(生きるための力、か)
そんな風に考えたことは、今まで一度もなかった。
俺の力は殺すための力。
俺の技は殺すための技。
そう、教え込まれて育ってきた。
「……あーあ。なんか調子狂っちゃうな」
ポーの必死の申し出を、俺は一時、保留にした。
気持ちの整理がつかないから、考える時間が欲しいと言った。
ポーはちょっと驚いた顔をしたものの、笑ってうなづいてくれた。
気持ちなんてものに決断を左右されるなんて、馬鹿げている。
俺らしくもない、と思う。
でも断れなかった。
何故かと考え、冷静になっていくにつれて解ってきた答えに愕然とする。
嫌だったのだ。
どうやら俺は、この血にまみれた力を、生きるための力だと言ってのけた、彼女の言葉を否定したくないらしい。
「イ~ルミ☆」
ジロッと、霧の中から滑るように現れた派手な男を一瞥する。
ヒソカは肩に大きな荷物を抱えていた。
「誰、そいつ」
「ボクに殴りかかってきた、勇気あるオニイサン☆それにしても、イルミ。キミにしては珍しい顔をしてるじゃないか★変装も解いちゃって。ナニがあったんだい?」
「内緒」
「ん~☆ずるいなぁ★」
ニタニタ笑っていたかと思えば、ポーだろ、とあっさり見抜かれてしまう。
煩いな。
俺はちょっとだけ眉間にシワをよせた。
「ああ。さっきまで一緒にいたよ」
「ふうん……それで、どうした?」
「殺した」
「クックックック……ッ!嘘つき☆」
「……」
なんでわかるの、そういう目で見ていたら、スッと指先を差し出された。
4のカード。
マークはハート。
「血の臭い」
「うん☆受験生の何人かに絡まれて、ムカついたから殺っちゃった。ボクは危険人物で、邪魔物なんだってサ、酷いよねぇ★」
「ねぇヒソカ」
「なんだいイルミ☆」
「前から思ってたんだけど、それってどういう基準なの。生かすか殺すか。俺から言わせれば、さっきのポーのやり方より、君に向かってきた受験生たちのほうが、よっぽど堂々としてるじゃない。担いでるそいつだって、それで気に入ったんだろ?」
「違う違う。このオニイサンは実力差を承知の上で、たった一人でボクに向かってきたけど、奴等は霧に乗じて、群れてかかればボクを倒せると思ってたんだよ。見くびられたものだ☆ボク、自分を過小評価されるのって大キライ……★」
「ふうん……」
「イルミだってそうだろう?自分の力を正しく理解してくれ、それに対して、きちんと敬意を払ってくる相手には好感が持てる☆勝てないと理解した上で、命を奪われる危険があるのを承知で、自分の可能性や、仲間のために立ち向かってくる……あるいは、知恵を振り絞って逃げ、再起を待つ。そんな選択が出来るのも才能の1つだ☆
ポーもそうだ。あのときはちょっぴり腹が立ったけど、今から思えば、絶を選んだのは大正解☆
あの子の精神状態を考慮すれば、最も適した念だった。得意分野を見極め、本能で伸ばし、全力で挑んでくる……興奮するじゃないか。彼女がどんな風に成長して、どこまで強くなるか……考えるだけでゾクゾクする☆」
「……」
うーん。
ヒソカの言葉に思案する。
考えてみて気がついたのだけれど、俺の中で、答えはもうとっくにかたまっていたのだ。
ただ、踏み切る言葉が欲しかったのか……それとも。
「ねぇヒソカ」
「なんだいイルミ☆」
「俺、これからしばらくポーの念の師匠をやることになったから、よろしく」
「………………………は?」