7 ステーキにごめんね!!

 

 

 

 

 

「母さんに姉妹?」



都内ステーキハウス展望席にて。

 

 

 

私たちは遅めの昼食をとっていた。

 

 


吹き抜ける風。

 

 

 

青空をバックに、そびえ立つ天空闘技場が遠くに見える。



ジュウジュウ、焼きたてのステーキを手際よく切り分けながら、イルミは怪訝に首を傾げた。

 

 

 

ちなみに、彼は私服である。

 

 

 

ノースリーブのシャツに、裾の部分に炎のプリントが入った、ゆったりめのボトムス。

 

 

 

わかる人にはわかる組み合わせだよね!!!

 

 

 

生で見れた~~っ!!

 

 

 

感無量!!

 



「姉妹か……さあ、いるのかな?聞いたことないから知らないや。どうしてそんなこと聞くの?」



「あのね、さっき戦ったランさんって人、しゃべり方とか、雰囲気とか、キキョウさんにそっくりだったんだ!だから、お姉さんか妹なのかなって」



「ふーん。どんなこと言われたの」



「『本当に、出来の悪いこと』って」



「うわー、酷い。母さんたら普段ポーにそんなこと言ってるんだ。嫁イビりじゃないか。ポー、次にそんなこと言われたら、ちゃんと俺に言うんだよ?」



「だ、大丈夫だよ。言われて当然のことを色々しちゃってるからさ……寝坊したあげく、キキョウさんのオーラ食べちゃったり」



「それはそうかもしれないけど……はい、切れたよ。ポーの分」



「ありがとう!うひゃあ~っ!美味しそう~~!!」



食べやすい大きさに、綺麗にカットされたお肉は、外は香ばしく、中はほんのりピンク色で、湯気がホカホカ、肉汁がじゅわ~~っと!!



「いっただっきま――」



「あ、やっぱり待った」



ひょい、と、直前でお皿を取り上げるイルミ。



ズペッと見事に空振りした私は、盛大につんのめった。



「なんでっ!!!??」



「その前に、ポーには俺に言うことがあるんじゃないの?」



はうう!?



このタイミングで……!!



言うこと?



言うことっていったらやっぱり……あれ?



「ご、ごめんなさい……」



「うん。謝るってことは、なにかを悪いって自覚してるってことだよね。なにに対して悪いと思っているのかな」



「……う、だ、大学の研究のための資金集めのこと、わざと黙ってました。ごめんなさい……」



「ふーん。わざとだったんだ。バレたら怒られるってことは、分かってたんだろ。そういうことをあえて言わないのは、嘘をつくのと同じだよ?」



「うう……!」



イ、イルミが言いながら少しずつお皿を持った手を傾けていく……!!



ズルズル、ズルズル、ステーキが、床に向かって落ちるううう………っ!!



シャッ!



無意識に伸びた触手が、斜めに傾いたお皿を水平に戻した。



ぴく。



イルミの眉毛が少ーしだけ上がる。



「ごごごごごめんっ!!だってだって落っこちたらもったいなさすぎて私、私――!!」



「わかったよ。あげるから、泣くのはやめて。そのかわり、もうあんな意地悪するのやめてよね」



「意地悪!?」



私がイルミに?



いつ!!?



「無自覚?婚前流行を利用してお金もうけしようとしてたくせに。俺、結構ショックだったんだけどなー」



チラリ、と指の間にエノキをちらつかせるイルミ。



そ、そこを突かれると辛いなー。



「ご、ごめんね、イルミ……うちの大学の研究室、まだまだ小さくてお金なくてさ……そのくせ、私がハンターだからって舞い込む仕事はどんどんレベル高くなっていくもんで、困ってたんだよね……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「未来ある学生さんたちを、下手な装備で危険な目にあわせるわけにはいかないし。かといって、仕事を断ってばかりいるわけにはいかないし……天空闘技場なら、強くなって、お金もらえて、その上、観光もできて温泉はいれて美味しいもの食べて、一石五鳥って……調子のってました……ごめんなさい」




「……うん。わかったよ。もう怒ってないから、泣くのやめるか食べるのやめて、どっちかにしない?ポー、そういうことは、今度からちゃんと俺にも話してよね?」



くりっと首を傾げるイルミに、私はエグエグ涙と鼻水をすすりながら、口にはしっかりステーキを詰め込みながら頷いた。



「れ、れもは、ひっはらひるひ、へっはいほはへはふっへひうほほほっへ!!」



「うん。言ったと思うよ。俺がお金出してあげようか?ってね。でも、ポーはそれを嫌だって思うんだよね?俺が人を殺して稼いだお金だから」



「ち、違うよ!嫌だって思うんじゃなくて、悪いなって思うの!そんなの言うんだったら私の稼いだお金だって、何千って生き物を殺して解剖して食べたりして貰ったものだよ?お金はお金でしょ。しっかり生きていくためだもん。しっかり稼がなきゃ!」



「……うん」



ぱく。



ミディアムレアのステーキを上品に口に運んで、イルミはまた、さっきのように目を細めた。



「俺さ」



「うん?」



「ポーのそういうところ、好きなんだよね」



「へ……!?」



耳の先まで真っ赤になってしまった私を、イルミはいつまでも楽しそうに見つめていた。