3 ジョギング!×スケボー?×念使い!?

 

 

 

 

 

 

「ではこれより、第一次ハンター試験を開始いたします。私は第一
次審査試験官のサトツです。試験内容は極めてシンプル。この私のあとを、ついてきて下さい」

 

 


くるり、と背を向けて、スタスタと歩き始めるサトツさん。その後ろ姿を眺めつつ、

 

 


「……驚いたぜ」

 

 


呆然と呟く、レオリオ。

 

 


「信じてくれました?私の住んでた世界では、今まで起こったことも、これから起こることも、漫画やアニメになってるから知ってるって」

 

 


「ああ、これで完全に信じる気になったぜ。ハンター試験の試験内容を事前に知るなんて真似、それくらいの裏技使わねぇ限り、できっこねぇからな!」

 

 


「おかげで、準備体操バッチリだよ!俺、どこまでだって走っていける!!」

 

 


「私は自信ないなあ~……」

 

 


「ポー。ゴンに約束したのだろう。自信を持つと。自信というのは、自らを信じることだ。難しいことだが、信じなければ生まれない力もある」

 

 


「クラピカ……わかった。やるだけやってみる!!」

 

 


バッチのナンバーから予測するに、参加人数はざっと400人。

 

 


サトツさんはまだまだジョギング程度の速度で歩いているから、群衆はなかなか進まない。数分たって、やっと私たちも走り出すことができた。

 

 


ううう……これから、どんどん速度が速くなってくるんだよね。

 

 


しかも、いつ終わりが見えてくるかわかんない、薄暗い地下道を延々……。

 

 


なんて考えてるうちに、どんどん息があがっていく。

 

 


横腹が痛くなって、苦しくなる。

 

 


ゴンたちは、まだまだ余裕。
レオリオとクラピカなんて、口喧嘩しながら走ってる。

 

 


でも。

 

 


でも……わたしは、やっぱ、駄目だよ。

 

 


脚がもつれてくるし、そうしている間にも皆から離れていく一方。

 

 


くっそ~!!

こんなことなら普段からもっと運動しとくんだった!!!

 

 


「泳ぎなら……負けないのに、うう~!!」

 

 


「はいはい、ごめんよ~っと」

 

 


その時だ。

 

 


銀色の髪の男の子が、スケートボードに乗って、スイ~っと横をすり抜けていった。

 

 

 

キルアだ!!!!

 

 


「ん?」

 

 


私の視線が気になったんだろう。
(だってものすごく凝視しただろうから)キルアはちらっとこっちを振り向いて、あのニャンコみたいな、ちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべた。

 

 


「なに?おねーさん、俺になんか用?」

 

 


よかったおばさんって言われなくって!!!

 

 


「なーってば!」

 

 


「えっ!?あ、ご、ごめんね。なんか、格好いいなって思って」

 

 


「!」

 

 


そう言って笑った途端、キルアはぎょっと目を見開いて、耳の先まで真っ赤になった。

 

 


「き、急にヘンなこと言うなよ!!」

 

 


「うえ!?ご、ごめんごめん、でも、ほんとに格好よかったから。上手いね。私、そういうの乗るの下手なんだ」

 

 


「あ、ああ。こいつ(スケボー)のことか……ちぇっ、なあんだ」

 

 


とたんに、くちびるを尖らせる。

 

 


うわっはー!!

 

 


可愛いなあコンチクショウ!!

 

 


ああ、でもそうか。
誤解させるような言い方だったな。

 

 


「大丈夫!キミも充分格好いいよ。10年経ったらまた会いたいな~」

 

 


「はあ!?子供あつかいすんなよな~。……なあ、それはそうと、おねーさん、名前なんての?」

 

 


「名前?名前は、ポーっていうんだ」

 

 


「そか。俺はキルア。よろしくな。ってかさ、ポーは、この試験に一人で参加してんの?」

 

 


「ううん、あと三人……でも、私、走るの、苦手でさ……はは、情けないよ~ほんとに……」

 

 


「ふぅん。そいつら、かなり前にいんの?」

 

 


「え?どうだろう……はぐれてから、まだ、十分も経ってないと思うけど」

 

 


「な~んだ。なら、すぐ追いつけるじゃん」

 

 


ニッと笑った次の瞬間、小さな手のひらが私の腕を掴んだ。

 

 


信じられない強さで引っぱられたと思ったら、平らな板の上に立っていて……。

 

 


「二人乗り!!?」

 

 


「飛ばすから捕まってろよ!」

 

 


ギャンッ!

 

 


キルアの脚が、すごい力で地面を蹴った。(実際、蹴ったのは見えなかったけど……)

 

 

 

ひしめく人の群れを次々に追い越して……ニタニタ笑いのアノヒトと、カタカタ頭のアノヒトをついでに追い越して。

 

 


レオリオの「こら!ポー!乗り物に乗るなんてずるいぞー!!」

 

 


という声をスルーして、あっと言う間にゴンのつんつん頭が見えてきた!!

 

 


「ゴン!!」

 

 


「ポー!!よかった!周りを探してみたんだけど見当たらなくて心配してたんだ……あれ?」

 

 


「よっ!」

 

 


「こんにちは!俺はゴン=フリークス。君は?」

 

 


「キルア。ポーが後ろでへばってたから、仲間のところまで送ってやろうと思ったんだけどさ。なんだ、まだ子供じゃんか」

 

 


「そっちだって子供じゃないか!」

 

 


「なんだと?お前、歳いくつだよ!」

 

 


「12歳!」

 

 


「あっれ?くっそ~、同い歳か」

 

 


若いなあ……。

 

 


「ふーん……やっぱ俺も走ろっと。ポー、スケボーよろしく」

 

 


「ええええ!!?ちょっと待ってキルア君!私、こんなの乗ったことないんだって

ば!」

 

 


「大丈夫だって。板の真ん中に片足乗っけて、蹴るだけ。ポー、バランス感覚いいぜ?一緒に乗ってても気にならなかったし」

 

 


「う……そ、そうかなあ……?こんな感じ?」

 

 

 

「上手い上手い。なんだ、出来るじゃん。ほんとに初めてなのか?」

 

 


「う、うん。あ!アレかな、サーフィンならやったことあるから、それでかな?」

 

 


バランスの取り方、体重のかけかたは確かに似ている気がする。

 

 


初めてスケートボードに乗れたことが嬉しくて、なんだか楽しくなって滑っていたら、キルアがまたこっちを振り向いて、ニッと笑った。

 

 


「それ、預けとくぜ。俺の大切なものだから、後でちゃんと返せよな」

 

 

 

「預けとくって……」

 

 


「じゃあゴン!競争しようぜ!!」

 

 


「うん!負っけないもんね!!」

 

 


ああ、そうだ。そんな話しもあったな~なんて思ってるうちに、二人の姿は人波の向こうに見えなくなってしまう。

 

 


「若いなあ……」

 

 


「ホント☆青い果実って感じだよねぇ……☆」

 

 


「!!!!?????」

 

 


い……いつの間に!!?

 

 


全然分からなかった。いつの間にやら、後ろを走っていたはずの超危険人物がすぐ隣に!!!!

 

 


「……ヒッ」

 

 


「ん~?」

 

 


「……ヒ、ソカさ……ん?」

 

 


「あれ?キミ、ルーキーだろ。なのに、ボクの名前を知ってるんだ☆」

 

 

 

しま………っ!!!

 

 


「どうして?」

 

 


「……」

 

 


「答えなよ☆」

 

 

ニヤア~っと笑う悪い奇術師。

 

 


わざとだ……絶対にわざとだ!!

 

 


「さ、さっき、受験生の腕を切りお……消しちゃったときに、周りがざわめいてるのを聞いたんです!」

 

 

サッとすばやく視線を走らせ、逃げ道を探す。

 

 

 

オッケイ!斜め左うしろが空いてる……!!

 

 

チャンス!

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……」

 

 

「~~~~!!!」

 

 

イルミ兄さんの馬鹿あ~~~っ!!!

 

 

なんで!?

 

 


なんでそんなうまいことスキマにはまっちゃうんですか!!?

 

 

「後生だから邪魔しないで下さいよ!!」

 

 

「クックック……ッ☆」

 

 


右にヒソカ。

 

 

左にイルミ。

 

 


ああ、でも今は変装中だからギタラクルか……両サイドをがっちりと固められ、逃げ場のない私……嬉しいやら怖いやら。

 

 

 

いや、生でこのはんぱない圧迫感を体験するとですね。

 

 


怖い!!!!

 

 


この一言に尽きる!!!

 

 


「出来るだけ目立たない予定だったのに……できることなら今すぐ透明なクラゲになりたい……!肉眼で見えないプランクトンになりたい……!!物言えぬ貝になりたい……!!!」

 

 

「聞こえてるよ☆それにしても、キミはやっぱり面白いコだな~、さっきは遠目でしか見えなかったケ・ド」

 

 


「……!!」

 

 

 

やっぱり見られてたんだ!!

 

 


くい、と長い人差し指にあごをすくわれる。

 

 


「ん~☆やっぱり。なかなかの美人さんだね」

 

 


出た!

 

 


嘘つきですよ、嘘つき気まぐれ変化系ですよ!!

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……(もうやめなよ、ヒソカ。この子、本気で怖がってるじゃないか)」

 

 


「そうですよ!ストーカー行為もほどほどにしとかないと……あれ?」

 

 


「……☆」

 

 


「あれ?今、こっちの人の言葉が分かった……って、え!?ちょっ!?」

 

 

ガシイ!

 

 

 

ひええええええええええ~~っ!!!

 

 


「やっ!?はな、はな離して下さいごめんなさい!!」

 

 

「カタカタカタカタカタカタ……(やあ。俺はギタラクルっていうんだ。君はポーだろ、よろしく)」

 

 

この、マイペース操作系!!!

 

 

「よ、よろしく……」

 

 

びっくりした……いきなり手ぇ捕まれたから、手首ごともぎ取られるかとヒヤヒヤしたけど。

 

 


イルミ兄さん……もとい、ギタラクルの手は軽く握手をしただけで離れていった。

 

 


変装は不気味だけど、もしかしたら案外、悪いひとじゃないのかもしれない。

 

 


不気味だけど。

 

 


「ギタラクル、抜け駆けはズルいなぁ★まあいいや。互いが誰か分かったところで、キミにこっそり聞きたいコトがあ・る☆」

 

 


ニタア~っと笑って、ヒソカが耳元に低く囁いた。

 

 


「念について、キミはどこまで……」

 

 

「うひやあああいっ!!!!」

 

 


「……☆」

 

 


「ごっ、ごめんなさい!わざとじゃないんです、耳ダメなんです!くすぐったがりなんです!!」

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……(ヒソカがね、君が念を使えるのかどうか気にしてるんだ。ほら、さっきの騒動のとき、君、練をやめろとか騒いでただろ?)」

 

 


「ああ、アレ」

 

 


よかった~、その後のとんでもない暴言は気にされてないみたいだ。

 

 

 

ほっ。

 

 


「正直に答えないと、ナニをしちゃうかボク自身にも分からないよ?なにしろ、ボクは変態で意地悪で戦闘狂だから……★」

 

 

「失言でした!!」

 

 

「ダメ★許してあげない」

 

 

ヒソカさんの意地悪……っ!!

 

 


でもまあ、よかった。

 

 


そんなことなら大丈夫。

 

 

「で、どこまで知ってる?」

 

 

「えっと……知ってるのは、念が生体エネルギーであるオーラを自在に操る技だってことと、基本の四大行……くらいです」

 

 


「……☆」

 

 


「私自身は念の使い手でも、なんでもありません。ただ、念の概念や考え方には興味があったので、ちょこっと読みかじっただけです」

 

 


「ふぅん……」

 

 


ちょこっとではないけどね。

 

 

原作はもちろん、公式ホームページまで読みこんでおりますがナニか?

 

 


ヒソカは私の話を聞いたあと、なにやら思案顔のまま走っている。

 

 

やれやれ、これでやっと解放してもらえる……そう思っていたら、ピッと指さされ、意外なことを言われた。

 

 

「おかしいなあ、キミは使えるニンゲンだと思ったんだけど☆」

 

 

「ええっ!?あはは、ないない。そんな常人離れした力……普通にジョギングするのだって精一杯なのに」

 

 


「……じゃ、試してみようか☆」

 

 


「どうやって?」

 

 


聞いてから、しまったと思った。

 

 


そんなことに興味もったら、絶対に変態な……ヘンな真似されるに決まってるのに……!!!

 

 

 

直感どおり、ヒソカはまた一段と楽しそうなニタニタ笑いを浮かべた。

 

 


「こうするのサ★」

 

 

「あっ!スケートボード!」

 

 


足下の板がなくなったと思ったら、ボードはヒソカの手にパッと現れる。

 

 


「タネも仕掛けもございません☆」

 

 


「う、嘘つき!」

 

 


「クックックック……ッ☆」

 

 

“伸縮自在の愛(バンジーガム)”だ!

 

 

 

きっと、ボードにくっつけて縮めたんだ……!

 

 

くやしい!

 

 


わかってるのに防げないのがくやしい!!!

 

 


「ポー。ただ走ってるなんて退屈だから、ボクとゲームをやらないか?」

 

 


「やりません!」

 

 


「そう言うなよ☆ルールは簡単。一次試験のゴールにつくまでの間に、ボクの身体に一度でも触れることが出来たら、このボードは返そう☆」

 

 


「………………………出来なかったら」

 

 


「新しいのを買うんだネ★」

 

 


最悪の展開きた――ッ!!!

 

 


「ちょっと!ダメです、そのボードは私のじゃ……!!」

 

 


「よーい、スタート☆」

 


 
ひとの話を聞けやコラ――――!!!