「ちょ、イ、イルミってば、どこに行くの!?」
有無を言わさず、お姫様だっこで連れてこられたのはあの飛行場だった。
さっきとは違う、スッキリしたフォルムの黒い飛行船に乗り込んでいく。
まるで高級ホテルの室内のような内装……イルミは私をソファに下ろし、操舵に向かった。
手元のパネルに目的地を入力している。
「ちょっと街へね。ヒソカがいるんじゃ、気が散って出来るものもできないだろ?」
「ま、街って、今から?」
「うん。ヨークシンのホテルなら一室買ってあるし。飛ばせばすぐだから」
「買……?で、でも……なんでまたこんな遅い時間に――」
気が散る。
ホテル。
遅い時間。
いきなりだった。
頭の中で、これらの単語がぴったりと重なりあったのだ。
……まさか。
まさか!!??
「ポー?」
いきなり黙りこんでしまった私を不振に思ったのか、舵をとっていたイルミが振り返った。
無表情に私を見つめ、ひょい、と肩をすくめる。
「なんて顔してるの」
「だ………ど……なっ……!!?」
だって、どんな顔しろっていうの!!?
だって、だって、このままの流れだともう、確実にあんなことやこんなことにもつれこむじゃないの――!!
……え、さっき?
さっきは途中で寝ちゃたよ!!
仕方ないじゃない朝は五時起きだったし昼間はシルバさんに無茶されるし疲れてたんだから―――――っ!!!
「ねぇ、ポー。一人でブツブツ言ってないで、こっちにおいでよ」
おいでおいで、と無表情に手招きするイルミに、ぶんぶんと力一杯首を振る。
嫌じゃないよ!?
そりゃ、そりゃあ、覚悟はとっくにできてるし。
イルミと恋人同士になったら、そんなことも……出来たらいいなあなんて、チラッとでも思わなかったと言ったら嘘になるよ!!?
でもさ!!
いざこれからとなるとダメなわけ!!
大体、よく考えてみてよ!
私がイルミと半年ぶりに再会したのって、つい昨日のことなんですけど――!!!
「ポー」
「………!!!!!」
「あのさ、ちょっと落ち着きなって。こっちにおいで。いいもの見せてあげる」
「……へ?」
恐る恐る、イルミの側に寄ってみる。
すると、彼は私にも舵を握らせたのだ。
ちょうど、後ろからイルミに抱きしめられるような格好になる。
サラリ、と頬にかかる黒髪。
視線をやれば、イルミの整った顔がすぐ近くにあった。
「見て欲しいのは俺じゃなくて、下なんだけど」
「し、下?……わあっ!!」
光の海。
そんな言葉がピッタリ合う。
漆黒の闇に浮かぶ、大都市ヨークシンの夜景だった。
目映い光のひとつひとつが、動き、消え、灯り、色を変えて煌めいている。
「綺麗……」
「うん」
ポーと見れてよかった。
呟かれた言葉に、怪訝な顔をする。
「俺一人だったら、これを見ても、何も感じなかっただろうからね」
よく来る仕事先だし。
イルミの声は淡々としていた。
私はなんだか、その一言だけで色んなことを考えてしまった。
イルミの、これまでの生き方のこと。
子供のころの彼のこと。
考えて、考えて、そのことで胸がいっぱいになってしまった。
視界を埋める光の粒が、ひとつに溶けて、流れる。
「……ねぇ、イルミ」
「ん」
「これから、二人で色んなものを見ようね」
「うん」
「イルミがどこにいても、私が側にいるから」
「うん……海月」
「な………」
イルミの両手が頬を包み込む。
そのまま、唇が重なった。
それはイルミからのキスであり、私からのキスでもあった。
「海月」
キスの終わりに見つめたイルミの目が、柔らかく細められる。
「これからも、よろしくね」
「……こちらこそ!」
そして。
突然――斜めに傾ぐ視界。
「あ、舵とるの忘れてた」
「ひゃああああああああああああーーーーっっ!!!???」