26 イカ?×触手?×魚獲り!!

 

 

 

 

 

ゴンとキルアと一緒に、戦艦の中をひととり探索し終える頃、お昼になった。



島に残ることを決めたメンバーは、それぞれ状況を把握するために、ホテル中、または島中を歩き回っていたからみんなお腹ペコペコだ。



そこで、手分けして食料を調達してくることに。



「ポーとゴンとキルアは海の幸をたっぷりたのむぜ!宝捜しのときに泳ぎをみたが、大したもんだ。これ以上の適任者はいない」



「まっかせて下さい!」



ハンゾーさんの指示により、私は魚を獲ってくる組になった。



「キルア!釣りを教えてあげるよ!」



「ほんとか!?やっりい!ポーもやろうぜ!」



うう……。



せっかくのお誘いだったのだけれど、私は申し訳ない気持ちで首を振った。



「ごめん!久し振りの海だから、もっと泳ぎたくってさ」



「そっか、ポーってほんとに海が好きなんだね!」



「よっしゃ。なら、どっちがたくさん魚をゲット出来るか、競争しようぜ!」



「オッケー!負けないからね!」



というわけで、ふたたび海中にやって来た私には、試したいことがあった。



「昨日のアレ……何回試しても出来ないんだよね」



“驚愕の泡(アンビリーバブル)”の中で膝をかかえて漂いながら、私は昨日の夜のことを考えていた。



イルミを張り倒したこと……私の渾身のビンタを当然のことながらイルミは避け、確かに、手のひらはくうを切ったはずだった。



なのに。



「はっとしたときにはイルミ、ほっぺたを押さえてたんだよね……なんで叩けたんだろ?」



うーん。



心当たりは、あるにはある。



あの触手だ。



でも、なんともおかしなことに、あの触手、クモワシの卵やネテロ会長の手からステーキを奪おうとしたときは目にもとまらぬ早さで伸ばせたのに、それ以降はさっぱりなのだ。



触手を出してみてもうねうねとうごめくばかりで、あのときの俊敏さには程遠い。



吸い付いたり、巻き付いたりは出来るので、高いところに上ったり、水流に流されずに身体を固定するのには便利だ。



“驚愕の泡(アンビリーバブル)”と名付けた守りの泡とは、別の能力……この触手のことはまだ、イルミにも話していない。



「……ちゃんと形にしたら、役に立つかな」



イルミの言う通り、性格的にも私には防御系の念が合っているのだと思う。



でも、もしも、この先なにか危険なことがあったとき。仲間や友達に危険がせまったとき、何もできないのは嫌だ。



塔での闘いのときのように……今の私には、ヒソカのように何十人もの敵を相手に闘う力はないし、イルミのように、敵の攻撃をよけ続けることも、きっとできない。



“驚愕の泡(アンビリーバブル)”は、攻撃を防ぐだけでなく、滑りのあるオーラでプルンと受け流すから、反応が遅れて動きが間に合わなくても回避することができる。



さらに、水中では水のオーラと一体となり、気配を絶って隠れられるから、敵との戦闘も回避できる。



回避。



回避。



――逃げの気持ち。



この能力はきっと、そんな諦めの気持ちから生まれたんだ。



せっかく形になった発なのに、私には、そんなふうに思えて仕方がなかった。



「攻撃、か」



足元に広がる珊瑚礁を、なんとなく見つめた。



たくさんの小魚が群れている。



イシダイの稚魚の縞模様。



ルリスズメの青。



そこへ、すうっとあらわれた透明な生き物がいた。



「イカだ……」



しかも、アオリイカだ。



エンペラが丸く、身体の中の甲が白く透けている。



硝子のような身は甘く、なにもつけなくてもとっても美味しい。



捕まえて、お刺身にでもしようか。



そんな風に思ったのだけれど、そのとき目にしたイカの動きに釘付けになった。



それはまるで、捕鯨船の槍のように伸びた。



普段は他の八本のゲソにまぎれて姿を見せない、狩りをするための取っておき。



二本の食腕だ!



「そうか、補食……!!ネテロ会長が言ってた、私の能力は生き物だって。ただ危険から身を守っているだけの生き物なんていない!!食べるために、生きていくためには、色んな武器を備えなきゃいけないんだ!!」



敵を攻撃するとか、相手を傷つけると思うから怖いんだ。



なら、敵だと思わなければいい。



餌だ。



ただ、餌を捕まえる。



それでいいんだ!



そうと分かれば……。



少し離れた位置に、大きな魚影を見つけた。他の小魚を追うのに夢中で、私には気づいていない。



チャンスだ。



「縮めた触手を一瞬で発射……先端の一点にオーラを集中させる!!」






       ***






「たくさん釣れたね―!」



「ゴンが35匹、俺が28匹だろ?合わせて63匹。こりゃ楽勝だねー」



「あっ、ポーがホテルの前にいるよ!」



「ほんとだ!おー…………いっ!?」



「なんだアレ!!!」



「クロマグロ!通称、海の黒いダイアモンドとよばれる大型の回遊魚です。暖かい海流にのって北上し、南下を繰り返します。身に蓄えられた脂はとろけるような絶品!いやー、運よく群れを見つけちゃって。大漁大漁!」



捕まえたのはざっと10匹。



当分の食料には足りるだろう。



どの個体も1メートルはざらにある。



ゴロン、と甲板に横たわった魚体に、レオリオとハンゾーさんは目を点にした。



「すっげぇ……」



「ヨークシンの料亭じゃ、こいつの刺身に何万って値のつく超高級魚じゃねーか……」



「ほんとは、北上したときが一番脂が乗ってて美味しいんですけどね。でも、充分いい味だと思います。よく太ってるし……あっ!ゴンにキルア!おかえりー!!!」



ドタドタとやってきたちびっこ二人は、魚で一杯になった網やバケツをつきだした。



「俺達63匹も釣ったんだからね……!!」



「競ったのは数なんだからな!俺達の勝ちなんだからなっ!!!」



「えっ!すごーい、いっぱい釣れたねー!」



「くっそおー!!」



「うおー!なんか勝ったのに勝った気がしねぇ――っっ!!!」



あはは。



「まあまあ、いいじゃない。美味しけりゃ。さて!日もすっかり登ったことだし、さっそくさばいて食べますか!」



さっそく調理場に向かった私たちは、びっくりして固まった。



二次試験で使用した調味料が、一式揃って並んでいたのだ。



いつの間に……。



「やっぱコレ、試験なんだ……」



みんなが確信した。



これから起こることを、ここで迎え撃つんだと。



試験会場はここなんだと。



きっと、ここにいるみんなが一丸となって頑張らなきゃいけないんだ。



――と、言うことで。



「これから何が起こるかはわかんないけど、腹がへっては戦は出来ぬと言います!!」



「それで、ボクらの分の食事も持ってきてくれたんだありがと、ポー



「あ。マグロだ」



イルミの部屋にヒソカもいた。



テーブルに小皿を並べてお醤油を注ぐ。



「俺好きなんだー、マグロ」



でーんと持った船盛にさっそく箸を伸ばしたイルミは、しかし、すぐに食べることをしないで、じいっと私を見つめた。



「えっ!?何っ、毒なんか入ってないよ!!?第一、イルミ効かなさそうだし!」



「効かないよ。そうじゃなくてさ、これ、どうやって捕まえたの?」



「どうって……」



あ、まずい。



「確かに、釣りじゃ無理だよね大きな魚だし……一メートルはあるよね」



「どうやって捕まえたの?」



「ええっと……」



まずい!!



まだ触手の念能力の方は内緒にしときたいのに……!!



「き、企業秘密ですっ!!」



「待て」



ズ……ッと伸びてきたイルミの手は、だがしかし、ぬるんと滑った。



そのスキに部屋を飛び出し廊下を走る!!!



ふぅ……危ない危ない。








       ***







「全く……逃げ足ばっかり速くなるんだから」



「キミが脅かすからだろう?怖いと逃げるよ、ポーは



「……」



それは大事なことだけど、とイルミ。



「でも、俺はなにもしてないよ?」



 「……シてるじゃん



気づいていないだけで……喉の奥で笑うヒソカに、イルミはくりっと首をかしげた。