さて。
三次試験も無事に終了!
イルミとヒソカと白熱したポーカーを繰り広げていたところに、ゴンたちが滑り込んだ。
時間はギリギリ。
わかってはいたけど、お姉さん、ドキドキものだったぞ~。
イルミとヒソカも、顔には出さないけどキルアやゴンのことを心配していたんだろう。
ポーカー後半戦は、私の一人勝ちでした。
はい。
そしてそして、無事に合格した私たちは飛行船に乗り込み、いつものごとく、共有広場で試験の内容なんかを喋りあい、談笑しているのであります。
「すごいよ!さっきの試験、ポーたち一番乗りだったんだね!!」
「しかも、あのヒソカやカタカタのおっさんと一緒だったんだろ?よく殺されなかったよな~」
カタカタのおっさん。
うん。
イルミ、聞こえてるのはわかってるから、私に八つ当たりオーラぶつけるのやめてってば!
「そりゃ、怖かったよ。すんごく怖かったけど、なんか不思議と落ち着いたりもするんだよね~、なんでだろ。歳が近いからかな?」
「あのカタカタさんとポーは、同い年だって言ってたよね。あれ……ヒソカは?」
「27才だって。嘘臭いけど」
「レオリオと違って、外見だけならもっと若く見えるんだけどなー、勿論ポーもさ」
「も、って言うな!」
そんな言い合いをしているうちに、飛行船はゆっくりと下降し始める。
どうやら、無事に次の目的地に到着したみたいだ。
でも……。
「あれ?」
なんだか変だぞ。
確か、次の試験はいよいよゼビル島での人間狩りのはず。
なのに、窓から見えたのは三日月型の小さな島だ……飛行船を降り、連れていかれたのは巨大な軍艦を改装した変わったホテルだった。
あれ~~???
***
「ようこそ、受験生の皆さま方。私たちはこのホテルのオーナー、ジナーと」
「バナーです。次の試験開始までの間、皆様には等ホテルでゆっくりとお体を休めていただくよう、ハンター協会から伝言を受けたまっております」
「休み!」
「うひょ~!そいつはありがてぇ!」
「やったね!ホテルに泊まれるんだって!」
「そんなに喜んでていいのか?なんか臭いな……」
あっ!!
わかった!!
うわあ、まずい。
「この展開は予測してなかった……」
「ポー?そうだ!これから何が起こるか、ポーなら知ってるんじゃふがっ!?」
「馬鹿っ、ゴン、声が大きい!」
飛行船の中で、私に関するひととおりの事情をキルアに話した。
(イルミとヒソカがいなくなった隙をついてね。あの二人には、話すとややこしいことになりすぎて話せませんよ)
疑い半分、といった反応だったけど、なんとか信じてくれてるみたいだ。
ぽろっと言いかけたゴンの口を、急いでふさいでくれる。
そんな二人に、私は申し訳なく頭を下げた。
「……ごめん。残念ながら、こればっかりはわかんないんだ」
「えっ?」
「なんで?」
「これ、たしか軍艦島ってタイトルの話なんだけど、漫画にはなくて、アニメオリジナルストーリーって言うの?いわゆる番外編みたいなもんなんだよね。そこまでチェックしてなくてさ……」
「なんだよ!ちゃんと見とけよ!俺やゴンが出てんだろ!?」
「キルア、キルアってば落ち着いて!」
「ごめんね~、肝心なところで役に立てなくて……」
なんだか申し訳なくて頭をかくと、ゴンはくりくりの目を輝かせて言った。
「ううん!そのほうがきっと、面白いよ!!」
ズギュ――ンッ!!
……………………はっ!?
今、ヒソカさんになりかけた!
危ない危ない……。
「いいいっせんまんゼニーだとおおおお――!!!!???」
およ。
なんだなんだ?
「なにもめてるんです?」
カンカンになっているレオリオにたずねると、
「なんもかんもあるか!!このジジババ、宿泊費に10000000ゼニーもぼったくりやがるってンだ!そんな大金、持ってるわけねーだろが!!!」
「10000000ゼニー……?」
って、どれくらい高いの?
イマイチこちらの世界の金銭感覚にうとい私。
ゴンに訊くと、
「とにかく、たくさんだよ!たあーくさん!!」
キルアに訊くと、
「そうだなー、チョコロボくんが段ボールで軽く1000箱は買えるな」
レオリオに訊くと、
「ヨークシンシティの高級ホテルに、一年は泊まって暮らせるぜ!」
クラピカに訊くと、
「ポーの好物のステーキ定食を、店100件分買い占めても余る」
結論。
「高すぎます!!」
「だろ!!?」
「そんなお客さまには……」
顔を見合わせてにっこり。
ジナーとバナーは笑った。
***
「いざ、難破船探検に!」
「「レッツゴー!!!」」
いやあ~、さっきの試験といい、この展開といい、嬉しいじゃないか!!
いやもう最高!!
しかも今回は……。
「海だあ――――――――!!!!」
「コラッ!ポー!遊びに行くんじゃないんだからな!!」
「わかってるって、目的は10000000ゼニー相当のお宝でしょ?」
「なあ、誰の見つけたお宝が一番高いか、勝負しようぜ!」
「賛成!」
「それいい!おもしろそう!!」
だから、遊びじゃないって言ってるだろ!
と怒鳴るレオリオを、まあまあ、状況を楽しむのはいいことだ、とたしなめるクラピカ。
夫婦だなあ……あの二人。
「おっさきに~!」
「あっ、ズルい!」
ザブン、と飛び込む海の中。
ああ………。
あああ~~~!!!
落ち着く!!!!
なんか、あったかいお布団にくるまってるみたい……。
「カタカタ……(ポー)」
「うひゃあっ!!?」
スウ―――っと、音もなく流れてきたのはイル……ギタラクルだった。
慌てる私は思いっきり海水を吸い込んでしまったのだけれど……。
「あれ……息が」
できる!!
しかも、喋れる!!
「すごい!なにこれ便利!!」
「カタカタカタカタ……(それが、ポーの念能力?近くにいるから、俺も息が出来るし喋れるよ。そうか、さっき水槽の中に20分以上いて平気だったのは、この能力のせいだったのか。俺の針を防いだのも、これ?)」
「ま、まだよく分からないんだけど、そうなのかな?さっきはサメに夢中になってて、自分がどれくらい水の中にいたのか覚えてないし、イルミの針を防いだのも、纏をしてると身体が楽だから、それをもっと頑張ってやったら、攻撃を受け流せる膜になるんじゃないかって思っただけなんだ。ほら、それなら避けるのが間に合わなくても当たらないでしょ?クラゲやイカの、やわらかーい身体みたいに、ぬるんって」
「カタカタカタカタ……(ふうん。なるほどね、やっぱりポーは攻撃的な念よりも、防御に向いてたんだね。それにしても、こうやって水の中にいるとますます気配が分からないな。俺やヒソカレベルの円でも、位置を正確に感知することは難しい……暗殺者向きの能力だ。欲しいなー、コレ)」
ぶ、物騒な!
「欲しいって、イルミもやればいいのに。いつもより頑張って纏をすればいいだけじゃないの?」
「カタカタカタカタ……(それだけじゃダメだね。これが可能なのは、ポーのオーラだからだよ。普通よりも見えにくい、水のように透明なオーラ。水と同化できるオーラだからこそ出来るんだ)」
だから、大事にするんだね。
そう言い残して、イルミ……ギタラクルは泳ぎ去ろうとした。
でも、思い出したかのようにくるっと振り向いて、
「カタカタ……(そうだ。いい忘れていたけど、形になった発を技に成長させたいなら、名前をつけなきゃね)」
「名前を?」
「カタカタカタカタ……(そう。例えばヒソカの念は“伸縮自在の愛(バンジーガム)”。塔の中で、ポーは彼の念攻撃を見破ったよね?オーラをガムやゴムのように変化させ、くっつけたりはなしたりするんだ)」
「へー(知ってるけど)、ねぇ、私のは?」
「カタカタカタカタ……(そうだなー。ポーのは、俺が今見ている感じでは、オーラを気泡のように変化させ、身体を包み込む能力ってところかな。今のところはだけど)」
「ふぅん……よし!じゃあ、こんなのどう?」
「カタカタ……(もう決めたの?)」
「うん!“驚愕の泡(アンビリーバブル)”!!」
「……カタカタ(なに、そのオヤジギャグ)」
***
落ち込むわ――――!!!
「どうしたんだよ、ポー!」
「ポーのお宝、査定は最高額だってさ!一等室じゃん、もっと喜ばなきゃダメだよ~」
「だって……!!!」
オヤジギャグって……!!!
いいもん……いいもんいいもん!!
こうなったら意地でも変えないんだから!
だって、これで名前変更したら、オヤジギャグ命名を認めることになるじゃないか!
否!!
それだけはするもんか……!!
「負けるもんか。ひとは、己が敗けを認めたときに初めて敗けるもんなんだから……諦めなきゃ勝てる!!だから敗けるもんかああっ!!」
「な、なんだよいきなり」
「へえ!いい言葉だね、それ!」
「うん。私の尊敬する人の言葉なんだよ。よし、復活した!しっかり食べて、しっかり休むぞー!」
「そのいき、そのいき。俺とゴンはおんなじ部屋になったからさ、もし、変なやつと同室になったら、来てもいいぜ?」
「女の人や、クラピカと一緒ならいいのにね」
「ゴン……クラピカは男の子だよ?」
「うん、知ってるよ。でも、クラピカなら安心でしょ?」
あ、そういう意味か。
ごめんよ、クラピカ。
「ま、レオリオのおっさんと一緒よりは百倍マシだよな!」
聞こえてるぞー!!
後ろの方で声がした。
「大丈夫。こう見えても研究畑の人間だから。その気になったら鯨の胃の中でだって眠ってみせる!」
「ほんとかよ~」
***
とは言っていたものの。
いざ部屋に向かうとなると緊張するもんだな……。
誰と同室なんだろう。
もし、トンパとだったら即行でチェンジだ。
あれ……?
それ以外だったら意外とだれでもいいかも。
ヒソカとだったら……って考えたら、数日前の私なら、ほんとマジ勘弁してくださいと部屋の隅っこで毛布にくるまって震えていただろうけど、今の私だったらきっと、
「やあ☆」
「あっ、ヒソカさんだ!よかった~、知ってるひとで!」
……って平気で言っちゃえるようになってしまった自分が怖い!!
なんで!!?
会ったときはあんなに怖かったのに、今は逆になんだかほっとするってなんで!!?
歳が近いから……?
うーむ。
なにはともあれ、部屋の前。
意を決して、ノックしてからドアを開……。
「カタカタカタカタ……」
「ギ……!!?」
バンッ!!
閉める!!
こおいうオチか――!!!
いいよ……!
そういうのは求めてないっ!!
求めてないよ間違ってるよ!!
色々と展開が間違ってるよ!!!
ガチャ。
「つべこべ言ってないで入りなよ」
グイ。
「あう!~~って、変装解いて大丈夫なの?」
「別にいいじゃない。ポーは俺が誰だか知ってるし、今更だろ。でもよかった、ポーが同室で嬉しいよ」
「え!」
「この変装、ずっとしてると疲れるんだよねー」
そ!!
「あ、あはは……!な、なーんだ、そうなんだ……」
「嘘だよ」
「へ、――っ!?」
視界を。
視界を、イルミの黒髪がカーテンのように遮った。
海に沈もうとしていた太陽が、見えなくなる。
窓から差し込むオレンジ色の斜陽はじょじょに濃さを増して、部屋の中はまるで、血のように赤く染まっていく。
イルミの唇が熱いと思った。
人形のように冷たいんだろうと思っていた手のひらや、その胸の中が。
温かくて。
柔らかで。
なぜか、わからないけど泣きたくなった。
このひとにはこんなにも赤い色が似合うのに。
なんでこんなに、優しく抱きしめてくれるんだろう――