「「ゴオ―――ルッ!!!!」」
「やりい!俺の勝ちっ!!」
「えー!俺のほうが絶対速かったもんね!」
わいわいぎゃあぎゃあ。
かれこれ五時間近く走り通した直後だっていうのに、あいかわらずゴンとキルアは元気いっぱいだ。
でも、視線に気づいてチラッとこっちを見た瞬間、ビキッっと凍りついた。
「やあ☆」
「ポー!!!!よりにもよって、なんでそんなヤバイ奴に捕まってるんだよ!!」
「ヒソカ!!今すぐポーを放せ!!」
「この変態野郎!!」
「そうだぞヘンタイ!ヒソカのヘンタイ!……ところでキルア、ヘンタイってなに?」
「……★」
あ。
今、ヒソカがちょっと傷ついた。
気がした。
「酷いなあ★ボクはただ、頑張ったポーへのご褒美に、ゴールまで連れていってあげただけなのに」
「ご褒美?」
「そ。はい、ポー。約束通り、これはキミのモノだ☆」
ストッと下ろされ、スケートボードを手渡される。
私は、それをキョトンとした顔のキルアに差し出した。
「キルア、ごめん!大切なボードを貸してくれたのに、途中でヒソカさんに捕られちゃってた!」
「うええっ!?つまり、ポーはそれを取り返したってのかよ!」
「うん」
「どうやって……!?」
「追いかけっこして捕まえたんだよ」
「ま、どっちかっていうと待ち伏せされたんだケドね☆」
でも、合格。
妖しい奇術師はにっこり笑んで、ポンポン、と私の頭をいいこいいこした。
う………嬉しくなんかないもんね!
「じゃ、ボクは行くよ☆これ以上キミたちの近くにいると、お仲間の視線にゾクゾクしてきちゃいそうだからね☆」
あ、レオリオとクラピカだ。
青い顔をしながらも、ヒソカを睨んでくれている。
くるりと背中を向けた奇術師に、私は言った。
「ヒソカさん!!」
「?」
「今度は待ち伏せじゃなく、ちゃんと捕まえてみせますからね!!」
「……クスッ、楽しみにしてるヨ☆」
はー、怖かった。
色々あったけど、私にも念が使えるんだってことがわかっただけでも大収穫!
たしか、ストーリー的にはここはたしか中間ポイントで、これからヌメール湿原って
いう詐欺師の沼を通るはずだ。
棲んでる生き物がみんな嘘つきで、騙されると食べられるっていう怖い場所だけど、オーラの流出を纏で押さえながら走れば、なんとかクリア出来るかもしれない!
うおおお!
なんか燃えてきたっ!
らしくもなく拳なんか握りしめていたら、隣にいたキルアがくいっと袖を引いてきた。
「ん?」
「ポー……なんでそんな無茶したんだ」
「無茶?」
「相手はヒソカだぜ?スタート地点で気に入らないやつの両腕切り落としてたの、知ってるだろ。いくらボードを取り返すためだって言ってもさ、向こうの気がいつ変わるかなんてわかんないじゃん。ポー、殺されてたかもよ」
「大丈夫!ヒソカさんは基本的に、頑張ってるひとには手を出さないから」
「な……!なんでそんなことが分かるんだよ!」
「勘かなぁ……でも、自分を過大評価してたり、慢心してたり、ヒソカさんに対して敵意や悪意を抱いてるひと以外には、なにもしてないじゃない」
「今のところは、だろ!」
「ううん。ヒソカさんは、自分の目に留まったひとの成長に対しては、見守る傾向にあると思う。逆に、私がなにもしないで最初から諦めてたら、なにかされてたかも」
「……」
「というのはタテマエで――」
ガシッ!
「むぎゅっ!」
「あのねぇ、あのボードは、キルア君が私のことを信用して預けてくれたんでしょうが!友達の大切にしてるものを奪われて、ほっとけるわけないでしょ!!」
「……!」
「ポー……うん!そうだよね!ポーはキルアの友達だもんね!!」
「友達……」
うつむいたキルアのホッペタが赤い。
かっわい――!!!
いやあ、流石は殺し屋さんだね。
おねーさん、色んな意味でイチコロですよ!!
***
「……」
「おや、どうしたの?」
「……カタカタカタ(……厄介だな)」
「ポーのことかい?ダメダメ、殺しちゃ☆ボク、彼女のこと結構気に入っちゃっただから★」
「……カタカタカタカタ(はいはい。わかってるよ)」
***
「……でいい」
「え?」
「キルアでいい。俺も、ポーって呼んでるからさ」
「うん。ありがとう、キルア」
「……!」
にっこり笑ってお礼を言うと、キルアは耳まで真っ赤になって、それをすかさずゴンがからかった。
きゃあきゃあとはしゃぐ私たち。
その周りの空気が、一瞬にして冷たく張りつめたものになる。
「そいつは試験官じゃない!偽物だっ!本物の試験官は俺だ!!」
ああー、はいはいはい。
あったあった、こんなプチイベントあったわー。
猿の死体を担いで怒鳴る男。
偽物と言われても、悠然と構えるサトツさん。
サトツさん……じつは、密かに好きなキャラクターなんです。
大人の男性って素敵。
考古学がお仕事なんてなおさら素敵。
じーっと見ていたら、視線が気になったのか、サトツさんはちょっと眠そうな、半分だけ開いたような目を私に向けた。
「あなたも、そう思いますか?」
「え?」
「あなたも、私が偽物だと思いますか?」
「思いません、思いません」
「それは何故ですか?」
「野生の動物は、しないことをしてるからですよ。さっすが、プロのハンターですよね!あんなに走った後なのに、ほとんど自然体と変わらないんだから……」
ほう、と言うように、サトツさんの口ひげが動いた。
「え、なになに?なんのこと?」
「野生の動物がしないこと……?」
その時だ。
ヒュ……ッ!
と、空気を裂く音がして、なにかが顔の横を掠めていった。
瞬きひとつ、私の前には、両手で数枚のトランプを受け止めたサトツさんが。
おお~っ!!!
「カッコいい!!」
ゴンやキルアと一緒になって、思わず歓声を上げると、サトツさんは確かにこちらを見てフフッと笑った。
試験終了日、ゴンにしか見せてくれないと思っていたあの幻の笑顔が目の前に……!!!
「なるほど……あなたが本物の試験官か☆ハンター試験の試験官は、プロのハンターが無償で引き受けるものだからねぇ。ボクらが目指しているハンターが、この程度の攻撃をかわせないわけはない☆ポー、大正解☆☆」
「う、嬉しくない!」
クックック……ッ。
喉の奥で笑うヒソカを、一変して厳しい表情で見据えるサトツさん。
「今回は見逃しますが、次からはいかなる理由があろうとも、私への攻撃を行った場合、失格となりますよ」
カッコいい……!!
なんか生徒指導の先生に思えてきた!
先生!
さっきあのヒソカってひと、私から大事なスケボー取り上げて虐めました!!
「では、出発します。ここを抜けた先に、第二次試験会場があります。そこがゴールです」
くるり、と背を向けて、またまたさっさと歩き出すサトツさん。
そうだ……いいこと考えた!
第二次試験会場につくまでに、なんとしても覚えておきたいことがあるんだ!