三次試験名物、トリックタワーの天辺にやって参りましたー。
高い。
怖い!!!
景色を見下ろしつつ、吹き上げてくる風に真っ青になっている私を押し退け、ムキムキしたお兄さんが言った。
「ようは、早く下についたもんが合格ってこったろ?俺はロッククライマーなんだ。外壁を伝って降りてやるよ!!」
「そ、そ、それ!それは怪鳥が襲ってくるからやめた方がいいですよ!」
見たくないし。
そんなグロいもの……ごはん食べたばっかりなんだからやめてほしい!
「私も得策ではないと思う。見ろ、森の上空を。私たちの匂いをかぎつけて、怪鳥が集まっている」
クラピカ、ありがとう。
ロッククライマーのおにいさん、真っ青になって震えてる。
うん。
諦めて!!
「カタカタカタ……(優しいねー、ポーは)」
「せっかくの朝ごはん、リバースしたくないですからね」
「……」
イルミことギタラクルの手が、ギギギ、と胸元に刺さったエノキに伸び、
ヒュッ!
「はっ!……やった!?まぐれとはいえ初めて避けられいたいっ!!」
スコーン!
間を置かず放たれた二発目のエノキが、私の頭にクリーンヒットした。
「カタカタカタカタ……(甘いよね。避けたあとが一番大きな隙が出来るんだよ。避けるなら、動くと同時に相手の次の攻撃を予測してなきゃね)」
「うう……いたた。しかも、なんかそれ難しすぎるよう。やっぱり、避けない方向で考えなきゃダメか……」
「カタカタカタ……(?なんの話)」
「い、いいのいいの!こっちの話。それより、ギタラクル。三次試験はもう始まってるんだよね?」
「カタカタカタカタ……(うん。僅かだけど、さっきより人数が減ってるね。恐らく、なんらかの入り口を見つけてこの塔の中に入ったんだ)」
あ、思い出した!
これってたしか、足元に隠し扉が……。
「あった!」
「カタカタカタカタ……(えっ、もう見つけたの?早いなー、えらいえらい)」
なでなで。
「……っっ!!?」
「カタカタカタ……(なに赤くなってるの。行くよ)」
「あっ、ま、待ってくださいギタラクルさん!その扉は一人しか――」
バタン!
このマイペース操作系!!
「……あっ!でもこれで、私が違う部屋に行っちゃっても、わざとだってバレないかも」
「クックック……ッ!ポーって、意外と悪いコだね☆」
どわあ!!
「ヒソカさん!そうやって毎回執拗にからんでくるのやめてくださいよ……!!」
「酷いなぁ☆ボクだって友達をキミにとられちゃって、一人ぼっちで寂しいんだよ?」
「……嘘っぽい」
「クックックックッ!!」
いいけどさ、別に。
「じゃあ、一緒に行きますか?丁度、近くに2つ隠し扉があるし、運が良ければ同じ部屋になれるかも」
「……いいのかい?」
ニンマリ。
ヒソカの目が三日月型に光ってる。でも、前みたいにやたらめったら怖い感じはしなかった。
うん、いきなりぶっ殺されることはないな。
たぶん……。
「いいですよ。これもなにかのご縁だし」
「……」
あれ。
なんだかポカーンとした顔。
ヒソカがこんな顔したのって、確か、第四次試験でゴンにプレートとられたときくらいじゃ……。
「ポー……」
ガシイ!!
「うひゃい!!?ななななんですか!?」
「ボク、本気でキミのこと気に入っちゃったかも」
「へ……?」
「お言葉に甘えさせてもらうよ☆」
ガコン!
「わっ!?」
手を引かれると同時に、地面が消えた。
落ちる、と思ったときには、すでに落下は終わっていて、暗闇の中、なんだか柔らかいものの上にポスッと収まった。
「な、なんとかなった……」
「なってないよ」
「うぎゃあ!!!」
マットが喋った……!!
ち、違う違う、イルミか。
カタカタいってないあたり、変装を解いてるんだな……なんて、ぼんやりしていたときだ。サラサラ、髪の流れる音がして、唇に、なにかがそっと触れて、離れていった。
「え……」
「……ポー、重い」
「うわっ!ご、ごめんなさい!!」
スコココーン!!!
「いたい!そして暗い!!」
当たったエノキは三本。
くそう、イルミめ!
さては隠し扉に落ちる前のもキッチリ加算したな……!!
ガコン!
天井がもう一度開いたとき、光が差してイルミの顔が少しだけ見えた。
距離……近。
「その声は、ポーだね☆」
スト。
天井はかなりの高さなのに、ヒソカはほとんど音のしない身軽さで降りてきた。
羨ましいなあ、その身体能力。
「ヒソカも来たんだ」
「うん☆ポーが誘ってくれたんだ。一人ぼっちで寂しいって言ったらさ」
「……ふーん」
「いだだだだだだっ!!イルミ!いたい!刺さってる!刺さってるから!!!」
そのとき、パッと明かりがついた。
石壁の小部屋。
丁度、漫画やアニメでゴンたちが落っこちた部屋と同じようなつくりだ。
違うのは、隅に置かれている腕輪の数。
「3つ……ってことは、このルートは三人用かな?」
「腕輪をつけると、そこのドアが開いて試験開始ってわけか☆
ふぅん。ずいぶんとまどろっこしい真似をするね」
「指定された人数が集まらないかぎり、前には進めない……うん。それなら腕輪に罠はなさそうだね。はい、ポー」
「とか言いながら、しっかり私を実験台にしようとしてる!!」
「あ、バレたかー」
「怖いなら、ボクが先につけてあげようか?」
クスクス笑いながらヒソカ。
なんだこの優しさ……気持ち悪い。
「大丈夫です……どうせ、つけなきゃ先に進めないんだし」
「……☆」
カチ!
モニターに、1のナンバーが表示される。
続けて2、3。
すると、画面が切り替わってあのモヒカンつり目の試験官……名前、なんていったっけ?
そのひとが映し出された。
『ようこそ第三次試験会場へ。君達が選んだのは“犠牲者の路”』
げ。
なにそれ聞いてない!
多数決の道より数百倍たちの悪そうな響き……!!
やっぱりゴンたちと一緒に行けばよかったよう……おいこら聞いてるかトンパ!
お前のポジション譲れ!!
『この道を選択した者は、3つの試練の路を順にクリアしなければならない。3つの路はそれぞれ、第一の死の路、第二の針の路、第三の鍵の路だ。だが、通るものは三人のうち、一人だけでいい』
「……ええっ!?」
一番目、おもいっきり死にますって言ってますけど!!?
『一人が試練の路を行き、あとの二人は安全な路を行く。しかし、試練を受けたものがその道をクリア出来なければ、あとの二人も次の試練には進めない』
「もし失敗したら?」
『試練を受けるものがなんらかの場合で再起不能となった場合……つまり、死亡した場合、残る二人のうちどちらかが戻って、その試練を受けなおす。試練をクリアしたら、次の試練の路にすすみ、また、試練を受ける一人を決めて進む。その繰り返しだ。誰が試練を受けるか……誰が犠牲者になるかは、全て君達の決定に任せる。では諸君。健闘を祈る』
ズズズズ……!!
モニターが天井に収納され、壁に真っ直ぐ亀裂が入った。
重々しい音をたてて開いたその先の部屋には、際奥に2つの扉。
左右の壁には古今東西、ありとあらゆる武器や拷問器具、拘束具が、いらっしゃいませご主人様とばかりにズラズラと並んでいて……ダメだ、お母さんお父さん。
私、死んだ……。