「ではこれより、第一次ハンター試験を開始いたします。私は第一
次審査試験官のサトツです。試験内容は極めてシンプル。この私のあとを、ついてきて下さい」
くるり、と背を向けて、スタスタと歩き始めるサトツさん。その後ろ姿を眺めつつ、
「……驚いたぜ」
呆然と呟く、レオリオ。
「信じてくれました?私の住んでた世界では、今まで起こったことも、これから起こることも、漫画やアニメになってるから知ってるって」
「ああ、これで完全に信じる気になったぜ。ハンター試験の試験内容を事前に知るなんて真似、それくらいの裏技使わねぇ限り、できっこねぇからな!」
「おかげで、準備体操バッチリだよ!俺、どこまでだって走っていける!!」
「私は自信ないなあ~……」
「ポー。ゴンに約束したのだろう。自信を持つと。自信というのは、自らを信じることだ。難しいことだが、信じなければ生まれない力もある」
「クラピカ……わかった。やるだけやってみる!!」
バッチのナンバーから予測するに、参加人数はざっと400人。
サトツさんはまだまだジョギング程度の速度で歩いているから、群衆はなかなか進まない。数分たって、やっと私たちも走り出すことができた。
ううう……これから、どんどん速度が速くなってくるんだよね。
しかも、いつ終わりが見えてくるかわかんない、薄暗い地下道を延々……。
なんて考えてるうちに、どんどん息があがっていく。
横腹が痛くなって、苦しくなる。
ゴンたちは、まだまだ余裕。
レオリオとクラピカなんて、口喧嘩しながら走ってる。
でも。
でも……わたしは、やっぱ、駄目だよ。
脚がもつれてくるし、そうしている間にも皆から離れていく一方。
くっそ~!!
こんなことなら普段からもっと運動しとくんだった!!!
「泳ぎなら……負けないのに、うう~!!」
「はいはい、ごめんよ~っと」
その時だ。
銀色の髪の男の子が、スケートボードに乗って、スイ~っと横をすり抜けていった。
キルアだ!!!!
「ん?」
私の視線が気になったんだろう。
(だってものすごく凝視しただろうから)キルアはちらっとこっちを振り向いて、あのニャンコみたいな、ちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「なに?おねーさん、俺になんか用?」
よかったおばさんって言われなくって!!!
「なーってば!」
「えっ!?あ、ご、ごめんね。なんか、格好いいなって思って」
「!」
そう言って笑った途端、キルアはぎょっと目を見開いて、耳の先まで真っ赤になった。
「き、急にヘンなこと言うなよ!!」
「うえ!?ご、ごめんごめん、でも、ほんとに格好よかったから。上手いね。私、そういうの乗るの下手なんだ」
「あ、ああ。こいつ(スケボー)のことか……ちぇっ、なあんだ」
とたんに、くちびるを尖らせる。
うわっはー!!
可愛いなあコンチクショウ!!
ああ、でもそうか。
誤解させるような言い方だったな。
「大丈夫!キミも充分格好いいよ。10年経ったらまた会いたいな~」
「はあ!?子供あつかいすんなよな~。……なあ、それはそうと、おねーさん、名前なんての?」
「名前?名前は、ポーっていうんだ」
「そか。俺はキルア。よろしくな。ってかさ、ポーは、この試験に一人で参加してんの?」
「ううん、あと三人……でも、私、走るの、苦手でさ……はは、情けないよ~ほんとに……」
「ふぅん。そいつら、かなり前にいんの?」
「え?どうだろう……はぐれてから、まだ、十分も経ってないと思うけど」
「な~んだ。なら、すぐ追いつけるじゃん」
ニッと笑った次の瞬間、小さな手のひらが私の腕を掴んだ。
信じられない強さで引っぱられたと思ったら、平らな板の上に立っていて……。
「二人乗り!!?」
「飛ばすから捕まってろよ!」
ギャンッ!
キルアの脚が、すごい力で地面を蹴った。(実際、蹴ったのは見えなかったけど……)
ひしめく人の群れを次々に追い越して……ニタニタ笑いのアノヒトと、カタカタ頭のアノヒトをついでに追い越して。
レオリオの「こら!ポー!乗り物に乗るなんてずるいぞー!!」
という声をスルーして、あっと言う間にゴンのつんつん頭が見えてきた!!
「ゴン!!」
「ポー!!よかった!周りを探してみたんだけど見当たらなくて心配してたんだ……あれ?」
「よっ!」
「こんにちは!俺はゴン=フリークス。君は?」
「キルア。ポーが後ろでへばってたから、仲間のところまで送ってやろうと思ったんだけどさ。なんだ、まだ子供じゃんか」
「そっちだって子供じゃないか!」
「なんだと?お前、歳いくつだよ!」
「12歳!」
「あっれ?くっそ~、同い歳か」
若いなあ……。
「ふーん……やっぱ俺も走ろっと。ポー、スケボーよろしく」
「ええええ!!?ちょっと待ってキルア君!私、こんなの乗ったことないんだって
ば!」
「大丈夫だって。板の真ん中に片足乗っけて、蹴るだけ。ポー、バランス感覚いいぜ?一緒に乗ってても気にならなかったし」
「う……そ、そうかなあ……?こんな感じ?」
「上手い上手い。なんだ、出来るじゃん。ほんとに初めてなのか?」
「う、うん。あ!アレかな、サーフィンならやったことあるから、それでかな?」
バランスの取り方、体重のかけかたは確かに似ている気がする。
初めてスケートボードに乗れたことが嬉しくて、なんだか楽しくなって滑っていたら、キルアがまたこっちを振り向いて、ニッと笑った。
「それ、預けとくぜ。俺の大切なものだから、後でちゃんと返せよな」
「預けとくって……」
「じゃあゴン!競争しようぜ!!」
「うん!負っけないもんね!!」
ああ、そうだ。そんな話しもあったな~なんて思ってるうちに、二人の姿は人波の向こうに見えなくなってしまう。
「若いなあ……」
「ホント☆青い果実って感じだよねぇ……☆」
「!!!!?????」
い……いつの間に!!?
全然分からなかった。いつの間にやら、後ろを走っていたはずの超危険人物がすぐ隣に!!!!
「……ヒッ」
「ん~?」
「……ヒ、ソカさ……ん?」
「あれ?キミ、ルーキーだろ。なのに、ボクの名前を知ってるんだ☆」
しま………っ!!!
「どうして?」
「……」
「答えなよ☆」
ニヤア~っと笑う悪い奇術師。
わざとだ……絶対にわざとだ!!
「さ、さっき、受験生の腕を切りお……消しちゃったときに、周りがざわめいてるのを聞いたんです!」
サッとすばやく視線を走らせ、逃げ道を探す。
オッケイ!斜め左うしろが空いてる……!!
チャンス!
「カタカタカタカタカタカタ……」
「~~~~!!!」
イルミ兄さんの馬鹿あ~~~っ!!!
なんで!?
なんでそんなうまいことスキマにはまっちゃうんですか!!?
「後生だから邪魔しないで下さいよ!!」
「クックック……ッ☆」
右にヒソカ。
左にイルミ。
ああ、でも今は変装中だからギタラクルか……両サイドをがっちりと固められ、逃げ場のない私……嬉しいやら怖いやら。
いや、生でこのはんぱない圧迫感を体験するとですね。
怖い!!!!
この一言に尽きる!!!
「出来るだけ目立たない予定だったのに……できることなら今すぐ透明なクラゲになりたい……!肉眼で見えないプランクトンになりたい……!!物言えぬ貝になりたい……!!!」
「聞こえてるよ☆それにしても、キミはやっぱり面白いコだな~、さっきは遠目でしか見えなかったケ・ド」
「……!!」
やっぱり見られてたんだ!!
くい、と長い人差し指にあごをすくわれる。
「ん~☆やっぱり。なかなかの美人さんだね」
出た!
嘘つきですよ、嘘つき気まぐれ変化系ですよ!!
「カタカタカタカタカタカタ……(もうやめなよ、ヒソカ。この子、本気で怖がってるじゃないか)」
「そうですよ!ストーカー行為もほどほどにしとかないと……あれ?」
「……☆」
「あれ?今、こっちの人の言葉が分かった……って、え!?ちょっ!?」
ガシイ!
ひええええええええええ~~っ!!!
「やっ!?はな、はな離して下さいごめんなさい!!」
「カタカタカタカタカタカタ……(やあ。俺はギタラクルっていうんだ。君はポーだろ、よろしく)」
この、マイペース操作系!!!
「よ、よろしく……」
びっくりした……いきなり手ぇ捕まれたから、手首ごともぎ取られるかとヒヤヒヤしたけど。
イルミ兄さん……もとい、ギタラクルの手は軽く握手をしただけで離れていった。
変装は不気味だけど、もしかしたら案外、悪いひとじゃないのかもしれない。
不気味だけど。
「ギタラクル、抜け駆けはズルいなぁ★まあいいや。互いが誰か分かったところで、キミにこっそり聞きたいコトがあ・る☆」
ニタア~っと笑って、ヒソカが耳元に低く囁いた。
「念について、キミはどこまで……」
「うひやあああいっ!!!!」
「……☆」
「ごっ、ごめんなさい!わざとじゃないんです、耳ダメなんです!くすぐったがりなんです!!」
「カタカタカタカタカタカタ……(ヒソカがね、君が念を使えるのかどうか気にしてるんだ。ほら、さっきの騒動のとき、君、練をやめろとか騒いでただろ?)」
「ああ、アレ」
よかった~、その後のとんでもない暴言は気にされてないみたいだ。
ほっ。
「正直に答えないと、ナニをしちゃうかボク自身にも分からないよ?なにしろ、ボクは変態で意地悪で戦闘狂だから……★」
「失言でした!!」
「ダメ★許してあげない」
ヒソカさんの意地悪……っ!!
でもまあ、よかった。
そんなことなら大丈夫。
「で、どこまで知ってる?」
「えっと……知ってるのは、念が生体エネルギーであるオーラを自在に操る技だってことと、基本の四大行……くらいです」
「……☆」
「私自身は念の使い手でも、なんでもありません。ただ、念の概念や考え方には興味があったので、ちょこっと読みかじっただけです」
「ふぅん……」
ちょこっとではないけどね。
原作はもちろん、公式ホームページまで読みこんでおりますがナニか?
ヒソカは私の話を聞いたあと、なにやら思案顔のまま走っている。
やれやれ、これでやっと解放してもらえる……そう思っていたら、ピッと指さされ、意外なことを言われた。
「おかしいなあ、キミは使えるニンゲンだと思ったんだけど☆」
「ええっ!?あはは、ないない。そんな常人離れした力……普通にジョギングするのだって精一杯なのに」
「……じゃ、試してみようか☆」
「どうやって?」
聞いてから、しまったと思った。
そんなことに興味もったら、絶対に変態な……ヘンな真似されるに決まってるのに……!!!
直感どおり、ヒソカはまた一段と楽しそうなニタニタ笑いを浮かべた。
「こうするのサ★」
「あっ!スケートボード!」
足下の板がなくなったと思ったら、ボードはヒソカの手にパッと現れる。
「タネも仕掛けもございません☆」
「う、嘘つき!」
「クックックック……ッ☆」
“伸縮自在の愛(バンジーガム)”だ!
きっと、ボードにくっつけて縮めたんだ……!
くやしい!
わかってるのに防げないのがくやしい!!!
「ポー。ただ走ってるなんて退屈だから、ボクとゲームをやらないか?」
「やりません!」
「そう言うなよ☆ルールは簡単。一次試験のゴールにつくまでの間に、ボクの身体に一度でも触れることが出来たら、このボードは返そう☆」
「………………………出来なかったら」
「新しいのを買うんだネ★」
最悪の展開きた――ッ!!!
「ちょっと!ダメです、そのボードは私のじゃ……!!」
「よーい、スタート☆」
ひとの話を聞けやコラ――――!!!