人間じゃ無理じゃない。

 

 

 

じゃあ、念能力者?

 

 

 

あの店にあったケーキを、全部持っていけるような能力……そ、それってまさか……まさかまさかまさか。

 

 

 

「ああ――――――っっ!!!思い出した、あの二人!!」

 

 

 

あの、紫の髪の人と、メガネかけた黒髪の人ーーーー!!!

 

 

 

うおおおおおおおおお―――――――――っっ!!!!

 

 

 

気づかなかった私のヴァカ――――――ッッ!!!

 

 

 

「知り合いか?」

 

 

 

キロ、とシルバさんの瞳が私を向く。

 

 

 

ちなみに、シルバさんが選んだのはザッハトルテです。

 

 

 

キルアのチョコ好きは、やはり、親譲りだったというわけだ。

 

 

 

口の横っちょについたチョコレートがセクシー!!!

 

 

 

「いえ……どっちかと言えば、関わりあいになりたくない人たいたちです……」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

ぱく。

 

 

 

と、実に渋くチョコケーキを頬張ったシルバさん。

 

 

 

その眉間に、なぜか急に深いシワが刻まれた。

 

 

 

「シルバさん?」

 

 

 

「……ケーキの中に、なにか入っているぞ。新手の毒か」

 

 

 

「いえ、そんなの入れてませんけど……って、ああっ!?イ、イルミ、これ!!」

 

 

 

「あ。たしか、《フェーヴ》だっけ?金色の天使像。当たった人には、なにか特別な贈り物があるらしいけど、なんだろう」

 

 

 

「ふむ……ん、像の中になにか入っているようだな」

 

 

 

「えっ!」

 

 

 

「見せて、父さん

 

 

 

「俺もっコフー!!」

 

 

 

「ぼ、僕も……」

 

 

 

「ワシにもワシにも」

 

 

 

「ああん、ズルいわ!あなた、わたくしにも見せて下さいなっ!!」

 

 

 

「こっ、こら、お前たち!そ、そんなに押すんじゃな……」

 

 

 

パリン!!

 

 

 

「あ――っっ!!シルバさんがパリンてしたーっっ!!」

 

 

 

「なに壊してんだよ親父コフーッ!!」

 

 

 

「木っ端微塵だね。見かけは金色だけど、ただの陶器の人形だったから。あれ、でも父さん、中に紙が入ってたみたいだよ。なんて書いてあるの?」

 

 

 

「うむ。読むぞ……“黄金の天使像に選ばれし幸運な方へ、この天使像は《ガレット・デ・ロワ》全店にて使用出来る、購入個数無制限チケットとなります。有効期限等はございません。尚、ご利用の際は店頭にて、天使像の提示を願います。どうぞ、これからも当洋菓子店をご贔屓に”――なんだこれは」

 

 

 

え。

 

 

 

「購入個数無制限……」

 

 

 

それって、確かイルミが言ってたような……。

 

 

 

でも、そのチケットが天使像って。

 

 

 

あれ?

 

 

 

……つまり?

 

 

 

「シルバさんがパリンてしたーーーーっっ!!!」

 

 

 

「うおおおおおおおホントなに壊してんだよ親父いいいいいいいーーっっ!!!」

 

 

 

「うるさい、大体お前たちが寄ってたかって詰め寄せるから……っ!!?」

 

 

 

「父さん……ほんと……いい加減にしてよね」

 

 

 

「ダメー!!イルミ!エノキはしまってーー!!はっ、そうだ、こういうの直すの、ミルキくんは得意じゃない。壊れたフィギア直すのと一緒だよ、がんばって!!」

 

 

 

「いいけど、ギブアンドテイクだぜ?報酬は?」

 

 

 

「さっきミルキくんが食べたケーキ」

 

 

 

「汚すぎるぜポー姉っっ!!!!」

 

 

 

「つべこべ言ってないでさっさと部屋に帰って直して来なよ。もしちゃんと直せなかったら、向こう一ヶ月間飯抜きだからね。ミル」

 

 

 

「なんで俺のせいだあーーーーっ!!??」

 

 

 

とまあ、そんなこんなで。

 

 

ミルキくんが丹誠込めて、天使像を無事に元通りに直してくれたおかげで、

 

 

ゾルディック家に暮らす皆は、おやつのケーキに困ることなく、幸せに暮らしましたとさ。

 

 

 

めでたしめでたし。