「……で、よかったの?これで」
晩餐会を抜け出してバルコニーに出ると、待ち構えていたようにそこにいた男に捕まった。
失敗した、と後悔しても遅い。
「よかったもなにも、ポーは幻獣ハンターになるって言ってるし。俺には仕事があるし。それともなに、ヒソカは俺にポーを拐って無理矢理にでも殺し屋に仕込めっていうの?それ、いくらなんでも酷くない……?」
「……ボク、ポーじゃなくてキミの大事な弟君の話がしたかったんだけどな」
「……」
「……」
「………………………ヒソカ」
「なに?」
「殺していい?」
「ダメだよイルミとはいつかまた本気で闘いたいけど、照れ隠しに殺されたくはないな」
「照れてなんかいないよ」
でも、目の前のムカつくピエロのニヤニヤ顔は深まるばかりだ。
「じゃあ、いいよ。ポーの話をしようか?イルミはこのままポーと離れ離れになってもいいんだね……?」
「仕方ないじゃない。生きる世界が違いすぎる」
「ふぅん、でも」
ピッと突き出されたトランプはハートの10。
「向こうはそう思ってないみたいだよ」
「……!!!??」
直後、なにかが俺の身体中に巻きついた。
***
「イルミゲット!!!!!!」
庭に潜んでたかいがあった!!
パーティーが嫌になってバルコニーに出てきたら、捕まえようと思ってたんだから!
触手を引き寄せてみると……うわあ、嫌そうな顔。
「イルミ……活きが悪いよ」
「なんの用?」
「……どうすればいいの?」
「は?」
「イルミの友達になるには、どうすればいい!?私ね、ゴンたちと一緒にイルミの家に行こうと思ってるんだけど、それでいい??」
いいわけない。
そんな顔されるのは分かってるよ。
分かってたよ……でも嫌だ。
このまま、会えなくなるのは嫌だ……。
「ポー、放してよ」
「ヤだ!放したらイルミ、逃げるもん!!」
「……逃げないよ。逃げても追いかけて来るんだろ?」
「うん」
ほらみろ、と言われて、でも放したくない……。
「ていうか、捕まえるならせめてポーの腕で捕まえてよ。触手じゃなくてさ」
「え!?あ、そっか、ごめん……」
す巻きにしていた触手をはずして、かわりにぎゅっと抱きついた。
恥ずかしいけど逃がすよりマシ!!
「俺、ポーのこと友達だなんて思ってないよ」
「……わかってる」
「友達になりたいとも思わないし」
「……わ、わかってるよ!傷つくから何回も言わないで……!」
メソメソ泣いている私に、イルミはしばらくなんにも言わなかった。
やがて、くりっと頚をかしげ、
「ポーは、まだ俺のことが好きなの?」
「……」
こくん、と頷く。
そうなのだ。
なにをどう間違ったのかは知らない。
間違ったのかどうなのかもわからないけど、私。
「イルミが好き……だから、試験が終わっても傍にいたい」
「……」
「ヤダって言うならこのまま食べてやる……!!!明日を生きる私の栄養分にしてやる……!!」
「怖いなあ」
ひし!
と抱きつく私の頭を、イルミはいつかしてくれたようにポンポンと撫でた。
そして――
「ねぇ、やっぱりしてくれる?」
「え?」
「キス。俺に黙って危ないことした分」
「わかった」
頷いて、あごを上げ、イルミを見た。
両腕を伸ばし、肩から、首の後ろへと沿うように手のひらを滑らせる。
すると、それに合わせて、イルミはゆっくりと長身をかがめてきた。
唇が降りてくる。
「……んっ」
「……」
長いキスだった。
初めは触れるだけの、それからお互いの出方を探るように、唇を割る。
吐息や、舌先から伝わってくるイルミの体温。
ぴったりと密着した胸から、弾け出してしまいそうなほどの、心臓の音。
私たちは何度も舌を絡ませたあと、どちらともなく唇を離した。
最後のキスだった。
自覚した瞬間、涙が溢れ出した。
俺、と、イルミがぽつりと言う。
「俺……友達はいらないけど――としてならポーが欲しいな」
「……え」
「それでもいいなら、家においで」
あ、でも俺、仕事があるからすぐには無理だよ。
長丁場でさ、はやくても半年くらいかかりそうだけどその後でもいい?
そんな――ことを言われた気がする。
でも、そんなの頭に入ってなかった……。
だって、そのときの私は頷くのが精一杯でっ!
そのあとどうやってホテルの部屋に行って、寝たのか、全然覚えていないんだよ!!!!
うおおおおおっ!!!
イ、イルミのバカあああああああああああああああ----っっ!!!