4 食べられないものを食べるには?

 

 

 

 

 

「よかったね」



くりっ。



「よくないよ!!なんか、事態が悪い方へ、悪い方へと地滑りしてる気がする……!!」



「ポーは俺の嫁になるのと、女になるのと、どっちがいいの?」



くりっ。



「ひとの話を聞け――!!!不自由なニ拓を迫るな―――!!!」



かわいく小首をかしげるな――!!!



ううううっ!



結局あの場は、シルバさんの言葉でまとまって、この家の重鎮とミルキくん、カルトちゃんたちは広間から去っていった訳だけど……。



「もうやだ!!生きていけるか試すって、この先なにが起こるの怖い!!怖い怖い怖い怖い怖い逃げたい隠れたい……!!」



「ポーったら、また前みたいなこと言ってる」



「だって……」



「前って?」



キルアがチョコロボクンをかじりつつゴンにたずねる。



「ハンター試験を受ける前だよ。ポー、あのときも帰りたいって言ってたよね?」



「う……」



「でもさ、ポーはちゃんと最後まで頑張ったじゃない!念を覚えて強くなって、ヒソカにだって参ったって言わせたんでしょ?すごいや!」



ゴン……。



「大丈夫かな……また、あのときみたいに、自信を持って頑張ったら、乗り越えられると思う……?」



「うん!!」



「……」



ゴンは真っ直ぐに私を見つめてきた。



今度は、ハンター試験のときとは違う。



これはもう、ゴンが主人公の話じゃないんだ。



漫画にも、アニメにもなっていない……私だけのストーリーなんだ。



だからもう、未来がどうなるかなんて分からない。



ただ、信じて進むしかない――。



ポンポン、と頭を撫でられる。



イルミだった。



「ポーならやれるよ」



「イルミ……」



「やるよね」



「イル……」



「やれ」



「イルミの操作系!わかったよう、もう。やってやるよ!もう!!」



「そうこなくっちゃね!」



「俺たちも応援するぜ。ゴンと話してたんだけどさ、俺らも出来る限りこの家にいるようにする」



「え!?いいの、やることがあるんじゃないの?」



「大丈夫。俺たち、今グリードアイランドっていうゲームを手に入れようとしてるんだ。スッゲーレア物だから、買いとるには金がいる。普通に働いたって、とても時間が足りないから、ネット株やネットオークションでどうにか稼げないかと思ってさ。くじら島じゃ不便だし、ポーからの電話のこともあっただろ?どうせだから、帰るついでに、ミルキをひっぱりこみに来たわけ」



「あ、そっか」



本編のストーリー的にはその流れか。



「パソコンなら、どこでだって一緒でしょ?だから大丈夫。ポーの側にいるよ!」



「ありがとう。心強いよ」



にっこり笑うと、キルアが少し言いにくそうな顔をして見つめてきた。



「俺さ……、ほんとは、ポーのこと心配だったからさ。初めは反対しようと思ってたんだけどさ。イル兄とポーの様子を見てたら、なんか、このまま二人が結婚してくれたらいいのにって、思えてきた」



「キル」



「キルア……」



「ポーがこの家にいてくれるなら、俺にとっても、少しは過ごしやすい場所になるかもしれねーじゃん。命令されて、人殺しすんのは勘弁だけど」



「うん。そうだね、ここはキルアの家だもんね。わかった。私、ここでちゃんと過ごしていけるように頑張るよ!」



「キル。一億くらいなら、兄ちゃんがカンパしてやってもいいぞー」



「いらねーよ!そんなつもりで言ったんじゃねーし!」



よーし!



そうと決まればやる気が出てきたぞー!



「ねえ、最初は何を試されるのかな?」



「そうだなー。もうすぐ夕飯だろ?だったら、アレかな」



「あっ!アレかぁ~」



「アレだよね!」



アレって……。



「……………なに?」













       ***












「貴方ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――!!!!!」



部屋に入るなり耳障りなソプラノを張り上げるキキョウ。



シルバは眉間にちょっとだけ皺を寄せた。



「キキョウ、落ち着け」



「こっ、こここここれが落ち着いていられるもんですかっ!!イルが……!!私の可愛いイルがあんな訳のわからないクソハンターのクソ海洋生物学者のクソアマを嫁にだなんてええええええええええええ……!!!」



「いやあ、そう頭から否定するもんでもないじゃろ」



「そんな、お父様まで……っ!!」



「今まで、あの試しの門を最後まで開いたもんは、ゾルディック家の人間以外では一人もおらんかったからな」



「あ、あんなのはインチキです!!しかもこの家の水道の水を勝手に使うだなんて!ああああああああ!!!!思い出しただけで腹立たしいわ―――!!!」



「親父」



「なんじゃ、シルバ」



「あの場ではああ言ったものの……今回のことに関しては、正直なところ、俺にもどうしていいかわからん」



「ほほう。困惑しとるか。お前にしては珍しいの。じゃがまあ、親としては当たり前の気持ちじゃとも」



「親父はどう思う……?」



「なんとも面白そうな嬢ちゃんだわい。陰を使っとるわけでもないのに、オーラがまるで水のように見えにくい。ありゃ、間違いなく特質系じゃな」



「……」



「イルミの様子を見る限り、あの嬢ちゃんほど馬のあう相手はおらんじゃろう。わしも正直驚いとる。祖父の立場としては、互いが気に入っとるなら一緒にしてやれと言いたいが、この家の人間としては、シルバ。試しを行うというお前の判断に賛成じゃ。嫁になっても、すぐ死んでしまってはイルミが悲しむ」



「……ああ」



部屋の柱に、五寸釘で藁人形をガンガン打ち付けているキキョウを振り返る。



「キキョウ。今夜はポーの歓迎会を執り行う。……料理の準備は任せたぞ」



「……………………畏まりました」



キュイイイン!



ゴーグルのライトが、怒りの赤から喜びを示す黄色へと瞬時に変わる。



部屋のソファにゆったりと腰かけて、シルバは側に呼び寄せた愛犬の頭を撫でた。



「さて……どう出るかな」










       ***












「歓迎会?」



うわあ……嫌な予感しかしない。



「ええ!我がゾルディック家のしきたりです。どれだけ賎しい客人であれ、資格を得たなら客人は客人。ゾルディック家当主の妻であるわたくしが、直々に始末……手料理をふるまって差し上げますわ」



キュイイイン……!



キキョウさん、目が真っ赤です。



「今、始末って言いかけ――」



「では、これをご覧になって」



ス、と差し出されたのはどうやらメニュー表。



ひーふーみーよー、七つのコースメニューが並んでいる。



「どれでも、お好きなものを選んで下さいな」



「横にあるドクロは?」



「致死量何倍の毒が含まれているかを示してあります」



ぶはっ!!!!



「……つ、つまり、ドクロひとつでも既に致死量分の毒が含まれていると!?」



「そうなりますわね。ただし、毒の種類は各コースによって異なります。痺れ薬コース、眠り薬コース……ドクロの数が増えるほどコースの内容は豪華絢爛になり、含まれている毒も、より苦しんで、苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで死ぬように趣向を凝らしておりますの」



……ポッ。



心なしか、桜色に点るライト。



え、そこ、恥じらうとこ!!?



「試しの門、ならぬ、試しのフルコース……か」



こんなの原作にもないのに!!!



「じゃあ俺、刺身にしようかなー」

 

 


「旬の睡眠海鮮盛り、ドクロ5つ!?イルミ、大丈夫なの?」



「平気。ガキの頃から食べてるし」



「う……」



うう。



いいなあ、お刺身……。



「じゃあ俺、ハンバーグね」



「あ、俺も!」



キルアとゴンも、怯まない。



「ハンバーグかあ……超強力下剤入りデミグラスソースハンバーグ……致死量三倍。あ、そっか。ゴンはもうこれを試されてクリアしたんだね?」



「うん!胃や、内臓を念でガードすれば死なないよ!」



「ゴンさんっ!!口出しはルール違反でしてよっ!!!」



「なんで?俺はキルアの友達だけど、この家の人間じゃないもん。教えたっていいじゃん!」



「!!!!!!」



あーあ。



キキョウさん、怒りすぎてゴーグルからブスブス煙出てるよ。



仕方ない……えーと、一番毒の少ないドクロ1つのメニューは……白米、めざし、おみおつけ。



「……」



「で、ポーはどれにするの」



「ステーキ」



「はあっ!?」



「それってドクロ7つのコースだよ!!!???」



「つまり致死量七倍の毒!!!!親父専用にあるような即死決定猛毒コースだぜ!?わかってんのかバカヤロ―――!!!」



「わかってるよ。これでも君たちよりは、生き物の身体のことはわかってるつもり。で、結論。どうせ致死量分の毒が入ってるなら、それが何倍になろうと変わらないの!致死量っていうのは、食べたら死んじゃう量のことなの!!だからステーキが食べたいの!!どうせ死ぬならステーキ食べて死にたいの――っ!!!」



「……言うと思った」



ポー、と呼ばれる。



抑揚のない静かな声だった。



「勝算は」



「あるよ?」



「あっそ。じゃあいいや」



キュイイイン!



キキョウさんのゴーグルの色が、黄色に輝いた。



「一度テーブルに出された料理は、一切の変更がききません。いいですね」



「オッケーです!」



「よくねえ!!ちょっと待てババア!!スキップしてんじゃねえ―――!!!」



「ポー……」



ゴンが、しゅーんとした不安そうな顔でこちらを見つめてくる。



うわは、かわいい。



「俺だって、最初はそう思ったよ?どうせ死ぬ量の毒が入ってるなら、それがどれだけ入ってても同じだって。でも、クラピカに止められたんだ。胃や、内蔵に負担がないように、少しずつ慣らしていった方がいいって。今なら、まだコースを変えられるよ。ポーも、ドクロ1つのコースから始めたほうがいいんじゃないかな?」



「ゴン。心配してくれてるんだね。ありがとう。でも、大丈夫。消化器官をオーラで強化するその方法は、使わない」



「えっ!!?」



「それは、強化系のゴンの生命エネルギーに合った適応の仕方だからね。私は……もっと、別の方法を試してみるよ」



「別のって……」



「うん。イルミ、パソコン持ってる?」



「ああ、部屋にあるよ」



「やった!ちょっと使わせてもらってもいい?」



「動けばね」



「……」












       ***











十分後。



「なんで俺の部屋に来るんだよ!?なんで俺のパソコン勝手に使ってんだこの野郎――っ!!」



殺してやる!殺してやるぅ!!!



触手にす巻きにされ、短い手足をバタバタさせてもがいているミルキを見ると、豚の貯金箱を思い出す。



「ごめんね、ミルキくん!私が今夜、無事に生き残るためなの……許してっ!!」



「知るか――っっ!!!」



バタバタバタバタバタバタバタバタ。



「お前、イル兄の彼女なんだろ!イル兄のパソコン借りろよ!」



「借りようとしたよ!でもイルミ、パソコンほとんど使わないんだって。おかげで立ち上がりは遅いわ、読み込みは遅いわ、見れないページは多いわ………一体何世代前のモデルなの!!」



「さあ。覚えてないや」



昔からあったからねー。



イルミは丸い回転イスに座って、さっきからクルクルまわっている。



イルミのノートパソコン……部屋から持ってきてくれたのは良かったんだけど、新品みたいに綺麗なのに、型が妙に古めかしかったから嫌な予感はしたんだな。



それに比べて……。



「うっはあ~~!!速い!軽い!!どれだけウィンドー開いてもするする読み込む~~!!!流石あっ!!ミルキくん、オタクの鑑!!!」



「誰がデブでオタクだあ―――!!」



いや、デブ言ってないし。



「誉めてる誉めてる!!研究屋にはいろんなパソコン使ってるひといるけど、こんなに使いやすくカスタマイズされたの知らないよ!すごい!キーボードもいいね、これ。全然指が疲れないもん!」



「あったり前だあ――っっ!!俺設計の特注品だぜ!!お前ら一般ピープルなんて、本当なら指先一本触れられないほどの最・高・級――」



「ほんとに!?あっ、もしかして画面もそう?明るいのに滅茶苦茶見易い。こんなに鮮やかなのに、チラチラしないからかな?目が疲れなくなってる」



「あ……ああ。そっちは、普通は軍の情報部隊とか、宇宙衛星管理局とか、そういうところにしか出回らないタイプでさ。へへ、取り寄せるの、結構苦労したんだぜ!?」



「いいなあ~~!うちの研究室にもこのくらいのパソコン置いて欲しいよ!海底で撮影した写真とか、分析するのに読み込んでも、全然画素数足りなくてさ~、真っ黒!!」



「それ、ソフトは何使ってんの?」



触手で宙づりになったまま、ミルキはちょっと興味を持ったみたいで、私の話に耳を傾けはじめた。



漫画を読んだ限りではヒステリックな意地悪兄ちゃんだと思ってたけど、こうして接してみると、ミルキはおもしろい。



かく言う私も、海洋生物オタクだからかもしれない。



ひとつのことに、他の全てを忘れて打ち込める。



ミルキは、そういう種類の人間だ。



「ミルキくん、プリンター借りるね!」



「もおいいよ、好きにしろよ……」



「ありがとう!よーし、データは揃った。策は練った!あとは実践あるのみ!!」












       ***










暇だー。



暇潰しにイスに座ってくるんくるん回っていたら、偵察に出していたゴンとキルアがドアの隙間から顔を出した。



「すげ。どうなってるかと思ったら、ポー、あのミル兄からパソコンとりあげてるじゃん……」



「しかも、仲良さそうに話してるね!ほら、やっぱり心配しなくても大丈夫だったじゃないか!」



「……お前たち、母さんの様子はどうだった?」



「もう、滅っ茶苦茶ご機嫌。さっき、親父とポーの分のステーキに鼻歌歌いながら毒盛ってたから。はい、これリストね」



「サンキュ。やっぱり、持つべきものは弟だね」



「ぜってー思ってない!!」



「そんなことはないよ?……うわあ。母さんたらえげつないな。本気で苦しんで死んじゃう毒ばっかりだ」



メモに書かれた毒薬に目を通していると、キルアが緊張した面持ちで俺を見た。



「解毒剤、間に合う?」



「やるよ。夕食までには必ず間に合わせる。そうしたら、ゴン」



「うん。ポーが危なくなったら、飲ませればいいんだよね!」



「頼んだよ。やっぱり、持つべきものは部外者だね」



「友達!!」











       ***












カランカラン!



食堂から、鐘の音が響く。



ゴンとキルア、仏頂面のミルキと一緒に長い廊下を歩いていくと、食堂の扉の前でイルミが待っていた。



「ポー。準備はいい?」



「勿論!早く試したくて、うずうずしてる!」



「はいはい」



イルミに手を引かれて扉をくぐる瞬間、側にきたゴンがイルミからさっとなにかを受け取った気がした。



なんだろ。



まあ、いいか。



それよりも……。



「うまくいく。絶対に!」













       ***











「ようこそ、我等がゾルディック家へ!」



「ゾルディック家へ!!!」



乾杯とともに、執事さんたちが出来立ての料理を運んでくる!!



わあああああ~~!!!!



「ステーキだ――――っっ!!!」



「バカだろ!!こいつ、バカだろ!兄貴っ!!!」



「知ってる。でも、言っても聞かないんだからしょうがないだろ」



「バカはミルキくんでしょ?最後の晩餐になるかもしれないのに、メザシはないよ!メザシは!!だいたい、こうやって七枚に切ったら……ほら!致死量七倍の七分の一は、メザシコースと同じ致死量一倍!」



「ならねーよっ!!!」



「いっただきまーす!!」



「「「わあ~~~っっ!!??」」」




ゴン、キルア、ミルキが青い顔をして見つめる中、ナイフが触れるか触れないか……そんな力具合で、お豆腐のようになめらかに切れていくお肉。



立ち上る湯気、香ばしい匂い。



溢れる肉汁ううううう………!!!!



猛毒上等っっ!!!




「パクっ!もぐもぐもぐもぐ……」



「……」



「……」



「……」



「……」



「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…………ぐええっ!!?」



バタッ!



「ポーっ!!??」



「だからやめとけっつったじゃん!」



慌てて席を立つキルアとゴン。



でも、隣の席のイルミは顔色ひとつ変えないで、猛毒睡眠薬入りマグロのお刺身を黙々と口に運んでいる。



「嘘だろ?」



「…………………………………………………………………………うん」



やっぱバレるか。



だよねー。



「いだだだだだだだだだだいだだだだだだだだ痛いイルミ痛いイルミ!!毒より痛い―――――っっ!!!」



「ポーはさ、そろそろやっていいことと悪いことの区別を覚えないとね」



ギリギリギリギリギリギリギリ!!



イ、イルミの手が頭蓋骨をしめつけるう~~っ!!!



「いたあああ――!!!ゴン!キルア!!助けて――――!!!」



「俺、知ーらね」



「ひどいや!本気で心配したんだからね!」



「ごめん!ほんっとごめん!!なんかやらなきゃいけないような使命感にかられ痛い痛い痛い痛い!!!!!」



「イルミ。放してやれ」



「わかった」



シルバさん……!!!



うるうる見つめたらニッコリ笑われた。



うわあ!



かっこいい!!



裏のある笑顔!!!



「ポー、美味いか?」



「はい!こんなに美味しいステーキ、初めてです!ありがとうございます、キキョウさんも!」



「……」



キュイイイン!



おおう、目が真っ赤。



「……また、インチキですのね」



「インチキ?」



なにが。



「白々しい……先程、キルとゴンを調理場で見かけました。使用した毒薬のリストを作らせて、あらかじめ解毒剤を飲んできたのでしょう。そんなインチキを堂々と使ってくるような下卑た人間を、ゾルディック家の一員として認めるわけにはいきません」



「解毒剤なんて飲んでませんけど」



キュイイイン!!!!



「ほんとですって。それが証拠に、イルミ?」



「なに」



「お刺身ちょうだい」



「いいよ。はい、あーん」



「……普通でい」



「あーん」



くそう。



パクっ。



もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ………ゴックン。



「ほら、平気!」



「!!!!……そ、それだってあらかじめ解毒剤を――」



「キキョウ」



「……!」



一言で黙らせるんだから、すごいよなあシルバさんは。



凝をしているんだろう。



私のことをじっと見つめていたけれど、やがて、降参というように目を閉じた。



「わからん。何をした?」



「言っちゃいましょうか?答え」



「……」



わあ!とゴンとキルアが声を上げる。



「待って!考える!!」



「やっぱ今度も水……?水で薄めた!!」



「違うなあ。今度のは難しいよ?」



パクパクと、残りのステーキを食べ進みながら、にんまり笑う。



「念で、胃や内臓を強くしたんじゃないんだよね!?」



「違う。最初は、念の泡で身体の中を全部覆っちゃうっていうのと、こんな風に、泡で食べ物をくるんで食べて、消化される際に栄養分だけを抽出するようにしようかとも思ったんだけど……」



「え。そうじゃないの?俺、絶対そうするんだろうと思ってた」



意外だと言うように、イルミ。



「うん。ミルキくんのお菓子で試したんだけどさ、それだと味がしなくてねー。ダメでしょ、味がないステーキは」



「毒より味をとったんだ。つくづく殺し屋には向いてないね」



「なんとでも言いなさい。食べられないものを食べる方法は沢山あるんだから。例えば、ゴンのやったように、消化器官を丈夫にする強化系向きの方法。それに、キルアやイルミは幼い頃から身体を毒に慣らして平気になっているけど、キルアは毒を無害なものに変える変化系の対処。イルミの場合は、毒性のあるものを操作して体外に排出する操作系の対処をとっている。意識はしてないと思うけど、身体はそうしてる。自然界にも、キルアやイルミたちと同じような方法で、毒のあるものを食べている生き物がいるよ。代表格はフグ」



「フグはもとから毒あるだろ?毒があるから平気なんじゃねぇの?」



「養殖されたフグに毒はないんだよ。フグに毒があるのは、稚魚の頃に毒性のある海草を食べるから。そこに、内外からストレスを与えられることによって、毒はフグの体内に徐々に蓄積されていく。そのころには完璧な抗体が出来上がってる」



「キルアはフグなんだね!」



「誰がフグだよ!フグはミルキだろ!!」



「俺だってフグじゃねえ――!!!」



うわあ、筋弛緩剤入り満漢全席かきこみながら怒鳴られても、説得力ないなあ。



「でも、ポーはそれ、無理だよね」



「うん。時間がかかるからね。だから、私は先生を変えました。参考にしたのは深海の噴出口付近に生息するハオリムシ先生と、昆虫を挙げるならシロアリくんです」



「シロアリ?」



「って、木の柱とか食べるやつ?」



「そう。あれはね、アリが木を食べてるわけじゃないんだ。アリのお腹の中にいる、バクテリアっていう小さな生き物が木を食べて、アリが消化できる成分に分解してるの。ハオリムシ先生はもっとすごいよ。火山ガスを体内に取り込んでエネルギーに変えちゃうんだからねー!!」



「じゃあ、ポーの身体の中にもいるんだ!バクテリア!!」



「念で作ったのかよ!スゲ~ッ!!」



「あったりー!!と言っても、“驚愕の泡”を0、1ミクロン程度の大きさにして、身体中に泳がせてみただけなんだけど。で、どんな作用のどんな毒を食べるか全然わかんなかったから、とりあえず、身体に悪いものは全部包んで無害化させるようにしてみた。だからさー、これって使いようによれば、ダイエットとかにもいいと思うんだよね。糖質、脂肪、炭水化物、コレステロールに反応するようにしておけば、何を好きなだけ食べても太らなくなるよ?」



「だってさ。よかったね、ミルキ」



「何で俺に言うんだよ!!!」



「――と言うわけで、完食!!」



ペロリ、と最後の一口までしっかり味わって、お皿を天に。



声高に叫ぶ!!



「おっかわり――っ!!」