3 重いものを動かすには?

 

 

 

 

 

 

 

ピンチだ。

 

 

 

こいつはピンチだ。

 

 

 

ハンター試験以来、かつてないほどのピーーーンチ!!

 

 

 

「ご、ごめ、ごめんなさい!!ほんっっとにすみませんでした!!ままま、まさかその、こんなに立派な門がですね、こんなに簡単に壊れちゃうなんて思ってなかったんですーーーっ!!」

 

 

 

「……言い残すことはそれだけか?」

 

 

 

ビキッ!

 

 

 

飛び出す青筋。

 

 

 

光る細縁銀メガネ。

 

 

 

瓦礫(と化した試しの門)の影に隠れつつガタガタ震える私を、切れ長の三白眼で睨みつける執事長、ゴトーさん。

 

 

 

背後にはズラリと並んだ、強面の黒服執事達……。

 

 

 

ひ、七月の日差しがドスに当って眩しいっ!!

 

 

 

「は、半年ぶりにイルミの声が聞けて、浮かれてしまったのがいけなかった……」

 

 

 

どうしましょう。

 

 

 

試しの門を七の扉まで豪快に開いたはいいものの、長年雨ざらしだったためか蝶番部分がバッキリ折れてしまい、門扉が外れてとんでもない事態に。

 

 

 

外れた扉はドンガラガッシャンと倒れて転がり、バラバラの瓦礫になって今や見る影もない。

 

 

もしも今、次の号泣観光バスが来ようものなら侵入し放題の観光し放題だよ!!

 

 

 

やりすぎた……。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!とと、取り合えず、この瓦礫を積み上げて、観光客さんたちが入れないようにしときますんでっ!!」

 

 

 

「動くな」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

「テメェはただの侵入者だ。侵入者は言わばゴミだ。ゴミは速やかに処分される。それだけだ。余計な真似は一切する必要はない……この場も、そしてテメェ自身も、骨一本残らねぇように俺達が奇麗に掃除してやるから、安心してあの世へ行くんだな」

 

 

 

うおおおおおう!!

 

 

 

怖いっ!!

 

 

 

ゴトーさんの右腕がすっと差上げられる。

 

 

 

あ、あの指が鳴らされたらきっと一斉に襲ってくるんだろうなー。

 

 

 

どうしよう。

 

 

 

これはもうダメなのか。

 

 

 

「--やれ」

 

 

 

パチン!

 

 

 

途端、全黒服の姿が視界から消えた。

 

 

 

執事たちは総勢20人ほど。その全員がドスを振りかざし、目で追えないほどのスピードで向かってきたのだ!

 

 

 

「いやああああああああああああ―――っ!!!」

 

 

 

こここれはもう話しあいとかって場合じゃないよね!

 

 

 

ええい仕方ない、こうなったら、逃げて、隠れて、後からこっそり侵入の方向で--

 

 

 

「待て」

 

 

 

「ーーっ!!」

 

 

 

決して、大きな声じゃなかった。

 

 

 

それなのに、そのたった一言が執事たちの動きという動きを静止させ、あれだけ充満していた彼らの殺気を微塵も残さず消し去ってしまった。

 

 

 

すごい。

 

 

 

低く、落ち着いていて、それなのに他者の反論を一切許さない強さを持った、そんな声音。

 

 

 

それが、一体誰のものなのか。

 

 

 

薄々、察しはついているけど、この目で見るまでは信じられないよ!!!

 

 

 

ザッ!!!

 

 

 

ゴトーさん達が示し合わせたかのように左右に並び、一指乱さず礼をする。

 

 

 

その間から、悠然と現れた人物は--

 

 

 

「試しの門を開いたのはお前か」

 

 

 

シシシシシシシシシシシシシシシシシシ……ッ!!!!!!???

 

 

 

シいルバさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!

 

 

 

シルバさんだああああああああああああああああああっっ!!!!!

 

 

 

ふわふわ銀髪!!

 

 

 

鋭い眼光!!

 

 

 

渋いイケメンナイスガイ……!!

 

 

 

本物のシルバさんが目の前にーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!

 

 

 

そりゃアレですよ!?

 

 

 

この世界に飛ばされてきてからもう半年になるから、結構いろんなことに慣れたけど、やっぱりこう、本編に出てきた凄い人に会うとですね!!

 

 

 

もう、感動だよ!!感激するしかないよ!!

 

 

 

うううあああ……!!嬉しいのと感激するのと怖いのと逃げたいのともっとよく見たいっていう欲求で、頭がおかしくなりそうだ……。

 

 

 

「ええええっと、そ、その……!!」

 

 

 

涙がこぼれて止まらなくて、いつまでも答えられないでいると、シルバさんは片眉を上げてもう一度、ゆっくりと訊ねてくれた。

 

 

 

「泣いてないで質問に答えろ。門を開いたのはお前か?」

 

 

 

「……う、は、はい、そ、そうです……!!」

 

 

 

「名前は」

 

 

 

「ポーです」

 

 

 

「そうか。俺はシルバ・ゾルディックだ。お前はイルミにここへ呼ばれたそうだな」

 

 

 

「は、はい」

 

 

 

「……会わせてやるから着いて来い」

 

 

 

言うなり、シルバさんは私の手を引いて歩き出した。

 

 

 

お、大きな手だ……警戒していたのに守りの泡が発動しなかったのは、私に危害を加えるつもりが一切ないからだろう。

 

 

 

でもこの人も、殺し屋さん……なんだよね。

 

 

 

しかも、キルア曰く、「一滴も血を出さず」に、心臓を抉り出すことが出来るほどの超一流の殺し屋さんだ。

 

 

 

こ、この手で……やっちゃうのだろうか。

 

 

 

森を越え、ククルーマウンテンの道無き山道をずんずん登っていく。

 

 

 

歩調を合わせようと小走りになっている私を、シルバさんはふいに足を止めて振り向いた。

 

 

 

青い目が、意地悪そうに底光りする。

 

 

 

「さっきから、ずいぶんと警戒しているな。俺が怖いか?」

 

 

 

「え……えーっと……怖い、ですけど……今は、あんまり怖くないです」

 

 

 

殺気もないし。

 

 

 

今はまだ。

 

 

 

「そうか。知っているとは思うが、俺は殺し屋だぞ」

 

 

 

「で、でも私、わざわざ何十億もかけて殺されるような悪いことしてませんもん!!」

 

 

 

「……」

 

 

 

ちょっと目を丸くしたシルバさん。

 

 

 

じーっと私を見つめていたと思ったら、山の麓の方へ視線を向けた。

 

 

 

森の果て。

 

 

 

木々が途切れて茶色くなったところに、無残にぶっ壊れた試しの門の残骸が。

 

 

 

最敬礼!!!

 

 

 

「ほんと――にすみませんでしたっっ!!!!!」



「……まあ、謝らなくてもいい。試し切れずに壊れる方が悪い」




「で、でも……あうう」

 

 

「泣くな」

 

 


再び手を惹かれ、山肌に突如現れた鉄の門扉から中へ。

 

 

 

長い石造りの道を、シルバさんと二人で進んでいく。



シルバさん……ああ、シルバさんシルバさん。

 

 

 

涙もようやく治まってきたから、改めて観察してみよう。

 

 


漫画ではビジュアルの渋かっこよさに酔いしれ、アニメでは低音美声の渋かっこよさに酔いしれた御方だ。



まさかまさか、こうして生でお会いできることがあろうとは。



もうほんと、感無量です。



怖いけど。



がっしりしてるのに、手や脚が長くて綺麗だからかな。



歩き方も、不思議と優雅で武骨さを感じない。



肩から流れるふわっふわの銀髪に見とれていたら、シルバさんはふいににこっと笑って私を見た。

 

 

「!」

 

 

 

「門のことだが。実は、もうそろそろ建て替える頃合いだと考えていたところだ。最近は来客も増えたからな。七枚では不足に感じていた。そう言えば、ゴンといったか。あの小僧も今家に来ているぞ。キルアと一緒に広間にいるはずだ」



「ゴンとキルアが?あ、そっか。だからさっきキルアの携帯にかけたときイルミが出たんだ!」



「お前は、イルミの嫁になるために、ここに来たらしいな」



「ぶはっ!!」



「違うのか?」



「イ……イイイイイルミには、た、確かにそう言われましたけど……!!」



「断るつもりなのか?」



「そうじゃないですけど……!!な、なんか突然すぎて……結婚を考えるにしても、もう少しだけ普通に付き合ったりする時間が欲しいなって、相談に来ました」



「なるほど。あいつは確かに、母親に似て自分一人でつっぱしる癖があるからな」



「あははは……はい」



「確かに気が早い。お前がこの先、ここで生き残れるかどうかもわからねぇのにな……」



「う……っ!!??」



うひゃあああああああああああああああーーーーーっ!!??

 

ど、どどどどどどドス黒い!!!!

 

 

 

なななななんてなんて物騒なオーラ出すんだこの人はっ!!!



ていうか人か!?



人なのか!!?



漫画ではちょろっとしか出てこないから強さなんてわかんなかったけど……イ、イルミ×ヒソカ×100くらい怖いよ……!!!!!



ズザザ――――ッ!!



と、瞬時に10メートルくらいとびすさった私に、シルバさんははっはっはっと快活に笑って、物騒なオーラを潜めた。



「いい動きだ」



「……!!」



怖い!



逃げたい!!



隠れたい!!!



でもそんなことしたらイルミが怒るし……怒ったイルミって色んな意味で怖いしなあ……がんばろう。



今度はしっかり距離を保ったまま、てくてく後をついていく私を、シルバさんはまたちょっとだけ振り返って、キルアによく似た顔で笑った。













                      ***












ガチャ。



「連れてきたぞ」



「お邪魔しまー!!???すっ!?」



パキューン!!!!



部屋に入ると同時にすっ飛んできたゴム弾を守りの泡でプルンッと弾く。



これは……キキョウさんだな。



お。



うわあー、豪華なリビング!



ふかふかの、紅い絨毯にシャンデリア。



壁際には、牛がまるまる一頭焼けそうなくらい大きな暖炉もある!



住む人の体格に合わせてるんだろう、置いてあるソファもテーブルも、重厚で大きい。



そして、そこにズラリと勢揃いした、ゾルディック家の皆様。



あ、圧巻だあ~……!



「は、初めまして……ポーといいます」



「俺のお嫁さんです」



「イルミっ!!!」

 

 

ぎゅっと、抱きしめてくる大きな腕。

 

 

 

イルミだ。

 

 


相変わらずなに考えてるかわかんない無表情で、恐ろしいことをサラリと言ってのける!!



半年ぶりのイルミだった。



サラサラ黒髪、真っ黒猫目。



筋肉質だけど、スラッとしたスタイルの良い体つき。



服装も、ハンター試験中に着ていたものと同じだから、余計に懐かしく思うのかもしれない。



イルミはしばらくなんにも言わずに、ぎゅーーーーーーーっと私を抱きしめていたのだけれど、シルバさんが咳払いするとパッと離して、くりっと首を傾げた。



「ねえ、ポー。なんで今更しぶってるの?さっき、父さんと廊下で話してたこと、ミルのパソコンで見て知ってるんだけど。俺、そんなの認めないからね。嫁に来るなら家に来ていいって言ったじゃない。ポーは家に来たんだから、嫁にならなきゃダメだよ?」



「すぐに、とは言われてないもん!」



「あげ足とらないでよ、面倒くさいなー」



「簡単に嫁に取られてたまるもんか――!!!」



うわあ、このやり取りも久しぶりだ。
 

 

 

 

半年ぶりなのに、イルミってばちっとも……、



「変わってないね。ポーは」



「……イルミもね。仕事は、上手くいった?って、聞くまでもないか」



「うん」



と、一連の漫才のような会話を終えて居間の様子を見てみると。



ゴンとキルアがソファで二人、仲良く座って硬直していた。



「……な、なんか、ポーとイル兄が付き合ってるところなんて、想像つかなかったけどさ」



「うん……こうしてみると、すっっっっごくお似合いだよね」



「ゴンはいい子だねー」



「イルミったら、半年前は殺そうと思ってたくせに」



「昔の話だよ?今はゴンも他の二人も家に認められてるし、ひとまずは俺が介入する必要もなくなった」



「あっそ」












          ***












では、あらためて再会!!



「ゴン!キルア!!二人とも久しぶり!元気してた?」



「おう!」



「うん!試験が終わったあと、離ればなれになっちゃってて……ごめんね。俺、どうしても早くキルアの家に行きたくてさ」



「ううん、それはいいの。私も、ここに来るまでにやってみたいことが沢山あったから。キルアの友達だって、認めてもらえたんだ。よかったね」



「えへへ!」



「そのあとさ、ゴンと二人で天空闘技場にも行ったんだぜ!」



「あ、じゃあ、もしかして念も?」



「うん、覚えた!」



ぎゅっ、と抱きついてきたゴンのつんつん頭と、キルアの猫っ毛をぐりぐりする。



ああ~~癒される!



立ち話もなんだからとソファをすすめられ、イルミの隣に腰かけた。



楕円の、マホガニー製の大きなテーブルを囲んでいる。



正面にシルバさんとゼノさん。



そのとなりに、時計回りにキキョウさん、カルトちゃん、ミルキくん……がバリバリお菓子たべて睨んでる。



で、ゴンとキルアは私の隣。



「で、で、で!!??」



「どーやったんだ!!!??」



出し抜けに詰め寄られ、くりっと首をかしげた。



「どうって、なにが?」



「試しの門だよ!」



「どうやって開けたの!?」



「……押して」



「「ポー!!!!!」」



「わーかった、わかりました!悔しいけど私の腕力じゃ無理です、あんな扉」



「念を使ったんだろ?なあ、ポーの能力って、重いものを軽くできたりするわけ?」



「うん。出来るよ」



「すごい!!そしたらさ、俺を宙に浮かせたりも出来るの??」



「それはどうかなあ……でも、重いものを軽くするには、念を使わなくっても、ある条件さえ整えば、どこでだって出来るんだよ?」



「ええ???」



「わっかんねー!!!」



「言っちゃおうか、答え」



にんまり笑うと、二人はすかさず「待って!!」と声を揃えた。



そうでなくっちゃね。



「でも、二人にはちょっと難しいだろうから、一個だけヒントを出すね。“私は、念と一緒に『あるもの』を使って、門の重さを軽くしました。それはなんでしょう?”」



「『あるもの』お~~!!??」



「『ロープ』?『てこ』?う~~ん………わっかんねー」



「わかった」



「俺も!!」



お。



「お~!イルミはわかるだろうと思ってたけど、ミルキ君も?すごいね!じゃ、答え合わせ」



イルミは正解。



真ん丸い身体を得意気にのけぞらせているミルキに耳打ちしてもらう。



「――だろ?」



「当たりっ!!」



「嘘だ――――!!!!俺に分からなくて豚くんに分かるのかよ!!くっそ―――!!!!」



「あっはははは!!当然の結果だね!キルはバカだからなあ」



「あんだとぉコラ!!!ちょーし乗ってるとぶっ殺して酢豚にするぞ!!」



「こらこら、喧嘩しない。テーブルの上に乗らない」



「うわ!?」



触手でキルアの首根っこをつかんで席に戻すと、ゴンが目を真ん丸にした。



「これがポーの念能力……あっ!あの嵐のときに見たやつって……!!」



「ピンポン、正解!あのときはとっさに誤魔化しちゃったけど、なにかを包んで守る泡と、この触手が私の能力の基礎。あ!ていうか、二人とも、あの軍艦島での作戦をよーく思い出せば、答えなんて簡単に分かるよ」



「え……!?」



「あそこでやった作戦って……たしか、津波がくるからホテルになってた軍艦を、海に浮かせなきゃいけなくて――あ!」



「水!!」



「水を使ったんだ!!」



「はい、二人とも正解。ものを水に沈めると、そのものの体積分の水が押しのけられます。すると、水はもとに戻ろうとして、押し返すの。このときに生まれる、上むきの圧力。これを浮力といって、押しのけた水の体積分の重さだけ、物質は軽くなるんだよ!重い船が海に浮くのもこの原理だね」



「……なるほど。念の泡に大量の水を含ませ、試しの門全体を包んだのか」



「ほほ~~う、考えたもんじゃのう」



うんうん、と頷くシルバさんとゼノさん。



よかった。



インチキだって殺されたらどうしようかと思った。



「なーんだ!そんだけ軽くなるなら俺にだって楽勝で開けられる!」



「でも、キルアは念の泡で水を包むなんて出来ないでしょ?しかも、あーんなにでっかい門全体を水に沈めるなんてさ。やっぱりポーはすごいよ!」



「えへへー」



「ポー。まだあるよね。楽したこと」



「ち、知恵を使ったと言って頂きたい!!」



「まだあるって、水以外にまだなんか使ったのかよ」



「いや。使ってないよ。でも、いくら軽くなったと言っても、たかだか数10トンの話だ。ポーの力で残りの重さを動かすなんて無理だからね」



「はっきり言わないでよ傷つくなあ!」



丁度、テーブルの上に水差しがあったので、お借りすることにする。



水見式の容量で練を行い、中の水を念の泡で包む。



「ゴン、舐めてみて」



「うん!……うわっ!しょっぱ~い」



「俺も俺も!……げっ!?まじだ。なにこれ、海水?」



「水の味が変わるっていうのは、変化系の特長なんだけどね。私の場合は、不純物として塩化ナトリウム……つまり、塩分が含まれるの。オーラを強めれば、その量も増える」



「ふーん」



「それで?」



「二人とも、川やプールで泳ぐより、海で泳いだ方が身体が浮きやすいって思ったことない?」



「ある!」



「あー!そうか、俺、わかった!ポー、海水の塩分濃度を上げたんだろ!!」



「博学だねー、キルア正解。海水の塩分濃度は約3%なんだけど、だいたい30%くらいまで上げると、人間の身体は水の上に浮いちゃうの。ねそべって本だって読めるんだよ?」



「へー!」



「どれくらいまで上げたの?」



「う……それがさあ、わかんない。とりあえず、押して動くまで頑張った」



ずっこけるキルゴンを尻目に、なるほどねーとイルミは平然としている。



「あと、扉と地面との摩擦もなくしただろ。バブルでコーティングした?」



「うん!さっすが、イルミ!そしたら、思いっきり押したあとは慣性の法則に従って、ベクトルは地面に対して水平方向に働くから、触手でずっと押し続けなくても惰性で開くと思………ちょっと二人とも大丈夫!!?」



「む、難しすぎるよ~~!!」



「なんか俺、頭痛くなってきた」



「あっはっはっ!キルはバカだな~~」



「うっせえブタミルキ!!!」



つまるところは。



「水で浮かせて滑らせた。あとは開くまで押した。それだけのことです」



「で、それだけのことをするのに必要だった水は、どこから調達したの?」



「………」



ギクリ。



「この辺、確かに地下水はあるけど深いし、岩盤は相当固いよねー。谷川に行けば水はあるけど、遠いしさ。ポーの話を聞いてて俺、その一点だけが疑問だったんだけど」



「う……っ!」



「どうやったの?」



「うううう……………ご」



「ご?」



「ごめんなさい……」



「なんであやまるの?」



くりっと、首をかしげて一秒。



「あ、そうか」



「ごめん!ほんっとにごめん!だって近くにこれ以外の水源がなくてさ!!」



「ふーん。いいけど、今月の水道代は、ポーに請求しなくちゃね」



「うちの水道管の水パクったのかよ!!」



トマトみたいな顔をしてミルキ。

 

 

 

そうなのです。

 

 

 

あの管理人小屋にあった水道から、ちょっくら失敬しました!

 



「大丈夫!メーターを通る前に抜いたからタダみたいなもんだもん!!」



「そおいう問題じゃね――!!!」



「ハッハッハッハッ!!!」



「ダッハッハッハッ!!!」



いきなりの笑い声。



見ると、シルバさんとゼノさんが大笑いしている。



そ、そんなに笑わなくても……。



「お、親父が笑ってる……」



「こりゃ、明日は天変地異だな……」



キルアとミルキが震えている。



キキョウさんとカルトちゃんは知らんぷり。



なんなんだ、ほんとに。



「ポー」



「はい!」



ビクン、と肩を強ばらせる私に、シルバさんは低音の落ち着いた声で、



「仕事はなにをしている。ハンターか?」



「は、はい。海洋生物専門の幻獣ハンターです。今受け持っている仕事は主に、深海に生息する大型の海洋生物の調査と保護。あと、最近は大学の講義を受け持つ機会も増えました」



「学者か」



「はい。そんなに、偉そうなものじゃありませんけど……」



「イルミの仕事を知っているな。殺し屋になる気はあるのか」



「ありません。イルミは殺し屋ですけど、私はひとを殺さなくても生きていけますから」



「……」



「俺も、ポーを殺し屋にする気はないよ。だいたい、向いてないし」



「うわ!今思いっきりバカにした!!」



「してないけど。俺たちは相手を殺せるか殺せないかでしか判断しないけど、ポーの場合は食べられるかそうでないかでしか判断しないだろ?それ、絶対向いてないから。やめといた方がいいよ」



「ひとをただの食いしん坊みたいに言うなあ!!!食べられるかどうかじゃないもん!生きるために必要かどうか!!」



ポンポン言い合う私とイルミをシルバさんは不思議な色をした、猛禽類みたいな目でじっと見つめていたけれど、やがて、ふうっと息をつくみたいに、深い笑みを浮かべた。



「……なるほどな。イルミ。結論から言うと、ポーは殺し屋には向いていない」



「……」



「だが、確かに、お前の嫁には向いている」



「!」



「え……っ!」



「貴方ああああああ――っ!!??」



――と、後方で絶叫するキキョウさんをシルバさんはきっちり無視をした。



「ポー。しばらくこの家で暮らしてみろ。お前がこのゾルディック家で生きていける人間かどうか、判断してやる。可能なようなら、嫁になるなり、イルミの女になるなり好きにするがいい」




「……は……い」



イ、イルミの女って……。