8 揺れる心 ②

 

 

 

 

「チッ!俺は何をやっているんだ。」

飛影は門の横の木の上に乗り腰を下ろして嗚鈴実の寝室に目をやりながらつぶやいた。

嗚鈴実が人間界に来てからD級・C級妖怪が嗚鈴実を狙ってやってきていた。

夜になるとその場にいて妖怪たちを倒していたのだ。

日に日に強さを増していく妖怪に、今夜は不覚にも怪我を負ってしまった。

飛影はふと木の下に気配を感じる。



「何か用か?」

「いえ、あなたが毎晩ここで妖怪達から嗚鈴実を守っていただなんて、少しおどろきました。」

声の主は蔵馬だった。

「お前に関係ないことだ。
ここにいれば寄ってくる馬鹿な妖怪共を殺す口実が出来るから居るだけだ。」

そう言ってからかう様な態度の蔵馬から視線を外した。

「鳴鈴実に手は出さないように。彼女には綺麗なままで守護者との契約を交わさせてあげたい。」

蔵馬の表情から笑みが消え真剣なまなざしを向けられる。

「俺には関係ない。
欲しいと思えば手に入れるだけだ。」

「昔、あなたと鳴鈴実の間に何があったかは知りませんが、彼女の気持ちを踏みにじる様な事だけはしないでください。」

飛影は蔵馬の言葉になぜか無償にイライラし、黒い感情が胸の奥に渦巻いて行く。

「えらくあいつに肩入れしてるようだな。」

飛影は刺す様な視線を蔵馬に向けた。

「俺は彼女が大事です。
もしも彼女があなたを守護者に望んでいれば何も言わない。
だが今のところそれはない。彼女が探しているのが飛影なら俺に話してくれているからな。」

蔵馬は顔色一つ変えずに飛影を見ていた。

「大した自信だな。」

「彼女が俺に心を開いてくれていると、俺は信じてる。」

「話しにならんな。」

飛影は蔵馬から視線を逸らすと
立ち上がり、闇の中へと消えていった。

 

蔵馬はため息をつくとその場を離れた。



玄海の家の長い石段を降り、少し歩くと砂浜が広がっている。

「本当の事を話して欲しい。」

蔵馬の小さな囁きは波の音にかき消された。


鳴鈴実が人間界に来た日、鳴鈴実と飛影が知り合いだったと知った。
蔵馬は鳴鈴実の飛影を見る目が自分達を見る目と違っていた事に気づいていた。
それとなくコエンマに聞いてみたが何かを隠していた気がした。

(鳴鈴実の探していた守護者候補は飛影なのか?)

そう思ってから二人の何気ないやり取りに目を配るようになっていた。
正確に言うと目が追っていた。
飛影本人は気づいているのかは分らないが、鳴鈴実を見る目は優しかった。

実際、あの場所に毎晩座って鳴鈴実を狙ってくる妖怪を片っ端から倒していた。


それに蔵馬が気付いたのは昨日。

玄海はもっと前に気づいていたようだった。

別にそれが本当に飛影であったからといって反対するつもりはなかった。

飛影の事は自分がよく知っている。

飛影と契約が成立するのであればそれでいいと思っている。

ただ、もし鳴鈴実がその事を自分に隠しているのならば・・・。
そう思うと切ない気持になった。

自分は鳴鈴実の為に、出来る限りの事をしてやりたいと思っていても、鳴鈴実が本心を隠してしまっては拒絶されている気にさえなってしまう。

想いあう事が出来ないなら仲間として一番の信頼を得いと思っていた。

 

 

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