6日後。
六点分のプレートを持って、船に戻ってきたメンバーは、私、ギタラクル、ヒソカ、キルア、変な帽子の男の子、ハンゾーさんに、お侍っぽいおじいさん。
そしてーーー
「あっ!!きたきた!!おーい、ゴン!クラピカ!レオリオ――!!」
キルアと一緒に、船から落っこちそうなくらい身を乗り出して手を振ると、(実際、イルミが首根っこつかんでくれているのは知らないふり)三人は、満面の笑みで返事を返してくれた。
いやあ、よかった!
原作を知っているとはいえ、ひやひやものだよ。
臨場感ある~~って、当たり前か。
「キルア、ポー!!よかった!二人とも、プレートを集められたんだね!」
「うん!もう、大変だったよ~~」
「ま、俺は楽勝だったけど……てかさ、ポーのターゲットって誰だったんだ?」
「彼」
後方を指差す。
ギギギギギギギギギィ………!!!
「カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……」
「ひいいいいっ!!!??」
「おま……っ!?よく獲れたなあ、こんなキショイ奴から!」
キルア……実のお兄さんに向かってなんてことを。
「でもよかった!これで全員、最終試験を受けられるんだね!!」
「うん!!」
どんとこい!
自信満々で頷いた。
この六日間、イルミ先生の(いやほんとシャレにならないくらいドSで鬼畜でスパルタな)ご指導に絶え、なんども試しては失敗し、その度に試行錯誤してやっと満足いくまで成長したこの能力。
早く、実際の試合で試してみたい!
ウズウズする私を、ゴンとキルアはちょっと不思議そうな顔をして見ていた。
***
ハンター協会が経営する都内の高級ホテル。
ハンター試験もいよいよ大詰め。
最終試験の会場だ。
ほんと、このハンター×ハンターの世界にトリップしたときにはどうなることかと思ったけど、
「なんとか生で、ここまで見れた……!!」
感動だ。
命懸けだけあって、ストーリーの流れは同じなのに、漫画よりもアニメよりも面白いぞ。
主観って大事!!
広間に集まった私達の前に、これまでの試験を担当してくれた試験官さんたちが勢揃いする。
真ん中に、ネテロ会長とマーメンさん。
「では、これより行う最終試験試験の試験内容を発表する~」
バサッ。
パネルにかかった幕が滑り落ちる。
最終試験はトーナメント戦。
殺しはなし。
相手に参ったと言わせたものが勝者。
だから、一回目の試合相手を見ても、私は驚いたりしなかった。
***
ホテルに向かう飛行船の中で、ネテロ会長の面接を受けた。
406番の私は、一番最後だ。
もちろん、訊ねられることは分かってる。
最初の質問は、【この中で、一番気になっている相手は誰か】。
次に、【一番闘いたくない相手は誰か】。
最初の答えにイルミを選び、次の答えにゴン、キルア、クラピカ、レオリオの四人を指定した。
「ふむ。その理由は?」
「友達だから、一緒にハンターになりたいんです。一緒にハンターになって、仕事をしたい。それに……」
「それに?」
「この四人と闘うと、裏ハンター試験のヒント、いっぱいあげちゃうだろうし、精孔だって開いちゃいますよ?私」
「これこれ、ポーちゃん。脅しはよくないのぅ」
「脅しじゃないです~事実です。あ、そうだ。ネテロ会長」
「なんじゃ?」
「ご参考までに、なんですけど……私、闘いたい人がいるんです」
「ほう……?」
***
トーナメント表を食い入るように見つめる私に、ネテロ会長がパチン、とウインクした。
ありがとうございます。
希望通りです。
殺しはなし。
その絶対のルールのある場所で、このひとと闘ってみたかった。
44番。
「……ヒソカさん」
「クックックックッ!!どうやら、君が嫌がってもボク達は闘わなきゃイケない運命だったようだねぇ……」
「よろしくお願いします。私、頑張りますから」
「……」
ヒソカは意外そうな顔をした。
たぶん、めちゃくちゃ嫌がって、すでに参った参った叫びまくってる私を引きずっていかないといけないなくらいに思ってたんだろう。
ふっふっふっ。
甘い。
甘いぞヒソカ。
そんなことを考えている時点で、すでに貴様は私の胃の内に入っているも同然……。
「もしかして、ご指名だったのかな?」
ギクッ!!
「ま、まままっさか~~!ヒソカさんと闘いたいなんて思うわけないじゃないですか~~!」
うっひゃあああ!
さすが、鋭い!!!
「クックック……ッ!!嘘つきに嘘ついてもダ・メ分かるよ」
「……だって、約束しましたからね」
「約束?ボクと?」
「はい。一次試験で」
ヒソカから、キルアのスケートボードを取り返した後に。
「今度は、必ず捕まえてみせます!」
「クックックッ!!それは楽しみだね」
今なら分かる。
一次試験、霧の中でヒソカに襲われたレオリオが、彼に向かっていった気持ちが。
五次試験のターゲットに、ヒソカのナンバーを引いたときのゴンの気持ちが。
強くて、強くて、限りない高みにいるこのひとに、今の自分の力がどれだけ通用するのか……。
どれだけのことが出来るのか。
――試してみたいんだ。
***
第一回目の試合で、ゴンがハンゾーに見事勝利した後。
クラピカがヒソカのかわりに、おじいさんと闘って勝ち抜いた。
次の勝負は私。
待ち時間に、ああ、絶対くる。
絶対怒られると思っていたら、イルミが放り投げる勢いで、私を廊下に引きずり出した。
「カタカタ……(このバカ)」
「バカだもん!!バカだから試したいのっ!!」
「カタカタカタカタ……(だからって普通、指名するかなー。一応、ルール上では殺しは失格ってことになってるけど、ヒソカはそんなこと気にしないよ?殺したかったら殺す。ポーは死んでもいいの?)」
「嫌!だから、絶対勝つ!!」
「……」
はあー。
と、イルミが深い深いため息をついた。
レアだなー、ため息つくイルミ。
「……カタカタカタカタ(あのときは意外だと思ったけど、ポーは結構、強化系が向いてるかもしれないよ?)」
「本当?じゃあ、今度鍛えてみようかな」
「カタカタカタカタ(皮肉なんだけど。まあいいや。骨は拾ってあげるから、頑張っておいで)」
「うん!!」
思いっきり頷いて、会場に向かって走りかけて、振り向いた。
「……イルミ。私、絶対に負けないよ。纏も、絶も、練も、発も、全部イルミが教えてくれたんだもん。お陰で私、ここまで生き残ってこれた。ヒソカさんなんて悪環境にも、負けたりしない。だから、見守っててね」
「……」
イルミはなにも言わなかったけれど、ほんの少しだけ、微笑んでくれたような気がした。
***
「では、第三試合を始める!44番ヒソカ選手、406番ポー選手は前へ!!」
「ポー!!頼むから、試合開始の瞬間に参ったと言ってくれぇ――!!!」
「そんなことしたら試験終わった瞬間に殺されちゃいますよ!!」
「クックックック……ッ!!そういうコト。部外者は黙ってな」
ピシッとレオリオを指差し、黙らせるヒソカ。
うん。
変態だけど、かっこいい。
あなたの生素顔風呂上がりをこの脳内に納めるまでは死ぬもんか。
絶対に!!
「……いい目だキミにそんな目が出来るなんてね」
「……」
集中。
頭の中に、イルミの声が響く。
集中しろ。
相手のペースに乗らず、ポーの世界の中で闘うんだ。
纏。
ここは海の中。
練。
そこに流れが生まれる。
絶。
必要な力は、全力で一瞬だけ。
発。
わたしは、捕食者。
ヒソカは――
「では、試合開始!!」
餌だ!!!!
ドン……ッ!!!
「……!?」
試合開始の合図とともに、足の裏に準備していた攻撃用食腕を床に向けて発射した。
一瞬にして縮まる、ヒソカとの距離……体格がよく、上背のあるヒソカは足元に大きな死角が生まれる。
床ギリギリの位置から、顎を狙って腕を突き上げる。
食腕を発射!!
「が………!!?」
クリーンヒット!!!
「おおおおお……っ!!!???」
なにが起こったかわからない、そんな空白を消し飛ばすような歓声が、会場を埋めつくした。
私は、視界の端にいるイルミを見た。
油断禁物。
そんな顔をしている。
分かってるよ、ヒソカさん顔面効かないんだもん。だから、わざと顔殴らせても平気。
でも、私はこれでも生物学者(を目指しているもの)だ。
どこをどうやったら脳震盪を起こすか、原理を知ってる。
グラリ……と、ヒソカの身体が後ろに傾いだ。
途端、
「……っ右から蹴り!?」
ど……どこをどうやったら、顎に一発くらった直後に、こんな動きが出来るんだろう。
見えない速度で放たれたヒソカの右足は、反応した“驚愕の泡(アンビリーバブル)”の守りに阻まれる。
ぬるん、と滑ったら後頭部ががら空きに。そこを、すかさず仕留めにかかるけれど……!!!
「おっと」
ビュッ、と、ヒソカの身体はまるで絵を滑らせたみたいに平行移動してしまった。
“伸縮自在の愛(バンジーガム)”
こんな使い方も出来るのか!!
スパイダーマンみたいだ!!
ヒソカは、私から距離を取ったまま笑いだす。
「ク……ッ、クックックックック……ッ!!ククククククククク……!!!!!」
すごいオーラだ……全く温度の異なる水流が噴き出してるみたい。
身体の震えが止まらない。
怖い。
でも、ヒソカに考える時間を与えちゃいけない。
彼の言葉も聞きたくない。
ただ、捕食する。
イルミみたいに。
「“見えざる助手たち(インビシブルテンタクル)”!!」
先程と同じ手で、距離を縮める。
でも、同じ手は二度と通じない。
ヒソカは賢い。
足元にくるであろう私をすでに、待ち受けている……!!
「甘いよ……」
どっちが……!
そんなのわかってたもんね!
「……!?」
私の顔面を狙って、垂直に右ストレートを落としてきたヒソカが息を飲むのがわかった。
いきなり、的が消えたからだ。
私としてはタコやイカ、ヒラメ、カレイがするように、身を包む“驚愕の泡(アンビリーバブル)”の色を床と同じにしただけだけどね!
ぬるん、と滑ったヒソカの拳。
伸ばされたままの腕に絡みつく。
退勢を固定して首を絞めにかかる!!
抱きつく格好に見えるのが嫌だけど、打撃が利かないならこれはどうだ……!!
「…………っ!!ポー、キミ、結構イヤラシイ闘い方……するんだねぇ……」
構わず頸動脈を圧迫する。
締める、というよりも、首に巻きつかせた触手の太さを増していくのだ。
風船を膨らませるように。
これは、タコ先生のお智恵である!!
「ヒ、ヒソカさん?そろそろ、参ったって言ってくれませんか……!?」
「ん~~~~~~~~、ヤ・ダ」
ハアハアしてる……!!!
ビンビンキテる……!!!
いやだあああああ~~!!
当たってるぅううう~~~!!!!!
「――っ!!もお~~っ!だからヒソカさんと闘うのヤだったんですよっ!この変態っ!ド変態っ!!!」
「……っ、ポーが、興奮させるのが……イケないんだろ……?」
ぐおおおおう…………!!!
くっそおおおお!!!!
首はちゃんと絞まってるはずなのに、きっとオーラで体内の酸素量をコントロールしてるんだ!!
どうやるんだろう……知りたい。
確かめたい!!
「それ、どうやるんですか!?」
「秘……密」
くっそう!!!!
解剖したい…………………はっ!!?
いかんいかん。
今、ちょっとヤバイモードに入りかけた!!
「作戦変更!」
「どうぞどうぞ」
***
ああ……なんで放すかな。
今の、アイデアとしては結構良かったのに。
***
「こうなったら徹底的に調べてやるっっ!!!!」
「クックックッ!やれるものならやってごらん?ああ……ああ、それにしても、ポー……」
ニヤリと笑ったヒソカの顔が、ニッコリ、に変わる。
「強くなったね、いい子」
「……!!」
次の瞬間、ヒソカは目の前に。
飛んできた蹴りがまともに当たった。
纏の状態で何かに当たったとき、自動的にバブルが発動するようにしておいたからダメージは……痛いけど!
動けなくなるほどじゃない。
でも、安心しているひまはない。
吹っ飛ばされた先にまたヒソカがいて、両手を組んで、背中に向かって降り下ろしてきた。
「うわ………っ!!??」
「クックックックッ!!どうしたんだい、もっとボクを楽しませてくれよ!!!」
蹴りとパンチのラッシュ!!
こんなの絶対くらいたくない!!
あれだよ!
さっきのヒソカの真似をすればいい!!
触手を遠くの床に吸い付けて、縮める!
「やった、成功!!」
「ん~~!!ズルいなあ、ポーの真似っこ」
「真似ることは学ぶこと、ですよ!」
***
「…………すっげぇ」
「かれこれ一時間……か!?ポーの奴、完全にヒソカと互角に闘ってやがる!!」
いやいやいやいや。
ないね、それは。
完全に遊ばれてる。
――で、ポーはポーで、ヒソカの闘い方をよく観察して、観察して、観察して、観察して………自分の力にして、智恵に変えて、試してる。
自分の能力の可能性を。
――で、
ヒソカはそれをまた楽しんで興奮して興奮して興奮して興奮して……なに、あの二人。
「……カタカタ(仲良いじゃん)」
***
「……ハア、ハア、もう、ほんと、しつこいっ、ヒソカさん……!!」
「それは、……ボクの台詞だよ」
ヤバイ………。
そろそろ、流石にオーラが切れてきた……体力はもとからないし!!
くっそう……くやしい!!!
くやしい!!
スタミナじゃ敵わないってことは、最初からわかってたけど!!!
そんなことより、この時間が終わってしまうことが――
「……ポー、そんなに笑って、なにがおかしいの?」
激しい攻防の間に、ヒソカが聞いてきた。
「いや、なんか私、初めてヒソカさんに会ったときは、死にたいくらいに怖かったのにって、思って」
「今は違う?」
「はい……今は、楽しいです。終わって欲しくないって、思うくらい…!」
「……」
スッ、と、ヒソカの顔が耳元にきた瞬間。
「ボクもだよ……」
ものすごい、エロチックな声で囁くもんだから。
「うひゃああああいっ!!!!!」
「――!!!???」
パニックに、なったんだと思う。
うん。
でないと、あんなとこ狙って打てるはずないもん。
うん。
いくら急所って言ってもさ。
男の子限定の。
***
……あっ。
……………………痛そーだな、アレ。
***
「ちょ……ごめんなさい!今のは本気でわざとじゃないんですごめんなさい!!!!!」
四つん這いになって声もなく震えるヒソカが、こんなに怖いものとは思わなかった。
ほんと!!!
怖い!!
後が怖い!!!!!
「……………………………」
「ひ、ひいっ!!もうヤだ怖い!!私の反則敗けでいいです……!まい――」
「参った」
……………え。
「え……」
トントン、と腰の後ろを叩きつつ、(ああ、やっぱりヒソカもやるんだそれ)立ち上がったヒソカはムッツリしていたけど、軽くため息をついて、もう一度言った。
今度は審判に向けて。
「聞こえなかったの?参ったって言ったのボクの負けだよ」
「………そ」
そんなのずるい!!!!!
カアッと頭に血がのぼった私は、ゴンみたいに怒鳴りかけたのだけれど、
「………!!!!!」
バ、“伸縮自在の愛”……!!??
「むむむむぐぐぐぎぎ――!!!」
「煩いよ、ポーついこの間念を覚えたばっかりのキミが、このボクを相手にここまで闘ったんだこれから外の世界に出て、もっと、もお~~っと強くなるんだよ……そんな美味しそうな青い果実、こんなところでもぎ取ったりしな………!!!???」
金的二回目!
いよおし!
とれた!
口を塞いでたバンジーガム!!
「誰が青い果実ですか!!恥ずかしい、ヒソカさんと私じゃみっつしか変わらないでしょう!?だいたい、私はハンターになったら、まだ見ぬ奇想天外な海洋生物を求めて、世界中の海を泳ぎ回るんですから。ヒソカさんみたく、格闘オタクになんて死んでもならないんですから!勝手にそんなものにしないでください。願い下げです!!」
ビシ!!
言い切って、絶句したままの審判に向き直る。
「じゃ、私の勝ちでいいですよね」
「あ……は、はい。第三試合の勝利者は、ポー選手っ!!」
「やった――!!!」
***
……ほんと。
ポーは時々、勢いですごいことするよね。