夜中に目が覚め、寝返りを打とおとすると背中に人の気配を感じて飛び起きた。
「わりぃ、起こすつもりなかったんだけど。」
「キルア…。」
目の前にはベッドに腰掛けたキルアがいた。
「どこいって…ん!!」
腹を立てていたことよりもどこにいたのかと心配していた私は、問い詰める様にキルアとの距離を縮めると、あっさりと口を塞がれた。
「ん…や…」
予想もしなかった刺激に離れようとしても、頭の後ろに回された腕は簡単にそれを許してくれなかった。
やっとの離れた頃には私の身体から力は抜けて、ぐったりとキルアの胸に身体を預ける様にもたれた。
「ごめん。単なるヤキモチって言うか…。
いっつも一緒にいて『好きだ』の『頼りにしてる』だの言ってるからさ。
思わず俺なんかよりもその…」
「……。」
思わぬ喧嘩の理由を耳にした私はなんの反応も出来ないまま、ただ目を見開いて固まっていた。
「なんだよ!何か言えよ!」
何にも言わない事に『否定しない』と取ったのか少し苛立つキルア。
「いや…ごめん。」
『可愛い』そう思った瞬間私は自分の口元が緩むのを隠す様に手で口元を覆った。
まさかそんな理由で辞めさせろと言っていたなんて思いもよらなかった。
キルアがヤキモチ妬くなんて。
ヤキモチ妬かれる事がこんなに嬉しいなんて初めて知ったかもしれない。
自分はキルアにしっかり愛されてると自惚してしまう。
そんな事を考えると更に頬も目元も緩んでいく。
「菜々実?」
必死で隠そうと俯く私に何か感じて呼びかけられる声は少し苛立ちを含んでいる。
「まさかそんな理由やったと思ってなくて。」
「餓鬼だって言いたい?」
「ううん。その…」
そう言って顔をあげキルアを見上げた。
見上げた私の顔を見たキルアは理解できずに眉間に皺を寄せている。
「は?なんで笑ってんだよ!?やっぱり餓鬼だって言いたいんじゃ…」
さっきとは逆に私は不意打ちでキルアにキスをした。
「ごめん。ちょっと嬉しかっただけ。」
「嬉しい?」
「うん。シルバさんやイル兄にヤキモチ妬くのは知ってるけど、家族以外にヤキモチ妬かれたの初めてで嬉しかった。」
私はそっとキルアに身体を預けながら背中に腕を回した。
「餓鬼だって馬鹿にしてるんじゃなくて?」
「うん。」
「ヤキモチが嬉しいの?」
「うん。だって愛されてる証拠やん。」
「はぁ!?」
突然頭の上に降ってきた声は完全に怒りの声だった。
「ん??」
私はなんでそこでキルアがキレたのかわからず思わず顔を見上げた。
「お前俺に想われてる実感なしか!?」
「いや、なしって訳じゃないけど…ただはっきり態度で示される事って少ないから…。」
「少ない??」
なぜかキルアの怒りはどんどん増幅して行く。
私は私で意味が分からず徐々に尻込みしながら小さくなっていく。
「え…?だって…好きとかあんまり言…きゃっ!!」
言い終わる前に私はベッドに押し倒され、キルアに両腕を頭の上で拘束されたいた。
「キルア…??」
私を見下げるキルアの顔。
この顔には何度か見覚えがある。
そう。所謂私がアニメや漫画を見ている時に絶叫していた顔。
その顔が今目の前にある。
「菜々実?今まで俺に何回抱かれた?」
「はい???」
キルアの口から出た言葉の意味が理解できずに私は思わず聞き返してしまった。
「愛情、態度で示してなかったらしいから聞いてるんだけど?」
「覚えてません…。」
冷や汗が背中から額から滲んでくる。
「そっか。覚えてないぐらい菜々実の事抱いてるのに愛情示せてないって思うんだ?」
「あっ…いや…それは違う気が…」
「何が違うんだよ?愛情表現だろ~が。」
「そっそうですよね…。」
「俺が普段手加減してるのが悪かったんだよな。」
「手加減…?」
「当たり前じゃん。菜々実の為に手加減してたのにそれを『愛情表現が足りない』なんて言われると思ってなかったぜ。」
「いや!別に足りひんって言ったわけじゃなくて!!」
「言い訳してももう遅い。」
「キッキッキルア…あの…ちょっと落ち着きませんか!?」
「俺いたって落ち着いてるけど?菜々実こそ覚悟決めて黙ったら?」
「覚悟って…。」
「あっそっか!覚悟決まってるからあんな事言えるんだよな?」
シーツがビショビショになるんじゃないかと思うくらい私の身体を冷や汗が伝っていく。
この先に起こるであろう行為に逃げ道を探すも腕は拘束されたまま。
キルアはすでに私の足の間に自分を割り込ませている。
部屋のドアはキルアの後ろ。
逃げ場も逃げる口実も見つからない。
「さてと、明日菜々実休みだよな?」
「え?明後日まで休みですが…。」
その答えを聞くなりニヤリと笑ったキルア。
「どれだけ思ってるかじっくり教えてやるよ。」
そう言うと同時に深くキスされ、体中をキルアの手が滑っていく。
私はただキルアにされるがまま声をあげることしかできなかった。
ヤキモチを妬くキルアが可愛いと思ったのは事実。
でもその後ヤキモチを妬くキルアに怯える様になってしまった。
翌日私が目を覚ましたのは日が昇るどころか沈み始めた夕方。
「ん…。」
カーテンから差し込む夕日が眩しくて目が覚めたのだ。
起き上がろうとしても重く力の入らない身体は言う事なんて聞いてくれない。
周りを見渡してもキルアの姿はなかった。
暫く動けない身体をベッドに沈めたまま、押し寄せる睡魔に身を委ねていると頬を冷たい手が撫でた。
「キルア?」
「起きた?
動けないだろ?ゴトーに軽く食べられるもん頼んだから食う?」
キルアのそばには美味しそうな雑炊とフルーツ。
「お腹減った…。」
ベッドにうつ伏せになったまま目線だけをキルアに向けると昨日の夜の顔なんて想像出来ないくらいの優しい笑みを浮かべている。
優しく抱き起こしてくれて、そのまま私の後ろに座ると、膝の上に横向きに座らされる。
火傷しない様に温度を確かめながら一口一口丁寧に口に運んでくれる。
食べ終わって後ろから抱きしめられながらのんびりしているとキルアは思い出した様に私の耳元に口を寄せた。
「俺がどれだけ菜々実の事思ってるか自覚した?」
その言葉にさっきまでの行為を思い出し、真っ赤になる顔を隠すように私は俯いた。
「俺まだ足りないんだけど?」
「!!!!!」
結局私が自分の足でベッドを下りたのは仕事に行く日の朝だった。
トイレもキルアには運んでもらって、お風呂も入れてもらって、食事も運んでもらって…。
それはそれは終始ご機嫌な様子でした。
相変わらず重い身体を引きずる様にハンター協会へ向かう私の飛行船には ギルさんがいつもの様に笑顔で迎えてくれていた。