14 ぬけがけ?×面接!×ステーキ合戦!?

 

 

 

 

 

 

「おや、もう気がついたのですか?」



目を冷ますと、ベッドの脇にサトツさんがいた。



消毒液の匂い。



「ここは……」



「飛行船内の、医務室ですよ」



パタン、と読んでいた本を閉じて、サトツさんはちょっとほっとした顔をした。



「よかった。次の試験会場につくまでに目覚めなければ、あなたを失格にしなければならないところでした」



「うそっ!?ふわあ、よかった~目が覚めて」



「お友達も心配していましたよ。後で、皆のところに顔を出してあげるといいでしょう」



「はいっ!早速行ってきます!」



「立てますか?」



「勿論、もうすっかり元気です!!」



えいえいおー、と腕をふる私に、サトツさんは驚きと、嬉しさを混ぜたような顔をして、



「……ポーさん、あなたには本当に驚かされます。念を覚えたてのあなたが、こんなにも早くその力を形にしたことにも、こんなにも早く消耗したオーラを回復させたことにもね。通常なら丸一日、悪くすれば二日はかかります」



「私、どれくらい寝ていたんでしょう……」



「三時間ほどです。二次試験終了が4時でしたから、丁度、今は夕食の時間のはずです。皆さんは食堂に……」



ビュン!!



ごめんなさい、サトツさん。



最後までお話をきけなかったごはん!!



ごはんだごはんだごはんだ!!!



だって私、朝からなにも食べてない!!



ステーキ定食しか食べてない!



ステーキ……うう。



じゅるり。



考えてみたら、クモワシの卵も食べれなかったんだもの。気絶してたんだもの!ごはん!!



ごはん!!!!



「おーい、ちょいと待ちんさい」



「うわっ!?」



くいっと首根っこに杖をひっかけられたかと思ったら、視界が一回転。



気がついたらその場に正座していた。



目の前にはネテロさん……。



「ハロー、お嬢ちゃん!わしが誰だか覚えとるかな?」



「ネテロ会長……ハンター協会の」



「ピンポーン!当たりじゃ」



「私に、何かご用でしょうか?」



「ふむ。用事というよりは、お前さんと少し話がしたくての。目が覚めるのを待っとったんじゃよ」



「……今じゃないとダメですか?私、お腹空いちゃって――」



「ダメぢゃ」



ですよねー。



有無を言わさず連れて来られたのは、ネテロ会長の特別室。



机の上には……。



「ステーキ!!!」



バシュッ!!



自分の身体から飛び出したオーラが、触手になって伸びるのが分かった。クモワシの卵のときと同じだ!



やっぱり、気のせいじゃなかったんだ。



でも、触手の先がステーキに触れるか触れないかで、忽然と、ステーキが消えた。



「え!!?」



「なるほど。それがお前さんの念能力かの?限りなく見えにくい、自然体で陰をまとったような不思議なオーラじゃ」



「ネテロ会長!意地悪しないでくださいよう!!」



いつの間にやら、焼きたてのステーキはネテロ会長の人差し指の先に。



お皿が少しも傾かない辺り、流石と言おうかなんと言おうか。



「意地悪?なんのことかの?こいつはわしの夜食にしようと思って運ばせたんじゃ。食べたければ分けてやってもいいが、お前さんに出来るかな?」



つまり。



つまりだ、食べたければ力ずくで取りにこいと言いたいのだこの爺さんは。



いいだろう……そっちがそのつもりなら。



シュッ!



シュッ!



シュッシュッシュッシュッシュッ!!



ダメだ!捕まらない……!!



も~~!!



お腹すいてるのに!!!



「……ネテロ会長。ところで、お話はそれだけですか」



「うん?」



「それだけでしたら失礼します!!」



バタン。



廊下に出たら、ネテロ会長はあわてて追いかけてきた。



「こりゃ~!!待ちんさい!まだ話は終わっとらんのじゃ!!」



「普通にステーキ食べさせてくれるなら、いくらでも戻りますよ!!」



「むう……根性のない嬢ちゃんだのう」



「無益な争いはしません。これじゃ、ステーキにありつけても消費するカロリーの方が上回っちゃう。食べられても余計にお腹がへったんじゃ、意味ないじゃないですか。食堂へ行って食べます。海の捕食者だってそうですよ?深追いはしない。無理なものは無理」



「むむう……よかろう。食べたいなら好きなだけ食べたらよい」



「やった!!」



部屋に戻って30分。



五皿目のステーキを胃に納めたところで、ネテロ会長が聞いてきた。



「お前さん、発を行ったのはさっきの試験が始めてじゃな」



「ふぁい、ほーへふほ――って、気づかれてたんですか?」



「あったり前じゃい!だてに化け物集団の長はやっとらんて」



「発どころか、念を覚えたのも今回のハンター試験に参加してからなんです。それまでは、自分でも知らないうちに精孔を開いて、オーラを流出させてたみたいで、ちょっと運動しただけで、ヘトヘトに疲れちゃってたんですよね」



「ほほう、興味深いの。一体、いつからだったんじゃ?」



「あるひとが、私が産まれる直前に、津波に飲まれたことが原因じゃないかって言ってました。身体が弱かったのも、小さい頃からだから、私もそれが正しいんじゃないかって思います」



「ふむう……自然に洗礼を受けて、能力に目覚めた例は過去にもあるの」



「本当ですか!」



「うむ。あるものは雷に打たれ、あるものは数十年の間を山中で暮らし……じゃが、産まれる前にというケースはわしも聞いたことがない。お嬢ちゃんは面白い逸材じゃの」



「ふうん……でも、なんで触手だったんでしょう?オーラを触手に変化させるってことは、私、変化系なんですよね?」



頭の中でうねる触手をイメージする。



すると、今度はちゃんと目の前に表れた。



うでよりも少し太いくらいの触手。



半透明で、イカみたいだけどツルンとしている。



「一概にそうとは言えんの。じゃが、分かったことがひとつだけある。その能力は、“生き物”じゃ。従って、さっきのようにお嬢ちゃんの本能が働いたとき、最も優れた力を発揮する……気がするの」



「本能……あ、そっか!さっきも、クモワシのときも、私、すっごくお腹すいてた!」



じゃあ、会長はわざと意地悪を……と思いかけて取り消した。



なんか、騙されちゃダメな気がする。



「そうかあ、じゃあ本当に、私にぴったりの能力のような気がします」



「というと?」



「私、海洋研究生なんです。小さい頃から、研究者になるのが夢で、今でも、海に暮らす生き物について研究してるんです。だから、この念能力が生き物だとしたら、すっごく相性がいいなって。どんな可能性を秘めているのか、どんな風に成長して、どう進化していくのか……今から楽しみで堪らないですよ!」



「面白い考え方をするのう!いや、わしも楽しみじゃよ。お嬢ちゃんと、お嬢ちゃんの能力が、これから先どう育っていくか、じっくり見守ることにしよう」



「ありがとうございます!」



「うむ。では、時間をとらせたの。もう、行ってよいぞ」



「はい。あ、ネテロ会長!」



「ん?」



「私の名前はポーです。よかったら、覚えておいて下さいね」



「ふふん。よかろう。覚えておくとするよ、ポーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ***

 

 

 

 

 

 

 

 




「いかがでしたか、彼女は」



「素直で率直ないい娘じゃよ。わしがあと80年ほど若かったらのぅ」



「会長、私は真面目にお尋ねしたのですが……」



「わーかっとるわい、サトツ。おぬしは真面目すぎるところが甘ちゃんじゃわい」



「それは、申し訳ございません。それで、彼女への処分は?」



「ポーに言ったとおりじゃよ。見守ることにしよう。時々おるんじゃなあ、ハンター試験という、極限の精神状態に置かれる場で、いち早く念能力に目覚めるものが……」



「ハンター協会が危険因子と見なした場合、強制的に精孔を閉ざす処置をする。彼女が対象にならなくて、本当によかった」