大会前日の夜。
私は縁側に座って夜空を眺めていた。
2週間前から飛影は夜の定位置の場所を変えた。
木の上ではなく縁側へとやってきた。
夕食の片付けをしたりお風呂に入ったりしているといつの間にかそこに座っている。
そして朝洗濯物を干したり掃除を始めるといつの間にかいなくなっている。
今は私が座って洗濯物を畳む横で、柱にもたれて眠っている。
特に会話らしい会話はあまりしない。
でも沈黙が気まずくなったりした事はない。
静かにゆっくりと時間が流れていく。
様子を見に来てくれた蔵馬は、その風景を見るなり何かを確信した様に笑っていた。
そして飛影に笑いながら何か耳打ちしていた。
そんな風景を横目で見ながら、私は気にせず夕食の準備をしに台所へと向かった。
「鳴鈴実、良かったですね?」
振り返ると台所の入口に蔵馬がいた。
「なにが??」
私は突然言われた言葉に理解ができずに首をかしげていると。
「守護者の事です。」
「え!!!!えぇ~~~~!!!」
「飛影の態度を見ればわかりますよ。
あんなに穏やかな顔で熟睡してましたからね。」
そう言って蔵馬は笑っていた。
「でも私が探してたのが飛影だってよくおわかりで…。」
「ピアスと鳴鈴実の目ですね。」
「ピアスと目?」
「昔、守護者の話をした時にそのピアスを触っていた事を思い出したんです。それと鳴鈴実が飛影を見る目が切ない色をしていたから。」
「蔵馬には何でもお見通しだね。」
私は頬を掻きながら照れ笑いを浮かべた。
「どうせばれるんですから、隠さずに話して下さい。」
「ごめん。」
「俺は守護者になりたいんじゃない。鳴鈴実の一番の理解者でいたいんだ。だから…。」
そう言って蔵馬は私を抱きしめた。
「ごめん。それから…ありがとう。」
私は素直に蔵馬に身体を預けた。
「さて、怖い守護者さんのお出ましなので、俺はこの美味しそうな夕食でも運ぼうかな。」
そう言ってわざとおどけた様に、パッと手を離すと台所の入口に目を向けた。
「飛影!?」
「早速浮気とはいい度胸だ。」
「違う!!!」
私が慌てる姿を見て2人は笑っていた。
それを見るとなんだか嬉しくて一緒になって笑ってしまていた。蔵馬は契約が済むまでみんなには黙っていると言ってくれた。
私は内心で蔵馬と飛影の仲を心配していたけど、絆が有るからこそ、蔵馬は安心なんだと言った。
自分が一番飛影の事を知っているからと。
それから少しだけ飛影の機嫌は悪かった。
「お前もそろそろ寝ろ。」
いつもと同じように縁側に座っていると、いつもなら私が勝手に寝に行くまで何も言わない飛影が突然寝るように促してきた。
「もうちょっと起きてる。まだ寝る気にならなくて。」
そう言って月を見上げていた私は自分が俯いていた事に気付いた。
明日から始まる暗黒武術会。
一緒にいてみんなの手助けをしたい。
そう思っている反面、私がいる事で試合以外の時間、周りの妖怪や私を利用しようと目論む人間達の対処をさせてしまう事に少し不安を抱いていた。
「お前は俺が守ってやる。安心しろ。」
「ふふふ。頼りにしてます。」
「ただし俺のそばから離れるな。」
「うん。離れない。」
私はそう言って飛影の頬にキスをすると優しく微笑んでくれる。
「飛影?本当にいいの?契約しなくて。」
私は心配だった。
確かに飛影は強いけど、妖力はあって邪魔になるものでもない。
「堂々とお前の守護者である事を馬鹿な奴らに示す意味では良いかもしれんがな。」
そう言ってまたもや押し倒される。
私はクスクス笑いながら飛影の首に手を回した。
飛影の唇は額・瞼・頬・唇・首筋、と下がっていく。
そして首筋にチクリと痛みが走る。
顔をあげた飛影はニヤリと笑うと身体を起こした。
「今はこれで我慢してやる。
大会が終われば手加減はしてやらん。覚悟しておくんだな。」
私は赤くなる頬を押さえながら飛影から目をそらした。
「おっおやすみ!!」
私は飛影の腕から逃れる様に抜け出すと、笑い声を背に寝室へと逃げ込んだ。
「う~ぅ。予想よりも飛影がエッチだ・・・。」
布団に入ると赤くなった頬を手で仰ぎながら眠りについた。