「二次試験の課題は料理!!使用する食材は豚よ!この森に生息する豚を使った料理ならなんでもいいわ!」
「んじゃあ、スタート!!」
ザワザワ……。
想像もしていなかった試験内容に騒ぎ始めるハンター志望者たち。
そうそう!
第二次試験といえばやっぱコレだよね!
試験官は、サトツさんからメンチとブハラの美食家コンビにバトンタッチ。
豚料理、寿司ときて、まさか全員が落とされることになろうことは……まだ、誰も知らない未来。
でもまあ、ようするに「丸焼き」以外のものを作ったら、なんとかなるかもしれないじゃないか。
楽勝じゃん!
と、はしゃぐゴンやキルアと一緒に、私も元気よく森に向かって走り出そうと思った。
のに……?
「カタカタ……(待ちなよ)」
「ぐはっ!な、なんでみんな首根っこばっかつかむの!?」
「ポー!」
「このカタカタ野郎!ポーから手を放せっ!」
「カタカタカタカタ……(カタカタカタカタ……)」
「う……!」
「ぶ、不気味だよう」
「だ……大丈夫だよ、二人とも。この人はイ……ギタラクルさんって言って、知ってる人だから」
「知り合い!?」
「……というか、キルアのボードを取り返すときに、助けてくれたんだ」
「ほ、ほんとかよ……」
「うん。いいひとだから、大丈夫。先に行っていいよ」
ゴンとキルアは顔を見合せ、ヒソカといい、コイツといい、ポーって変な奴に好かれるよな、なんて言いながら、森に向かって駆けていった。
さて。
「……イルミさん、犬猫みたいな持ち方しないでくださいよぅ」
「カタカタカタカタ……(俺の本名、やっぱりヒソカから聞いてたんだね。あーよかった、間に合って。あのさー、悪いんだけど、他のやつらの前で、その名前言わないでくれるかな?バレると色々まずいんだよねー)」
「わかりました。今まで通り、ギタラクルさんで……やっぱ、長いんで先生って呼んでもいいですか!?」
「……カタカタ(ヒソカめ……)」
「教えてくれるんですよねっ!残りの念について!」
「……カタカタカタカタカタカタ(まーね。中途半端な技を振り回されてもやっかいなだけだし。そのかわり、途中で死んじゃっても責任とらないよ?」
「はいっ、先生!」
威勢よくうなづくと、ギタラクル……改め、イルミはギッチコいいながら、首を360度回転させてみせた。
心なしか、嬉しそうだ……。
***
「カタカタカタカタ……(じゃあ、まずは纏をやってみて)」
「はい!」
目を閉じて、水の中にふわふわ、浮かんでいるイメージを思い浮かべる。
というか、走ったりするときは常にこうしていないとしんどいから、教えてもらってからずっとこうして過ごしてきたんだけど……最初のころよりうまくなってると思う。
どう?
と訪ねるように目を開けると、イルミはギッチコ頷いた。
「カタカタカタカタ……(うん。前に見たときよりスムーズになってるね。オーラの密度もわりと濃いのに、ちゃんと逃がさずに留めてる。纏については及第点かな)」
「本当!?やった!」
「カタカタカタカタ……(コラ、集中。じゃあ、次に練だけど、これは纏で留めたオーラを増幅する技だ。これがきちんと行えていないと、発でオーラを操ろうと思ったとき、すぐ燃料切れになる。また、協力な技も行えない。素早く、正確に、オーラを生み出し、高める……)」
言った瞬間、イルミの周りの空気がぐんと体積を増したように思えた。
思えた?
いや、違う!
見えるんだ。空気がまるで、陽炎みたいに揺らいでる……!!
「すごい!オーラが見える!これが……これが凝いたあっ!!!」
スコーンッ!!
眉間に思いっきりエノキが当たった。
エノキかと思ったら、イルミの針だった。
尖った方じゃなくて、丸い頭の方が当たるように投げられたから、ブッスリ刺さって顔がベキベキ変形することはなかったけど……地味に痛い。
「カタカタカタカタ……(いい忘れてたけど、俺は結構スパルタだからね。親父よりはマシだけど。サボってるとアザだらけになるよ)」
「ううう~~、酷い……オーラが見えなきゃ、増えてるかどうかも分かんないのにぃ」
「カタカタカタカタ……(あ、そう言えばそうか。キミのオーラは通常よりも見にくいんだったね)」
「え、そうなんですか?」
「カタカタカタカタ……(うん。なんだか、普通のオーラが湯気や炎のイメージなら、ポーのは水みたい。あるのはわかるけど、透明で見えにくい。あと、ちょっと待って。色々とめんどくさくなってきた)」
そう言うなり、イルミは顔中に刺した無数の針を抜き出した。
メコン、ボコン、と顔がふくれたり凹んだり、髪の毛が伸びて、闇色に染まる……おお。
おおおおう………!!
イルミ兄さんだ!!
イルミ兄さん―――!!!!
ぱちっと開いた目は漆黒。
「や」
「……びっくりしました」
***
「つまり、私のオーラは念使いにも見にくいと!」
「うん。よく注意しないと見えないね。前みたいに、放出しほうだいなら話は別だけど」
ズキズキ痛む頭の傷をさすりつつ、イルミにたずねる。
場所を変えて、私たちは森の中の小さな川の畔にいた。
試験開始からもうすぐ一時間。
試験返上で修行につきあってもらっているというのに、私にはいっこうに練が出来ない……。
そもそも、練を行ってオーラを高める方法というのが難しいんだ。
気合いを入れるとか、殺気を放つとか、怒りのテンション上げるとか、私の苦手なことばかり……で、失敗するたびにあのエノキが飛んでくる。
痛いよ!!
「それにしても、思っていたよりずっと癖があるね、お前は」
ズギューン!!
「……なに嬉しそうな顔してるの」
「してません!エノキはしまってください!!――癖があるって、例えばどんな?」
「そうだなぁ。例えば、練は散々なくせに、オーラを留める纏、精孔を閉ざす絶、一点に集中させる凝はすんなり出来た。なかでも気になるのは、洗礼を受けたわけでも、修行を行ったわけでもないのに、はじめから精孔が開いていた点……なにかがきっかけになっているはずだけど。いつからその状態だったんだろうね?」
「そういえば……精孔を開くには、修行をしながらゆっくりオーラを巡らせる方法を身につけるか、身体の中にむりやりオーラをねじこむ方法があるんですよね。でも、そんな修行なんかしてないし……あっ!」
「心当たりがあるの?」
「前に一度、聴いたことがあるんです。私が産まれる前日の夜、大きな地震があって――」
そのあとすぐに、津波が街を襲った。
海沿いの病院のすぐ近くには、いりくんだ海岸線があり、津波は建物をのみこんで、窓を割り、病室にいたお母さんも、胸の辺りまで海水に浸かってしまった……。
「波がひいて、すぐに陣痛がはじまったそうです。かけつけたレスキュー隊のヘリコプターの中での出産でした。でもね、何時間も冷たい海水の中にいたのに、寒くもなんともなかったって。普通なら、そんな直後に子供を産む体力なんて、残ってないハズなのにって、お医者様も首をかしげていたって……もし、津波がきっかけになって精孔が開いたとしたら?」
「……それ、ありうるねー。人間に限らず、オーラは自然界のあらゆるものに宿る。修行で滝にうたれるっていうのも、自然界のオーラを自分の中に取り入れる目的があるんだ。津波のような自然災害なら、なおさら作用は大きい。津波によって精孔が開き、流出したポーのオーラが母体ごとポーを守ったんだ。でも、そうか。やっぱりポーのオーラは水のイメージなんだね」
「へ?」
「おいで。いい手を思いついた」