12 捕獲?×習得!×二次試験!?

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドド……



上がる粉塵、響く地鳴り。



この森に棲む豚は一種類だけ。



狂暴な目付き。



体と同じくらい大きな鼻をもつ巨豚、グレイトスタンプだ。



……に、追いかけ回されている私。



「いきなり実践てどういうことですか――!!!?」



「どうもこうもないよ。言っただろ。俺、結構スパルタだって。習得したって実践で使えなきゃ意味ないからねー」



「わざとしごいて、諦めさせようって魂胆なんでしょ――!!?」



「あっ、それいいね」



いただき。なんて、暢気な様子で、一人だけ木の上でものみ見物してるイルミ先生である。



たちが悪い。



本当にたちが悪い。



「走りながらでも纏は出来ているから、あとは量を増やすだけだ。練のコツはさっきの小川で、流れたり、湧き出したりしてる水の動きを見てつかんだだろ。どんな状況下であれ、やることは一緒だよ?」



「そ、そりゃ理屈はそうでしょうけど!」



「やれるさ」



「でも……」



「やれ」



この鬼畜天然操作系!!!!!!



うう~っ、でも、いつまでも逃げてたって仕方ない。



イルミの言った通り、練を行うコツは、さっき掴んだ。



普通のやりかたでうまくいかないのは、私のオーラの特徴が異質だったためだ。



産まれつき精孔が開いていたらしい私は、人間の身体が本来持っている生命維持能力により、100%自己流の方法でオーラをコントロールしていたらしい。



精神に負担をかけたり、激しい運動をしない限り、オーラは流出しながらも、なんとか一定の量を保つように。



ほんと、生き物の身体って良くできてる!



「あとは、私が自分の意思でコントロール出来るようになれば……!!」



イメージするのは湯気や炎ではない。



水だ。



こんこんと、綺麗な砂地から涌き出す水のように、身体の底から生まれてくる力……。



それが、纏によって留めたオーラを増幅させる。



流れが、生まれた気がした。



纏は水の中にいるイメージ。



なら、練はそこに流れがうまれるのだ。動き出す水。



質量を変えていく水には流れがうまれる。



水流、潮流、波。



嵐。



津波……。



「ポー」



ハッと見上げると、黒い瞳を嬉しそうに光らせたイルミと目があった。



「出来てるよ。走りながらの練」



「……うん!」



そこから先は早かった。



グレイトスタンプの額の弱点を凝で見つけ、練を行い、攻撃する。



練をした状態だと、陸の運動が苦手な私でも身体能力がかなり上がった。



纏をしていたときよりも俊敏に走れ、獲物の弱点に向かって飛び蹴りすることだって出来た。



そして。



「やっと帰ってこれた……!!」



「カタカタカタカタ……(なんで泣いてるの)」



「だってお腹空いたんですもん!!」



グレイトスタンプ二頭をひきずり、体力ももう限界だ。



しかも、試験会場はお肉の焼けるいい臭いが充満してる。



うううう~~食べたい!



食べたい!!!!



「……ポー☆」



「うひゃいっ!?な、なんですかごめんなさいっ!!」



ビックリした。



ヒソカめ。



いきなり耳元で囁かないでほしい。



「修行は順調みたいだねぇ☆オーラの制御も上手く出来てる。今も、キミの力の高まりを感じたよ……☆」



「今は、何にもしてないつもりだったんですけど」



「カタカタカタカタ……(一瞬だけど、オーラの産出量が高まってた。絶のときもそうだったけど、ポーは時々、無意識に操るからね。何考えてたの)」



「え~?なんでだろ……?」



「まあ、今はいいじゃないか☆それよりギタラクル。キミがポーと遊んでいるうちに、試験は大変なことになってるんだよ?」



「カタカタ……(えっ、何)」



「わかった!合格者が一人も出てないんでしょう!」



「ポー、大正解☆ん~、キミは勘もいいんだネ☆」



いいこいいこしようとしたヒソカの手のひらを、イルミが針で刺した。



痛そうだなあ。



「……カタカタ(で?)」



「~~~~………っ、皆、食材は捕まえてくるんだけど、料理のほうはからっきしでね☆相手は美食ハンターだ。その舌をうならせるような料理、素人がそう簡単にできるわけがない。……ムカついたから、殺っちゃおうかな★って考えていたところに、キミタチが帰ってきてくれた☆」



セーフ!!!



「料理って……見たところ、みんな丸焼きしか作ってないじゃないですか」



唯一、クラピカがハンバーガーらしき代物をつくって、即効ボツくらってる。



う~ん、そうだなあ、豚料理か。



得意なのはひとつあるけど。



超庶民的なのが。



「あっ!ポーだ!!」



「ずいぶんかかってたな。へへーん、俺なんてもう三頭以上捕まえたぜ!」



クラピカの次にボツをくらってガックリしていたキルアとゴンが、私の顔を見るなり、駆け寄ってきた。



「で、お味のほどは?キルア君」



「うっさいな!!君はいらないっつっただろ!」



「俺も……料理なんて作ったことなくてさ。ねぇ、ポーは出来るの?」



「一応、自炊してたから出来ないわけじゃないけど、かなり庶民的。あと、節制に節制を重ねてる」



「ほんとに!なあ、俺、食べてみたい!」



「俺も俺も!!」



「う~ん、よっしゃ!私もお腹空いてきたし、一丁作るか!!」



用意するものは豚肉、卵、小麦粉、パン粉、玉ねぎ。あと、炊きたてのごはん!



豚肉以外はどんな材料を使っても自由なんだって。



食材も調味料も沢山用意されてるし、必要なものはすぐにそろった。



あとはいつもどおり。



厚切りにした豚肉を叩いて柔らかくしたあとに、生姜と醤油とお酒をまぜたタレにつけこんでおく。



その間に、油を温め、小麦粉、卵、パン粉をまぶした豚肉をキツネ色になるまでフライする。



「うお~~~!!!超美味そ~~!」



「味見!ねえ!味見させてっ!!」



「待った待った!まだ出来てない!あとは、あげたてのとんかつ切って、醤油だしで煮込んだ玉ねぎと一緒に卵をかける。蓋をして、半分くらい火が通ったらごはんにかけて……出来上がりっ!!」



「「「おお~~~~!!!」」」



いつの間にやら、周りにはギャラリーが。なかでも興奮してるのは、ジャポン出身のハンゾーさんだ。



「だしと醤油の匂い……それに肉厚の豚肉と卵!!うひょおおたまんねぇ~~っ!!なあ!俺はハンゾーって忍者なんだが、もしやあんたもジャポン出身か!!?」



「近くですよ!(厳密には違うけど)カツ丼っていうんですけど、ハンゾーさんの故郷にはありませんか?」



「いや、鶏肉と卵を炊いたものを白米にかけたものならあるが、こんなもんは見たことないぜ」



およ?



そうなんだ。ハンターの世界にはカツ丼ないのか?



美味しいのに。



「なるほど。豚肉をそのままでなく、パン粉で覆い、油で揚げることで旨味と肉汁を閉じこめる……さらに、スープをかけた際、パン粉に染み込ませることにより、全体の味の調和が保たれるわけか……」



「おいクラピカ。それだけじゃねぇ、見ろよ。具材の下の炊きたてのごはんを!副菜と主食をいっぺんに食える上……しかも具材はシンプルかつリーズナブル。調理も短時間、ものの三十分で出来ちまった!一人もんにとっちゃ、これほどありがてぇもんはないぜ。まさに、奇跡の料理!!食の救世主と言っても過言じゃねえ!!」



「悪うございましたね、一人もので」



「え?ポー、彼氏いねーの?」



「こんなに美味しそうな料理つくれるのに?なんで??」



「………さーあ、なんででしょうね~」



キリキリキリッ!



「い~~っ!いてえいてえ!いてえって!!」



「なんでつねるんだよ~~っ!!?」



「このお子さまたちめ!!無垢な言葉がどれほど大人の心を傷つけるかわかっとけ!!」



「もぐもぐ……コラ、ゴン。女性のデリケートな部分に踏み込むのは関心しないなあ……★」



「カタカタカタカタカタカタ……(へー、美味いよ。コレ。なんか、新感覚って感じ)」



「ちょっと待て!!そこの兄さんたちナニしてる……っ!!!?」



「あーっ!!ヒソカ、ズルい!俺も食べたかったのに!!!」



「いいよ☆はい、あーん☆☆☆」



「やめろよ変態!あーあ、どうする?ヒソカとカタカタの奴、ポーの作ったカツ丼、全部食べちゃったぜ?」



「あ~~も~~っ!!せっかく、いい線までいけるかもって思ったのに……」



結局、豚肉料理は時間切れで全員失格。



続いての寿司に関しても、今度はゴンとキルアがあんまりにもお腹空かせてるもんだから、可愛そうになってちらし寿司を作って食べさせてあげた。



ま、これで二つの課題とも、合格者はいなくなっちゃったんだけど。



大丈夫。



私は未来を知っているんだから!