3 過去(飛影と鳴鈴実)

 

 

 

 

その頃玄海の敷地内で昼寝をしていた飛影は懐かしい夢を見ていた。

 

 

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邪眼を手に入れてすぐ俺の妖力は激減していた。

たまたまあった妖怪との荒そいで深手を負ってしまい、身を隠す場所を探している途中で俺は意識を手放した。


気付くと知らない場所にいた。

深手を負った背中に温かいモノを感じながらも、うつ伏せで寝ている為、背中でなにが行われているのかはわからなかった。

俺が起きた事に気付いたのか女の声がする。

「もうすぐ、あとちょっと我慢して。」

「何をやっている?」

俺は声の主に殺気を放った。

「そんな殺気立たなく私は怪我を治してるだけ。
もう少しじっとしてて。」

「お前は誰だ?」

「私は癒術師の卵、名前は鳴鈴実。
まだ覚醒してないから時間もかかるし、きっちりは治せないけど…。」

「癒術師だと!?」

癒術師の名前に覚えはあった。
そいつを抱くと妖力が増幅すると聞いた事があった。
数年前S級妖怪に襲われて全滅したと聞いていた。

(生き残りが存在していたのか。)

「あっ!今の私に何かしても意味ないよ。
まだ覚醒してないからなにもおきない。」

「ふん。餓鬼に興味などない。」

「自分だって餓鬼のくせに。」

「俺はガキじゃない。一緒にするな。」

「はいはい。怪我人は大人しくしてください。」

そう言って鳴鈴実と名乗った女は俺の治療を続けた。

「お前、なぜ俺を助けた?」

「だって私の遊び場の前に倒れてたから。
それにさっきも言ったけど、私は癒術師の卵。
怪我人を治療するのが仕事。」

そう言って鳴鈴実は俺の背中を叩いた。

 

「痛く…ない。」

身体の痛みがなくなっている事に気付いた。

「全部傷口は塞がってるから、まだ痕は残ってるけど。」

俺は鳴鈴実を始めて視界にいれた。

漆黒のまっすぐなロングヘアー。
髪と同じ色の瞳。
透通るような白い肌。
血色のいい唇。

高嶺の花と呼ばれる理由がわかった気がした。

女にうつつを抜かすような性格でもない俺ですら見入ってしまう。

「何かついてる??」

鳴鈴実は自分の顔をペタペタと触った。

「いや。なにもない。」

俺は思わず目を背けた。

「なんか久しぶりに歳の近そうな見かけの妖怪に会えてうれしいかも。」

鳴鈴実はそう言って嬉しそうに笑っていた。

「お前と一緒にするな。」

「つめたい~。」

「お前いくつなんだ?」

「12歳。15歳になったら仙華球を受け取って200年眠るけど。」

「200年もか?」

「うん。仙華球は特殊で自分の妖気と同調させないと力を使えない。身体に入れあと宿し主の身体に大きな負担がかかるから。」

「面倒だな。」

「でも覚醒が終われば貴方みたいに怪我した妖怪たちをもっと早く治してあげられる。」

「どうせまた怪我するんだほおっておけばいい。
お前の妖気の無駄遣いになるだけだ。」

「それでもいい。自分の守りたいモノを守れるかもしれないから…。」

 

「…お前は種族皆殺しにあったんだったな。」

「うん。貪欲な妖怪も多い。でも優しい妖怪もいるから・・・。
私は生き残りだから。」

そう言って俺を見上げた鳴鈴実の頬には涙が流れていた。

自然と手が伸びてその涙を拭ってやった。

「あは。ごめん。別に泣き虫ってわけじゃないから。
なんか、感極まっちゃった。」

そう言って笑った顔があまりに無理やり過ぎて、さっきまでとの態度とは別人だった。たった12のこの小さな体でこいつは一体どれほどのものを抱えて生きてるんだ?

「礼だ。お前は低級妖怪にさえも襲われそうな妖力しかなさそうだからな。」

俺はずっとしていたピアスを鳴鈴実に渡した。

「俺の妖気がしみ込んでいる。
邪眼を付ける前からのな。虫除け位にはなる。」

そう言うと鳴鈴実は穴の開いていない耳にピアスを刺し、耳たぶからは血が流れた。

「ありがとう。大事にする。自分の傷は治せないんだ。」

流れる血を拭おうとする手を掴んで俺は鳴鈴実の耳の血を舐めとった。

「ひゃっ!!」

顔を真っ赤にして今にも目が落ちそうなほど開いていた。

「舐めとけば治る。」

普通なら殺していた。
だがなぜか鳴鈴実といると落ち着いた気分になった。

 

その日は雨も降っていたおかげで、雨があがるまで俺は鳴鈴実の相手をしていた。


鳴鈴実は自分の母親の事、兄の様に慕っている妖怪が怪我した話し、うるさいくらいに色んな話を聞かされた。
だが俺はそうやって過ごした時間が嫌じゃなかった。

いつの間にか鳴鈴実は、隣でスヤスヤと寝息を立てて寝ている。
はしゃぎ疲れたらしい。

俺の傷を治すのに妖気を使って疲れたんだろう。
鳴鈴実が眠っているうちに俺は洞窟を出た。

眠ってる鳴鈴実にキスを残して。
なぜそんな事をしたのかわからなかった。
無性に鳴鈴実の唇から目が離せなくなった。

思わず俺自身、自分の行動に苦笑いをもらした。


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それから2年程して、邪眼で鳴鈴実を探したが見つからなかった。

もしかしたら妖怪に襲われ死んだのかもしれない、そう思いながらも俺はたまに、心のどこかで淡い期待を抱いて鳴鈴実を探していた。

見つけたところでどうと言う訳でもない。
ただ気になって無意識で探している事が多かった。


あえて理由を付ければ、あの時の不思議な感情の正体を知りたかった。
他人との関わりを持ちたくないと思っていた俺が、鳴鈴実となら一緒にいてもいいとさえ思ったその気持ちをもう一度確かめた気がした。

 

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ふと目が覚める。

「懐かしい夢をみたな。もう200年以上も前の夢か…。」

 

 

 

 

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