「お疲れさまでした。ここが、二次試験会場です。従って、この場にいる全員を一次試験通過者とします」
「「「やったあ~~!!」」」
ゴンとキルアと三人で、ハイタッチをして喜びを分かち合う。でも、ゴンはふと緊迫した顔つきになり、ある一点を見つめた。
「レオリオ!!」
「あ、そうだった!おっさん!!」
おっさ……キルア。
あのね、実はそのひと十代で、私はそれより歳上なんだ。
うう……なんて、落ち込んでる場合でもないか。
幸い、レオリオはすぐに見つかった。
木の幹に寄りかかって座って、ぐったりしている。
「レオリオ!」
「大丈夫!?」
「うう……あれ、ゴンにキルアにポー……?俺ぁ、一体どうしちまったんだ」
「ヒソカに殴られたあと、レオリオってば気絶しちゃってさ、それをヒ」
「お、俺とゴンとポーで、ゴールまで運んでやったんだよ!いやあ、大変だったぜ~、感謝しろよなあ」
「そうだったのか……三人とも、恩に着るぜ!!」
ナイス、キルア!
そうだよな~、よりにもよって、殴りかかった本人に担がれて運ばれたなんて知ったら、レオリオのことだ。
ふざけるなとまた殴りかかりに行きそう。
でも、ヒソカにはあとでお礼を言っとかないとね。
そう思ったときだ。
背筋をぞわっと冷たいものが這いのぼった。
ひょい、と首根っこをつかまれたのは同時。
「ひえっ!!?」
「ヒソカ!!」
「おい、ポーをどうするつもりだ!」
「どうもしないサちょっと話したいことがあってね。試験開始までには無事に返す。……キミたちが、ボクの邪魔をしなければね」
「大丈夫、嘘じゃないと思うから。心配しないで」
「ポー……」
「……ヒソカ、約束だよ。もし破ったりしたら、俺、お前のこと大っっ嫌いになってやる!!」
「クックックックッ!それは困る……いいよ、約束だ☆」
そうして私は、人気のない林の中へ連れてこられた。
「……イルミに、念を教わることにしたって、本当?」
トン、と私の背を木の幹に押しつけて、ヒソカは単刀直入に聞いてきた。
「イルミ……」
「ギタラクルの本名☆彼、きっと自分からは明かさないだろうから、友達であるボクが、かわりに教えてあげとこうと思ってサ」
「……」
「どうして彼なのかな?彼自信のことを、キミはなにも聞いてないの?」
「殺し屋さんだって言ってました。それに、まだOKをもらったわけじゃないんです……少し考えさせてくれって」
「……どうやら彼、引き受けるつもりらしいよ☆さっき話したとき、そう言ってた」
「本当ですか!?やったあっ!!」
「ただし、それがキミの成長の為かどうかは知らない。彼、もともと家族以外の他人には、興味を持たないんだ。だから、彼の真意は不明だし、正直なところボクも驚いてる★」
「う……でも、もしギタ……イルミさんに殺すつもりがあるんなら、とっくに殺られちゃってる気がするんですよね。それをしないってことは、やっぱり、ちゃんと教えてくれるつもりがあるからじゃないのかなぁ……」
「ポー。キミさぁ」
珍しく、ニヤニヤ笑いを引っ込めると、ヒソカはかがんで私の顔を覗きこんだ。
「死にかかわる仕事を、してたのかい?」
「え?」
「さっきは気づかなかったけど、今のキミはそんな目をしているよ他のものの死を見つめ、自分の死を客観的に見つめることのできる目だ。やるかやられるかの命のやりとりを、日常的に見続けてきた冷静な眼差し……どうしてだろうねぇ、さっきはただの泣き虫さんだと思ったのに」
「……話したかったことって、それですか」
うんと微笑む奇術師に、私はなんとも言えない気持ちになった。
「そうだなぁ……そう言われたら、そうかもしれないですね。私、海洋研究生なんです」
「カイヨウ……?」
「そ。海に潜って、そこに棲む生き物がなんでそんな風に進化したのか、調べる研究をしてました。専門は、軟体動物。つまり、柔らかい身体をもつ生き物ですね。イカとか、タコとか、クラゲとか。なかでも、私は捕食能力者専行のゼミに所属していて――」
「ちょっと待ったなるほど、確かにキミは研究者って感じがするなぁ。ナニかに夢中になると、止まらなくなるタイプ。でも今はあまり時間がないから、手短に答えてもらわないとネ」
「捕食者の場合、相手を殺すというより、捕まえて食べるのが目的になりますけど、そういう瞬間は毎日見てましたね。生きるために殺すっていうなら、イルミさんはそうした生き物に似ています。だから、なんかちょっと親近感が湧く気がして。ほら、なんかこう、イカっぽいじゃないですか!」
「……ぷっ!」
うひゃあ、ヒソカさんが爆笑してる。
なんか、戦闘以外で普通に笑ってるヒソカさんてレアだなあ……なんて思ってたら、遠くからカランカラン、と鐘のなる音が聞こえてきた。
「時間のようだネ。そろそろ皆のところに戻ろうか」
「はい!ヒソカさん、ゴンとの約束守ってくれてありがとうございました!あ、あと、レオリオを運んでくれて……殺さないでくれて、ありがとう」
「どういたしまして……ポー」
「はい?」
くるっと振り向いたら、目の前にヒソカの顔があった。え、と思ったときには腕を引かれていて……。
ちゅ
「×→ц①×●:☆→①△←!!!」
「ククッ!やっぱりボク、キミのことが気に入っちゃったみたいだイルミに愛想がつきたら、いつでもおいで」
去り際にハートのエースを投げて寄越した奇術師を、私はただ、真っ赤になって見送るしかなかった。