23 史上最強の夫婦喧嘩!!

 

 

 

 

 

――16時。

 

 

 

10分前!!

 

 

 

100階闘技場、第一リング。戦闘服に身を包み、私とイルミはランさんとシロガネさんを待っていた!!

 

 

 

眩しいライト、割れる歓声。

 

 

 

お仕事ボイスを張り上げる、実況中継のお姉さんも絶好調ーー!!

 

 

 

やがて、会場の熱が最高潮に高まった瞬間。

 

 

 

入り口に視線をやりざま、イルミがぱさりと髪をかき上げた。

 

 

 

「遅い。待ち合わせには10分前に集合――って、基本だよね」

 

 

 

「ランさーん!シロガネさーん!!勝負ですよー!!」

 

 

 

ゆっくりと、でも、会場の熱気を全て飲み込んでしまうくらいの、圧倒的な重圧を放ちながら、現れた二つの影。

 

 

 

漆黒の道着に身を包んだシロガネさんと。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーッッ!!!!!」

 

 

 

黒のシルクに、艶やかな胡蝶蘭のチャイナドレスに身を包んだ、ランさんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

沸け!たぎれ!!会場に詰め寄せた男どもよ!!

 

 

 

イルミの手前、あんまりきゃーきゃーはしゃげない私の代わりに叫んでくれええええええええええええええええ!!!

 

 

 

スコーン!!

 

 

 

「痛い!酷いよ、ちゃんと我慢してたじゃない!なんでエノキ投げるのー!!」

 

 

 

「ポー、纏。こんなことでオーラを無駄に放出させるとか、やめてくれる?」

 

 

 

「だってー」

 

 

 

「……逃げずに来たか」

 

 

 

にやり、とシロガネさんの口角がつり上がる。

 

 

 

会場の入り口から、リングへと続く一本道。

 

 

 

その道をまっすぐに歩いていたはずのシロガネさんとランさんの姿が、瞬きの間に消えた。

 

 

 

「――っ、ポー、来る!」

 

 

 

「え?でも試合はまだ――」

 

 

 

イルミが私を抱えて飛ぶ!!

 

 

 

直後、今さっきまでいた場所、石造りのリングの一角が、一撃の鞭でまっぷたつに!!

 

 

 

ひええええええええええええ~~っ!!!

 

 

 

「ず、ずるいです!!まだ試合開始って言われてないうちから攻撃するなんて反則ですよ、審判さん!見てましたよねー!!はい、失格不戦勝、ポーとイルミチームの勝ち!!」

 

 

 

「あ、いいね。それ」

 

 

 

「うおほほほほほほほほ!!!寝言は死んでからお言いなさい!!」

 

 

 

否しかし、そんな私の御託は真っ白な美脚を露わにリングに降り立ったランさんの高笑いと……

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおランさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーー!!!!」

 

 

 

「踏んで下さい!!」

 

 

 

「蹴って下さいいいい!!」

 

 

 

「なじって!!」

 

 

 

「叩いてーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

……その他、諸々の歓声にかき消されてしまいましたとさ。

 

 

 

「ず、ズルい……!!」

 

 

 

こんなことぐらいでこの試合が終わっちゃったら、観客が暴徒化してえらいことになりそうだからだろうか。

 

 

実況中継のお姉さんも、私の言葉は完全無視で、束になったマイクをひっつかんだ。

 

 

 

『さーて、ついに両選手がリングに揃いました――!!天空闘技場、本日最大の目玉の一本勝ーーー負ーーーーっ!!!なびく黒髪、一糸乱れぬ鉄面皮、不動の死神イルミ選手ーー!!そしてそしてぇ、毎度の試合、なんにもしてないのになぜか勝ち上がっているポー選手ーーーッ!!』

 

 

 

「ちょっと!!なんにもしてないように見えるのはイルミと一緒なのに、なんで私だけそんな言われようなんですかーー!?」

 

 

 

「ポーッとしてるからだよ」

 

 

 

とても失礼なイルミの言葉に、観客の黄色い歓声が重なった。

 

 

 

ラ、ランさん……その格好でセクシーに屈んでポージングなんてされた日にはもう、もう……!!

 

 

 

「私、もし暗殺されるならランさんに依頼されてもらおう」

 

 

 

「ちょっと」

 

 

 

『レディース、アーンド、ジェントルメーン!!この試合、対するはこの天空競技場始まって以来の最強コンビ、ラン&シロガネ選手――――!!!』

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおランさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――っっ!!!!!」

 

 

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああシロガネさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――っっ!!!!!!」

 

 

 

『無音!そして瞬殺!繰り出される技の数々は、謎にして無敵!!100階から190階クラスを行ったり来たりすること10回以上!!稼いだ額は数知れず、もろもろの強者が、彼等に指一本触れることなく敗退していきましたーー!!しかししかし、その華麗な姿をなんとかカメラに収めようと、来場者数ははうなぎのぼりの一途を辿っておりまーーすっ!!モノによれば、顔写真だけで1億ちかい金額がついておりますこの二人!!かくいう私も、シロガネ選手のプロマイドを一枚……野郎ども!!フィルムとデータカードの準備はいいか――――!!!???』

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおきゃああああああああああああああああああああああああああ抱いて――――――――っっ!!!!」

 

 

 

「……なに、このアウェイな感じ」

 

 

 

「うーん。サポーターも選手の一員っていうけど、本当にそうだね」

 

 

 

ふむ、と、ランさんの際どいチャイナ姿を凝視していたイルミが、ふと私に視線を向けた。

 

 

 

嫌な予感。

 

 

 

「……何?」

 

 

 

「露出度、か。確かに足りない気がする。ていうか、ポーの今着てるそれ、いつも着てる仕事服だろ?水陸兼用の。しまったなー、これを期にちゃんとした戦闘服を用意しておくんだった」

 

 

 

また今度仕立ててあげるからね、と無表情にのたまうイルミに、一抹の不安が胸をよぎる。

 

 

 

一体、どんな戦闘服を仕立てようと言うのか……!!?

 

 

 

でも、私のツッコミはすっと差し出された右手に制された。

 

 

 

くりっと、イルミが首を傾げる。

 

 

 

「ポー」

 

 

 

「え……?」

 

 

 

「頑張ろうね。二人で海に潜った時のこと、思い出して」

 

 

 

「――うん!!」

 

 

 

しっかりと頷いて、その手のひらを握り返した時。

 

 

 

審判さんの手が天に伸びた。

 

 

 

「試合開始!!」

 

 

 

声とともに、リングを蹴って前へ出る。

 

 

 

余裕しゃくしゃく、と言わんばかりに向かえうつシロガネさんの姿が、凝をした視界の中で、ほんの一瞬揺らいで見えた。

 

 

 

やっぱりだ。事前にイルミに言われた通り、目の前に見えているはずの彼の姿は残像なんだ。

 

 

 

本物は、今まさに、守りの泡に触れようとしている――

 

 

 

「――捕まえた!イルミ――っ!!」

 

 

 

敵の手刀が触れると同時に触手が発動。

 

 

 

あれ!?

 

 

 

で、でもでも、捕まえたのはシロガネさんじゃなくて――

 

 

 

「残念でしたわね!」

 

 

 

「ランさん!?うそお!今飛びかかってきたのは確かにシロガネさんだったのに!!」

 

 

 

「オーッホホホホホホ!!直前で摩り替わるなんて、他愛ないですわ!!」

 

 

 

両手両足をテンタ君に絡めとられたまま、高笑いするランさん……え、じゃあイルミは?

 

 

 

ストトトッ!

 

 

 

足元に、エノキが3つぐらい突き刺さった。

 

 

 

角度から見て、空中から床に向かって放たれたものと思われる。

 

 

 

しかし、その姿は見えない。

 

 

 

イルミどころか、シロガネさんも見えない。

 

 

 

……シュッ、とか、フッ、とか、時々天井から降ってくるのは、僅かに空気を揺らす程度の微音ばかり。

 

 

 

こ、これが殺し屋さん同士の戦いか。

 

 

 

「……なんか、凄いのに地味ですね」

 

 

 

「地味で悪かったな」

 

 

 

「うひゃああああああああああっ!!?」

 

 

 

耳元に響く低音ボイス!!

 

 

 

ズザザ―――――ッと飛び退いた拍子に、ランさんは手首の関節を素早く外して、拘束を逃れた。

 

 

 

うううう怖い!!

 

 

 

「あ、ポー。ダメじゃない、ランを逃しちゃ。どっちか片方は捕まえといてくれないと、俺一人であの二人を相手にするのは100%無理だよ?あ、あと、殺し屋に地味って言うの、禁句だから。割と傷つくからやめてよね」

 

 

 

私の隣に、音もなく現れるイルミ。

 

 

 

表情は涼しげで、口調も相変わらずだけど、念の泡の中に一緒に入っていれば普段よりも高い体温や、心拍数の乱れが伝わってくる。

 

 

 

す、すごい。

 

 

 

イルミがこんなに必死になって戦っているのに、ランさんの隣に立つシロガネさんは傷らしい傷すら負っていないじゃないか。

 

 

 

「ご、ごめん。思いの外、シロガネさんが近くにいたから驚いちゃって」

 

 

 

「それは単に、奴にポーを攻撃する気がなかったからだ。初撃は完璧に防げていたから、自信を持っていい。常に、深海にいる自分を想像するんだ。俺の動きは無視すること。ポーが獲物を捕えて、きちんと防御さえ行なっていてくれたら、俺は自由に動ける」

 

 

 

淡々と、しかし、的確に。集めた敵の情報を与えてくれる。

 

 

 

「試合開始と同時に、まずシロガネが両手両足にオーラを集めて跳びかかった。打ち合わせどおり、絶状態になったあいつのボディーに、俺が致命傷を食らわせるはずだった。でも、直前に、ランに割って入られて邪魔されたんだ。そのおかげで、ランの左腕を折ることができたけど」

 

 

 

「ええ!?ランさんの腕、折っちゃったの!!?」

 

 

 

「本当は右腕が欲しかったんだけどね。でもこれで、鞭を振るう時に若干の支障が出るはずだ」

 

 

 

こんなとき、まったくもって表情の変わらないイルミが、ちょっとだけ怖いと思う。

 

 

 

ああ、でも本当だ、すらりと伸びていたランさんの左上腕辺りがいびつに曲がって腫れてるよ痛そう!!

 

 

 

会場はもちろん、私たちに向けての大ブーイング!!!観客たちが寄ってたかって缶ビールやパイプ椅子、あげくインスタントカメラまで投げ込んでくるもんだから、審判さんの手が上がって、試合はその場で、一時中断の事態に追い込まれている。

 

 

 

で、でもでも、油断なんか出来ない。

 

 

 

このくらい大したことありませんわ、と折れた腕をぶんぶん振り回して見せるランさんを、じっと見つめているシロガネさん……その身に纏うオーラが、さっきとは比べ物にならないくらいに密度と量を増したからだ!!

 

 

 

ギロ、と青い眼光がこちらを向いた時、私とイルミは直感に任せて左右に飛んだ。

 

 

 

「――来る!!」

 

 

 

ズガアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

 

 

ぎゃああああああああああ――――――!!!!!

 

 

 

リリリリリングが半壊した―――ー!!!!

 

 

 

何ですかソレ、幻影旅団強化系、ウボォーさんの“超破壊拳”ですかシロガネさん!!?

 

 

 

もうもうと舞う土煙。

 

 

 

ハデに吹き飛ばされたリングの石版がドッカンドッカン落ちてきて、会場はもう大パニック!!

 

 

 

一目散に逃げる人、それでも試合の行方を観ようとリング手前まで詰め寄せる人でてんやわんやしてる!

 

 

 

お、おちつけ、とにかく落ち着くんだ私。

 

 

 

イルミはまたどっか行っちゃったけど、彼ならきっと大丈夫。

 

 

 

取り敢えず、このでっかい瓦礫の影に隠れて気を鎮めなきゃ……ここは、深海、海の中……ちょっと騒がしい海の中……ふう。

 

 

 

「さて、状況を分析してみよう」

 

 

 

「そんな暇をやると思うか?」

 

 

 

「嫌あ―――――っっ!!気配もなく背後から手刀とかほんと止めて下さい怖い!!!」

 

 

 

ぷるん、と防げたから良かったものの、当たってたら首が飛んでたよ!!

 

 

 

ソレが証拠に、私の身代わりになった大きな瓦礫が真っ二つですよ怖い!!

 

 

 

慌てて間合いを取る私を、シロガネさんは獲物を追い詰める獣の眼差しで見据えてくる。

 

 

 

うわあああああああかっこいい怖い!!

 

 

 

「アンタのその能力――正直、ここまで面倒だとは思わなかった。俺に、よもや簡単には殺せない相手が現れるとはな……面白い」

 

 

 

「!?」

 

 

 

気配が増えたと思ったとたんに、右から蹴り!!

 

 

 

「――“驚愕の泡”!!」

 

 

 

防ぐ。

 

 

 

一撃では終わらないシロガネさんの猛攻から、私はただ、身を守ることだけを考えた。

 

 

 

防ぐしかない。

 

 

 

なにも考えず、ただ与えられる凄まじい衝撃を、その圧力を、柔軟に受け流す他、この環境で生き残る術はない。

 

 

 

イルミは側にはいない。

 

 

 

砂埃が視界を埋めて、姿も見えない。

 

 

 

でも、ハンター試験以来、ずっと私の成長を見守ってきてくれた彼の言葉が、私の中にある。

 

 

 

イルミの言葉を信じよう。

 

 

 

必ず、私はシロガネさんの攻撃を、全て防ぎきる事が出来るはずだ。

 

 

 

水の中で、あのシルバさんの殺人拳を受け流すことが出来たように――

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

そこまで考えたとき。

 

 

 

私は、あることに気がついてしまった。

 

 

 

なんだろう。

 

 

 

なんだろう、この感じは。

 

 

 

例えるなばら、決して解いてはいけない問題の、答えにたどり着いてしまったような――

 

 

 

まさか。

 

 

 

まさかああああああああああああああっ!!!???

 

 

 

「ハアアッ!!」

 

 

 

気迫とともに押し出された拳を、

 

 

 

「――“見えざる助手達(インビシブルテンタクル)”!!」

 

 

 

「……チッ、もう一方の能力か。だが、この程度の拘束なら、抜け出すことは容易い」

 

 

 

「……」

 

 

 

深呼吸、一つ。

 

 

 

捕食!!!

 

 

 

ズギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!

 

 

 

お腹が空いた、腹減った。強く念じ、触手の先から捉えたもののオーラを吸い取る。

 

 

 

それで、そこで。

 

 

 

私の頭の中で、かもしれない、が、やっぱり!に変わった!!

 

 

 

この、甘く芳醇な……濃厚なブランデーのような舌触りの良いオーラは。

 

 

 

「……………………………………………シルバさん」

 

 

 

「うん?」

 

 

 

「……………………………………………うん?じゃないですよ。何やってるんですか、こんな所で。そんな格好して」

 

 

 

目の前に突きつけられた衝撃は、まがいもない事実である。

 

 

 

しかし、私の理性が。それを事実として受け入れることを、断固として拒否しているっ!!

 

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお嘘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!

 

 

 

「なんでっ!!?だだだだだってその顔、どうみたって20代じゃないですか!!整形ですか!?いい歳こいて、そこまで若作りしたいんですか!!?」

 

 

 

「失礼な奴だな。俺は変化系だが、曽祖父から強化系の素質も色濃く受け継いでいる。肉体を強化させれば、一時的に若返ることも可能だ。変装にも使えて便利だぞ」

 

 

 

「じゃ、じゃあ、もしかしなくてもその、あの、、ランさんは――」

 

 

 

触手にオーラを吸い取られるままに、シロガネさん……改め、ゾルディック家大黒柱シルバさんは、無常にも深々と頷いた。

 

 

 

「キキョウだ」

 

 

 

「嘘――っ!!」

 

 

 

もうなんか、何もかもが信じられなくなってしまった私。

 

 

 

うっかりと、集中を途切れさせてしまった――その、一瞬にして最大の隙を、この御方が見逃して下さる訳がなかった。

 

 

 

「悪いがその腕、貰うぞ」

 

 

 

「――え」

 

 

 

間に合わなかった。

 

 

 

動揺していたから?

 

 

 

触手を同時に発動させていたから?

 

 

 

気配も前触れもなく繰り出されたシルバさんの蹴り。

 

 

 

左脚の向こうずねが、私の左腕……イルミがキキョウさんの骨を折った同じ箇所を、正確に、無慈悲に、打ち据えた。

 

 

 

「――っうわあああああああ――――――っ!!!」

 

 

 

ボキイッ!と、今まで聞いたこともない鈍い音が、強烈な痛みとともに脳髄まで突き上がる。

 

 

 

頭の中には、目も眩むほどに点滅する危険信号。

 

 

 

逃げろ、逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ……!!!!

 

 

 

幸いにも、容赦なく蹴り抜かれた私の身体は、立ち込める砂ぼこりを突き抜けて場外まで吹き飛ばされた。

 

 

 

霞む意識の中、なんとか念の泡を発動させて、地面との接触ダメージを防ぐ。

 

 

 

逃げろ、でも、一体どこに。

 

 

 

そのとき、涙で歪んだ私の視界に、非常灯の緑のライトが飛び込んできた!

 

 

 

「ポー!!」

 

 

 

「イルミ……っぐぅ……っ!あそこの出口から、い、いったん撤収……!!」

 

 

 

「分かった」

 

 

 

イルミ……!!

 

 

 

よかった!!

 

 

 

きっと、さっき上げた私の悲鳴を聞きつけてくれたんだろう。

 

 

 

あり得ない方向に曲がった左腕を、イルミは物言いたげな目で一瞥した。そして、地面に横たわった私の身体を難なく抱き上げると、会場の外に通じる非常出口から直ちに走りさった。