「では、44番」
「」
うわあ~~たあのしそ~~。
そりゃあ、だって。
早い話が【人間狩り】なんだから、ヒソカは大好きだよね。
こういうスリルがあるのは、うん。
ヒソカの獲物が原作に忠実でありますように!!
「406番!」
「は、はい!」
い、言わないでよぅ……せっかく隠してるのに。
と思ったら、
「あれ?」
いつの間にやら、甲板にいるのは私だけだった。
キョロキョロと見回す私に、モヒカンつり目の試験管さんが、顎でタラップを示した。
「どうした406番。君で最後だ。早く船を降りたまえ」
「あ、そっか。そう言えば私が一番最後にバッチもらったんだった」
「ついているな」
ニヤリ、と笑って試験官。
「どうしてですか?先に降りた人たちに、待ち伏せされてるかもしれないじゃないですか」
「君は初めからプレートをつけていなかった。だから、何番かを知るためにはこの場でプレートナンバーを読み上げるのを聞くしか方法はない」
「おお!」
なるほどラッキー!
「しかし、油断は禁物だぞ。なにが起こるかわからないのがハンター試験だ。せいぜい気をつけて行きたまえ」
「ありがとうございます。三次試験の試験官さん、またサメの調子が悪くなったら、いつでも言って下さいね。私、合格したら海洋生物専門の幻獣ハンターになるんです!」
「覚えておこう。406番」
「ポーです」
「そうか。私はリッポーだ」
「へー、なんか似てますね!」
「うむ」
プークスクス。
なんて和んでいる場合ではない!!
気合を入れねば! 島に降りれば、私は捕食者。獲物はあのイルミなのだ。
たるんでいる場合ではない!!
「じゃ!リッポー試験官さん、行ってきます!!」
甲板から砂浜へ。ひらりと飛び下り、念の泡でぽよんと弾んで、はしるはしる!
「……健闘を祈る」
***
さて。
「えーとー、先ずはイルミを探さなきゃだけど……まさか、いきなり行って捕れるとは思わないし……」
ゴンがヒソカのプレートを捕ったヒントを知ってるから、獲物が獲物を狙ったときを狙ったらいいっていうのは分かる。
でもなあ……。
「相手は殺し屋さんだしなあ……しかもイルミ、自分のターゲット殺してプレートを奪ったら、土の中に潜って寝てた気がする……!!」
ミミズか!!
ミミ……ズ?
「ミズ……そうか!水の中ならなんとかなるかも!!」
そうだ!
陸の上では敵わなくても、水の中ならなんとかなるかも!
針の攻撃は“驚愕の泡(アンビリーバブル)”で防げるし、第一、水中ならイルミの攻撃自体鈍るはず!
私の得意な部分で攻めればいいんだ!
それにまだ、イルミは私のもうひとつの能力を知らないはず……。
「これ、ほんとに上手くいくかも!」
まてよまてよ……。
よーく思い出せ。
三次試験の後に軍艦島編があたってことは、この世界はアニメのHUNTER世界なんだ。
アニメでイルミが自分のターゲットを狙うとき……彼は確か、水中に潜んでいたはず!!
ターゲットは、大きな槍を持った男の人だった。
その人、イルミが水の中にいることに気がついたから、イルミは暗殺を諦めて出てくるんだよ。
二人は真っ向から向き合って――原作では、このときにイルミを狙ったスナイパーに狙撃されちゃうんだけど、今回は私のターゲットがイルミだから、戦いを中断されたりはしないはず。
イルミは戦うだろう。
獲物を狙う。そのときに、大きな隙が出来るじゃないの!
場所は……その場所にはたしか!!
「滝があった!!てことは、川の上流だ!川は、スタート地点を真っ直ぐ進んだゴンがすぐに見つけてた。急げばきっと間に合う!!」
言い終わらないうちに河辺に出た。
川の水量は充分。
潜める深さはあるし、流れもそんなに速くない。
「……よし!!」
川岸で素早くウェットスーツを着こんだ私は、ザブザブと入水した。
やるぞ。
やるんだ。
イルミから、絶対プレート捕ってやる!!
***
「カタカタ……(さーてと)」
川の深みに身を沈めたまま、揺らめく水面を見つめて考える。
ターゲットの男の動向はつかめた。
水の音を聞きつけてこちらに向かっている。
当然だ。
こんな孤島で一週間も過ごすには当然、水がいる。
空腹は多少なりと我慢できたとしても、水は無理だ。
安全な飲み水の確保――おそらく、島に上陸したすべての参加者が一度はこの川へ立ち寄るはず……。
「カタカタカタカタカタカタ……(そう言えば、もうそろそろポーも上陸した頃だな。青い顔してたけど、誰がターゲットだったんだろう……ヒソカとか)」
考えた瞬間、ぽこっと口から気泡が漏れた。
……さっさとあいつを殺してプレートを奪って、一刻も早く彼女のもとへ向かおう。
ポーのターゲットがヒソカでも、ヒソカのターゲットがポーでも危ない。
ヒソカはポーと闘りたがってたから、ポーが大人しくプレートを差し出しても絶対に受けとらないだろう……。
「カタカタカタカタカタカタ……(あーもー。ダメだ、もうちょっと冷たいとこに潜んで、頭冷やそっと)」
ザブン。
***
川の中流から、上流へ。
気配を潜めながら、ゆっくりと登ってきた私――川底を埋める小石は次第に大きな岩になり、身を隠す岩陰も多くなっていく。
このどこかに、イルミがいるはずだ。
私にはまだ、広範囲の円はできない。でも、そのかわり、ゼビル島で編み出した念能力“千里の水の輪”を使えば、イルミの位置を知ることが出来る……はず!
「よし……」
あのときに使ったものより、もっとずっと少ないオーラで、小さな泡を生み出して、はじけさせる。
念波は瞬く間に水中を伝わり、触れたもののオーラに弾かれて、私のもとに戻ってくる。
ヤマメにイワナ、サワガニ、渓流に生きる魚達の気配の中で、それは、ただひとつ異様だった。
「………!!?」
いた……っ!!
イルミがいた……!!
まだ距離はあるけど、瀧のすぐそばの淵に潜んでる!
どどどどどどど、どうしよう!!
い、いやいや、どうしようじゃない。
なんだかんだで時間があったから、ゴンの練習方法にならって、魚を捕まえるカワセミを触手で捉える練習だって何度もしたんだし……それで、何度も成功してるから、大丈夫。
たとえ相手がイルミでも、絶対に大丈夫だ。
「イルミが教えてくれた纏……絶、練、発。使いこなしてみせる。及第点じゃなくて、合格点もらうんだから!!」
水の中なら絶を使わなくても気配を消せる。
水と一体になる……クラゲみたいに……。
***
「……ん?」
今、ポーの気配がしたような。
疲れてるな、うん。
というか本当に、ポーと出会ってからの俺はどこかが変だ。
家族でもなんでもないのに、こんなにも誰かのことが気になるなんて。
おかしい。
でも。
嫌じゃない。
産まれてはじめて、望むものができたのだと思う。
欲しいものができたのだ。
このまま、ずっと試験が終わらなければいいのに。
そうすれば、ずっとポーと一緒にいれるのに。
この試験が終わったら、ハンターの資格が貰えたら、自分は海洋生物専門の幻獣ハンターになるのだと言っていた。
碧く、透き通った海がポーには似合う。
俺には無縁の、命と光に満ちあふれた世界……。
「いいんだろうな、これで……」
足音が近づいてきた。
体重、身長、歩き方の癖。
その全てが頭の中でパズルのように組みあわされ、ターゲットの姿を形作る。
もう、条件反射になっていることにうんざりする。
でも、それが俺なんだ。
そう、望まれて作られた俺なんだ。
俺が望んだのではなく。
俺が作ったのではなく。
「……やめよう。いいや、もう」
今さらだ。
頭を切り替よう。
お前は、熱を持たない闇人形だ……。
***
「ごめんごめん、油断して逃がしちゃったよ」
森の中、切り株に腰かけた奇術師に歩み寄る。
足元には、俺のターゲットだった男の死体が転がっている。
やっぱりヒソカ、戦わなかったんだ。
ま、当然と言えば当然か。
「嘘ばっかりどうせ、死にゆく私の最期の願いを、とか泣きつかれたんだろ。どうでもいい奴に情けをかけるのやめなよ」
「だって、可哀想だったからさー。どうせ、ほんとに死ぬ人だったし」
「ま、いいけど……ところでイルミ」
「なに?」
「キミ、自分のプレートはどうしたの?」
「え……」
自分の胸を見降ろして、唖然とした。
「ないや」
「そうだね」
「まいったなー、落としたのかな?」
「どこで?」
「川で」
「……」
「……」
「クックック……ッ!イルミったら、動揺が隠しきれてないよ?その目……ああ、なんだかゾクゾクしてきたよ」
「……」
「ねぇ……見当はついてるんだろ?」
「……ああ」
「彼女のことだから、今頃大喜びしてるだろうねクックックッ!可愛いなあ、隙だらけだ」
「ちょっと、行ってくる」
行ってらっしゃい、と手を振るヒソカに背を向けて、来た道を駆け戻る。
ポー。
ポー、お前。
お前一体、俺になにしたの。
***
「やった……」
手の中にあるプレートを、ぎゅっと握りしめる。
301番。
なんども、その感触が嘘でないと確かめるように。
やった……。
やった!!!
「イルミのプレートだ……!!」
いちかばちかの一発勝負……イルミがスナイパーの一撃をかわしたとき、上体を低く、川の中に足を踏み入れたのだ。
そこから、川岸に生えた木の上まで一息に飛び上がるのだから恐れ入った。
でも、イルミの注意が完全にそっちに向いていたおかげで、見事プレートを捕ることが出来たのだ……!!
「よおおおお~~っっし!!!あとは、このプレートを守りとおすだ……!!??」
ドドドドドドドドッシュッ!!!
エエエエノキがきたあ――――!!!
「もう感づかれたのか……さすがはイルミ。どうしよう、逃げたいけど水の中から出たら勝ち目なんかないし……」
でも待てよ。
さっきのイルミの攻撃は妙に広範囲だった。
ということは、私の位置までは掴めてないんじゃないのか……?
よし、こうなったら根比べだもんね!
絶対に川から出ないっ!
「でも、そしたらイルミ、きっと飛び込んでくるよね。岩場にかくれるだけじゃ不安だな……」
よし。
ここはあれだ。
イカじゃなくタコだ。
色も形も、回りの景色と瞬時に同化する。
タコ先生の偉大なるお力を参考にしようっ!!