キルア×誕生日×支えられて

7月6日夜。

 

 

明日はキルアの誕生日……。

 

ここ数年、0時になった瞬間を一緒に過ごしていたのに、今私はククルーマウンテンにいないし、数日帰る予定もない。

 

 

キルアの誕生日を忘れていたわけでもないけど。

 

 

~数日前~

 

 

「菜々実、次いつ帰ってくんの?」

 

 

「ん~多分1ヶ月は帰ってこれへんと思う。ごめんな。」

 

 

「1ヶ月ぐらいは今に始まったことじゃねぇ~じゃん。

あんま無理すんなよ?」

 

 

「……うん。わかった。」

 

 

 

後数日でキルアの誕生日。

キルア自信気が付かないはずがない。

 

それでも何も言わないキルアに少し心が痛みながらもどうすることも出来なかった今回のスケジュール。

 

ネテロ会長からのたっての依頼で今回ビーストハンターとしてのSランクの討伐仕事。

 

 

キルアの反応を気にしながら荷造りをしていると携帯が鳴った。

 

 

『明日こっちをでるから。』

 

送られて来たメールに素早く返信をしてまた荷物を用意する。

1人では荷が重いと判断した私は密かに助っ人を頼んでいた。

 

その間携帯をいじりながら静かにベッドに腰掛けるキルア。

 

 

何か言う訳でもなく、私も何か話すわけでもなく。

普段ならそれでもなんとも思わないのに、今回ばかりはキルアが気になってしょうがない。

 

私ならきっと寂しいから……。

 

 

 

 

 

結局荷造りが終わり出る準備が整うまでキルアは一言も話す事はなかった。

ただ笑顔で『気ぃつけてな。いってらっしゃい。』そう言って笑顔で見送ってくれた。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

「もうすぐ着くから。」

 

『わかった。本当に俺だけでよかたの?皆暇そうだったよ?』

 

「いいの。今回は能力を借りたいだけやから。」

 

『ならいいんだけど。じゃー後で。』

 

 

 

飛行船で移動しながら助っ人の相手との電話でのやり取り。

でも頭の中は見送ってくれた時のキルアの顔でいっぱいだった。

 

笑ってるのにどこか寂しそうで、何か言いたそうで。

そりょそうだよな……。

 

 

「はぁ~。」

 

 

「菜々実さん、もうすぐ空港に到着します。

一度降りられますか?」

 

 

「ううん。合流出来たらすぐ出して。」

 

 

「わかりました。」

 

 

 

見慣れたヨークシンの空港。

着陸と同時に見知った顔が飛行船へと向かって歩いてくる。

 

窓から手を振ると軽く手を上げ挨拶してくれた。

 

 

 

 

「やっほ。」

 

「ごめんな手伝ってもらって。」

 

「いいよ。でも自動操縦は使わないよ?」

 

「うん。それでいい。とりあえず状況の把握に遠隔操作が欲しかっただけやから。

あ、でも手貸してな?」

 

「いいよ。何か飲むものある?」

 

「うん。カウンターにあるのとセラーにあるのは好きに飲んで。」

 

 

今回の助っ人……。

 

大分前、森林の中の討伐で思わぬ怪我をした事で学習した私は、今回先に遠隔操作ができる能力者に強力してもらって現状の把握をする事にしていた。

 

そしてその遠隔操作の能力者。

 

幻影旅団のシャルナーク。

 

 

 

調度暇そうにメールをしてきたシャルを捕まえた。

 

 

 

「どれくらいかかる?」

 

「そうだね、ここからなら丸2日ってところかな?」

 

「2日か。往復したら4日か……。」

 

「どうかした?」

 

 

今日が6月末。

キルアの誕生日まであと8日。

逆算して向こうに入れる時間は3日ちょっと……。

 

最低でも現状の調査くらいは終わらせてから……。

 

やっぱりどう考えても厳しい。

 

 

まさか助っ人を頼んでおきながら、シャル1人に4日程任せるわけにもいかないし。

 

どう考えてもキルアの誕生日を祝ってあげる時間は捻出出来そうになかった。

 

 

「はぁ~。」

 

 

自然と漏れたため息。

 

 

「なに?どうかした?」

 

 

2人分のグラスとワインを持って私の座る窓向きのカウンターへと腰掛けたシャル。

 

 

「実はもうすぐキルアの誕生日でさ。

今年は祝ってあげられへんなって思ってさ。」

 

 

「誕生日か。俺たちあんまりそう言う週間ないんだよね。」

 

 

「そうよな……。」

 

 

「はい。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

コルクを開け、グラスに注がれたのは白ワイン。

なんかシャルが赤ワインとか飲んでる印象がなかったから変に白ワインで安心しら。

 

 

 

「じゃー1ヶ月よろしく。」

 

 

「暇だったしね。今回は特別。よいしょっと。」

 

 

「シャル、前から言おうと思ってたけど、たまにおっさん臭いよな。」

 

 

「あはは。初めて言われた。やっぱり菜々実って面白いよ。

皆が特別視する理由がわかる。」

 

 

「そう?団長は能力が気になるだけやろ?」

 

 

「でも団長菜々実の能力取る気はないと思うよ。」

 

 

「そうなん?」

 

 

「だって菜々実の能力はオーラの消費が激しすぎるから。

その真っ黒の無限のオーラあってこその能力だからね。

俺たちがその能力使ったとして、そうだな……10分維持出来ないんじゃないかな?」

 

 

「マジ?」

 

 

「うん。だから団長にとられる心配は無いんじゃない?」

 

 

「よかった。」

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

他愛ない会話をしながら過ごす私とシャル。

 

2日間の飛行を終え無事目的地へと到着した。

 

 

 

「じゃー俺適当にマシン探してくる。」

 

 

「あ、出来るだけ悪党にしといてな。」

 

 

「なんで?」

 

 

「命の保証がないから。死んでも罪悪感の少ないのにしといて。」

 

 

「面倒だけどまーいいや。わかった。」

 

 

「私はちょっと先に聴きこみしてくる。」

 

 

「じゃー夕暮れにここでいい?」

 

 

「うん。」

 

 

 

シャルと別れて手前の街で噂話や現状の把握をする為に聴きこみを始めた。

 

どれぐらいの被害がでているのか。

どれほど情報があるのか。

 

知り合いが襲われた人や、話すのすら怖がる人。

様々な話を聞きながら頭の中にあるネテロ会長からもらったデータと照合していく。

 

 

 

「菜々実、カメラこれでいいの?」

 

 

白虎の背に2人乗り、空高く登った。

 

アンテナを挿した『マシン』は森の中をシャルの操作で進んでいく。

その肩には固定されたカメラ。

 

上空から見渡しながら森の中を調べていく。

 

移動中に2人相談して森を等分してブロック分けしてから調査する事にしていた。

 

 

毎日特に変わった様子はなく、ターゲットとの遭遇もない。

 

 

 

 

「菜々実、一回帰ったら?」

 

 

「なに急に。」

 

 

「この分ならもう数日調査だけでもかかるし、それなら俺やとくけど?」

 

 

「え?」

 

 

「誕生日なんだろ?」

 

 

「でも……。」

 

 

「大丈夫、調査までしかしないから。」

 

 

「本間にいいの?」

 

 

「俺の気が変わらないうちに行ったほうがいいんじゃない?」

 

 

「……ありがとう。」

 

 

私は慌てて帰る準備をして飛行船へと向かった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「急用ですか?」

 

 

「うん。ごめん今からノンストップで帰れる?」

 

 

「大丈夫ですよ。」

 

 

「7日中に着く?」

 

 

「ギリギリですね……なんとか間に合わせます。」

 

 

 

飛ぶ飛行船の中、シャルに感謝して、私はただ7日中に間に合うことを祈った。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

寝室をそっと開けると既に部屋は真っ暗。

 

キルアの規則正しい寝息が聴こえる。

 

 

私はそっとベッドに腰掛けると、いつも私が寝ている側に身を丸めて眠るキルアの姿。

 

 

猫っ毛な髪に指をそっと通すと身動ぎした後ゆっくりと目を開けたキルア。

 

 

「……菜々実?」

 

 

そう呼んだ後小さく笑いまた目を閉じた。

 

 

「誕生日おめでとう。」

 

 

小さく囁くと今度はぱっちりと急に目を開けたキルアに驚いた。

 

 

「嘘だろ?」

 

 

「なにが?」

 

 

「だって1ヶ月は帰れないって……。」

 

 

「うん。全部任せて放って帰ってきた。」

 

 

「今一瞬夢かと思った。」

 

 

「だからまた目閉じたん?」

 

 

「うん。」

 

 

 

薄い夏布団から顔だけを出し、未だに信じられないと言いたげなキルアの顔。

 

 

 

「誕生日やもん。お祝い言いたいし、一緒に寝たい。」

 

 

私はキルアの隣に身体を滑り込ませた。

 

 

「忘れてんだと思ってた。」

 

 

「忘れませんよ。」

 

 

「行くとき何にも言わねぇーから。」

 

 

「言ったら私が行くの嫌になりそうやったから。」

 

 

 

いつもと逆の場所に少し違和感を感じながらも私はキルアの胸に顔を寄せた。

 

 

「キルア、生まれて来てくれてありがとう。

この1年またキルアにとって素敵な歳になりますように。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

もう何度目だろうか?

この台詞を言うのは。

 

 

私からの毎年同じお祝いの言葉。

 

 

ゆっくりと顔をあげキルアにキスをする。

音がなりそうに短いキス。

 

 

腰に回された腕に力が入り、目を開けるとうっすらと涙を浮かべるキルアの瞳。

月明かりに照らされてキラキラと光っている。

 

 

「泣くほど嬉しかった?」

 

 

「あぁ、諦めてたから。」

 

 

「喜んで貰えてよかった。

ごめん、流石にプレゼント用意する余裕はなかった。」

 

 

「いらない……。

菜々実?いっつもこんなに寂しい思いして俺の事待ったのかよ……。」

 

 

「え?」

 

 

「俺ゴンと旅とか出てた時、あんまり帰ってこれなかったじゃん。」

 

 

「うん。」

 

 

「基本菜々実がいないときはゴンと一緒にいるか、菜々実の仕事に付いて行く事が大半だからさ。

こうやって1人で菜々実が帰ってくるの間待つことって考えたらほとんどなかったんだ。」

 

 

そうかもしれない。

今回なんでゴンと一緒にいないのかって考えたけど、答えは簡単だった。

今まで毎年キルアの誕生日前後は2人で過ごしていたから。

 

ゴン達もそれが当たり前になっていてキルアを誘う事もなかったんだ。

 

 

「なおさらごめんな。」

 

 

「俺こそごめん。

菜々実の淋しさ初めて実感したかもしれねぇ。」

 

 

「私は大丈夫やで?仕事もあるからさ。」

 

 

「それはそれでさびしい。」

 

 

「キルアの贅沢。」

 

 

2人おでこを合わせてクスクスと笑った。

 

 

今年は本当に短い時間だけど、それでもキルアの誕生日の夜に一緒に過ごす時間が出来た事に心底感謝した。

 

 

行ってきたら?と言ってくれたシャルに。

寝ずに飛行船を飛ばしてくれたギルさんに。

 

 

 

「菜々実?」

 

 

私を呼ぶキルアに目を開ける事も返事をする事も出来なかった私。

 

 

「疲れてるよな?ありがとう。」

 

 

飛行船で出来る事をと、私自身も調査の報告書をつくったりまとめたりしていて睡眠不足だったのが仇となって、キルアの心地いい腕の中で既に眠ってしまっていた。

 

 

そんな私の耳に囁かれたキルアの声は優しく暖かくて……。

 

心のなかでもう一度『おめでとう』と伝えていた。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

翌朝、キルアに起こされた私は今度はスッキリいつものキルアの笑顔に見送られてシャルの待つ調査地へと向かった。

 

互いに笑顔で手を振って……。

 

 

 

 

~Fin~

 

Happy Birthday キルア!!!!

 

 

 

次回キルア目線近日公開予定!!