28 津波?×覚醒?ד見えざる助手たち(インビシブルテンタクル)”!!

「エンジン稼働!!エネルギー重点完了!!」



「主砲へ接続、津波の発生予定時刻まであと13分54秒!」



荒れる海。



走る電光。



うわあもうなにがなんだか。



夕刻とともに嵐が来た。



レオリオと一緒に弾薬を集めていた私は、途中でブリッジに呼び出され、海図をもとに津波爆撃プランの最終確認を行っていた。



嫌な知らせを受けたのはそのときだ。



「レオリオがまだ浮上してこないんだ!」



「なに……!」



とたん、クラピカが蒼白になる。



「今、ゴンが助けに海に入った!最終判断はお前に任せる……!」



「そんな……」



「大丈夫、クラピカ!海の中なら私がいく!二人は必ず助け出すから、信じて作戦を決行して!!」



「ポー!!」



返事を聞かず、走り出す。



廊下がゆれて、なんども壁にぶつかったり、転んだりした。



でも、大丈夫。



守りの泡があるからちっとも痛くない。



「絶対、助ける!!」



甲板に出る階段が見えた。そのときだ。



背後の闇から、真っ白な手が伸びてきた。



「ポー」



「……イル……ミ!?」



「俺、言ったよね。危ないことしないでって。あれから半日しか経ってないんだけど。なにしようとしてるの?」



イルミは変装を解いていた。



黒い髪がさらりと、肩をすべって落ちる。



「ん……っ!」



痛いほどに抱きしめてくる腕。



背中越しの体温……。



無線の内容なんて筒抜けのくせに、イルミはなおも訊ねてくる。



「なにしようとしてるの?」



「ゴンとレオリオを助けにいく」



「二人とも海の中なんだろ?」



この海の、と丸い窓の向こうを見る。



黒い波の先が泡だって白く、まるでノコギリのようだ。



「そうだよ。だから私が行くの。海の中なら、助けられる!!」



「無意味だよ。ポーだって本当は分かってるんだろ?二人ともとっくに死――」



パァンッ!



自分でも驚くほどの乾いた音が、暗い廊下に響いた。



痺れの残る手のひらをギュッと握りしめ、振り向いて、真っ直ぐにイルミを見上げる。



「助ける。必ず」



「……」



「大丈夫、戻ってくるよ。そしたら、イルミにキスしないとね」



「……ポー」



「うん」



ニカッと笑った私のおでこに、イルミはコツン、と、自分のおでこをくっつけた。



「……約束だよ……必ず帰ってきて」









       ***








「ポー!!」



甲板にいる皆が叫んでる。



ひきとめる声を振り切って、私は波を割って飛び込んだ。



滝のような水の流れが、縦から横から、襲いかかってくる。



でも、“驚愕の泡(アンビリーバブル)”は昨日と同じで壊れたりしなかった。



押し寄せる水に逆らうことなく、柔軟に受け流してくれる。



そして、私はこのとき、もうひとつの能力があったことを心から感謝した。
私には必要だった。



戦う腕。



誰かを救うための手のひらが。



感謝を込めて――名前をつけよう。



私の、もうひとつの能力に。



「“見えざる助手たち(インビシブルテンタクル)”!!!」



無数の触手が私の身体から放射された。



海底を掴み、探り、ゴンとレオリオを探しだす。



「………いた!!」



二人は難破船の影で、倒れた木材に動きを封じられていた。



触手をからませ、二人の身体を私の元へ引き寄せる。



よかった。



二人とも、まだ生きてる!!



レオリオは気絶してるけど、ゴンはハッと私を見て、弾けるような笑顔になった。



「ポー!!」



「ゴン……!!よかった、本当に……!」



ぎゅうっと抱きしめる。



「ありがとう、助けにきてくれたんだね……!!でも、すごいや!海の中なのに息が出来る!それに、この白っぽいの……触手?これなに?ポーがやってるの?」



は。



そうだった……ゴンはまだ念能力を知らないんだ。



どうしよう。



「ねえってば!これなに?イカなの?ポーってイカなの???」



「ゴン……」



ええい、好奇心旺盛なお子さまめ。



こうなったらいたしかたない!



「ねえ~~!!」



「ゴン!」



「!」



「……実はね、これが私の本当の姿なんだ。だけど、みんなに正体が知られてしまったら、私は海に帰らなきゃいけなくなる……だからお願い!!このことは二人だけの秘密にして欲しいの!!」



「うん!わかった!!」



ああ、ゴン。



かわいいなあ、もう。



なんてことやってる場合じゃないや!



「よし。このまま一気に海面まで浮上するよ、いい?」



「うんっ、大丈夫だよ!」



グンッ!!



戦艦に張り付けた触手を収縮させて、私たちはエレベーターに乗ったように海中から脱出した。



のはよかったのだけれど……。



「ダメだ……また……」



全身から力が抜けていく。



あの、クモワシの卵をとったときと同じだ。



二人の身体を抱えて、あともう少しで甲板に届くのに……!!



「波が……――!!」



頭上では砲門が次々と火を吹いている。



衝撃で船体が揺れ、思うように近づけない。



こうなったら二人だけでも先に。



気絶したレオリオと、私の意図を知り暴れるゴンを、触手を使って甲板に押し上げる!!



私はきっと大丈夫だ……“驚愕の泡(アンビリーバブル)”が守ってくれる。



なんとなく、今ならわかった。



私がお母さんのお腹の中にいたとき、この泡が……きっと、私たちを守ってくれたんだ。



目の前が――真っ暗になりかけたとき。



「“伸縮自在の愛(バンジーガム)”!」



思いもよらなかった声がした。



瞬間、私の身体は冷たい波の中から引き上げられた。



不思議と懐かしい、大きな腕に包まれる。



「……ソカさん」



「ほんとにもうゴンといいキミといい、ボクの青い果実たちはみんな無鉄砲なんだから……



「ごめ……なさ……い」



「謝る相手はボクじゃないよ



後でしっかり叱られるんだね。



奇術師の腕に抱かれたまま、私は、小さな赤ん坊にでも戻ったような心地で、ゆっくりと意識を手放した。