ぱちっと目を開けば、時刻は四時前。
ベッドに寝転がったまま視線を上げれば、気もち良さそうに熟睡するイルミの寝顔が。
すっと息を吸い込んで――
「ぅ起きろおおおおおおおおおイールミィイイイイイイイイイイイ――ッ!! むぎゅっ!?」
「煩いよ。今何時だと思ってるの」
「ふぉひはえはへほ、ふぁやふひははひほほーほんのふんへんははひはっひょうへひょ……!」
しっかり寝ているはずなのに、目にも留まらぬ速さで伸びてきたイルミの手に、口元を鷲掴みにされたまま講義する私。
イルミは、閉じていた両目を不機嫌そうに開いた。
「……四時前だけど、早く行かないと拷問の訓練が始まっちゃう? 海月、また訓練をサボるつもりなの」
「――っぷは! だ、だって、今日は金曜日なんだもん。金曜日はアレでしょ、両腕を鎖でつないで、電気流すやつ。なんかもう、考えただけで痛そうで怖いよ!!」
それに、天空闘技場編でリールベルトに電撃食らったキルアが言ってたもんね。「慣れてるだけで、痛みを感じないわけじゃない」って!
「痛いのは嫌! 絶対に嫌!! 大体、私の職場は深海なんだよ!? 火山帯の熱水噴出口付近にはよく行くから耐熱防御力は必要だと思うけど、電撃耐性なんてなくても困らないじゃない!! 魚に翼、蛇に足!! あっても使わないものは、なくってもいいと思います!!」
両目をぎゅっと瞑って身を固くし、断固拒否の構えを取る私に、イルミは深い溜息を吐いた。
「あのね。そういう苦手を未然に克服するために訓練するんじゃない。海月の場合、無敵の防御こそ最大の攻撃って能力なんだから。防御の穴があるなら、先に塞いでおかないと。そのまま水に浮かべたら、どんなに強固な戦艦だって沈んじゃうよ?」
う……!
そ、それは確かに、ものすごくわかりやすい例えだけど……。
「嫌だ!! なにも、今日じゃなくってっていいじゃない! もしも私が真っ黒焦げになって、動けなくなったらどうするの? 折角、苦労してお休みを合わせたのに、デートもなんにも出来なくなってもいいの!?」
「……嫌だ」
ぱちっと瞬きしたイルミは、しぶしぶと起き上がった。
「分かった。訓練が始まる前に出発しよう。でも、見逃すのは今回だけだからね。次は、必ず参加させる」
「うん! 分かった!! だから早く行こう!!」
こういうこともあろうかと、出発の準備は昨夜の一回戦が終わった後に終わらせといたんだもんね。
眠くて死にそうになりながらも、荷物をまとめておいてよかった……!
大急ぎで着替えを終えた私とイルミは、抜き足差し足、ゾルディック家邸内の私用飛行場を目指そうと思ったのだけれど――後もう少し、というところで、ふいにイルミが足を止めた。
見上げると、彼にしては非常に渋い顔。
「どうしたの、イル――ぎゃあ!!」
視線を彼と同じ方向に向け、悲鳴を上げて飛び退った私を、絶対零度の蒼い眼光が貫いた。
ひええええ~!!
「シ、シシシシシルバさん、お、おはようございます……」
「おはよう、父さん。俺達、これからちょっとヨークシンに行ってくるから。邪魔しないでよね」
「また訓練をサボる気か」
眉を潜め、ゾルディック家当主シルバさんは、いつも着ている暗殺道着から伸びる両腕を固く組んだ。
ドスの効いた低音が向けられた先は、言わずもがな私である。
「す、すみません……今日はほんとに、用事があるので」
「駄目だ。この前もそう言って逃げただろう。いつも、わざと金曜日を避けて帰って来ていることも調べはついている」
「ううっ!」
「今日という今日は逃がさん。来い、この俺が直々に耐性をつけてやる」
じっくりとな……と、言わんばかりに、私の首根っこをガッシリ掴んだシルバさん。
声にならない悲鳴を上げながら、人差し指をこっそり上に。
イルミに、念の文字でメッセージを送信!
“逃げようイルミ! 二人で逃げたらなんとかなる!!”
「ダメ」と返され、もう一度。
“お願い!! 逃げてくれたら、あとで好きなお菓子買ってあげるから!!”
「ヤダ」と返され、もう一度。
“……! じゃ、じゃあ、キスしてあげる”
ぴくん、と、イルミの片眉が上がる――その、僅かな変化を見逃さなかった。
“キスしてあげる!! イルミの好きなだけキスしてあげるから、一緒に逃げて――っ!!”
――やれやれと、ついに彼は嘆息した。
「仕方ないな」
「そうこなくっちゃ! 駄目元で行ってみよう、強行突破!!」
ぷるんっ! と、念の泡を発動させ、シルバさんの拘束から逃れた私は、すぐさまイルミの手をとって、彼を泡の中に引き入れた。
「『嘘つきな隠れ蓑(ギミック・ミミック)』!!」
念の泡の表面を、周囲の景色と同化……!
「イルミ、走って!」
「了解」
言うなり、彼は私をひょいと抱き上げ、走り出す。
一瞬だけど、目標を見失ったシルバさんの隙をついて脇をすり抜け、飛行場へ――逃亡作戦は、見事成功したかに思えた
が、しかし!
相手は暗殺一家ゾルディック家御大。銀の髪の暗殺者の判断は、冷静かつ恐ろしいほどに的確だった。
「馬鹿が。どう逃げようが、お前たちが目指す先はイルミの飛行船。逃亡するだけ無駄だ」
「――っ!?」
背後からの声に、ゾクリと鳥肌が立った。
ヤバイ、ヤバイ……!
何かが来る。
飛行船を目指し、飛行場を駆けるイルミの肩越しに見えたものは、猛然とこちらに向かって迫ってくるシルバさん。
その両手に光る白銀の球体は、例のアレ。
アニメの蜘蛛編で目にした、例のアレ!!
「そんな大技、こんな所で使わないで下さいよ――っ!!」
「大人げないなー。嫌んなるよ、ほんと」
はい、ゴール。と、飛行船のタラップに私を下ろすイルミである。
「じゃ、あとは頑張ってね。父さんのあの攻撃を防げないと、船が壊れて出発できなくなるから。よろしく」
「よろしく!? えっ!? アレを防ぐって、えっ!?」
「頑張ってね。欲しいものがあるんでしょ」
ファイト、と無表情にのたまうイルミは本気である。
そんなこんなしているうちに、シルバさんが天井高く跳躍したあああああああああああああああああああああ!!!
どっかで見たぞ、このシーン!!
「あ、あ、あああ『驚愕の泡(アンビリーバブル)』ッ!!」
目を閉じて、両手を前に。
体内で増幅したオーラを一気に外へ――飛行船全体を守りの泡で包み、シルバさんの攻撃を迎え撃つ。
あの球体を構成するものは、高密度のオーラを元にシルバさんの体内で生成された生体電気だ。雷を凌ぐほどの電撃が泡に触れ、触れた箇所からこちらのオーラを破壊していく。
防ぎきれるか――いや。
ちがう。
防がなきゃ。
でないと、ヨークシンに行けなくなっちゃう。
このままでは空母が……夢にまでに見た、私の空母が……!!
私の空母が!!
「邪魔はさせません……!! 『驚愕の泡』!!」
「!?」
電撃球を手に、目下、攻撃続行中だったシルバさんの目が見開かれる。
その途端、彼の手の平から二つの光球がポロッとこぼれ落ちた。
御大なりに手加減をしてくれていたのか、その大きさは原作で見たものよりも、ずいぶんと小さい。
バスケットボールよりも、一回りほど大きいくらいだ。
それらは光を保ったまま、足元に落ちて転がった。
凝をしてよく見ると、光球の周りは念の泡で包まれている。
シルバさんは、しばらくじっとその様子を眺めていたけれど、ややあって、私を見た。
「見事だ」
「やったあ! 大きな飛行船全体を包んで守ろうとすると、かなりのオーラを消費しますからねー! 包む対象物を、シルバさんの電気球そのものに変えてみました! 私の念の泡は、毒でも包んで無害化することができるから、相手の攻撃も、ひょっとしたら包めるんじゃないかって――痛い!」
スコーン、ととんで来たのは一振りのナイフである。
今回も、ちゃんと柄のほうが当たるように投げてくださったところから察するに、御大のお怒りは解けているらしい。
……それなりに、痛いけど。
「調子に乗るな。今回は見逃してやるが、次は必ず参加させる。お前の念は防御に特化している。水、火、衝撃、圧力、毒、高温……これまでも、あらゆる外的環境に対し耐性をつけてきた。が、その全てが後手後手だ。必要に応じて能力を身につけることも確かに重要ではあるが――」
「はい! また今度がんばります!! 行こう、イルミ、早く早く早く!!」
「はいはい、解ってるよ。それじゃあ、父さん。いってきます」
「話を最後まで聞け。全く……」
渋い顔のシルバさんに手を降って、無事に飛行船へ乗り込んだ私とイルミ。
左右に開いた飛行場の天井から、ヨークシン目指して飛び立った――までは、良かったのだけれど。
「……あれ?」
離陸して五分ほど経過したころだろうか。
舵をとっていたイルミが首を傾げた。
「どうしたの?」
「さっきから、勝手に高度が下がってる。故障したかも」
「えー!?」
「このまま長距離飛行に入るのは危険だ。一度、パラスタに寄港してメンテナンスに出そう」
「それだったら、デントラ港の方が近いよ。飛行船用のドックもあるし、腕のいい修理師さんも揃ってるからそっちにしない?」
「分かった。海月、念の為に着席してベルトを締めておいて。……いつものことだけど、出かける度に色々あるよね、俺達」
「本当! でも、そういうのも楽しいからいいよ」
笑って言うと、イルミはほんの少しだけ目を細めて、私の頭をくしゃりと撫でた。
***
パドキア共和国、デントラ地区デントラ港。
ここは、海洋生物学者である私が研究拠点としている港だ。
ククルーマウンテンからは、徒歩二時間、バスで一時間。でも、飛行船を使って山を降りていけば、十分もかからずに到着できる。
周囲を高い断崖絶壁に囲まれ、切り込みの深い入江がいくつも連なったリアス式海岸。
ククルーマウンテンをはじめ、周囲の山々からはミネラルと栄養分をたっぷり含んだ地下水が流れ込む為、この辺りの海は全国でもトップクラスの漁獲量を誇る。
私が初めてここに来た時は、波に飲まれて見る影もなかった港町だけど、漁師さんたちやハンター仲間の力添えの甲斐あって、見事復興を遂げることができた。
最近では、ご当地グルメや、ゾルディック家観光やグッズを中心とした観光業も盛んである。
港から沖へ突き出した海上エアポートへ降り立った私達は、外側から改めて飛行船を見て、愕然とした。
「穴、開いてるね。あそこからガスが漏れちゃったんたよ、きっと」
「シルバさんの電気球のせいだ……! やっぱり防ぎきれてなかったんだあ~!」
わあん、と地面に突っ伏す私に、イルミは実に冷ややかな態度で、
「自業自得だよ。だから、ちゃんと耐性をつけておいたほうがいいって言うのに。訓練をサボるからだろ」
「朝っぱらからシルバさんに念で攻撃されるなんて想定外にもほどがあるよ!? ああ、どうしよう。これじゃあ修理にも時間がかかっちゃうよね……」
「早くても三日はかかるんじゃないの? ちょっと時間はかかるけど、この船で行くのは諦めて、高速船でパラスタへ向かって、そこから一般の飛行船で――」
淡々としたイルミの言葉が、ふいに途切れる。
かわりに重なったのは、「先生ー!!」と、はしゃぐ、元気な声だ。
声のした港の方を見れば、こちらへ向かって走ってくる人影が三つ。
トモチカに、マサヒラに、カラ。
いつもの仲良し三人組だった。
「今、朝の五時だろ。彼等、なんで起きてるの?」
「きっと、夏休みだから漁のアルバイトをしてたんだよ。漁師さんって、朝早いから」
なるほどね、と頷くイルミの前に、息を切らせて駆け込んできた三人の教え子は、おはようございまーす! と頭を下げた。
「お久しぶりです、先生! なんか見たことある飛行船だなーって思ったら、やっぱりイルミさんの船でしたか」
「おはよう! 相変わらず目がいいね、トモチカ。三人とも、この間はありがとうね。もう、身体の方は大丈夫?」
尋ねると、三人はもちろんと頷いた。
この間というのは、一週間前のあの婚約騒動の一件だ。デントラ港に攻め入った暗殺令嬢たちを、見事な戦術とチームワークで撃退した、うちのゼミ生達。
しかしながら、相手は暗殺者であり。念能力者である。
幸いにも死傷者は出なかったけど、念による攻撃を受けてしまったがために、倒れてしまった者も多い。この三人も例外でなく、その後数日の間は安静に過ごしていなければならなかったのだ。
でも、見たところ、三人ともとっても元気そう。
「大した怪我じゃなくて、ほんとに良かったよ。でも、これで懲りたでしょう? 今度から、無茶な真似は絶対にしちゃダメだからね。私が側にいない時は、特に!」
よく言うよ、とボヤくイルミは完全無視の方向で、先生らしく、びしっと叱りつけてやる。
煩いなあ、こういうものは躾が大事なんですよ、躾が。
当の三人組は、意味深な目線を交わし合い、にんまりと笑った。
眼鏡の下の眦を細めつつ、オレンジ髪の少女、トモチカがケロリとして言う。
「だ~い丈夫ですって! それより先生、その飛行船、気囊に穴が空いちゃってますよね。もしかして、代用機をお探しですか?」
「うん。そうなの、ちょっとした事故に遭っちゃってね。ヨークシンのオークションに行きたかったんだけど……」
「ヨークシン……!! っ、もしかして、先生!」
「行くのか、先生……昨日、俺等もテレビで見たアレを狙って行ってくれるのか、先生!!」
ガシイ! と、日焼けした手の平で、堅い握手を交わしてきたのはマサヒラだ。
涙をにじませる彼の横で、カラは相変わらずのんびりとした口調で、「ホーラ、やっぱり言った通りじゃないカ」とウインクひとつ、
「先生なら、見過ごスはずがないと信じてたヨ。絶対、落札してきてね。“シースター”」
「まっかせておきなさい!!」
「シースター?」
なにそれ、とばかりに、くりっと首を傾げるイルミ。
ま、まずい……お仕事上の理由といえど、ヨーク心オークションに行く目的が、実は空母を競り落とすためだなんて知れたら、またなんか文句を言われるかもしれない!
……黙ってよ。
「ふっ、船の名前だよ。欲しい船が、今度のヨークシンオークションに出品されるんだ―」
「ふーん。それって結構、高額だよね。金は大丈夫なの?」
「もーっちろん! この日のために、こつこつ貯めてきたハンター貯金があるんだから! それに、なんてったってイルミのお財布だってついてるしね!」
「は? なにそれ」
「だって、昨日言ったでしょ? 『お金も俺が出してあげる』って」
「断ったじゃない」
「全額はね。でも、もし足りなくなったら、助けて欲しいなぁ」
お願い、と見上げると、イルミは真っ黒な目を二、三度瞬かせ、
「……分かった」
こっくり、頷いてくれた!
よーし!! これで軍資金は大丈夫だ!!
待ってろ空母!!
必ず手に入れてみせる!!
「よーし! それじゃあ一刻も早くヨークシンに行って――っと、そ、そうだ。飛行船、壊れちゃったんだった……」
「お任せ下さい、先生! 今、代用機が来ますんで」
ほら、あれ。と、トモチカの指差す先を見て、絶句した。
白煙を上げ、港の方からこちらを目指して突っ込んでくる、銀色の機体……!
「水上ジェット機……!? 代用機って、アレ!?」
「はい!」
「どーしたの、あんなもの!! 誰のどこの船!?」
「もっちろん、うちの研究室の船ですよ!」
「この前、殺し屋連中からふんだくった高速船があっただろ? さすがに三十艇もいらないと思ったから、そのうちの何艇かを売り飛ばして、その金でアレを買ったんだよ」
「買った……って、一体どうやって」
「事情を話したラ、海鮮ラーメン食べ放題を条件に、少……ミルキさんがネット上の空軍オークションで競り落としてくれたンだよネ」
「どこへ行くにも、超速くって、超便利なんです!」
ねー、と声を合わせる教え子達にはもう、ぐうの音も出ない。
もしかして、私……育て方を間違ったんじゃあなかろうか。
おそらく、水陸離発着も可能であろう巨大なジェット機を前に固まる私。その肩を、イルミが叩いた。
「諦めなよ。弟子は師匠に似るっていうじゃない」
「じ、じゃあ、イルミのせいでもあるんだよね! 私の師匠はイルミだし!! 弟子の弟子は師匠の師匠にも似ちゃうってことだよね!?」
「はいはい。そういうことにしておけばいいんじゃないの?」
うわあ、刺のある言い方……!!
しれっとした態度で私の言葉を受け流したイルミは何故か、ジェット機を前にはしゃぐ三人組の姿を興味深そうな視線で見つめていた。
その視線に気づいた教え子達が、びくっと身を縮こませる。
「ど、どうしたのイルミ……この子達がなにかした?」
「……別に。ちょっと目を離した隙に、とっぴょうしのないことをしでかすところも、そっくりだと思ってさ。突発的進化ってやつ? 俺はないからね、そういうの」
「進化?」
「うん。分からないなら、別にいいよ。俺の思い過ごしかもしれないし――さ、ヨークシンまでの足も確保できたことだし、そろそろ行こう」
「う、うん……」
なーんか、ひっかかる言い方だけど、まあ、いいか。
これで、無事にヨークシンへたどり着ける……!!
***
蒼穹高く。
雲を突き抜けて飛び去っていった銀色の機体を見送った後、ポーの弟子たち三人は顔を見合わせ、押し殺していた息を吐き出した。
「っはーっ!! あっっぶない!! イルミさん、勘良さすぎだよーっ!!」
びびったー! と、オレンジ髪をかきむしるトモチカの肩に、落ち着けとマサヒラが手を置く。
「流石は、あのゾルディック家の長男さんだよな。いっつも無表情で、何考えてるかいまいち分かんねー、腹空かした鮫みたいな目してる人だけど……あの直感力、久しぶりに鳥肌立ったわ。なあ、カラ」
「うン。――ねェ、僕達の“コレ”、先生にはバレなかったかナ」
「大丈夫だろ? バレたところで、いまさらどうにかできることでもないだろうし」
「そうそう! それに、“コレ”のおかげで夏休みの宿題の三万字レポートはばっちりだしねーっ!!」
カーンペキー! と、天に拳を突き上げるトモチカ。彼女の肩を、両脇に歩み寄ったマサヒラとカラが、ぽん、と叩いた。
「ふん?」
「……悪い、トモ。俺のも頼む」
「にゃ!?」
「ボクのも、お願イ。育てたり、鍛えたりするのは好きだけど、レポートってどうも苦手なんだよネ」
「はあ――い!? ちょっとちょっと、待てコラ、逃げるな!! この不良共――っっ!!」
賑やかに、水上波止場を追いかけっこする三人の学生たち。
彼等の姿は、やがて朝市に賑わう港町の混雑に紛れ、見えなくなった。