31 殺し屋(アサシン)×人殺し(マーダー)×怒ったポー!!

 

 

 

 

 

「カタカタ……(……いないな)」



おかしい。川の中には確かにポーの気配が漂っているのに。



なんだかフィルターのようなものがかかって、正確な位置が特定出来ない。



すぐ近くに滝があるから余計に不利だ。



自然の放つオーラが、ポーのオーラに混ざってしまう。



はあ、とこぼれたのは、自分でも驚くくらい深いため息だった。



「カタカタカタカタカタカタ……(川に潜む前に考えるんだった。ポーのターゲットが俺である可能性は充分にあったのに)」



仕方ない。



いったん水から出て期を待つか……。



「……カタカタ(……ん?)」



誰か来た。



足音は男三人分。



「もう、兄ちゃ~ん!水なんか後でもいいじゃないか~~」



「うるせえ!ウモリ!お前はやっぱりバカだな!」



「全くだ!こんな孤島で一週間も過ごすんだぜ?まずは安全な飲み水の確保。サバイバルの常識だろうが!よ~~く覚えとけ!!」



ふむ。



よく考えたら、別にポーから俺のプレートを奪わなくてもいいわけか。



幸い、今俺の手元にはターゲットのプレートと、俺にちょっかい出してきた奴のプレート……計4点分がある。



つまり、あいつらからプレートを2枚奪えば、俺もポーもこの試験を合格することができるわけだ。



よし。



プラン変更。



どいつでもいいや。



さっさと殺してしまおう。



針を構えた、その時だった。



「う……っ!?」



「うわあああああああ―――っ!!」



川に入った二人がいきなり叫んだ。



足を滑らせて転んだにしては様子がおかしい。



俺が川の深みに身を隠したまま、様子を伺っていると、



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二枚のプレートが流れてきた。



……目の前に。



これは。



……ポー。



いくらなんでも不自然すぎるよ。



大慌てで川から飛び出した三人が、おばけだの怪物がいただのと叫びながら一目散に去ったあと、俺は川から上がって変装を解いた。



すると、川面から「ペッ!」と二枚のプレートが吐き出され、俺の足元に落ちた。



「……ポー」



深い、ため息をつく。



「いるんだろ?出ておいでよ」



「……」



「心配しなくても、襲わないし」



しばらく経ったあと、ザパッと水面が盛り上がり、ポーが現れた。



驚いた。



本当にいたんだ。



俺、自分で言うのもなんだけど、腕は悪くないはずなのに。



殺し屋の俺に気配悟られないって、すごいよ。



わかってないんだろうけど。



「ポー?」



きっと今頃大喜びしてる。



ヒソカはそう言っていたけれど、ポーの表情は暗い。



襲わないと言っているし、臨戦体勢も解いているのだからさっさとこっちにくれば良いのに、守りの泡に包まれたまま、俺を睨んでいる。



ああ、この目は知ってる。



殺し屋の俺を蔑む目だ。



非難と恐れの入り交じった目……違うのは、今にも泣き出しそうなくらい悲しそうなこと。



「なんで、そんな目で俺を見るの?」



「……イルミ。さっき、あの三人のこと、殺そうと思ってたでしょう」



「二人ね。それでそんなに怒ってるの?俺は殺し屋だって、前にも言ったじゃない」



「イルミは【殺し屋】でしょう?【人殺し】じゃないよね」



「……」



「あの三人の暗殺を依頼されてるわけでも、あの三人に命を狙われたわけでもないよね。イルミなら殺さなくてもプレートは奪えたよね。それだけの実力差はあるのに、どうして殺そうと思ったの」



「…………………ごめん」



なに、謝ってるんだ、俺。



でもこのとき、ポーの言葉を聞いた俺は、なんだか自分がものすごく悪いことをしようとしていたような、そんな気がしたんだ。



「面倒くさいって理由で、ひとを殺しちゃいけないよ」



「……うん」



「イルミがひとを殺して生きてるってことは、そのひとに生かされてるってことなんだから。自分が生きるためでもないのに、命を奪っちゃいけない」



「……うん」



「……」



「どうしたの?俺、今のは本気で反省したよ?」



「……いや、なんか、素直すぎるイルミって逆に不気味いたーい!!!」



投げた針はポーの頭にスコーンと当たった。



防げばいいのに。



文句を言いながら、ポーは守りの泡もなにもかも解いて、俺のもとにやってくる。



ああ、いつものポーだ。



「もう怒ってないの?」



「うん。でも、またイルミが面倒だからって理由で誰かを殺そうとしたら、怒るよ?」



「気をつけるよ。ポーってさ、色々とギャップが激しいよね」



「そ?」



なんて、くりっと小首を傾げたりするものだから、俺は迷わず抱き締めて、その唇にキスをした。