「母さんに姉妹?」
都内ステーキハウス展望席にて。
私たちは遅めの昼食をとっていた。
吹き抜ける風。
青空をバックに、そびえ立つ天空闘技場が遠くに見える。
ジュウジュウ、焼きたてのステーキを手際よく切り分けながら、イルミは怪訝に首を傾げた。
ちなみに、彼は私服である。
ノースリーブのシャツに、裾の部分に炎のプリントが入った、ゆったりめのボトムス。
わかる人にはわかる組み合わせだよね!!!
生で見れた~~っ!!
感無量!!
「姉妹か……さあ、いるのかな?聞いたことないから知らないや。どうしてそんなこと聞くの?」
「あのね、さっき戦ったランさんって人、しゃべり方とか、雰囲気とか、キキョウさんにそっくりだったんだ!だから、お姉さんか妹なのかなって」
「ふーん。どんなこと言われたの」
「『本当に、出来の悪いこと』って」
「うわー、酷い。母さんたら普段ポーにそんなこと言ってるんだ。嫁イビりじゃないか。ポー、次にそんなこと言われたら、ちゃんと俺に言うんだよ?」
「だ、大丈夫だよ。言われて当然のことを色々しちゃってるからさ……寝坊したあげく、キキョウさんのオーラ食べちゃったり」
「それはそうかもしれないけど……はい、切れたよ。ポーの分」
「ありがとう!うひゃあ~っ!美味しそう~~!!」
食べやすい大きさに、綺麗にカットされたお肉は、外は香ばしく、中はほんのりピンク色で、湯気がホカホカ、肉汁がじゅわ~~っと!!
「いっただっきま――」
「あ、やっぱり待った」
ひょい、と、直前でお皿を取り上げるイルミ。
ズペッと見事に空振りした私は、盛大につんのめった。
「なんでっ!!!??」
「その前に、ポーには俺に言うことがあるんじゃないの?」
はうう!?
このタイミングで……!!
言うこと?
言うことっていったらやっぱり……あれ?
「ご、ごめんなさい……」
「うん。謝るってことは、なにかを悪いって自覚してるってことだよね。なにに対して悪いと思っているのかな」
「……う、だ、大学の研究のための資金集めのこと、わざと黙ってました。ごめんなさい……」
「ふーん。わざとだったんだ。バレたら怒られるってことは、分かってたんだろ。そういうことをあえて言わないのは、嘘をつくのと同じだよ?」
「うう……!」
イ、イルミが言いながら少しずつお皿を持った手を傾けていく……!!
ズルズル、ズルズル、ステーキが、床に向かって落ちるううう………っ!!
シャッ!
無意識に伸びた触手が、斜めに傾いたお皿を水平に戻した。
ぴく。
イルミの眉毛が少ーしだけ上がる。
「ごごごごごめんっ!!だってだって落っこちたらもったいなさすぎて私、私――!!」
「わかったよ。あげるから、泣くのはやめて。そのかわり、もうあんな意地悪するのやめてよね」
「意地悪!?」
私がイルミに?
いつ!!?
「無自覚?婚前流行を利用してお金もうけしようとしてたくせに。俺、結構ショックだったんだけどなー」
チラリ、と指の間にエノキをちらつかせるイルミ。
そ、そこを突かれると辛いなー。
「ご、ごめんね、イルミ……うちの大学の研究室、まだまだ小さくてお金なくてさ……そのくせ、私がハンターだからって舞い込む仕事はどんどんレベル高くなっていくもんで、困ってたんだよね……」
「……」
「未来ある学生さんたちを、下手な装備で危険な目にあわせるわけにはいかないし。かといって、仕事を断ってばかりいるわけにはいかないし……天空闘技場なら、強くなって、お金もらえて、その上、観光もできて温泉はいれて美味しいもの食べて、一石五鳥って……調子のってました……ごめんなさい」
「……うん。わかったよ。もう怒ってないから、泣くのやめるか食べるのやめて、どっちかにしない?ポー、そういうことは、今度からちゃんと俺にも話してよね?」
くりっと首を傾げるイルミに、私はエグエグ涙と鼻水をすすりながら、口にはしっかりステーキを詰め込みながら頷いた。
「れ、れもは、ひっはらひるひ、へっはいほはへはふっへひうほほほっへ!!」
「うん。言ったと思うよ。俺がお金出してあげようか?ってね。でも、ポーはそれを嫌だって思うんだよね?俺が人を殺して稼いだお金だから」
「ち、違うよ!嫌だって思うんじゃなくて、悪いなって思うの!そんなの言うんだったら私の稼いだお金だって、何千って生き物を殺して解剖して食べたりして貰ったものだよ?お金はお金でしょ。しっかり生きていくためだもん。しっかり稼がなきゃ!」
「……うん」
ぱく。
ミディアムレアのステーキを上品に口に運んで、イルミはまた、さっきのように目を細めた。
「俺さ」
「うん?」
「ポーのそういうところ、好きなんだよね」
「へ……!?」
耳の先まで真っ赤になってしまった私を、イルミはいつまでも楽しそうに見つめていた。