9 ☆地上100階、お仕置きの夜!?

 

 

 

 

「……イ、イルミ?」

 

 

 

「……」

 

 

 

痛い。




痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!



「イ、イルミってば、痛い!そ、そんなに腕ひっぱらな――」



ギロッ!



イルミが睨んだ!?



怖っ!!



私の手首を握りしめ、エレベーターで100階へ。



物も言わず、脇目もふらず、天空競技場の廊下を直進する。



こっ、怖い!!



怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!!



「~~~~っっ!!」



イルミが怒ってる。



ここに来たときも一度怒らせちゃったけど、そんなのはもう、ちょっと舌打ちをした程度に思えてくるくらいに怒ってる!!



怒髪天をつく、というか。



ほとばしるオーラがもう、凝をしなくても目に見えるくらい物騒なんですけど!!



「イ、イルミ……」



「黙れ」



ううっ!



ううう~~っ!!



な、涙が勝手に溢れてくる。



生理的な恐怖って、こういうのを言うのかな……!?



別に寒いわけでもないのに、さっきから、身体の震えが止まらない。



イルミのことがこんなに怖いと思うなんて。



……どうして?



もしかして、イルミ、部屋に着いたら私のこと――





 

 

 



殺そうと、思ってるんじゃ。





 

 

 

 


「ポー」



ビクッ!!



いきなり立ち止まったかと思えば、イルミは掴んでいた腕を乱暴に放した。



あ、部屋の前についたんだ。

 



受付で渡されたカードキーを使って鍵をあけ、まるで、エスコートをするようにドアを開く。

 


すっとすがめられる漆黒の目。

 

 

「ポー。どうする?」



「どうするって……」



「俺と来る?それとも逃げる?逃げるなら今しかないよ。これが今の俺に出来る、最大限の譲歩だ」



「……」



「どうする?」



「……行く。イルミから逃げる理由なんてないもの」



「……分かった」



部屋に入った瞬間、後ろからイルミの手刀が飛んできた。



「“驚愕の泡(アンビリーバブル)”!!」



振り向きざまに、受け流す!



手刀の威力はさほどない。



おそらく、気絶させようとしたんだろう。



イルミは真顔だった。



素早く体勢を立て直すと、後ろ手にドアを閉め、一歩、また一歩と、私との距離を詰めてくる。



右の腕を水平に。



指の先まで、真っ直ぐに伸ばす。



こ、この構えは!



原作ハンター試験で、イルミがキルアを脅したときのやつだ……!



「動くな。少しでも動けば攻撃とみなし、戦い開始の合図とする。同時に、俺とお前の身体が触れても、戦い開始とする」



「……」



ジリジリ、少しずつ。



少しずつ。



イルミの指が迫ってくる。

 

 

 

長い、五指の先にまで満たされたオーラが、はっきり見える。

 

 

 

冷たくて、静かで、底の知れない淵のような、イルミのオーラ。

 

 

 

暗殺者としての彼を目にしたのは、そう言えば、これが初めてだ。

 

 

 

寒くて、怖くて、身体の震えが止まらない。

 

 

 

心臓がもう、速く脈打ち過ぎて壊れそう。

 

 

 

後ずさることも、避けることも出来ない。

 

 

 

出来ない、けれど---

 

 

 

「逃げないって言うもんだから、素直に俺の好きにさせてくれるんだと思ったのに。違うんだ?水の中ならまだしも、室内戦で殺し屋の俺に勝てると思ってるの?」



「思ってないよ。戦おうとも思ってないもん……」



「……!」



ぽすっ、と。



イルミの手のひらに頭を埋めた。



直前までオーラが集中されていたのに、触れた瞬間、嘘みたいに散り散りになる。



てっきり握りつぶされるんだと思ってたのに、イルミは直立不動のまま、なにもしなかった。



手のひらから伝わる僅かな震えが、彼の動揺を教えてくれる。



やがて、小さなため息が沈黙を破った。



「ポー、危ない。防御もせずに触れにくるなんて、賭けみたいなことしないでよね……今の、ギリギリだったよ?ポーの顔、グチャグチャに潰しちゃうところだった」



「…………ごめん」



「……」



イルミはもう一度ため息をつき、額に置いていた手のひらをずらして、私の頬を伝う涙をぬぐった。



おいで、と手を引く。



押し込まれたのはバスルームだった。











       ***










「こんな痕、つけられて」



「……うあっ!」



首筋を這っていた唇が、ある一点をきつく吸い上げる。



キスと言うには、あまりにも乱暴だ。



針で刺されたような鋭い傷みに、じんわりと涙がにじんだ。

 

 

 

「っぃ、つぅ……!」

 

 

 

「うん、よかった。綺麗に消えたね。でも俺、まだ許してないから」



「イ、イルミ……?」



身じろいだ途端、後ろから回されたイルミの腕に、連動するように力がこめられた。



同時に、裸の身体が密着する。

 

 

 

「動いちゃ駄目だよ?」

 



お腹の辺りで揺れる水面に、一糸纏わぬ私の姿が映っている。

 

 

 

イルミの顔が、肩越しに覗いている。

 

 

 

「イ……ルミっ、こんなの……私」

 

 

 

「ダメだよ。逃がさない。それに、さっき言っただろ」

 

 

 

――これは、お仕置きだって。

 

 

 

唇が触れ合うくらいの距離でイルミが囁く。

 

 

 

普段、どちらかと言えば女声に近いの彼の声からは、想像もつかないほどの低い音。

 

 

 

こんな声が出せるだなんて、知らなかった。

 

 

 

腰に回された腕も、太ももを撫でている手のひらも、大きくて、強引だ。

 

 

 

顔だけ見れば女の人のようなのに。

 

 

 

男、なんだ--

 

 

 

ぼんやりと、そんなことを考えている間にも、イルミは私の動きを封じたまま、肩や背中にキスをしていく。

 

 

 

「……気が散ってるみたいだね。この状況で?ある意味尊敬するけど、いいの?ちゃんとお仕置き受けない気なら、俺、海月に嫌われるようなまねまでしちゃうよ?」

 

 

 

「ひ……っ!?」

 

 

 

やわやわと胸を揉んでいたイルミの指が、先端を押しつぶすように爪を立てた。

 

 

 

そのまま、親指と人差指で挟んで、グリグリと刺激する。

 

 

 

「や……うっ!?いた……い!いたい……よぉ、やめ……てぇ……!」

 

 

 

「当たり前じゃない。痛くしてるんだから」

 

 

 

「あ……っ、ああ……っ!……ルミ、イル……ミ、ごめ……なさ……」

 

 

 

「うん。気をつけてよね。俺今、ものずごく機嫌が悪いから。誰かさんのせいで」

 

 


ちゅ……ちゅっ。



言いながら、イルミは再び私の首に顔を埋め、思い知らせるように何度も口づけを落とした。



五回目のキスで、耳元へたどり着く。



「海月」



「ん……な、に……?」



「さっきの俺の不意討ちはあっさり防いだくせに、なんでアイツのキスは避けられなかったの……ひょっとして、わざとそうした?」



「ち、ちが……っ!ひ……あ……っ!ひゃあああうっ!!」



「海月?」



「み、耳もとで話すの、やめ……っひゃあああっ!!」



「ふーん。ああ、そう言えば、耳が弱いって言ってたよね。ハンター試験で、ヒソカに絡まれたときだっけ。海月はくすぐったがりなんだ……」



「……っ!や、やだやだ……!!」



ペロッ!



「ひゃうっ!?」



「海月。ダメだよ、動かないで」



「や、だ、だって……!!」



イルミが耳を舐めながら、ゆっくりとした口調で言う。



鼓膜をくすぐる艶のある低音が、興奮のためか少しだけ掠れている。



腰に当たる感覚が生々しい。



でも、わざとそれを擦りつけるような真似をイルミはしない。



耳もとで囁かれる声や、胸を包む手のひらの動きが、彼の思うままに私を導くのだ。



ズルい………!!



こんなの、ほんとに……ズルいぃっ!!



「ちょっ、ちょっとイルミっ!ほんとにダメ……も……やだ、放してっ!!」



「……動くなって言ってるのに。分からない?こんな風にくっついたまま動かれると、俺、困るんだけどなー」



チュプッ。



「やああっ!!」



前に逃げようとすればバスタブに阻まれ、後ろにはイルミがいる。



彼は私を膝の上に乗せ、なおかつ背中にのしかかるように体重をかけてきた。



逃げられない。



「逃がさない」



胸を弄るイルミの手に力がこもる。



妖しく下腹部を探っていたもう片方の指が、頃合いを見て中に潜りこんだ。



「ひ……ぃ、イ、イルミ……っ!」



「これでも俺、我慢してるんだよ?……本当は、今この瞬間にだって海月のことを滅茶苦茶に犯してやりたいって思ってるんだから」



「……っ!!」



首筋に、固く尖ったものが押し当てられる。

 

 

 

イルミの歯だ。

 

 


ブツッと、皮膚の破ける鈍い音。



人差し指で鎖骨をなぞられるような感触がくすぐったくて、手をやると、指先が真っ赤になった。



「血が出たね。痛い?」



冷静に言う。



胸を弄ぶのを止めたイルミは、私の手を取ると、ぱくっと口にくわえた。



指先から根本まで、熱い舌がねっとりと這う……同時に、下の指を激しく抜き差しされ、疼くような首筋の痛みが、あっと言う間に快楽にすり変わった。



おかしい。



イルミの手が、舌が。



気持ちよすぎておかしくなる。



達するギリギリまで高められては、ふいに、からかうみたいにはぐらかされる。



その繰り返し。



指が抜かれる、そのたびに、私は何度も泣きながらイルミにすがりついた。



なんだかもう、なにもかもが私の身体じゃなくなっていくみたいだった。



イルミの、好きにされていく――



「海月はさ、嫌がるくせに結構ヤらしいよね。お湯よりも海月の中の方が熱いし、水の中でも分かるくらい濡れてるよ?」



クスッ。

 

 

 

「……あ」

 



涙でぼやけた視界の向こうで、そのとき、確かにイルミが笑ったように見えた。

 

 

 

おずおずと腕を伸ばし、自分からイルミに向き直る。

 

 

 

「海月?」

 



「イ……ルミ……ぃ、ごめ……ごめんなさい……お願いだから、も……許してぇ……!」



「仕方ないなー。甘やかすのは今回だけだよ?」



「……んっ!」



「あ、でもこの台詞、確か前にも言った気がするなー、どうしようかなー」



ズチュッ!



ジュプッ、チュプッ!!



「ひ……あ……ああっ!は……!!」



「海月。許すのはいいけど、約束してね。二度と、あいつらの前で油断しないこと。これが守れないなら、俺は今回のことは絶対に許さないし、あいつらと戦ってもあげない」



「あっ!ひう………っ、あ、あ!!」



「海月。聞いてる?」



ガクガクと、壊れるほどに首を振る私を、イルミは少しだけ目を細めて見つめていた。



「よし。なら、お仕置き終了」



「……っ、ああああ―――っ!!」