12 弟子入り完了!修行開始!!

 

 

 

 

 

 

さて。



ウィングさんの道場へ招かれた私たちは、さっそく、ランさんやシロガネさんに絡まれることになった経緯や、彼女たちと試合をするため、100階に上らなければならなくなったことを彼に伝えた。



飾り気のない道場の一室。



テーブルを挟んで座ったウィングさん、私とイルミの前に、ズシが淹れたてのお茶とお菓子を運んでくれる。



話を聞いた後、ウィングさんは思案するようになにも話さなかった。



ズズ……と、彼が静かにお茶を飲む音が、緊張のためか妙に大きく感じる。



ややあって、ウィングさんはゆっくりと顔を上げた。



「なるほど。お話は分かりました。それで、あなたは堅と流の会得のために、その基礎である四大行をもう一度修業し直したい、そう仰るのですね?」



「はい!発まで形にしたっていうのに、今更基礎を教えて下さいなんて、情けないかもしれないですけど……基本がしっかり修得できていないうちに、複雑なことをしようとしても、無理だと思うんです!」



「ふむ」



これから弟子入りしようっていうのに、変な見栄なんか張ったって仕方ないじゃないか。



これは、事前にイルミにも言われていたことでもある。



強くなりたいなら、自分の弱味を師に隠しちゃいけない。



私は席を立ち、ウィングさんに向かってきっちり頭を下げた。



 「お願いします!ハンター試験が終わってから、だいぶん時間が経ってますけど、裏ハンター試験、受けさせて下さい!!」



「……お気持ちはよく分かりました。ですが、ひとつだけ。ポーさん、あなたを弟子にするかどうかを決める前に、お尋ねしたいことがあります」



「な、なんでしょうか」



「ハンターになったあなたが、この先、なにを成したいかを教えて下さい。今、あなたが追い求めようとする力、強さは、それを成すために本当に必要なものなのですか?」



落ち着いた、深い、川の淵のような眼差しで、ウィングさんは私を見つめてくる。



嘘を暴き、本心を探ろうとするその鋭い慧眼に、私は真っ向から向き合うことができた。



だって……!!



「はい!そう思います。私は海洋生物専門の幻獣ハンターなんですけど、主に、深海に生息する生き物に焦点を絞って、研究をすすめているんです。目下の目標は、高い水圧に堪え、様々な水質や水温に適応し、進化してきた彼らの優れた生体エネルギーの秘密を解明すること!!それが出来れば、今まで誰も考えつかなかったオーラの扱い方や、新たな念能力の可能性が見つかるかもしれないんです!!この半年間、観察して徐々に分かってきたんですけど、人が「念」として作り上げてきた概念を、生き物たちは生きる上で自然とやってのけてるんですよね。でも、中には本当に、驚くほど突拍子のない生体エネルギーの使い方をする生き物もいるんです。そして、そういうやつらはとんでもなく強くて、油断してるとパックリ食べられちゃうんですよ。だから、出来るかぎり強くならきゃいけないし、それに、研究には私の他にも沢山の学生さんたちも関わってくれているんです。いざというとき、私は彼らを守らなくちゃ。念の基本でつまづいている場合じゃないんです!!全世界の海洋生物
学者の祭典にして饗宴、神秘の常闇と唄われるバルトワナ海溝を有する紺青の大海……パドキア海の夏は、もう、すぐそこまで迫っているというのに!!」



「ポー、ポー」



トントン。



イルミの指が、私の肩を叩く。



「なに?」



「アレ」



くい、と指差す。



はたと目をやると、ウィングさんが椅子からずり落ちていた。



彼の胸ぐらを、念の触手が掴んでいる。



触手……?



「うわはああああっ!!す、すすすすみません、ウィングさん!!熱弁するとつい我を忘れちゃって……!!」



「いえ、大丈夫です……しかし、なるほど。あなたの操る念は少々癖が強いらしい。理性でなく、本能的、直感的にオーラを操ってしまうふしがあるようですね」



触手から解放され、シャツの乱れと外れかけたメガネを整えるウィングさんを横目に、イルミはのんびりお茶菓子をかじった。



「ほんと。それは悪い癖だよー」



「イルミだって昨日はぷっつりキレちゃったじゃない!」



「……ポー。それ、一体誰のせいだと思ってるの?」



ウォン……!



うひゃあ!!



イルミのオーラが黒紫でウォンウォンしてて息苦しくて怖いっ!!



しかもイルミ、操作系だから、湯飲みの中の茶柱がものっすごい勢いで回ってるよ怖いっ!!



「わ、私が油断したからですごめんなさい二度と気を抜いたりしませんごめんなさい!!」



「うん。絶対だからね」



フシュウウウ……。



はあ、はあ、よ、よかったおさまった。



「こ、怖かった……」



「ほんとっす!!無茶苦茶怖かったっす!!ほんとやめて欲しいっす!!」



「ズシくん、大丈夫?ごめんね、イルミのオーラはなにかと物騒だから、危ないと思ったらすぐに纏でガードかダッシュで逃げなきゃダメだよ?」



「……それを、笑いながら話せるポーさんも、すごいっす」



「分かりました!」



ガタン!



突然、椅子から立ち上がって、ウィングさん。



びびびっくりした。



強化系なんだから声量には気をつけて欲しいよ……全く。



あれ、でも今、「分かりました」って――



「ウィングさん。それって……!!」



「ええ、ポーさん。あなたの希望通り、今日からあなたを、私の弟子に迎えましょう」



「やった――っ!!ありがとうございます!!」



「イルミさん。でしたね、あなたはどうされますか?」



「俺は君の弟子になるつもりはないけど、ポーの側にいるつもりだ。俺とポーはダブルスでランとシロガネの二人と戦わなきゃいけないから、彼女がどう成長するか、見守る必要がある」



「なるほど。ちなみに、お二人はどういったご関係で?」



「夫婦」



ズビバシィッ!



と、眉ひとつ動かさずに、イルミ。



「こっ、婚約者でしょ!?まだ結婚してないし、籍も入れてないもん!!」



「そんなの、あとはポーの一言があればいつだって出来るんだから、別にいいじゃない」



「よくないっ!!」



「つ……つまり、ポーさんはキルアさんのお兄さんと、こっ恋人同士ってことっすか!?」



「ズシ、耳まで真っ赤ですよ。しかし、そうですか……そうなると、ううん」



んむう、と、いきなり難しい顔をして黙りこくってしまうウィングさん。



「え!?ダメなんですか?ウィングさんの道場、道場内恋愛は禁止とか……?」



「いえ。しかし、万が一、ズシの教育上よろしくない場面に出くわしてしまった場合、師である私はどう対処したらよいものかと」



「修業中ですから!!万が一にもそんな場面は作りませんからっ!!」



「え―」



「そこっ!あからさまに不満がらないっ!!」



はあ……。



なんとか弟子に入ることには成功したけど……色々と、前途多難のようです。