2  過去 (蔵馬と鳴鈴実)

 

 

 

 

あれから数日。

ぼたんはコエンマの使いで人間界へとやってきた。

目の前には玄海師範と蔵馬、幽助に桑原。
いつものメンバーが揃っていた。

「鳴鈴実が覚醒したのは本当なんですか!?」

蔵馬はぼたんを見るなり詰め寄った。

「ああ、コエンマ様も喜んでるよ。」

その言葉にどんな時も冷静な蔵馬らしくなく終始浮足立っていた。

「おい!ぼたん!さっきから蔵馬とばっか会話してねぇで俺達にもおしえてくれよ!」

自分たちは全く理解ができない事にイライラして様子でぼたんに詰め寄る。

「ごめんごめん。じゃー鳴鈴実ちゃんについて説明するよ。」

そう言ってぼたんはコエンマから先日聞いた話を幽助達へと伝えた。

「そんなすげぇ奴がいたんだな!!」

「高嶺の花!?」

幽助と桑原は話を聞いて互いに色んな意味で興奮していた。

ずっと黙っていた玄海が呟く様に口を開く。

「噂では聞いていたが本当だったとわねぇ?」

「ところで蔵馬はなんで鳴鈴実を知ってるんだ?」

幽助だけでなくぼたん達もそれは気になっていた。


「まだ俺が魔にいた頃の話になるんだ。」

そう言って蔵馬は懐かしそうに話しだした。

 

 

俺がまだ黄泉と組んでいた頃、大きな傷を負っていて、近くにあった洞窟に姿を隠していた。

洞窟に入って2日後に鳴鈴実が現れたんだ。

どうやらその洞窟は鳴鈴実の遊び場だったらしい。
普段の俺なら話しかけたりしないんだが、なぜか鳴鈴実は俺の姿を見ても怯えなかった。

それどころか笑顔で俺の髪を指差して
「綺麗な銀色・・・。」

そう言って笑った。

でもすぐに俺が怪我しているとわかると慌てて近くに駆け寄ってきた。

俺の傷に手をかざすと小さい傷はすぐに治っていった。

「ごめん。私まだ仙華球もってないから、時間もかかるかも・・・。お母さんならすぐ治せるけど。」

そう言って目を伏せた。

いくら治癒能力が高い妖怪といえども、この幼さで治せる傷ではなかった。

「お前癒術師か?」

「うん。でもまだ卵。」

その返事に俺は驚いた。

噂で聞いた事があった。

高嶺の花と呼ばれれ、仙華球と言う球を体内に宿している魔界一の治癒能力を持つ種族、癒術師。
更にその身体と交われば妖力が増す。

そんな噂を頭に浮かべると同時に鳴鈴実はまた話し始めた。

「まだ癒術師として覚醒してないから私に何かしても意味ないよ。」

そいつの目は悲しみ満ちていた。

同族の末路を知っている目。

自分の未来を想像している目だった。

それからポツリポツリと話をした。

なぜか俺は鳴鈴実を追い払う気が起きなかった。

「これで大分楽になった?」

身体を見ると血も止まり、まだ痕は残っているもののほとんど痛みは治まっていた。

「すまない。」

俺は何年振りかに相手に向かって謝っていた。

嗚鈴実は笑顔で何かあったらここに来いとだけ言い残して洞窟を出ていった。

 

それから傷を負ってはその洞窟にいると数日中には鳴鈴実が現れて俺の傷を治してくれた。

不思議と俺はその時間が好きだった。
妖怪たちに妖狐 蔵馬と恐れられていたにも関わらず、鳴鈴実は変わらず悲しそうな顔をしながら傷を治しては笑って出ていった。綺麗な見た目と裏腹にさっぱりとした性格が妙に落ち着いた。

徐々にその時間は増えて、怪我をしていない時でも鳴鈴実の様子を見に行っては他愛のない会話をしていた。

5年程そんな日々を送っていたある日、俺が洞窟に行くと珍しく鳴鈴実が俺を待っていた。

そして、もうすぐ自分が仙華球を受け取ると教えてくれた。

「蔵馬を守護者にはしてあげられないけど、蔵馬の傷はどこにいても私が治してあげるから。
だから私が覚醒するまで死なないで。」

鳴鈴実は淋しそうな不安そうな、今にも泣きだしそうな顔で俺を見上げていた。

「約束する。
覚醒したと噂を聞いたらまたここにくる。
お前がいなければ俺が探してやる。」

そう言って鳴鈴実の頭をなでた。

出会った頃よりも大人びて、美しくなった髪を指で梳いた。

「覚醒したら探して欲しい人がいるんですが…。
一緒に探してくれる?」

「守護者か?」

「うん。実は自分の中ではもう決めてる。
もし振られたらその時は…。」

「その時は俺がなってやる。」

昔の俺なら何とかして自分が守護者になろうとしたかもしれない。
でも数年一緒にいる事で鳴鈴実の清らかな心に触れて、俺は本心からこいつの守護者を探してやりたいと思った。

鳴鈴実は約束だと言って手を振って俺達は別れた。

 

「俺は南野秀一として転生してから風の噂で霊界で鳴鈴実の覚醒までを保護していると知って、コエンマを訪ねたんだ。」


蔵馬は懐かしそうに開け放たれた窓から真っ青な空を見上げていた。


「なんだよ、おい!それって蔵馬お前鳴鈴実が好きだったんじゃねぇのか!?」

幽助がニヤリと笑いながら肘で蔵馬の脇腹を突っついた。

「あはははは。確かにそうだったかもしれない。
俺は鳴鈴実を好きだったのかもな。」

蔵馬は少し納得した様に笑った。

「じゃ~鳴鈴実ちゃんの守護者探しはみんなでしようぜ!!
蔵馬を振ってまで願った相手だ、見てみたいじゃねぇか。」

桑原がそう言うとみんなが笑って頷いた。


「それより飛影はどーしたんだよ?
ま~あいつの事だからどっか行ってるのか?」

桑原は思い出した様に足りない一人の事を話題に出した。


「それならその辺に居るんじゃないですか?」

蔵馬は外を見て答える。

「あいつも素直じゃねーよな。」

幽助は笑いながらわざと大きな声で言う。

「話しがまとまったところで幽助。修行の続きをやるよ。」

そう言って玄海は外へと出ようとしていた。

ぼたんは慌てて玄海を呼び止め声をかける。

「鳴鈴実ちゃんの事頼んでいいですかい?」

「今いいって決まったんじゃなかったのかい?」

そう言ってぼたんに笑いかけながら外へと出ていった。


ぼたんはほっとした表情をすると、日が決まれば連絡すると言い残して、霊界へと帰って行った。

 

 

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